089:ダイナソー・フッド #3-2
今回はシマちゃんが何か頑張るみたいです。
頑張ったんだけど準備運動しないでハードルに突撃して行ったようです。
089:ダイナソー・フッド #3-2
てれってってってて~れて~て~て~てれ~て~れれ~
いい旅恐竜日和のお時間です。
提供は海兵隊通訳バイト、ハドロサウルスのマナミがお送りします。
私たちを乗せたアメリカ軍が誇る武装トラックMTVRは、ディーゼルの力強い排気音と共に街道を進みます。
ガイドに同行しているティラノサウルスのユカリさんは、その頼もしいパワーで障害物を押しのけ、その武威に手出しをしようとする恐竜を寄せ付けません。
そうして私たちは、青梅市の緑溢れる田園地帯へと辿り着きます…。
う~ん。旅行ドキュメンタリーみたいにしようと頑張ってみたけど、私じゃムリだったみたい。
地響きを伴う旅情とか、重低音あふれる情緒とか、日本的な詫寂を演出するには、私たち恐竜も乗り物もあまりにもパワフル過ぎた。
J・K・ローリングとか、トップレベルの文才のある人ならできるのかも。
さらに農家の石崎さんでは、立て込んでいる最中で渡せる野菜がないと言われる。
凹むなぁ。
「ユタカも恐竜になったの、おばさん?」
ティラノサウルスのユカリさんに話し掛けられ、農家の奥さんはびっくりしていた。
ユカリさんは、農家の息子さんと幼なじみだそうで、奥さんとも顔なじみなのだそうだ。
ユタカさんは言葉も通じず、ずっと畑の見張りを続けていて、ご両親が近付くと吠えて追い払おうとするので、畑に近付けないのだそうだ。
ユカリさんは、連れ戻しに行く、と畑に向かう。
私も一緒に付いてくるように言われた。
キャベツ畑に行ってみると、今まで見たこともない恐竜が吠え猛り、イノシシ退治をしていた。
その恐竜は、2本脚のモフっとした小太りな体型に、某ミュータントメンバーみたいなよく刺さりそうな爪を生やしていた。
トウヤさんがジョージさんに訊くと、ジョージさんは妙に熱く恐竜のことを語り始めた。
難しいことはよく分からなかったけど、何でもモンゴルにいた草食恐竜で、テリジノサウルスと言うらしい。
でも名前なんてこの際どうでもいい!
ティラノのユカリさんと同サイズの大型恐竜と言うだけでも十分に怖いのに、2mはある尖った爪を広げて威嚇しながら、寄りによって私をにらみ付けてくる。
「トウヤさぁん。わたし何かしたかな?」
通訳の初仕事なのに、相手が怖くて泣きそうだよぉ!。
「あ~多分アレだ。大丈夫だよ」ユカリさんは、"何やってんだか"と言わんばかりだ。
「お~い、ユタカ。この娘ニラむのやめたげてくんない?野菜買いに来たんだってさ」
「フォゴ~!」テリジノは、ユカリさんに向かって吠えた。
「"誰だよオマエ?"だって」怖いけど、頑張ってテリジノサウルスの通訳を始める。
確かに、言葉は割とフツーに分かる。
けれど、何て言うか、言っていることに違和感ありまくりだ。
一人で何日も寝ないで畑の番をしていたから、畑を荒らす相手に腹を立てるのは分かる。
しかし、毎年クビナガが来るとか、なんで人間まで憎んでいるのかが分からない。
ユカリさんが畑の見張り番をしてくれるというので、ようやくユタカさんは家に帰って寝てもらえることになった。
しかし、今度はトウヤさんの様子がヘンだ。
背伸びしてユカリさんとユタカさんを見比べたかと思うと、アタマの羽が爆発したように逆立った。
「どうしたんですか、トウヤさん。額ボワボワですよ?」
「…ナンデモナイヨ。ダイジョウブ、オレ」セリフ棒読みですって。一体どうしたんだろ?
