076:恐竜は寝ている
草食系がおとなしいとか、誰が言い出したんでしょうね。
今回は白亜紀のDQNにポールがやられ、狩猟竜四重奏チームがキレます。
076:恐竜は寝ている
ヨンテツ(4日間連続の徹夜)での畑の見張り番に、精根使い果たしたテリジノサウルスの石崎 由高-ユタカ君は、巨体を納屋に収めると眠りに付いた。
泥まみれのまま疲れ切って寝ているユタカ君は、白亜紀の記憶を取り戻しているものの、恐竜としての自分と人間として生きて来た自分との立場に思い悩んでいるようだった。
モンゴル出身のテリジノサウルスは、オレが住んでいた北アメリカにはいなかったので知らない一門だったが、人間殲滅派だということが判った。
だが、彼もまた人間を滅ぼすことに躊躇があるようだ。
ジョージ(レナード大尉)たち人間を前に、怒り心頭で襲うそぶりを見せたにもかかわらず、前肢の巨大な鎌爪を振り上げることはなかった。
オレが納屋から出てくると、ユタカ君のご両親は、軽トラに収穫用のカマと折りたたみのコンテナボックスを積んでいる所だった。
「あの、息子の様子は…」奥さんが近付いて来てユタカ君のことを訊いてくる。
「ええ、さすがに4日間も寝ずに畑を守っていたのです。
疲れ切っているので、そっとしておいてあげて下さい。
彼は今、人間の言葉を話すことが出来なくなっています。
私たちは会話能力回復プログラムを構築中ですので、確かなことは言えませんが、会話能力に限っては回復可能です。
息子さんが目を覚まされましたらご連絡下さい」
「息子は、元に戻れるのでしょうか?」
それは逆に、恐竜を人間に変身させるってことだ。それが原理的に可能なのは分かっていても、再現させる手段は発見されていない。まして、変身させたとしても正気を保っていられる保証はないんだ。
それに、肉体的に貧相な種になりたがる恐竜がいるとも思えない。白亜紀では、哺乳類なんてエサに過ぎない生き物だったんだから。
「…それにつきましては、目下調査中とのことです」
奥さんは力なくうなだれた。
-身勝手な人間。
ムカついたんで、もう一言言い添えてやる。
「私も、同僚の恐竜も協力しております」積み込みを手伝っているミハルたちを指差す。
この場にいる竜は、オレとユタカ君以外は、全員白亜紀の記憶を持たない。
心理的には人間なんだ。
ミハルもシマちゃんも親に殺され掛けた。
和尚さんは家族を失ったにもかかわらず、恐竜と人間の別なく、命を落とした者たちに供養を続けている。
カイさんは人間の記憶も恐竜としての記憶もほとんどを失っている。
それでも人間らしく生きる道を探している。
ここが第四紀でよかったな。
オレに人間として生きた記憶があってラッキーだったぞ。
オマエ。
そうでなければ、食い殺している所だ。
とまあ、狩猟竜の本性剥き出しにするのはここまでにしておこう。
奥さんもイッパイイッパイなんだろうしな。
「私も作業に戻ります。では」
オレは奥さんを残して、積み込みの手伝いに入った。
軽トラの方は積み込みが終わり、MTVRへの積み込みが始まっていた。
滞っていた収穫を取り戻すため、オレたちも手伝うことになったんだな。
オレも折り畳みコンテナを両前肢で抱えMTVRへと運ぶ。
「どうしたんですか、石崎さんの奥さんガックリさせた後、凄く怒っていたみたいでしたけど」コンテナを取りに来たミハルが近寄ってくる、
「訊かれたんだよ。ユタカ君が人間に戻れるか、だとさ」オレはコンテナを取り、両前肢に抱える。
「何て答えたんですか?」ミハルもコンテナを取り一緒に運ぶ。
「調査中だと答えたよ。大したタマだ。オレたち竜の身にもなってみろ」
「ははぁ~」
「何だよ」
「気にしない気にしない。警察官やってれば、その程度しょっちゅうですよ」
「そりゃ、お前さんは耐性あるからいいだろうけどさ」
「…白亜紀だって、同じだったじゃないですか。そうでしょう、おじさま?」
「おじさま、って。…お前、記憶が戻ったのか?」
ミハルは首を横に振る。
「なんとなく。
ぼんやりなんですよね。大昔に観た映画みたいに。
今の、人間としての自分の記憶の方が強くて、実感湧かないんですよ。
ターボ君と一緒に狩りに行ったこととか。
エビちゃん(エイリアン)との戦いで死んだ竜のご家族とか。
時空転移システムの建造現場に妨害に押しかけてきた竜たちとか。
余裕がない時は、誰だってエゴ丸向きになりますよ。キバ剥いたり踏み潰してこないだけ、人間なんてまだかわいいものじゃないですか。
まあ、私は人間の方の親に包丁持ってこられましたけど」
「それもそうか。奥さんに意地悪だったかな?」
「いいんじゃないんですか?代わりに、次話す時はソフトにしてあげれば」
「そうだな。うん、ありがとうな」
気分がいい時には面白いことを始めるに限る。
畑に向け出発したMTVRの荷台で、ちょっと社にデンワする。
ここしばらく報告書しか送っていないけど、社長やミヤ姉のことも心配だしな。
が、やはり留守番電話だった。
しょうがない。
社長の直電の方に掛ける。
「お久しぶりです。山本です」
「ああ、山本さん」横囲社長は張りのない声だった。
「…元気ないですね」
「ええ、今、避難所にいます」
「ご家族はご無事ですか?」
「…家内が重体です」
うっ!
