081:青い空の下を走って行った #3
デイノニクスの天敵がやって来ちゃいました。
トウヤが白亜紀で貯まった鬱憤を一気に晴らします。
081:青い空の下を走って行った #3
ここが動物園か植物園だったらよかったんだけどな。
スナックつまみながら、極彩色のクチバシやトサカを持った翼竜が、舞い飛ぶ姿を楽しめたらね。
アディエマスとか子龍の、和やかでちょっとスピリチュアルなBGMでもかかってれば、言うことなしなのにさ。
ここは京葉道路 幕張SA(登り車線側)。
恐竜化石の展示博覧会で有名な幕張メッセは、1km位手前にある武石インターを降りれば、クルマでも30分かからずに着く。
とりあえず、目の前の現実に還ろうか。
ツーリングがてら、家までバイクを取りに行った帰り道。
オレとポール(エストラーダ中尉)は、ファルカリウス(テリジノサウルスのルーツにあたる、草食性へ分化途中の種)の相森さん一家とヒプシロフォドンの群れを保護した。
そこまではいい。
そのファルカリウスは、ティラノだかラプトルだかの群れに何度も襲撃を受け、ボロボロにされ弱っていた。
彼らは、全員人間語が話せない状態だったが、うまくコミュニケーションを取っているらしく、お互い協力し合ってなんとか生き延びてきたようだった。
最寄りの避難所を巡り歩いたそうだが、このエリアは、恐竜化症を発症した人間(以下、恐竜)を忌避る性質のコミュニティだとか。
当然ながら、入所させてもらえず、ケガの手当も出来ない状況。
ファルカリウスの奥さんの方は、度重なる襲撃に重傷を負い、敗血症を起こしていて危険な状態だった。
オレたちは、彼らを救助しようと、懇意にしてくれている江戸川区避難所の自衛隊さんにお願いして、搬送のトラックを出してもらえることになった。
が!
トラックを待っている間に、ファルカリウスたちをこんな目に遭わせた恐竜の群れがやって来ちゃったんだよ。
人間から身を隠しているこの辺り一帯の恐竜たち相手に、サファリ(スポーツ狩猟旅行)を楽しんでいる、人間の嗜虐性と狩猟恐竜の偏執性を併せ持った連中だ。
大小取り混ぜ推定100頭以上と結構数も多い上に、どうコミュニケーション取ったのか知らないけど、翼竜の群れがエスコートに付いている。
空を覆う連中は、白亜紀でもたまに見掛けることがあった、大トサカと丸トサカ。
後で調べてみたら、第四紀で人間が付けた名前は、トゥパンダクティル(大トサカ)とトゥプクスアラ(丸トサカ)。
どちらも翼開長が5m~6mある中型の翼竜で、オレたちが大規模な狩りをやる時に、どこからともなく現れて、オレたちが食餌を済ませるまでずっと空に張り付いていた連中だった
どちらも翼竜なのでトサカを持っている。
しかし、そのサイズはプテラノドンのようなスマートなモノではなく、グライダーの垂直尾翼のように巨大で、南米のサイチョウ科の鳥のように極彩色の厚化粧なんだ。
オレは白亜紀じゃプテラノドンを見たことはないが、コイツらと、カラスくらいのサイズのプテロダクティルたちはちょくちょく見掛けたし、もっと巨大なケツアルコアトルはたまに見掛けた。
小型の翼竜たちは、ほとんどが川や海で魚を獲って食べていたので、名前を知らないご近所さん程度の面識だった。
しかし5m級以上の翼竜は、オレたちデイノニクスを襲ってくる、文字通りの天敵だった。
特にこの5m級の翼竜は、空中での機動力が半端なく、ヒット・アンド・ウェイの高速戦術を仕掛けてくる上、オレたちのジャンプ攻撃による迎撃をこともなくかわす、ラプトル・キラーだったんだ。
平地でコイツらに襲われたら、オレたちデイノニクスを始め、同クラスのドロマエオサウルス、トロオドン、オルニトレステスも、マジでヤバい。
逃げ切れなかったら、殺られるのはオレたちの方だった。
連中に対抗出来るのは、ユタラプトル以上のサイズで、その彼らでさえ時折相打ちになっていた。
気の小さい連中は、ヤツらを畏れて森や山から出てこれなかったほど、恐ろしい相手なんだ。
ん?オマエ、この前、江戸川で翼竜を散々退治しまくってただろうって?
ダンナ、そりゃオレが白亜紀の記憶を取り戻す前の話だぜ?
あの時のオレは、翼竜の恐ろしさを何一つ知らない、恐竜の着ぐるみ着た人間同然の意識しかなかったんだ。
何より弾薬が潤沢にあった上、翼竜だけ相手にして対空戦闘やってるだけでよかったしね。
ゲリラの大群を相手しながら対空戦闘までこなさないとならないなんて、それこそプラトゥーンやハンバーガー・ヒルでのアメリカ軍と同じ目に遭うだけだ!(ディエンビエンフー戦のフランス軍や砂漠の嵐戦の多国籍軍でも可)。
な?
