080:青い空の下を走って行った #2
旅は道連れ世は情け。
今回はヒプシロフォドンたちとタコ焼き食べながら、お迎えのトラックを待ちます。
080:青い空の下を走って行った #2
千葉県 京葉道路 幕張SA。
基地に帰る途中、小休止していると、恐竜が現れた。
閑散としたパーキング・エリア隅の茂みから顔を覗かせ、オレらの様子を窺っている。
二本脚で顔つきがスマートなので、獣脚類か鳥脚類だろうが、首が細いのでオルニソポーダ?
頭頂の地上高は優に2mはありそうだった。ケラトサウルスのカイさんも頭がその辺りに来るので、多分現れた竜は体長4~6m級だろう。
大型種の若竜なのか、大きな丸い目がかわいらしく見える。
だが、相手はドロマエオサウルス科でもティラノサウルス科でもなさそうだ。
少なくとも、白亜紀にオレが暮らしていた土地では見掛けたことがない種。
けど、なんだかどこかで見たような覚えがあるんだよな。
彼は、うらやましそうにオレたちの方を眺めるばかりだ。
「ポール、あの恐竜の第四紀の名前知らないか?」
「スマン。そう言うことはジョージに訊いてくれ」ポールは、89式ライフルのセフティを解除しながら訊いてきた。「見張ってる」
オレはブラックベリーを出して、ズームで写メを撮るとジョージにメールした。
トウヤ:コレ、何て恐竜ですか?
ジョージ:体長は何mくらい?
トウヤ:4~5m程だと思います。シャイなのか茂みから出てこないんですよ。
ジョージ:ゴメン。これだけじゃ分からない。
トロオドン科にしては大きすぎる。
オヴィラプトルの仲間にしては鶏冠がない。
もっと特徴がないか訊いてみて。
トウヤ:やってみます。逃げられたらカンベンね。(^_^;)
「ポール。アイツどうする?」
「避難所に連れて行くか、捕獲しておくべき。いずれにせよ登録はしておいた方がいいな。あのサイズは人間にもデイノニクスにも脅威になる」
「分かった。ジョージが言うには、他に特徴がないか訊いてくれ、だってさ」
「…ま、まあ、話をしてみるのは悪くないな。援護する」
「じゃあ、声かけてみるか。
クュオ?(ハラ減ってるなら一緒にタコ焼き食わないか?)」
"丸目"はおずおずと茂みから出てきた。
当初の見立て通り、体長は5mほど。体中ケガだらけで、所々血を滴らせていた。
言葉が通じているのかどうか、まるで分からない。
だが、見たことがある特徴がいくつもあった。
全体的な体型やモサモサの羽毛、もっさりした仕草がテリジノサウルスのユタカ君によく似ていた。
ただし、かなり小型だ。
あの特徴的な前肢の鎌爪も対比的にかなり小さくなっている。
そして、口がテリジノサウルスと異なり、一目で草食竜だと分かるような作りになっていない。
肉食系由来の種が雑食にシフトしたような、肉も野菜もイケますよ的なデザインだった。
あ~、こうして見ると、白亜紀がいかに生態的に豊かな時代だったのか、改めて感心する。
「クォッ、クォッ(あの、薬をお持ちでしたら、分けてもらえませんか?)」訛りがかなり強いが、なんとか分かる。
「クク(薬?)」
「キュォ(妻がケガをしていて、包帯と傷薬を探しているのです)」
「ポール。奥さんがケガをしていて、手当に薬が欲しいそうだよ」
「今は手持ちが何もないぞ。オマエ持って来てないか?」
「電子部品とハンダゴテしかない」サイボーグ化手術するにしても、部品が全然足りない。
「避難所には行ったのか?」ポールが丸目に訊いた。
「クゥ(追い払われました)」
人間語は理解できるようだ。
「追い払われたそうだよ。
奥さんは近くにいるのかい?」
『ええ、娘が付いています』
「ケガの具合は?ここまで連れてくることは出来ないかな?薬はないけれど、助けは呼べる」
『重傷ですが、ここに連れてくるくらいなら』
「分かった。手伝うから案内してください。
重傷で、ひとりじゃ動けないらしい。今は娘さんが付いているそうだ。
連れてこよう」
「連れてきて、その後どうするんだ?明日からムカリの追撃作戦が始まるから、今のウチじゃ身動き取れないぞ?」
そういやそうだった。
「江戸川に受け入れてもらえないか、訊いてみるのは?」
「訊くだけ訊いてみるか」
「あ、ちょっと写真撮らせてもらえるかな?」
オレは丸目の写真を撮り、ポールに送った。
トウヤ:コレでどうでしょう?成竜です。テリジノサウルスに似ているような?
