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009:戦国武将のお茶の点て方

トウヤは海兵隊基地に到着し、検疫を受けることになりました。

しかも精神科医のジョンソン少佐に心理カウンセリングを受けるハメに。



 009:戦国武将のお茶の点て方


 ある朝、平和な日本に突如恐竜が現れた。人間がなんらかの原因で恐竜になってしまったらしい。

恐竜になってしまった人間たちは自我を失っていて、本能のままに他の人間たちを襲っている。

 当の恐竜-デイノニクスになってしまったオレこと山本やまもと 登也とうやは、なぜか人間の時の自我と記憶を失わずにいた。

 オレは気丈にも普段通りの朝を過ごそうと努力したが、ティラノサウルスの襲撃に逆ギレしてしまい、無謀にもティラノに立ち向かった。

そんなオレに手を貸してくれたのは、状況収拾の作戦行動中だったUS海兵隊のターク・カニンガム大尉チームだった。

 オレはターク隊長から状況を説明された後、保護されることになり、住みなれた田舎町を離れる事になった。


 オレを乗せた輸送機(V-22 オスプレイ)は都心を越え、どことも知れない飛行基地へと着陸した。

 ターク隊長に訊くと横田基地とのことだった。

「後で会おう」

「またな」

「シーユー(後でな)」

 ターク・チームの面々が口々に分かれを告げる。

「テンキュー!シーユー!」オレも助けてもらった礼を告げる。


 そしてオレはターク小隊と別れ、イロイロな検疫を受ける事になった。

 激烈に目に悪そうな光やら強烈な臭いのする殺菌槽やら羽毛がぶっ飛びそうな強力ドライヤーやらなにやら。

 着ていたビジネス・スーツは持ってきた荷物共々殺菌して、後で部屋に運んでおくと言われた。

 検疫の最初の方では、人間用の検査着をムリクリ着ていたが、何度も脱いだり着たりを繰り返す内に、ついに面倒になり、何も着ないで通すことにした。

羽毛のお陰で別に寒くはないし、体に合わない窮屈な服を着ているより身軽でいい。


 どうでもいいことだが、その間、ず~~~~~~~~~~~っとライフルを構えた軍服が張り付いてくる。それも4人も。

それに、検査のお医者さんや看護師にしてもどこか張り詰めた雰囲気で、冷や汗や脂汗の匂い(恐怖の匂いとも言う)がしてくる。

 何だろうねぇ?

「ねえ先生。深刻な問題があるんです」

 オレの尻尾に血圧測定のカフを巻いている医師だか看護師に話し掛ける。

「はい、どんな問題でしょうか?」センセは途端に汗の匂いが強くなる。

「電球を交換するのにデイノニクスは何頭必要でしょうか?」

 センセはしばらくポカンとしていたが、オレが言ったコトが次第に理解出来て来たのか、肩を震わせるとプッと吹き出した。

「何か気になっていることでもあるのですか?リラックスしましょうよ」

「ああ。まさかジョークを言って来るとは思わなかった。

君だろう、レックス2頭を素手で倒したっていうのは?

すごい凶暴だと思ってたんだ」

 どうしてそうなった?「ウワサをアテにしないでください。デマです」オレはため息をついた。

とは言え、場は打って変わって打ち解けたものになり、検査はつつがなく終わった。


 今のオレの体格は、体長3m76cm、体高1m28cm。

 体長はペタっと体を伸ばした状態で鼻先からシッポの先の羽まで入れてなのでクルマ並の長さ。どうりでクルマに乗るのが無理だった訳だ。

 体高が小学生並になったのは、足元から腰までの高さを計測されたため。首をもたげると人間の胸元くらいになる。股下は人間だった時から若干長くなった。

 体重76kg。おかしい。なぜか体重が人間だった時から10kgばかり増えている。増えた分は一体どっから来たんだ?

 先生に訊いてみたが「ああ、シッポの分増えたんだろう」と物理と化学を一蹴するお答えを頂いた。

ケガや病気になっても、この医者にはかかりたくないな。医者だって科学者のはしくれだろうに…。


 その後は心理カウンセリングを受けるように言われる。さて、羊たちなサイコパス精神科医が出てきたらどうしよう?

