083:青い空の下を走って行った #5
今回は、自衛隊さん同士でにらみ合いです。
うう、中々死ぬる忙しさだった…。
危うくケーキとチキンを食い逃すとこだったぞ。
083:青い空の下を走って行った #5
この辺りを荒らし回っていた野盗化した恐竜化症発症者(以下、恐竜。)たちは、相方のポールと自衛隊さんの協力のおかげで片付いた。
保護したファルカリウス(テリジノサウルスのルーツにあたる、草食性へ分化途中の種。)家族とヒプシロフォドンたちは守り切った。
『私たちはどうなるのでしょうか?』
ファルカリウスの相森(旦那)さんが訊いてくる。
ヒプシロフォドンたちも心配そうに集まってきた。
「おそらく、当方の江戸川避難所に来ていただくことになると思います」
オルニトレステスのエミさんが応えた。
「先ほど山本少尉からの連絡で、この近隣の避難所の状況はお聞きしております。
こちらの避難所に入所できるよう、地域の統括に交渉することも出来ますが、いかがされますか?ただし、受け入れてもらえるか、確約できませんので、その場合は当方に来ていただくことになります」
エミさんは、元総務課さんの手腕を買われ、今は大迫二尉の秘書的な立ち位置で避難所を切り盛りしている。
卒のない応対は流石だ。
「キァピャ?」
「当方では、そうした対人トラブルにつきましては、問題のある人間には罰則規定を設けていますので、心配はご無用です。ちなみに、ですが、最も重い罰ですと避難所のトイレ掃除の刑を半年の執行猶予で受けている方がおいでです」
「キョキョキョ」
質問してきたヒプシロフォドンは、首を逸らしながら愉快そうに啼いた。
「あの、エミさん。彼らの言葉が分かるですか?」
「ええ。さっきは"石を投げてくるような人間はいないでしょうか?"と訊いておいででした。そして、今しがたのは笑い声ですね。
気が回らずすみませんでした。通訳しながら話を続けますね」
そういえば、オルニトレステスは鳥脚類だったっけね。語圏はヒプシーズと同じグループになる。
その後、保護した恐竜たちとエミさんとで、避難所についての質疑応答が交わされる。
オレは、やりとりを聞きながら、改めてヒプシロフォドンを観察する。
ヒプシロフォドンの仲間は、いわば白亜紀のチロンヌップ(アイヌ語:どこにでもいる生き物。キツネのこと。)で、実際どこに行ってもこの種は見掛けた。
後でジョージに訊いてみたら、極圏に住んでいた種も居たそうだ。
体長は1~2m位と小型のものがほとんどで、大きい種でも3mほどにしかならない。
オレの住んでいた地方でもそうだったけど、目の前のヒプシーズも、全員羽毛を生やし、ヒバリやタゲリに似た、地味だけど特徴のある羽色をしている。
けど、人間の間では、羽毛のない恐竜として認識されているらしい。
南の熱い地域で暮らしている連中は、おそらく羽毛が生えていなかったのかもしれない。
白亜紀は第四紀に比べれば、確かに温かい時代だったけれど、少なくともオレが暮らしていた地域では四季があり、冬はそれなりに冷えたし、雪も少しは降った。
そのため、ひどい皮膚病でもなければ、地元で羽毛のない恐竜はいなかったんだな。
多分、体も小さく、ほとんどが森に住んでたから、羽毛や皮膚がバクテリアに分解されるかなんかで、化石として残らなかったんだろうね。
オルニソポーダなので、当然ながら草食。
二本脚の恐竜にしては珍しく、前肢の指が5本ある。
このかわいい手は、エサ探しに草むらをかき分けたり、仲間同士のグルーミングに使っていた。