ジョージ:ファルカリウス、かな?:-(
返信に少し遅れてPDFが届いた。
ポールと一緒に見てみると、ファルカリウスの電子図鑑だった。
オレの最初の見立ては間違いで、やはりテリジノサウルス亜科なので、実はセロポーダでした。
なんでも、雑食性から草食性へ移行を始めた、初期のテリジノサウルス科。化石も80~90%ほど発掘されているため、外観を別にすれば、ほぼ間違いないだろうとのことだった。
学名はFalcarius utahensis。"ユタの鎌を造る者"。
白亜紀世代で、学名の通りユタ州の辺りに住んでいたそうだが、モンゴルまでどう移り住んで行き、子孫のテリジノサウルスへと進化したのかまでは分かっていないとのことだった。
へえ…。
肉食をやめ、ユタからモンゴルまで進化の旅を続けて行ったなんてね。
ドロマエオサウルス科は、持ち前の俊敏さを進化させ、空を目指して行った。
テリジノサウルス科は、草食へと食性を変え、森との調和を目指して行った。
ドロマエオサウルスとはまた違った旅をした、ロマン溢れる竜だな。
なんて、実の恐竜が、人間が解き明かした恐竜の歴史ロマンに感動してれば世話ないか。
トウヤ:彼ら、ウチで引き取れます?
ジョージ:明日から作戦があるから、そっちまで迎えに行くのはムリ!連れてきてよ。
トウヤ:それこそ御無体でござる。
ジョージ:早く帰っといで。カイさんがバーベキュー始めようとしてるよ。
バーベキュー?
何をやってるんだあの御仁は。
オレは気分を入れ替え、江戸川区避難所で小隊長を勤めている、陸上自衛隊 習志野空挺部隊の大迫二尉、通称タクちゃんにブラックベリーで連絡を入れる。
「お世話様です。トウヤです」
「あ、お疲れさまです。いやぁ、明日からの作戦で、またご一緒になるとかで。連絡しようと思っていた所なんですよ~」ホヨホヨした係長のイメージは相変わらずのようだ。
「相手は、先日会敵したブラキオサウルスです。強敵ですよ」ムカリは紳士的な竜とは言え、戦いとなるとえげつない手を打ってくるからな。人間たちが無事に済むか、不安だ。
「ええ。ウチでも装備がようやく整った所で、今一息入れてる所なんですよ」
「う~ん、休憩中に申し訳ないのですが、今、京葉道路の幕張SAで行く当てのない恐竜家族を保護していまして…」
「NHKのドラマじゃないですよね?種類は何ですか?人数は?」
「中型のテリジノサウルスの仲間、5m級で3名です。そちらで受け入れと搬送をお願いできないでしょうか?」
「搬送ですか…。う~ん、分かりました、都合付けます。1時間ほどお待ちいただけないでしょうか?」
「ホントですか?助かります!」
オレは、様子を窺っていたポールとファルカリウスに、OKサインを出した。
「保護されておいでの竜は、体調の方はいかがですか?」
「2名重傷で至急治療が必要です。これからSAまで運んでくる所です」
「分かりました。ではドクターもお連れします。なるべく急ぎますが、到着まで持ちこたえて下さいね」
「お願いします」
さて。じゃあ、奥さん運んで来ないとな。
オレは、サービスエリア備え付けのタンカを二つ用意して、ワイヤーで横並びに結び付けると、旦那さんに案内してもらう。
ファルカリウスの奥さんは、サービスエリア裏手の急斜面を降りたところにある茂みの奥に横たわっていた。
オレとポールが近付いてくるのを見ると、さっき話していた娘さんらしき竜が身を起こし、警戒して前肢の爪を広げてくる。
その周囲には、いろいろ取り混ぜ、10頭ほどの小型恐竜が取り巻き、羽毛を膨らませ、オレを威嚇してくる。
体長2~3m程の、2本脚のクチバシ恐竜。えーと、今はヒプシロフォドン科って言うんだったっけ?