オレが現実逃避しかかったのも分かるだろ?
ファルカリウス家族を放り出して、オレとポールだけバイクで逃げるという選択肢もあるにはある。
しかし、せっかく第四紀にたどり着いて、一緒になれたファルカリウス家族。助けを求めてきた彼らを見捨てるかよ?
オレ自身、そんなオレを赦したりしない。
ムリならムリでもいい。せめてヤツらに徹底的に嫌がらせしてやり、『コンチクショ~クタバレ!』ぐらいは言わせてやりたい。
『そいつはオレたちの獲物だ。返せ!』
ポールとの作戦会議も始めないうちに、連中の口上が始まった。
ヤツらのリーダーは、オレと同様に体格のいいデイノニクスか、ワンクラス上のダコタラプトルらしい。
ヤツの手下はというと、セロポーダの品評会みたく2m級から10m級まで、色々いる。
ふ~ん。この大所帯でこの辺りの恐竜ツブして回ってたのかよ。
狩猟竜カタギを色々と逆ナデする、ムカつく相手だ。
『待ってくれ、ハラが減っているのか?』一応、ファルカリウスの旦那が言っていた事の裏取りをしておく。ポールにも、軽く通訳を始める。
『もう、ずっと何も食べていない。水もまともなのを飲んでないんだ』
『?…。オイオイ、ウソつくなよ。この家族を襲って喰うってんなら、そこらでくたばってるのを喰うのが、ケガもしないし手間もかからんだろう?』イラつく浅ましい連中だ。
『クハハハ、バレちゃしょうがねぇ。
そうさ、狩りを楽しんでんだよ。
最近じゃ人間もガードが堅くなってな。
こうしてあっちこっちで固まってる連中を探しちゃ、遊んでもらってんの、さ。
あ~、オマエ、ちょっとは頑張りそうだな。
そのショボっちぃ草喰いの防波堤になれっかな?』
一泡吹かせるだけじゃ気が済まなくなった。
「なあ、あいつら潰そうぜ」
「オレもかなりムカついた。出来るモンならそうしたいが、今の装備じゃ無理だ。とはいえ、逃げるのはナシにしたい」
「ポール、持ち弾は?」
「全部で7マグ」ポールは、マグポーチをポンポン叩きながら、心許なさそうに答える。
.223(.223レミントン弾。実際に使っているのは高性能版の5.56mmNATO弾。)が210発か。
オレは銃とマグポーチを外し、ポールに渡す。
「預けとく。オレの援護はいらない。相森さんたちと自分を守るためにだけ使ってくれ。
2分持ち堪えてもらえないか?」
「2分だな?」
「援軍と、弾丸持ってくる」
「分かった。混んでるから気を付けてけよ」
ポールの援護の下、オレはバイクにまたがりエンジンに火を入れる。
第1目標、敵リーダー。
第2目標、自衛隊トラックのエスコート。
加速モード オン。
連中は、オレが自陣のド真ん中へ突っ込んでくるとは思わなかったようで、大慌てでビッグ・オフローダーから逃げ惑い、パニックに陥った。
目の前の敵をボコボコと跳ね飛ばしながら、リーダーへ接敵。
一瞬クラッチを抜き、スロットルオープン。シッポを使っての体重移動を掛けながら、ググッと強めに半クラッチを当てる。
振り上げたフロントホイールが、リーダーのアゴにメリ込み、きれいにアッパー・カットがキマる。
あ~、コイツさっき防波堤がどうとか言ってなかったっけか?
