082:青い空の下を走って行った #4
真性ナチュラル・ボーン・キラーズ vs 恐竜モドキ。
デイノニクスとユタラプトルのコラボ・コンバットです。
082:青い空の下を走って行った #4
オレは、合流した自衛隊さんのトラックに乗り、加速モードで大幅にブーストアップを掛け、大急ぎでコンバットゾーンになっているSAへ戻った。
今、相方のポールは、保護した恐竜家族たちを野盗化した恐竜勢の襲撃から護るため、手持ちの弾薬だけで戦っている所だ。
「5.56mmの弾丸下さい、すぐ!!」
オレの剣幕に、同乗していた大迫二尉の秘書兼パートナー、オルニトレステスのエミさんが、すぐにマグポーチを二つよこしてくれた。
「ありがと!!」お礼もそこそこに、オレは加速モード全開でガードレールを跳び越え、ポールたちの所へ急いだ。
ポールたちは、やはり野盗恐竜勢に包囲されていた。
しかし、さすが戦闘のプロだ。
巧く膠着状態を作り出し、持ち堪えてくれていた。
ファルカリウスの相森さんも、ポールの脇で鎌爪を振るい、ヒプシロフォドンたちも周囲に目を光らせ、奇襲のアラームを上げてくれている様子だった。
野盗恐竜勢は、ポールのライフルと相森さんの鎌爪の前に及び腰になり、消耗戦を強いられていたが、ポールの弾が尽きれば、その均衡も崩れる。
オレは走りながら、加速モードで引き延ばされた時間の流れの中で、2つのグループを前に漠然と自分のことを俯瞰する。
オレも、襲う側の竜だ。
ああして家族を護る竜たちの中から、いつも誰かの命を奪う側の竜だ。
子育てが下手な親からこぼれ落ちた仔竜を。
自らの愚かさを学び取れなかった若竜を。
ケガや病気を癒やす手立てを知らない成竜を。
群れを率いるのが下手なリーダーからこぼれ落ちた成竜を。
長い生涯を歩んできて生きるのに疲れた老竜を。
オレはそうした者たちから情け容赦なく命を奪い、彼らの血肉を糧にして生きて来た。
そう生きるために産まれた。
そうして生きていく内に、残った彼らが、野放図に繁茂する植物を貪ることで、森や草原が荒れずに続くことを知った。
そして、オレが今まで遊び半分でやって来たことが、この世界にとって深い意味があることが分かってきた。
時には、注意力の足りないムカつく家族を襲い、彼らの迂闊さを気付かせるマネもした。
タイクツな時には、アホガキを群れから追い離し、狩りの稽古がてら徹底的にイビリ倒してから群れに返したりもした。
気が向けば、効用のあるヌタ場にデカブツ共を追い立てたりもした。ヤツらがかき回してくれると、泥浴びがしやすくなるんでね。
アホリーダーはどんだけなのか味見させてもらい、家族や部下が付いてこないようなヤツなら、そのまま仕留めさせてもらった。
命を差し出してきたジイさまバアさま竜には、お礼代わりに痛いと感じる間もなく瞬殺。
もちろん、連中も用心深く健康な竜ばかりになるため、相対的に狩りの難易度は上がる。その反面で、肉も質がよくなるし、こちらも狩りの腕が上がるので、主観的ではあるけどウィン-ウィンな関係だったと言えるんじゃないかな?
