078:アフター5ティーパーティー
今回は、仕事の後のティータイムミーティングの話です。
みなさんちょっとしたご褒美にニマニマします。
078:アフター5ティーパーティー
ポール(エストラーダ中尉)との話は、まさかの好い方に転がった。
気分がいいので、シナモンロールをテイクアウトしようかね。
デイノニクスのミハルとドロマエオサウルス・コンビには、ミニ・ロールの方だな。ファシャグナトゥスの和尚さんには、ミニ・ロールでも大きすぎるくらいだけど、それしかないので仕方ない。
ハドロサウルスのシマちゃんの方には4個入りケース一箱と、ケラトサウルスのカイさんは微妙だがやはり一箱か。…何か考えるのメンドくさくなってきた。
「エクスキューズミー。アイ・ワントゥ・タイクアウトフォー・12マイフレンズ。ハウメニー・ロールズ・ア・ネササリィ?(12人分テイクアウトしたいんだけど、ロール何個くらい必要かな)」レジの姉さんに訊いてみた。
ポールは隣でクスクス笑っている。
「ン~、ユアサイズワン・アズ・ワン・スタンダード。ザン・スモーレストワン・アズ・ワン・ミニ・ロール。ン~、フォー・イグアノドンサイズ・アズ・メイビー・1ケース。レックス・アズ・3ケース。ブラカィオサウルス・アズ・シンクソー・6ケース。
イフ・ユーランナウト、プリーズ・カムフォ・バイ・アゲイン(あなたくらいなら1コ。もっと小さい方ならミニ・ロールね。イグアノドンくらいなら、ん~、1ケースくらいかな。レックスなら3箱。ブラキオサウルスなら6箱くらいだと思う。
足りなかったら、また買いに来てよ)」お姉さんはマジレス(真面目に返答)してきてくれた。
プロだねぇ…。
「ウェラ、スタンダード6ケーセズ、アン、ミニ2ケーセズ、プリーズ(じゃ、フツーの6箱とミニ2ケース下さいな)」
「OK、ウェイト・ミニッツ(OK、ちょっと待ってて)」お姉さんはにっこり微笑むと用意を始めた。
そしてお姉さんは、モフらせてくれたお礼にと、クッキーらしき小さいケースを1箱オマケしてくれた。
「テンキュ。アイルビーバック、ウィズ・マイ・フレンズ。バイ(サンキュ。またくるときは友達連れてくるよ。バイ)」
「しかし、ずいぶん買ったな。まあ、マナミの分もあるんだろうが」
「今日頑張ってくれたからね。それに、これからちょっと重いハナシするかもしれないし。
なあ、ミスターDIA。教えてやった方がいいよな?」
「この混乱期じゃな。後になる程、遺恨を残すだろう。まずはジョンソン少佐の意見聞いてからだな」
「だな」
これがシナモンロールの食い納めにならんよう、早く恐竜禍の後始末を付けんとな。
「バイク、いいよな」駐輪場でポールがバイクを取り回しているのを見て、思わず漏れる。
「次の休み、取りに帰るか?」
「行きたいのはヤマヤマだけれど、千葉の奥地までどういくんだ?」
「シェパード中尉(オスプレイのパイロット。海兵隊所属)に話してみたらどうだ?向こうの拠点に輸送任務があった時、ついでに乗せてってもらうとか。
後は、H2(バイク)で行くか」
「オマエがヤバいだろ。第一、ガスどうすんだ?」
「オマエの家までなら十分だろう。それにヤバくなっても向こうのキャンプにあるさ。分けてもらえばいい」
「そうか。じゃ、行くか。センセと隊長に話してみる。また乗せてってくれ」
「いいとも」
オレが両前肢にシナモンロールをぶら下げ、バイクのタンデムにまたがると、バイクは基地に向けて走り出した。
途中、背中に少年を乗せたトリケラトプスが、夕日に照らされながらノコノコ歩いて行くのに行き会う。
ビル・フィールズ少尉と基地司令ジュニアのマイクだ。
ビルは我を失って基地を壊した懲罰に、基地内の補修工事を手伝っている。マイクはビルのハンドラー役だ。
「ハイ、トウヤ」バイクの爆音に気付いたマイクが振り返り、ビルの上からオレたちに手を振ってくる。
「やあ、仕事帰り?」
「ええ。我ながらイロイロ壊したものです」ビルは苦笑いを浮かべる。
「コンビはどう?」
そう言えば、トリケラトプスも人間殲滅派だったっけな。
ビルは、記憶を取り戻したら、マイクをどうするだろうか?