 今しがたの医者のコトもあるので、精神統一を兼ねての着替えのため、一旦充てがわれた部屋へ行く。軍服ライフル4人衆を引き連れて。

 部屋は電子ロック付きで、外からは開閉が自由で完全閉鎖をコントロールできるようになっていた。

つまるところ、檻だな。

 部屋の中は机とベッドが置かれ、隅にロッカーが置いてあった。持って来た荷物は机の上に置かれ、スーツはハンガーにかけられていた。

 うん。焼却処分されなくてよかった。

 机の上にたたんで置いてあったシャツに手を通そうとして、驚いた。

検査前まで着ていた服が、しっかりと手直しされていた。

持って来ていた着替えは手付かずだったのが、さらにありがたい。

腰からシッポ周りと股周りをもう少ししっかり手直ししたいので、予備のスーツがいじられていたらコトだった。

 それにしても、やはりプロがいるのか、直しの縫製がしっかりしている。後でプロたちにスーツの直しを手伝ってもらおう。

 などなどあれこれ考えつつもロッカーの小さい鏡を相手に念入りに身支度を整え、診療室へ出撃した。


 しかし待ち受けていたのは、ミントティーの好い匂いのする部屋に、てん、と座るくせ毛のにこやかな軍医だった。

階級章をチラ見すると金の葉っぱだった。色を忘れたので中佐か少佐かどちらか。詰まる所、佐官であり部長クラス、この騒動の部署統括位の権限は与えられている事になる。

「どうも、ボブ・ジョンソンです。座り心地は保証できんですが、その椅子に。お茶はいかがかな?」ジョンソン先生は肩書きとは裏腹に、まるでバーテンダーのように話しかけて来た。

「トウヤ・ヤマモトです。ミント・ティーですね、下さい」

「ミルクはどうするね?」

「先ずはでもらえますか?」

 先生はカップにお茶を注ぎ、サイドテーブルに置いてくれた。「カニンガム大尉(ターク隊長)たちをもてなしてくれたそうで、礼を言わせてもらうよ。それに、お茶のことが分かる相手がこの部屋に来るのも久しぶりでね。問診をさっさと片付けて、少し雑談に付き合ってもらえないかね?」

「はい。わたしも知りたいことがいくつもあるので、終わったら教えてください」そう返しながら、オレは、ジョンソン先生のスキルの高さをすでに測り始めていた。まずは感受性をすでに見られ、次に対話能力もコレでチェック済み、ということだ。あたりは柔らかいが、かなり多様な質問をすでに投げられているのだ。

 ティーカップを取り「いただきます」と一言告げて口にする。恐竜の口も案外器用に出来ている。少しずつならお茶をすすることが出来るようだ。

 そして、お茶の方も思いがけず点て方が巧い。濃く点てただけの押し付けがましさはなく、フレーバーとなるミントも喉から鼻に上がる後追いが程よい。

「そうですね…、この点て方なら、わたしはミルクを入れない方が好みです。もう少しぬるい方がいいかな。この口だと、熱くて少し飲みづらいですね」

「やや、これはすまん。石田光成の故事にもあるが、温度に関してはそれ以上下げるとミントの香りが薄れてしまうのでな」

 石田光成。お茶の点て方で豊臣秀吉に召し上げられた家臣。千利休は映画にもなるほど有名だったけれど、カルトなおもむきがオレには重い。雑談を交えながらも旨いお茶を出す光成の方がオレは好きだな。

「先生は日本びいきなのですか?光成のことを御存知なんて」

「ワシはプロとして彼のことを好きだ。一期一会を大切にする、名将だと思っておるよ」

「今の時代なら名外交官だったでしょうね」

 なんとも奇妙な空間だ。アメリカの精神科医と日本の恐竜がお茶を飲みながら、日本の戦国武将のお茶の点て方について談義するとは。オレは少し先生に興味が沸いた。「そろそろ、先に先生の仕事片付けませんか?」


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