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008:あてのない旅立ち

今回でティラノ編完結です。

ちょっと資料が手に入ったので、色々と増補しちゃいました。



 008:あてのない旅立ち


 応援にやって来たのはヘリではなく、2機のV-22 オスプレイだった。

ご丁寧にも裏の畑に着陸してしまう。

おかげで、ローターの風圧で畑がヒドい事になった。

オレは結構気に入っている航空機なんだが、またこれでオスプレイの悪名が高まってしまいそうだ。

 防護服を着た兵士たちがオスプレイから降りてくると、オレたちが倒した恐竜ティラノに群がり、なにやら作業を始める。

 …それにしても自衛隊はいつの間にオスプレイ買ったのかね?ラダー(垂直尾翼)が赤く塗られ、白文字で『竜』とか書いてある。が、よくよく見てみると胴体にMRINESとレタリングが入っている。

「どっちなんだ!?」

「ああ。あの機は日本国内での作戦行動用のものなんだ」オレが首を傾げていると、ターク隊長が何か笑いを押し殺しながら教えてくれた。

「何か変ですか?」

「いや、恐竜が飛行機オスプレイを見て首を傾げてる姿なんて、初めて見たからな。人間目線からはユーモラスだったのだ。

 さあ、気乗りはせんだろうが行こう」

 オレは隊長に促され、荷物を担いでオスプレイへと赴く。

「もう、戻ってこれませんよね…」オレは誰に言うとなくつぶやいた。

「少なくとも、感染の危険性がなく、君の人間としての品性が続くことが立証されるまでは隔離されることになる。不自由とは思うが、要求は可能な限り受け入れられるだろう」

「そうか…。オレもあの恐竜みたいになるかもしれないんですね」オレは倒れているティラノを、暗澹あんたんたる気持ちで眺める。

 見送りに来た中川さんは、黙ってオスプレイをカメラに収めている。

「そう気を落とすな。望みはある。私は今まで戦闘を通じて人の生き死にをたくさん見てきたが、人間というものが未だに解らんよ。戦闘でさんざん銃撃を喰らって血ダルマになっても全快するヤツがいるかと思えば、待機時に水当たりでコレラにかかってあっさり死ぬヤツがいたりな。

 ナニ、いよいよとなれば私が引き取ってやる」

「…それってスカウトのつもりですか?それともペット扱い?」

「隊員として使えそうならチーム・メイト兼チーム・マスコット。そうでなければ、ペットにせざる負えない。

だから、人間でいろ。姿が恐竜でも人間でいろ」

「そうとも登也くん。庭は手入れしておくから、早く戻っておいで」中川さんもうなずく。


 そうだよな。

 生きていれば、戻れるかも知れない。元の生活にこそ戻れないとしても。


 それにしてもオスプレイ。さすがは輸送機だ。壁際にしつらえられた席がざっと25はある。

 そこへ生け捕りにしたデイノニクス(同族)を押し込めた檻が運び込まれる。

 オレの席はと言うと、ターク隊長が機長らしきパイロットとなにやら相談を始め、その結果、負傷者をタンカごと収容する棚を機内に広げてくれた。

「メィク・ユラセルフ・カンファタブル(くつろいでくれ)」

「テンキュー。アーユ・キャプテン?(ありがとう。あなたは機長?)」

「ヤー。レテナン・シェパード(ああ。シェパード中尉だ)」中尉は何か言いたげに佇む。

「パードン?(どうしました?)」オレはシェパード中尉に水を向ける。

「ああ、さっき話したが、中尉も君と写真を撮りたがっているんだよ」ターク隊長が説明してくれた。

「あー。ツーショか。それやっちゃうと一緒に隔離だなぁ…」外を見るとまだ中川さんがいた。

「レテナン・シェパード、カミン・ウィズミー(シェパード中尉、一緒に来て下さい)」オレはシェパード中尉を中川さんのトコまで連れて行く。

「中川さん、この方は機長のシェパード中尉。ミスタ・シェパード。ヒーイズ・ミスタ・ナカガワ,アマチャー・フォトグラファー(シェパードさん、彼はアマチュア写真家の中川さんです)」

「ハロー・ナカガワ」

「は、ハローないすとぅーみーとゆー」

「中川さん。さっき撮った私たちの写真なんですが、シェパードさんにも分けてあげてもらえませんか?ミスタ・ナカガワ。プリーズ・センド・オウル・ピクチャー、トゥ・ミスタ・シェパード」

「え、ああ、いいとも」

「テンキュー・ナカガワ。あ~、トモダチ?コノ、ディナソー?」

「いえす。…お隣さんです」

「シャシン、オネガイシマス。タノシミ、デス」

 いいね。オレはこういう新しい交流が始まる瞬間が好きだ。それも、異文化同士の。

お互いのマッチングが良ければ、そこから新しいものが生まれる土壌になる。不本意ながらケンカに発展するなら、お互いの文化的な欠点を再認識出来る。それを認め合うか拒絶するか、それは文化性や人間性による。

 シェパード中尉は中川さんに自分のプライベート・メアドを渡すと「リリク。サガッテ。シー・ユー!(またお会いしましょう!)」と告げ、「テンキュー・トウヤ。ウェラ・リターン・トゥ・ベース(ありがとう、トウヤ。基地に戻ります)」とオレと機に戻った。


 オレが急ごしらえの恐竜用シートに身を横たえて落ち着くと、見計らうかのように機が離陸する。

 倒したティラノが見える。

 中川さんが手を振るのが見える。

 慣れ親しんだ田園地帯が遠ざかる。


 オレは以前、飛行機のパイロットになろうと思っていた。20年程前、学生の時分のこと。

 そして、視力が規定に満たないのでNGになった。

 いろいろ思うことはあった。

 その後、パイロットになったからといって、空を好き勝手に飛べる訳ではないのだと知った。

 とある映画で『冒険飛行家の時代は終わったんだよ』とのシーンがあった。

 セスナのライセンスを取るのに最低でもざっと500万。雑費を入れたら700万は軽く越えるだろう。まともなフライトスクールだと1000万を超える所もザラだ。

 教官の取り分はあるにしても、そのほとんどが練習機の燃料とメンテナンス代なのだ。

 練習程度でそれだけ掛かるんだ。

とても個人で好きに飛ばせるものではない。

 そして今のオレ、デイノニクスという恐竜も、腕に羽根はあるものの、空を飛べるようなデザインにはなっていない。

 プテラノドンになっていたら空を飛べたのに、なんともままならないもんだな。


 短い空路。

 そんなことをぼんやりと考えながら、小さな窓から外を眺めていた。

 思いの他、速い。

 多分400km/h以上出ているだろう。

 高速道路で200までは出したことがあるので、何となく判る。

 東京湾らしき海の上をよぎり、対岸に着いてから数分飛ぶと、オスプレイはどことも知れない飛行基地に着陸する。

 そうして短い空の旅は終わり、オレは隊長たちと一緒に隔離されることになった。


次回から検疫編になります。


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