ジョージさんのところに戻ろうとすると、キャベツの葉っぱに顔を突っ込んでナニか食べていた和尚さんとトシさんが合流してくる。
「いや、なんとなくというか、体が勝手に。意外にも旨いモノだな」和尚さんはなんだか恥ずかしそうだ。
「分かるよ。私もそうだもの」和尚さんにノーズ・タッチ(鼻先を摺り合わせる親愛のボディランゲージ)しながらフォローする。「コレはコレで悪くないんだけど、だんだん人間離れしてくのが、ちょっと寂しいね」
すると、以外にもユタカさんが話し掛けてくる。
「"あんたら、アオムシ喰うのか?よかったら、手伝いに来てくれないか?農薬使わずに済むから安くイイ野菜が作れる。2~3日おきでいいんだ"。だって」イヤ~!、ついに言っちゃった!。私、"G"の次に"ニョロニョロ"がダメなのにぃっ!!
「どうします、畑のお手伝い。いい話だと思いますけど」トウヤさんが話を振る。
「ちょっと考えさせてくれ。その、踏ん切りが付かない」和尚さんは恥ずかしそうに答える。
「じゃあ、宿題にしましょう。いいですよね、トシさん?」
「…オレは構いませんよ」
いったんユタカさんを家に送り届けると、ご主人と奥さんが軽トラにカマとたくさんの折りたたみのプラ箱を積み、再び畑へと戻る。
畑に戻ると、ユカリさんがノシノシと出迎えに来て、なんだか知らないけどトウヤさんにタヌキをくれた。
私の知っているタヌキと全然違う。
合っているのはシッポがモフモフと言うだけ。
全体的にモフモフなんだけれど、顔はスマートで愛嬌がある。
どうもまだ生きているみたいなんで、トシさんがロープでトラックにつないだ。
ご主人と奥さんは、ものすごい勢いでキャベツを刈り取り、力のある私とケラトサウルスのカイさんは、キャベツの詰まったプラ箱を次々にトラックに積んで行く。
そのままもらえるのかと思ったら、一旦家に戻る。
何でも渡す前に、収穫したキャベツを、腐っている所や虫が湧いていないか調べるのだそうだ。
穫ったキャベツは、箱の中に4~6コぐらい入っていた。
私とカイさんでトラックに積み込んだので、それくらいは分かる。それが100箱くらいあったから、ざっと500コ近くあったはずだ。
今から考えると凄いものだ。
私たちも手伝ったとは言え、実質旦那さんと奥さんの二人で1時間くらいで刈り取ってしまったのだから。
しかも、それをこれから全部調べるという。
ここまで手間が掛かっているのが、200円程度で売られているっていうことは、農家さんのところにはそこからさらにマージン引かれてるワケだから、大してもらえていないんじゃないの?
私が作るんだったら、とてもそんなのやってられない。
けれど、旦那さん-石崎さんは、そんなの当たり前だから、なんていう。
職人さんというかプロというか。
石崎さんは、タカシマ中尉と和尚さんと一緒に"検品"を始めた。
そして、これも本当に見ているのか怪しいくらいの早技だった。
キャベツでジャグリングでもしているように見える。
そうして、検品が終わる頃に、奥さんが大量の釜揚げウドンを持って来て、ランチになった。
私はと言うと、奥さんから獲れたてのニンジンやキャベツをご馳走になる。
みずみずしくて甘くておいしい!
私は、キャベツを1日に5~6コくらい食べる。
1ヶ月で180コくらいだから、1年で2000コくらい。
私は今、横田基地にご厄介になっているけれど、いつまでも居候させてもらえる訳じゃないことくらい薄々分かる。
恐竜語通訳で少しは役に立っているのかも知れないけれど、1年でキャベツ2000個買えるだけ稼がないと生きていけない。
それに、納屋で寝ているテリジノサウルスになったユタカさんを見て気付いたけれど、ハドロサウルスになった今、家はどうすればいいんだろう?