「この間までの悪ガキぶりがウソみたいですよ」
「あ、ヒデェ。ダッド(父さん)に言ってやろ~」
「ふふ。部下の突き上げというのはこういうものだ」
「ケガはもういいのかい?」ビルは暴れた時に重傷を負い、昨日まで包帯グルグル巻きだった。
「海兵隊が女子高生に負けてられないよ」
ケガ竜どうしでナニ張り合ってんだか。なんだか微笑ましい。
「そうか。ほら、おみやげ。ビルと一緒に喰え」シマちゃんには悪いが、オレはシナモンロールの箱をマイクに渡す。
「ええ?いいの?」
「ああ、これからミーティングなんでな。お裾分けだ。
なあ、ビル」
「何でしょう?」
「マイクと、仲良くな」
「はぁ…?」
今は想いが伝わらなくてもいい。
その時が訪れた際に、人間と一緒にいたことを忘れないでくれればいい。
カタンッ!
ポールがバイクのギヤを入れた。
「じゃぁな」ポールはアクセルを煽ると、トリケラトプスと少年を後に走り出した。
ポールは、オレを乗せたままガレージまでバイクを滑り込ませると、駐輪スペースにバイクを丁寧にしまった。
「じゃ、行くか」
カイさんの相談をしに、ジョンソン先生のオフィスに一緒に顔を出す。
ドロマエオ・コンビのシュンさんの手腕のおかげで、先生は仕事がはかどっている様子だった。
二人でお茶を飲みながら、くつろいだ様子で予算の切り回しを話し合っていた。
オレは、カイさんの懸念点と、シマちゃんと和尚さんに真実を話すかどうか、相談を持ち掛けた。
「ミスター・カイの診察が先決だろうな。だがな、ジョージ(レナード大尉)から聞いたが、いつ"殲滅派"に転向するか、分からんのだよな?
その、なんだ…」先生は言葉を濁した。
シュンさんを見ると、前肢で×(バッテン)を出してきた。
「いつバクリとやられるか分からない相手に、問診する踏ん切りがつかないそうなんだ。
トウヤさん、一緒に付いていてもらえないかな?」
「じゃあ、オミヤゲもあることだし、オレたちが先に行って様子を見ていますよ。
少し経ってから来て下さいな」
「それでジョンソン。マナミと和尚さんのことだが、どうする?