群れの中で問題があると、オレの縄張りに何度か顔を見せに来たくらいだしね。
そんな白亜紀肉食ライフを送ってきたオレから言わせてもらうとだ。
ムダな殺しに血道を上げる輩は、それだけで軽蔑する。
それにだ。
ポールたちの周りには、彼らが仕留めた恐竜や翼竜が積み重なっていた。
しかし野盗竜勢は、仲間を介抱するどころか、まるで意に介さず踏みつけ、ポールたちを包囲していた。
餓鬼同然の浅ましさに、心底嫌気が差す。
『ジャマするなっ!』
オレは、通り道に立ち塞がる恐竜たちのアタマに、八卦掌を手加減せずに叩き込みながらどかせ、ポールの元へ辿り着いた。
「お待たせ!。タマもらってきた!」オレは、ズッシリと弾丸の詰まったマグポーチを、ポールに手渡す。
「早かったな。まだ1マグ残ってるぞ」ヤバいヤバい。マガジン、ラス1だったか。ポールは、にこやかに89式を掲げてくるが、結構逼迫していたらしい。「一暴れしてこいよ。空の連中は引き受けた」ポーチの中で整然と並ぶブラスの輝きに、ポールは微笑みを浮かべながら言った。
ローダーサポートのヒプシロフォドンがすぐさまマガジンを抜き、次の装填に備える。
「ヤー!」
弾薬が潤沢になったポールは、包囲陣と上空の翼竜へ89式ライフルのフルオート射撃を浴びせ始めた。
オレはファルカリウスの相森家族の様子を確認する。
旦那さんは、ケガをおして応戦してくれているので、さっきより生傷が増えていたが、"大丈夫だ"とうなずき返してくる。
オレはサムズアップで応え、賊共へきびすを返した。
「クァウ!(今行くぞ!)」オレが出ようとすると、キレのいいドロマエオサウルス語の雄叫びが、アスファルトの彼方から響いて来た。
声がした方を見ると、自衛隊さんのトラックから、中型の獣脚類が2頭、躍り出てきた所だった。
スマートな顔立ち、特徴のある羽毛。
ユタラプトルの上山さんたちだった。
「クゥァッ!(大物を頼む!)」オレは、目星を付けておいた中堅の大型セロポーダを、ユタラプトルたちに鼻先でポイントする。
指した相手は、おそらく7~9m級というところ。前肢の指が2本でエラの張ったアゴはティラノサウルス科らしいが、体格は小ぶり。慢性的な栄養失調のためか、背中の羽毛はボサボサでみすぼらしかった。
ティラノサウルス科は白亜紀のアメリカでも成功を収めた種で、当時オレの地元でも数門の氏族がひしめき合っていた。
しかし、ヤツはユカリちゃんたち"赤帯"の氏族ではなく、オレが軽蔑するスカベンジャーの氏族一門のようだ。
後でポールに訊いてみたら、成竜ならゴルゴサウルスかダスプレトサウルスだろうとのことだった。
コイツらも、先に倒したトゥパンダクティルどもと同様、オレたち小型セロポーダにたかる白亜紀のチンピラどもだった。
白亜紀で何度か痛い目に遭わせてやったので、少なくともオレの縄張りを荒らしに来るようなことはなったものの、オレたちデイノニクスにとって、常に目の上のタンコブだった。
超越能力持ちのデイノニクスに倒せない相手ではないものの、手間がかかる大物は上山さんたちユタラプトルに任せて、オレは小物の掃討に回ることにする。
ユタラプトルたちは、オレのサインに瞬時に首を巡らせると、我勝ちを装いながら巧みに走行ラインを交わらせ、相手の攻撃タイミングを惑わせながら突撃して行く。
キバを使いあぐねたゴルゴは、攻撃をテール・スマッシュに切り替え、踏み込みを始めた。
しかし、大型セロポーダのテールスイングは、どうやっても大きな踏み込みが必要になる。
ユタラプトルたちは、相手の踏み込みから攻撃が来る方向を瞬時に見分けると、タイミングずらしのフェイントを掛け、ジャンプの貯めに入る。
トラックを横転させるほどの破壊力を持つ、ゴルゴのテールスイングは、ユタラプトルたちの鼻先をかすめ、空振りに終わった。
そして死の跳躍。
体重1トン近いユタラプトルが高く跳び、5m以上の高さからツルハシサイズの鎌爪の付いた脚を蹴り下ろしてくる。
今までの助走とジャンプの全運動エネルギーが乗った両脚の鎌爪が、大技を繰り出した直後で避ける術のないゴルゴの脇に打ち込まれた。
片脚と脇腹を深く切り裂かれ、ショックで硬直したゴルゴはその場に崩れ落ち、苦悶の咆哮を上げながらのたうち回る。
「任せろ!」
ユタラプトルたちは、駆け寄って来たタクちゃんたち自衛隊員の声に跳びすさると、次の獲物に向け、走り去る。