そして、トリケラトプスっぽいクチバシで、草の実をついばんでいたものだった。
そのどれもが、連中を狩る直前の様子窺いで見たものだったけど、仲間同士で日向ぼっこしながらグルーミングしている姿は、今から思うに、中々かわいらしいものだった。
肝心の獲物としてのグレードの方は、身は少ないけどおいしかったんで、たまに獲って喰ってた。
けど、メチャクチャすばしっこくて獲るのに苦労したもんだった。
だもんで、前もって丈の高い茂みの中を奥まで踏みならして、そこに追い込んで捕まえていた。連中は、体重が軽いもんだから、茂みの中に逃げ込むと、藪漕ぎが出来ないので、そこを捕まえるように工夫が必要だった。
当時は獲物としか思っていなかったけど、相森さんの奥さんを搬送する時のサポートや、ポールの戦闘支援やら、第四紀の人間社会では意外と役に立つもんなんだな。
「コロロロ…」ヒプシロフォドンの一人が、何やらオレに話し掛けてきた。
「"私たちを気に留めて下さってありがとうございました"だそうですよ」
その昔、散々獲って喰ってたんで、なんとも複雑な心境だ。
オレはヒプシーズと一度も話をしたことがなかった。
当時、共通語はあったけれど、誰もが話せる訳じゃなかった。ムートは、長旅をする種やリーダー層、そして、オレみたいな好事家が頑張って覚えるものだったからな。
「エミさん、"どういたしまして"ってどう言うの?」
「え?ええ、"ククク"ですよ」
「ククク」オレはヒプシロフォドンにノーズ・タッチ(鼻先を摺り合わせる親愛のボディランゲージ)しながら応える。「こちらこそ、さっきは助かりましたよ」
オレ、もうヒプシーズを狩れそうにねぇ…。
そこへタクちゃんが帰ってきた。
「最寄りの隊に支援を要請しました。もうしばらくしたら着くと思います。
さ、みなさん。
先に後片付けを始めていましょう」
相も変わらずのニコニコ係長ぶりに、隊員達も苦笑しながらライフルをたすき掛けに背中に回した。
オレたちは、幕張の分隊が来るのを待ちながら、倒した野盗竜を処理する。
と言っても、息のあるヤツはかなり多く、応急手当の方に手間が掛かった。
むしろくたばったヤツの方が運が悪いくらいで、自衛隊さんもユタラプトルたちもかなり手加減してくれたようだった。
徒党を組んで、他の行き場のない恐竜や人間たちを襲っていた連中なんで、生かしておく義理はないし、後々面倒になるだろうけど、まあ、この点は幕張さんたちになんとかしてもらおう。
そんなこんなで、結構後片付けが進んだ頃に、ようやく幕張分隊がやって来た。
それも、トラック2台に2小隊(約50名)そして指揮車という大所帯だった。
後片付けの手伝いを頼んだだけなのに何事だと、オレたちが目を丸くしていると、連中はオレたち恐竜勢に銃を向けてきた。
しかし、なんだか違和感がある。
「大迫さん?」
幕張自衛隊勢は、前衛は普通だった。しかし後衛のライフルにはマガジンが装填されていない。
それに、普通、とは言ったけど、ちょっと言葉が足りてなかった。
幕張勢は、軒並み恐慌状態に陥っているようで、冷や汗の匂いをプンプン漂わせ、ロクに寝ていないのか目は落ちくぼみ、焦点が定まらずに挙動っていた。
タクちゃんはオレに頷く。
「何の真似だ?」
タクちゃんは、隊長らしい威風堂々とした雰囲気で、相手に問い質す。
「その恐竜は何だ?」
いきなり失敬なヤツだな。
「我が隊の隊員と米海兵隊の隊員、そして、保護した民間人だ。
何を殺気立っている?