後々のこともあるので、先に話しておいた方がいいと、オレは判断している」今のポールは、少佐モードになっているらしい。
「後のケアは私とジョージとで受け持とう。
トウヤ、伝えられる自信はあるか?」
「正直、微妙です。
十中八九、落ち込ませちゃうでしょうね」
「だが、適任はお前しかいない。
人間の口から真実を伝えるより、真相を全て知っていて、その上で"調査派"という中道勢力の竜から教えた方が、誠意が伝わると思うのだ」
「がんばってみます。
所で、ジョージはドコですか?」
「ああ、彼なら、ミスター・カイに付き添っておるよ。マナミたちと一緒にハンガーにいるそうだ」
ですよね。
「じゃあ、10分くらいしたら、いらして下さい」
「分かった、巧くやってくれ。少佐、引き続き頼む」
「あ、そうだ先生。いらっしゃる時、済みませんがお茶をお持ちいただけますか。シュンさんも一緒に。みんなの分もありますから、これ、食べましょう」
「シナモンロールか、久しぶりだな。分かった」
ハンガーに行ってみると、カイさんは、ジョージとトシさんと一緒にM2重機関銃(ブローニングM2。.50重機関銃。弾幕斉射から狙撃までこなす、頼れる相棒。)を魔改造して遊んでいるところだった。
「おお、トウヤ、帰ったか。見ろ、ジョージがM2をくれたぞ」カイさんは、エアソフトガンかスリングショットでももらった、悪ガキのような喜びようだった。
「マジか…(×2)」
なんだかスンゴイ脱力感に見舞われる。
ポールも絶句している様子だ。
確かに。首元から提げられた.50Calのヘヴィ・マシンガンは、ガングリップやらスリングやらがきれいにまとめられ、ケラトサウルスの体格にピッタリだった。
「ふたりであれこれ話し込んでいる内に盛り上がってね」ジョージはカイさんの首をポンポン叩きながらご満悦だった。
たしかに恐竜型機動メカみたいでカッコいいけど、アンタそれでも聖職者か?
「まったく。心配していたオレらがバカじゃないか。しかし、巧くまとめたものだな」ポールは苦笑いしながらも、早速カイさんの得物に目が向いたようだった。
「そうだよ、も~」
「ふふふ。ジョージからオマエのプランを聞かせてもらった。地球を破壊しようとする人間を狩るとはな。それも人間たちと共同とは、奇抜だが相変わらずいいアイデアを出す」
「…あの、プランって」
オレは、和尚さんとシマちゃんの様子をチラ見する。
「何かよく分かんないけど、私、大丈夫ですから。恐竜だし、雨降って地下鉄、って言いますし」
「"雨降って地固まる"だ。諸行無常と言うべきか、私も色々分かり掛けてきましたよ」
大型台風直撃級の集中豪雨が降ったようだ。
ふたりとも、風呂に入れられた後のネコのように、呆然としていた。
「ミスター・カイが、先にふたりに話してしまったんだ」ジョージは肩をすくめる。
「いきなりだったとは思うが、こういうことは、さっさと済ませるに限る」カイさんは、厳粛な顔つきだったが、ふたりに向ける目は温かかった。
「カイさん。どこまで思い出しましたか?」
「全て、だ」カイさんは、満ち足りた穏やかな微笑みを浮かべる。
「面白いものだな。
ようやく、自分の足でこちらの世界に立てた感じだ。
君のタイムマシンは、成功とは言いがたいが、上々の成果を上げた。
ちょうどいい時代に到着して、人間の悪い所も好い所も、全て見てこられた。
恐竜時代のパワフルな体験と人間時代の知性溢れる体験の、両方の記憶がある。
今だからこそ、分かることもある。
今の私は、恐竜でも人間でもない、両方のしがらみから解放された存在だ。
ただ、あるがままの存在で、地球の上で生きていきたいだけ。
そのために、私は地球を荒らす者を、狩る。
人間にとって、善でも悪でも中立でもない存在としてな」
「素晴らしい!」
声に振り返るとジョンソン先生だった。
ターク隊長他、残りのメンバーも一緒だった。
「トウヤもそうだが、あなたも精神活動がきれいにまとまっている。
奇跡としか言い様がない」
-お前たちのためじゃない。私のためだ。私のナワバリの獲物が減るのはイヤだ。
カイさんは、自我なしだった時も、自分が生きて行く縄張りを守ると言っていた。
そのあまりのブレのなさに、笑いが漏れる。