そのままリーダーにボディプレスを掛けながら、スロットルをさらに開け、リーダーの体を乗り越える。
このバイクは重量級のため、ウィリーは今まで上り坂でしか成功しなかった。今はシッポのおかげか加速モードのおかげか、初めて平地で成功した。
後は下っ端ばかりだ。
残りはポールに頑張ってもらおう。
敵陣をテキトーに引っかき回した後、パーキングから本線への誘導路に向かう。
怒り心頭の連中が何頭かオレを追って来るので、オレはシリペチ代わりにシッポでタンデムシートの荷物の山をペチペチ叩いて、ムダな苦労をねぎらってやる。バックミラー越しの怒りと屈辱に歪んだ顔が、実に気分いい。
誘導路の短いカーブを曲がりきると、2車線の広い本道が見えた。
こちらに向かって来ている自衛隊さんのトラックに向け、一直線にスロットルオープン。
翼竜どもが、"逃がすか"と言わんばかりの耳障りな金切り声を上げ、襲って来た。
急降下でかなりスピードを稼いでやがる。
バカなヤツらだ。
オレが、白亜紀でオマエらに前肢も後脚も出せなかったのは、スピードと空中での機動力に、ハンデがありすぎたからだ。
こっちのスピードメーターとタコメーターは、どちらもすでに針が振り切れ、ストッパーに張り付いたままになっている。
空中機動力のハンデは、今でも大差を空けられている。
しかし、加速モードの恩恵に加え、地上での機動力が、今のオレにはある。
その差を補ってあまりあるんだ。
この速度系に飛び込んできたオマエら自身が、どれだけモロいか分かってねぇ。
グライダーと大差ないオマエらの華奢な体で、このスピード・レンジでオレにバトルを仕掛けてくるなんて、"狩ってくれ"と言っているようなもんだ。
白亜紀のカリ、返すぞ。
年利1.7%計算でも、6700万年分貯まっているからな。
勝ち誇った顔で突っ込んでくる翼竜共を、片っ端から八卦掌でクチバシをはたいてやる。
空では無敵のヤツらの機動力も、方向舵役の大トサカを瞬時にデタラメな方向に持って行かれてしまうと、その運動エネルギーは全て自分を破壊する刃へと変わる。
ヤツらは、急激に発生する旋回荷重に翼や頸椎が耐えられず、脱臼を起こして次々と墜落していった。
ちょっと骨っぽい絨毯だが、せっかく道一杯に広がってくれているので、ブレーキターンからのリズミカルなドリフトロールで、遠慮なく全員踏み潰してやる。
翼竜共は、元金すら受け切ることができず、アスファルト上でボロ布巾の山と化した。
白亜紀で煮え湯を飲まされ続けた鬱憤が一気に発散され、溜飲が思いっきり下がった。
ここでのステージは、これでクリヤー。お次は、自衛隊さんたちを首尾よく連れて来るタスクだ。
加速モード&スロットル、全開。
オレのバイクは、自分で後付けした電動コンプレッサー用にECUを組み替えてある。それを止めてしまえば、キャブレターとCDI点火で駆動するオーソドックスなエンジンになる。
オレは、エンジンを加速モード駆動に対応させるため、コンプレッサーを止め、ピュアなレシプロ機関に戻した。
後は、自前で作り替えたCDI点火回路のチャージ性能任せ。
すぐに音のない世界が訪れ、バイクは青天井に加速を続けて行った。
実に爽快だ。
誰も追いつけない。前を遮る物もない。
ストレート3車線のアスファルトは、今だけはオレの物だ。
ほんの一時だけだが、オレは、このフリーランを心ゆくまま楽しんだ。
程なく、対向車線の遙か彼方に自衛隊のトラックが見えた。
スロットルハーフ。フルブレーキを掛けながら、タコメーターが感応し始めるタイミングでスロットルクローズ。
加速モードが効いている最中に全開で回っているエンジンに対して、急に加速モードをカットすると、内部の煽動摩擦熱でエンジンが融けてしまうかもしれない。取り急ぎの保護措置だ。
加速モードカットオフ。
2kmほど掛けてバイクを止め、中央分離帯に登り、前肢を振る。
自衛隊さんもオレに気付いてくれ、止まってくれた。
オレは先導トラックにタクちゃんがいるのを確認すると、ルーフに飛び乗った。
「襲撃を受けている!!。急いでくれ!!」
「分かった。出せ!」
トラックが走り出し、オレも加速モードオン。
先導トラックは瞬く間に後続を引き離し、グングン加速して行く。
トラックは程なく音速を超え、さらに加速して行く。
ディーゼルエンジンってのは、点火回路がないので、エンジン内部の煽動抵抗が飽和点になるまで回り切ってくれる。
オレは、加速モードのエフェクトレシオを程よく釣り合いを取り、バレないようにした。
が、途中止まり切れず、船橋料金所のETCゲートを粉砕させてしまった…。
タクちゃんは、後の祭と苦笑しながら、ドンマイドンマイとドライバーを促していたようだった。
程なくららぽーとを過ぎたので、ムリクリゴタクを並べてタクちゃんにスローダウンさせる。超音速で走っていたトラックは、幕張SA前でなんとか止まった。
「5.56mmの弾丸下さい、すぐ!!」
オレの剣幕に、同乗していたタクちゃんの秘書兼パートナー、オルニトレステスのエミさんが、すぐにマグポーチを二つよこしてくれた。
「ありがと!!」お礼もそこそこに、オレは加速モード全開でガードレールを跳び越え、ポールたちの所へ急いだ。
ミハル:スピード違反です!
トウヤ:マッハ3って速度超過何キロ?免停何年だ?
ポール:アメリカだと300年くらい喰らいそうだな。
マリ :有事下の超法規的措置、ということになるので、告訴取り下げになると思いますよ?
トウヤ:と言うコトで無罪放免。^w^
ポール:しかし、旧車の方が逆に早くなるだなんて…orz