悪いんだが白亜紀でもそうだったけど、怒っているチョ〇ボみたいでカワイイ。
カワイイんだけど、コイツらクチバシが結構強くて、噛まれるとかなり痛いんだよな。
『家内を助けに来て下さったんだ。すまないが、失礼はやめてくれないか』旦那さんは、一行を穏やかに押し止める。
『この方たちは?』笑いそうになるのを抑えながら、旦那さんに訊く。想定していなかったモブなので、搬送でタクちゃんに怒られないといいけど。
『行きずりで一緒になりました。肉食恐竜の群れに、ずっと追われているのです。妻は、彼らを守ろうとしてやられました』
オレはファルカリウスの奥さんを診てみる。旦那さん以上の深手だ。
うっすらと開ける目は熱っぽく、呼吸も浅く速い。傷口はどこも化膿していて敗血症を起こしている様子だった。それに失血も多そうだ。
これじゃ、オレでも手が出せない。
ペニシリンと輸血が必要だ。
人間だったらとうの昔に死んでいるほどの重篤状態。
この巨体が動けなくなるほどダメージを負うなんて、余程のことだ。旦那さん支えてずっと頑張ってきたんだろうな。
早速タンカを橇代わりにして奥さんを載せ、みんなで引っ張りあげる。
身軽なヒプシーズ(ヒプシロフォドンたち)が、坂の足場を次々と確保してくれ、そのおかげで搬送が予想以上に捗った。
ファルカリウスは見かけより細身だったけど、それでもおそらく2~3トンはあった。
どうにか奥さんをパーキング・エリアまで運び上げると、さすがにみなさん、地べたにひっくり返って荒い息をついている。
疲れている所悪いが、ポールに手伝ってもらい、奥さんの大きな傷口をミネラルウォーターで洗ってもらう。こういうことは、オレたち恐竜には出来ないのが口惜しい限りだ。
オレは、とりあえず自販機でスポーツドリンクを調達して、全員に配った。
意外な働きを見せてくれたヒプシーズには、労いに自販機タコ焼きをオマケする。
彼らは人間語会話が回復していない上、訛りが強くて言葉が全く通じなかった。
しかし、あの急斜面の搬送サポートは素晴らしい働きだった。
目端が効き、こちらの意図をすぐに汲んでくれるので、足場組みや鳶職の逸材だ。
法被羽織らせて櫓の上に登らせると案外似合いそうだ。
「ご家族なんですか?」旦那さんも一息付いたようなので、タクちゃんたちの到着を待ちながら、ポールと一緒に色々と訊いてみることにする。
『ええ。この前の月曜日に。朝目が覚めたら全員恐竜になっていました』
オレは、ポールに通訳しながら話を続ける。
それにしても、一家揃ってこちらに転移して、娘さんまで一緒になれたなんて、なんていう幸運。そして、なんていう悪運だ。
「オレたちは米海兵隊の者で、こちらは上官のポール・エストラーダ中尉。オレは山本 登也少尉です。
さっき最寄りで発症者も受け入れている避難所の自衛隊さんを呼びました。もう少しで到着するそうです。
医師も同行してくるそうなので、奥さんも大丈夫ですよ」
『ありがとうございます。私は相森 功行、妻の満子と娘の由衣と申します。
このまま、あいつらが来る前に自衛隊が来てくれるといいのですが』
「敵の数は?体格はどれくらいでしたか?」
『逃げるのに精一杯だったので正確な数までは。ティラノサウルスみたいのとヴェロキラプトルみたいのが大勢いました』ここで言われているヴェロキは、オレたちデイノニクスか、もう少し大型のドロマエオサウルス科のことだろう。
「どんな性質の群れでしたか?しつこくつきまとってくるタイプ?そっと忍び寄ってくるタイプ?一気呵成に襲いかかってくるタイプ?」
しつこくつきまとってくるのは、基本チンピラだ。大抵が面白半分にコロシやチョッカイかけるのを楽しむイカれた連中で、一番始末に負えない。コイツらは、こちらがガツッと攻撃しても、その場は逃げるものの、ほとぼりが冷めるとまた襲ってくる。いない間は、他所を襲っているという塩梅。
忍び寄ってくるのは、陰湿な連中で、付かず離れずつきまとい、隙を突いて残虐な襲撃を掛けてくる。オレが一番キライなタイプだ。
一気呵成に襲ってくるのは、真性の狩猟竜で、単に腹を空かせて襲ってくるか、余程の恨みを持っているかのどちらか。コイツらは、獲物を手に入れることが出来れば、他を牙にかけることはまずない。腹が空いてるんだから、これは当たり前と言えば当たり前だし、恨まれているなら、その原因を作った方が悪いんだから自業自得だ。
1番目と2番目のタイプは、どうにか算段を打って、相手を全滅させるしかない。
『しつこくつきまとってくる連中です。一緒にいた小さい恐竜たちも次々にやられました』旦那さんは無念そうに答えた。
テリトリーに入ってこられると、本当に迷惑する輩の方か。
地元の人間たちのこともあるし、なんとか退治した方がいいな。
「ここのSAは、よく利用するし、気に入っているオアシスなんだ。
退治出来ないものかな?」無理を承知で、ポールに訊いてみる。
「オレたち二人だけならなんとかなるが、今回はチト厳しいな」ポールは、保護している恐竜たちをチラ見する。
「アタマ数少ないならなんとかなるが、今はライフル1丁しかないんだ。ムリは利かんぞ」
二人で彼らを守る程度でも難しいか。
「ジャージャージャー!!」ヒプシーズが騒ぎ出した。
ヒプシロフォドンの言葉は分からないけれど、これなら意味は分かる。
"敵襲!!"だ!!。
駐車場の隅から滲み出るように、1頭また1頭とセロポーダが姿を現す。
そして、空を翼竜が旋回し始め、値踏みするようなあのイヤらしい目でオレたちを見下ろす。
ヤベ~。
地面の上の肉喰いだけならなんとかなるけど、空飛んでるヤツらも仲間にいるとなると、かなり厄介だ。
ヒプシーズ :タコ焼きウマウマ。
アイモリ旦那:来ちゃいましたよ…。モグモグ。
トウヤ :来ちゃったねぇ。モグモグ。
ポール :どうするよコイツら?モグモグ。
トウヤ :ング。勤務時間外だけど、労働争議の折衝するしかないでしょ?手伝ってよね。
ポール :そうだな。何行か下にあるボタン、ポチってやろうか?
ヒプシーズ :う~ん、手が届かないよ~~!