「では、ハラは決まったのですね?」
「君と、海兵隊に協力しよう。
ジョージは、前受けにとM2(コイツ)をくれた。
和尚さんとマナミも支援を申し出てくれたよ」
「パートタイムですけれどね。戦闘にも加わりませんが。
しかし、"一部の人間"が問題を起こすというのは人の世の常。
少なくとも、私たちの身体能力と人間の技術力が組めば、可能性は極端に広がります。
この世界を立て直すために協力させていただきましょう」
「私、ゴタク並べられるほどアタマよくないですけど、地球がバラバラになる可能性があるなら、それを止めないといけないと思ってます。
それに、このチームなら、何でも出来る気がします」
「役所の所長と不動産の社長に通訳。それに戦闘のプロと医師に獣医師にメカのプロ、タイムマシンこしらえる突き抜けたエンジニアまでいるんだ。
出来ないことはない」
カイさんはにんまり笑う。
白亜紀でもよく見た。プロモーターとして、仕掛ける時の顔だ。
「では、お茶にしよう。持って来たぞ。通達事項もあるのでついでにミーティングだ」先生はホッとした様子だった。
ミハルとジェシーとマリさんが、お茶をみんなに配り、オレはポールとシナモンロールを出して配る。
「記憶が戻ってからこの方、いらん心配ばかりだ。も~」
「明日一日ゆっくり休め。来週から忙しくなるぞ」オレがボヤくと、先生が合いの手を入れてくれた。
「ムカリを探しに行くんですか?」
「そうとも。他にも、やることが多いぞ。恐竜どころかネコの手も借りなくてはならないかも知れん」
「じゃあ、明日、家までバイク取りに行っていいですか?ポールも付いてきてくれるそうです」
「分かった。危険だからなるべく高速から降りるな。しかし、ヘルメットやグローブはどうするんだ?」
「あるよ」ドロマエオのトシさんだった。
「…え?」
「オレたちドロマエオサウルスとデイノニクス用にLWH(Light Weight Helmet。今は対弾性能が向上したECHが配備され始めているので旧型。)のフィッティングをしてある。後は実際にかぶってもらって微調整が終われば渡せるよ」
「一体どうやったの!?」
「ハードウレタンとライナー多くもらって、ボンドで重ねたんだ。ハンモック式のM1より手直しがラクだったな。これはドロマエオウルス用だけど、ホラ」
渡されたのは、どうやら色々手直しされたらしい、XSサイズのヘルメットだった。
嬉しいことに、ドロマエオサウルス科の後頭部からうなじへの逃げ用に、後頭部を大胆にカットしてあり、中々具合が良さそうだ。
「二人とも後でオレの部屋に来て。最終調整するから」
「ひょっとして、カイさんのM2手直ししたのもトシさん?」
「そうだよ。横田基地は色々とすぐ手に入るんでラクだった。
そうそう。ミハルのライフル用にマガジンウェルグリップを仕入れといた。来る時一緒にM4持って来て」
「いいじゃないかミハル。トシは腕のいいガンスミスだぞ。オレの89式も凄く使いやすい」
オレたちが話し込んでいる間に、ミハルたちがお茶の支度を調えた。
先生を始め海兵隊員の面々は、強力な用心棒が増えてニンマリ。
カイさんはこれから始める企みにニンマリ。
シマちゃんはシナモンロールの甘い匂いにニンマリ。
和尚さんは、おまけでもらったマイクロサイズのシナモンロールにニンマリ。
オレは久しぶりに愛馬にまたがれることに頭がいっぱい。
「みんな楽にしろ。これよりミーティング兼懇談ティーパーティーを始める。
まず通達事項だが…」
おのおのニマニマしながらのくだけた雰囲気の中で、アフター5ティーパーティーが始まった。
マナミ :シナモンロールおいし~♪おみやげアリガトウございます!
ミハル :激甘だけど冷茶に合うわね。オイシ♪。
ジェシー:あ~もう、また勝手に食べて。おいしいから仕方ないけどさ。モグモグ。
マリ :これ何kカロリーありますの?
和尚 :私にも食べやすいサイズがあってよかった。中々イケるな。
カイ :私には一滴だが、ナカナカいける。
トウヤ :ふむふむ。味覚はみなさんほぼ一緒、と。オレはシナモンが気に入ったな。
ポール :日本のメシに慣れると、確かに突き抜ける甘さだよな。