銃を下ろせ」
タクちゃんは、肩の力を抜き、肘を広げ、いつでも銃を抜ける型を取った。
「ウチは89式もMINIMIも、タマはまだたっぷりある。
分かるな?」
タクちゃんは、ライフルを構えようとする江戸川勢の隊員を制止しながら、幕張勢に言い含める。
実際、MINIMIを装備している隊員は、聞こえがしに銃を揺らしボックスマガジンの弾丸をジャラ付かせ、幕張勢を牽制する。
ライフルを装備している隊員は、マグポーチをベリベリとめくり上げ、派手な音を立ててマガジンをフルロードされているものと交換する者までいた。
これだけで、幕張勢はビビったようだった。
「なぜ、襲われない?なぜ、言葉が通じる?」
勝ち目のない相手にケンカを売りかけた幕張勢の隊長は、声を上ずらせながら質問を重ねてくる。
「銃を下ろせ。
話は、それからだ。
我が隊は、敵ではない」
タクちゃんは、落ち着いたよく通る声で、最後通告と言わんばかりに諭すように言った。
「分かった」
隊長の合図に、幕張勢が銃を下ろす。
「竹井一尉。私たちは、自衛隊の本分を尽くしたまで。
言葉が通じなくても、同じ人間として、手を差し伸べただけです。
ただし、キバやツメを振るう相手には容赦しない」
いつものタクちゃんの口調に戻る。相手の隊長とは顔見知りのようだ。同じ習志野空挺部隊だから当然と言えば当然か。
「自衛隊の本分……そうか…」
「余程切羽詰まっておられるようですね。何があったのですか?」
「ウチは相次ぐ恐竜の襲撃で、1中隊を失った。弾薬もほとんど残っていない」
おやおや。
「彼らにさっきのような真似をすれば、抵抗されて当たり前ですよ」
「なぁ、タクちゃん。コイツらの根城見に行ってみないか?」オレは、タクちゃんにささやく。
「え?」
「ほら、見てみなよ。
マガジン噛ましてるライフルなんて前列だけだし、服だってボロボロだ。
それに、臭いからすると、ずっと洗濯してないし風呂にも入ってないんだよ。
どんなことになってんのかちょっと見といた方がいいかもよ?」
人間でも、敏感な人なら気付くだろう。
タクちゃんは、幕張勢の状態を一通り眺めると苦笑いする。
「確かにあそこまでボロボロだと、かえって私も興味が湧いてきましたよ。
持ち掛けてみましょう」
「今、幕張はどうなっているのですか?」
「ありとあらゆる物資が底を付いている。
それに、一体どうやったらたった2班体制でこれだけの恐竜の群れを倒せるんだ?
それも、損失がまったくないなんて!」
「協力して下さっている発症者の方がいるのです」
タクちゃんはそう言うと、先にユタラプトルの上山さんたちを紹介した。
次にポールとオレを紹介した。
「海兵隊の山本少尉?檄文を飛ばしてきた横田のか?」
「ええ。色々と相談に乗っていただき、アドバイスをもらっています」
「…お前は怖くないのか?」
「完全武装した隊員と同じ程度には。
しかし、少尉には失礼かも知れませんが、私は、彼を友人と考えておりますので、別段脅威を感じてはおりません」
「突然襲いかかってくるとは考えないのか?」
「さて?少尉に何か考えあってのことでしょうね。
あの、失礼ですが、そちらの状況を見せては頂けないでしょうか?
あまりの違いに、このままでは齟齬が生まれそうですので」
「よかろう、…見ても気持ちのいいもんじゃないぞ」
竹井隊長は、タクちゃんとオレ、それぞれの相方にトラックに乗るように言った。
道中は、またしてもおいしそ…、じゃなくて、人間も恐竜の別なく、野ざらしになっている。
「江戸川より後片付けが大変そうですね」オレと一緒に荷台に乗っているエミさんが、やるせなさそうに感想を漏らす。
トウヤ :ヒプシーズ、ウマかったのに。
ポール :どんな味なんだ?
トウヤ :ジューシーで肉に臭みがなくてね…
ヒプシーズ:ふむふむ
トウヤ :ヤマドリに似た感じだったんだよね。
ポール :ほぉ
トウヤ :昔はナマで丸かじりだったけど、今なら焼いて食べたいね。
ヒプシーズ:ピキッ!
エミ :あの~避難者の方を食べちゃダメですよ?
トウヤ :(オレよりエミさんの方がよくヒプシーズ獲ってたんだけどな…)