立ち上がろうともがくゴルゴに、7.62mm MINIMI(通称762MINIMIまたはMKⅢ。FN社MINIMI MKⅢを住友重工がライセンス生産している機関銃。オリジナルと異なり、アモに.308を使うため高火力。62式軽機関銃と同火力を求める要望が多かったため、少数を試験運用中。ということになってもらっている。)の集中砲火が襲い、巨竜は片膝をついたまま動かなくなった。
オレを目の敵にしている翼竜たちは、走り回るオレに執拗に攻撃を仕掛けようと急降下を仕掛けてくるが、軒並み周囲警戒を怠っているため、次々とポールや自衛隊さんたちに撃墜されて行く。
オレは、横でやってる戦争には構わず、自分に向かってくるヤツを手当たり次第に沈め続けた。
アスファルトの上をユタラプトルとデイノニクスが馳せ、人間が放つ火線が飛び交い、大自然の禁忌を冒した野獣を容赦なく屠って行く。
やがて、サッカー場ほどの広さがある駐車場は、返り討ちにしたセロポーダたちに覆われた。
「状況、終わり」タクちゃんの声を境に、アスファルトに静寂が戻った。
相森さんの奥さんは、後続のトラックに搭乗していた医師がすぐさま処置に取り掛かり、上山さんたちユタラプトルからの輸血と抗生剤の投与で、事なきを得た。
旦那さんも、相当弱っていて危ない所だった。
オレも加速モードの使い過ぎで電池切れ寸前だ。
ちょっと隅に引っ込んで一休みさせてもらうことにする。
「あ、いたいた」上山さんたちユタラプトルだった。「お食事中でしたか?」
う、隠れてつまみ食いしてたのがバレちまった。
「これはお恥ずかしい所を。
ありがとうございます。上山さんまで来ていただけたなんて。おかげで助かりました」
「危ない所でしたね」ユタラプトルたちは、どういたしまして、とノーズ・タッチ(鼻先を摺り合わせる親愛のボディランゲージ)を交わしてくる。
かつて、人間たちからの虐待に耐えかね、避難所を襲撃して来たユタラプトルたちは、人間たちと和解し、タクちゃんたちに協力している。
落ち着いた今の彼らからは、あの時の悲壮に満ちた自棄的な様子はまるで感じられない。
「ちょっとご相伴させてもらいますね」上山さんたちも、オレと一緒につまみ食いをすると、伝言を伝えてきた。「大迫二尉が探しておいででしたよ」
「あ、じゃあ」
オレはざっと駐車場を見回し、タクちゃんを捜し当て、そちらに歩いて行く。上山さんも一緒に戻るようだ。
「江戸川避難所の方はどうです?」歩きながら上山さんの近状を訊いてみる。
「人間たちと一緒に、少しずつ片付けを進めていますよ。広い通りはどうにか使えるようになりました」
「人間たちとは、ウマくいってますか?」
「ええ。
向こうもこちらのことを言葉が通じないと言うだけで一方的に誤解していましたし、私たちも事に及びましたから。
痛み分けで和解になりました。
今は、毎日街の片付けと野盗化した恐竜の襲撃に応戦しています。
しかし、こう話していると、私たちがなんだか人間じゃないみたいですね」
上山さんたち、と言うより、江戸川避難所では、たった一頭の例外を除けば、記憶を取り戻した恐竜はいない。その例外にしても、オレやケラトサウルスのカイさんと異なり、自我は人間のままなんだ。
できるだけそっとしておきたい。
「いいじゃないですか。恐竜のカッコした人間でも。
さっきの戦いっぷりは見事でした。本当に助かりましたよ」
「実際、大迫さんたちからも頼られていますしね。
とは言え、だんだん人間の感覚が薄れていくのは、気がかりです。
さっきのようなつまみ食いも、抵抗ありませんしね」
あれで都合10匹ほどの小型恐竜が、オレたちのハラに収まった。
「では、人間を襲う気になったことは?」
「人間を?」
「例えばハンバーガーやサンマの塩焼きのように、食べ物として見たことはありますか?」これでyesが返ってくると、ちょっとヤバいんだが。
「それはありませんね。最初に襲撃した時も、人間たちに私たちのことを分かってもらいたかったから、でしたし」
「なら、問題ありませんね。
仲間を気遣った上で、獲物として正当な対象を喰う分には、十分まともですよ」
白亜紀でもたまに、仲間も親兄弟も見境なく牙に掛けようとするサイコパスがいたからな。
「ただ、発症者の中でそんなそぶりをする者がいないか、目は光らせておいて下さいよ」
「トウヤさんって、なんだか昔から恐竜だったみたいに、的を得た答えをスパッと返してきますね。
何でそんなに達観していられるんですか?