「あなた女の子?歳はいくつなの」奥さんが洗ったニンジンをくれながら話し掛けてくる。
「ええ。16歳、高校生なんです」
「アメリカさん手伝ってるの?」
「はい。通訳なんです。言葉を話せなくなっている方が多くいるので、その方たちの声を訳しています。私は草食担当で、肉食担当はあちらのトウヤさん…山本少尉なんです」
「そう…」奥さんは、私の顔を撫でながら、トウヤさんに会釈する。
トウヤさんはそばつゆのお椀上げて、会釈を返す。
「ウチの息子とは話した?」
「ええ。ん~、いろいろありましたけど、普通でした。
大型の草食恐竜が畑を荒らしに来て困る、ってピリピリしていましたヨ。
私もニラまれちゃいました」
「まあ、それは悪かったわね。遠くから買いに来てくれたのに」
「来た甲斐がありました。やっぱり獲れたてはおいしいですね」うん、マジで!ここに住みたいくらい。
「息子は話せるようになると思う?」
「ユカリさんも、さっき話せるようになりましたし。大丈夫ですよ」正直言えば7:3くらいなんだけど、あれだけ話す人なら、人間とダベっているウチに間違いなく治ると思う。
「そう…」
「ね、石崎さん。ユタカさんと話しました?」話し相手、という立場もさることながら、恐竜になったコの親の意見を聞きたくなったんだ。
「え、いいえ…」
「やっぱり、怖いですか?」
わたしは、父さんと母さんに石を投げられた時のことを思い出す。
「ええ」
「それじゃ、私は?」
「最初は、確かに怖かったわ。あちらの…肉食さんたちも。
特に、山本さんは今でも少し怖いわ」
「あ~あ。やっぱりあの人ソンしちゃってるんだな」
「損?」
「ええ。あの人、見かけ怖いし、噂じゃ一人でティラノ倒したらしいですよ。
でも、それは、あの人が出来ることで、もしホントのことだとしても、ティラノに襲われたから戦っただけなんだと思うんです。
あの人、ユカリさんと同じなんですよね。
酔い止めの薬作ってくれたり、棒アイスのハズレを見せてきたり」
「まあ?」
「夕ごはん出来たから一緒に食べよう、とか、そんなんでいいんです。
慌てたり、怖がったりしないで、ただ普通に話し掛けるだけで。
私も、この姿になったばかりの時、ものすごいパニクって、そのまま家を出てきたんですよ」
奥さんは、ユタカさんが寝ている納屋の方を見つめる。
「あなた、お父さんとお母さんはご無事なの?」
「分かりません」最後に見た、二人が私に向ける顔が浮かぶ。「まだ会いに行ける踏ん切りが付かないんです」ふっと、このまま二度と会えないままだったら、とイヤな考えが浮かぶ。
「ね、ユタカさん、手の届く所にいるんだし、起きてきたら私たちが帰った後にでも」
「そうね。…ウチの主人と一緒に、もう一度」
帰り道、ユカリさんのお店に寄り、ご両親にユカリさんからの伝言を伝える。
石崎さんとこの畑の見張り番をするので今日は帰れない、と。
ついでに一休み。
だって、ここから基地までは、そこいら中"障害物"だらけでトラック通るのが大変なんだからさ。
その後。帰り道の途中で大型のクビナガ3人組が襲ってきた。
「ヴォゥゥゥゥ」
「ん~。"そのうまそうな食い物をよこせ"。だって」私はジョージさんに通訳する。前半だけ。後半の"そうすれば、楽に死なせてやる"って部分は、個人的にカットした。
「止めるように交渉でき…」
ジョージさんが言いかけた時、クビナガの1頭が回れ右して、すぐ脇でバーンみたいなガシャーンみたいな大きな音がした。
恐る恐る音のした方を見てみると、1号車の運転席がグシャグシャに壊されていた。
"ポールさん!!"私はそう叫ぼうとしたのに、声が出なかった。
「…副長。ちょっと遅めのランチ出てきますわ」屋根の上から声がしたと思うと、デイノニクスが飛び降りて行った。トウヤさんは、体中の羽をボワボワに膨らませている。
「私も、ご相伴しよう」タテガミが爆発したように逆立ったカイさんも、荷台を揺らせながら降りた。
ダメだ。
あいつらが何をやったのか分からないけど、目に見えない早さで武装トラックをスクラップに出来るような相手と戦っちゃダメだ!。
必死に呼び止めても、声は喉に詰まったままで、トウヤさんたちには届けられないままだった。
マナミ :うえ~~ん、草食恐竜マジ怖かったよぉ!
和尚 :初っぱなからついてなかったな。通訳だと、ああいうのに両方からガーガー言われることもある。
カイ :そうだな、人間相手は大変だ。人間だった恐竜ならなおさらだろう。
トウヤ :言えてる言えてる。ドンマイだ。
ミハル :あの、草食ってもっとおとなしいイメージなんですけど。
トウヤ :そうでもないよ。毎年サイやカバに襲われる事件は数千人単位で起きているからね。
ミハル :ジェシー、ホントなの?
ジェシー:トウヤの言う通りよ。野生のカバの50m以内に近付いたらホントに命を落とすわよ。