私なんて、毎日悩んでばかりですよ」
オレを見下ろす上山さんの目は真剣だった。
「それは、あなたが人として出来た方で、リーダーとして優秀だからでしょう。
ダモクレスの剣が脳天に突き刺さらないよう、悩むのも頭領の分の内ですよ。
けれど、耐えられそうになくなったら、早めに言って下さい。
いい方法を教えますよ」
「そんなのあるんですか!?すぐっ!教えて下さい!!」
「今はダメです。それ教えちゃったら、"人間"と言うものはすぐサボりますから」
「あ…」上山さんは何か合点がいったようだ。「…そうですね、確かに」
上山さんは、踏ん切りが付いたように"人間か…"とかつぶやく。
別に不思議なことじゃない。群れを預かる者に求められる資質は、白亜紀でも一緒だっただけなんだ。
群れを飢えさせないリーダー。メンバーへの気遣い。そして、自分を支えてくれる者たちへの信頼。これは最低ラインなんで、ホントはもっとあるけど、これから一つでも欠けていたら、そいつはリーダーとしてはアウトだ。
そして、もう一人のリーダーもオレたちに気付いたようだ。
「あ、ご足労済みませんね」タクちゃんが敬礼でオレたちを迎え入れる。
「こんにちわ。このたびはありがとうございました。避難所、巧くいっているようですね」オレも十度礼(海軍や空軍で行う、脇を閉めての敬礼。)で返礼を返す。
「いえいえ。こちらもいただいたアドバイスのおかげで色々と躍進してまして、近々昇格することになりそうです」
「一尉になられるんですか?おめでとうございます」
「有事対応の繰り上げですけれどね。
上山さんたち体が大きい方は、輸血用の血液提供者を買って出て下さっていまして。ファルカリウス、でしたっけ?血液が適合してよかったですよ」
「探されていた用向きですが、調書用の質疑でしょうか?」
「ええ。これも職務でして、すみませんがお付き合いいただきたく」
「了解です。
ちょっと付き合ってもらえますか?主犯のトコに案内します」
オレはポール、タクちゃん、上山さん、相森さんを伴って、倒れている賊のリーダーの所へ行った。
ダコタラプトルは、さっきアッパー・カットを喰らわせた場所で倒れたままだった。
アゴが砕けているので、ヨダレが垂れ流しになっているが、生きているようだった。
とりあえず、骨折している胸を軽くつついて起こす。
ダコダは、壊れたサイレンのような悲鳴を上げ、起きた。
「多分、コイツが首領だと思います。
では、裏取りはしてませんが…」
オレはそう言い置くと、相森さんに確認しながら、ダコタの罪状を読み上げた。
ついでに、ダコタにも身に覚えがあるか問い質す。
最初の確認をした時は、ダコタはウンともスンとも言わず、挙手すらしなかった。
反抗心溢れるギラついた目が、実によろしい。
「訊かれたことには、お答え下さい。口頭での返答が困難でしたら、首肯または挙手で結構ですので、意思をお示し下さい」
ニッコリと微笑みを浮かべながらダコタを見つめ、脚の鎌爪がアスファルトでカウントダウン・ステップをカチ、カチ、と踏み始める。
プレゼン・モードで対応中のため、体が勝手に動いているものの、実はもうガマンの限界で、今すぐにでもコイツを八つ裂きにしよう、と思っていたのはナイショだ。
けど、多分オレの目から、心情がデススターのビーム並みのパワーで出ていたんだろうね。
ダコタは、必死の面持ちになり、頷こうと努力したようだけど、アゴもクビもロクロク動かせなかったらしく、その挙げ句にようやくうめきながら前肢を上げて"ハイ"を答えた。
チッ!
挙げた質問は簡単だ。
このファルカリウスたちを、遊戯目的で何度も襲撃しましたね?
この地域の他の恐竜たちに対しても、同じ行為に及びましたね?
人間を、遊戯目的でキバに掛けましたね?
一連の行為を指揮しましたね?
返答が全て"ハイ"で済むようにしてやった。
答弁が終わる頃には、タクちゃんの手はすぐにでも腰のSIGを抜きそうに小刻みに震えていた。
ポールの方も、ライフルを固く握りしめているのが分かる。
さっきから、アタマの上の方で、ユタラプトルたちの不快気なうなり声も聴こえている。
「以上となります、エストラーダ中尉殿、大迫二尉殿。ご判断、指示を願います」二人を現場責任者として正気付かせるため、判断を丸投げしてやる。
判断を仰ぐまでもなく牙に掛けてもいいんだけど、それじゃ二人のメンツが立たんからな。
ハケンの仁義だ。
ポールとタクちゃんはお互いに目配せすると、ポールが黙って頷いた。
「本隊に連絡してきます。被疑者の監視をお願いします」タクちゃんは、オレたちにそう告げると、ピッと敬礼し、トラックへと走り去った。
ポール:MINIMIいいな。ウチはまだM60なんだ。
タク :以前はよく壊れましたけど、最近のはよくなりましたよ。重いですけどね。
トウヤ:MINIMIもいいけど、やっぱりユタラプトル強い。
ポール:ラプトルの鎌爪は、実はそれほど攻撃力はないって研究があるみたいだが?
タク :何でも、獲物にとどめを刺すのに使っていたとか?
上山 :そんなの私に訊かれても…。実際はどうだったんでしょうね?
トウヤ:あの検証は、オレらデイノニクスサイズのもので、指先スナップだけのシミュレートだから、大ジャンプしたユタラプトルのキックとは比べものにならないくらい貧弱なんじゃない?
ポール:それにしても、オマエら共闘するの初めてなのに、なんであんなに連携取れるんだ?
トウヤ:狩猟連携くらい、基本能力の内だけど?