「そうですか…、お見舞い申し上げます。
娘さんたちはご無事ですか?」
「ええ。今、避難所も自衛隊がライフル持って護ってますよ。たまに銃撃戦があるようです」
「こんな時にナンですけど、シゴトの話があるんです。どうします、今回は見送りますか?」
「仕事?」
「新案件のネタです。このご時世ですし、売り上げ維持に以前話したことのあるプラン、試しにやってみませんか?」
「…ああ、何年か前に話していた…。詳しい内容は覚えていないし、資料は社の方にあるので」
「今は、ハナシ聞く気があるかどうかだけでいいです。今日金曜日ですし、急ぐ話でもないんで、来週でも大丈夫ですよ」
「分かりました。少し考えさせて下さい」
「ええ、よろしくお願いします。
あ、そうだ。入場時の契約条件、お骨折りありがとうございました。チームとも馴染んでがんばってますよ」
「それはよかったです。
ヒコーキ乗りましたか?」
「ええ、オスプレイに」
「ふふ。楽しそうですね。近い内にお会いしたいですね。じゃあ、後ほど」
まさか、来たりしないよな。あの人カーキチ(昭和でのカーマニアのスラング)だけど。
畑に着くと、はしの方にある林の影からティラノ姉さんのユカリちゃんが身を起こし、ノシノシと近付いてくる。
「異常はないよ。イノシシなら来たけど」
「え?どうした?」
「ウマかったけど?」さいですか。そう言えば、ユタカ君が仕留めたヤツも喰われちゃったのか、いつの間にかなくなっている。基地に持って帰ってローストにしてもらおうと思ってたのに。
「オレにも残しといてよ」
「マメツブだけど、コレやる」ティラノ姉さんは前肢でつまんでいた毛玉をよこす。
「…タヌキ?」あんぐり口を開けて、どっからどー見てもくたばっているように見える。
「なんか間の悪いヤツだな。ま、いいや。サンキュ」
石崎さんご夫婦は、キャベツを次々と刈り取ってはコンテナに放り込んでいく。
ドロマエオのトシさんはダンナさんに。ファシャグナトゥスの和尚さんは奥さんの方に。それぞれ付き添いながらアオムシの摘み取り。
オレとミハルは空いてるコンテナを運び、ケラトサウルスのカイさんとハドロサウルスのシマちゃんは、人間勢と一緒にキャベツ満載のコンテナをMTVRまで運んでいる。
そして1時間も経たずに2台のMTVRは満載になった。
「じゃ、後はよろしく。近い内にまた来ると思う」オレはティラノ姉さんに別れを告げ、MTVRに乗り込む。
「ああ、またね。途中でウチ寄って伝言頼むよ」
「明日か明後日くらいまで泊まりだろ?」
「分かってんじゃん。頼むよ」
オレたちもそうだけど、ティラノは寝ながら狩りの見張りが出来る。寝ていても、近付いてくる獲物の匂いや声とか、地表を伝わる足音とかで、勝手に目が覚めるようになっている。
狩りの巧い狩猟竜ってのは、釣りバカと同じで、体が勝手に反応するように出来ているもんなんだ。
ティラノ姉さんは、オヤツにイノシシをつまみながら、それこそ10日くらいは身動き一つせずに待ち伏せ(アンブッシュ)を続けられる。
オレらデイノニクスだと5日くらい。
喉が渇いたり、トイレがガマンできなくなるか、単にアキるのがそれくらいなんだ。
第四紀だとイロイロあるんで、携帯トイレとミネラルウォーターとパソコンか携帯ゲーム持参なら、それこそいつまでも待てるんじゃないかな?
直帰かと思ったら、一度石崎さん宅に戻るそうだ。
石崎のダンナさんは、中庭にMTVRを入れると、腰掛けを持って来て横に陣取り、キャベツの選別を始めた。
オブザーバーなのか、ケント・タカシマ中尉と和尚さんが、そばで見守っている。
興味が湧いたので、オレも混ざる。
「あの、教えてもらえますか。獲れたてなのに選別するのってどうしてなんですか?」
「それがシロートさんの悪いトコだ」石崎のダンナさんは日焼けした顔をほころばせる。
「持って帰ってすぐ喰うなら、まあ、大体大丈夫なんだが、1週間くらい仕舞っとくんだろ?
すぐには分からない病気や虫があるんだよ」
タカシマ中尉もうなずいている。
「中が痛んでいたりとか?」
「それもある。あ~、コレ終わったら説明するから、スマンが今は集中させてくれ」ダンナさんはそう言うと作業に戻った。
「手空きなら、収穫物を運んできてくれ。流れ作業だから、モノがスムーズに流れてくれれば、その分早く作業が終わる」タカシマ中尉は、ボーイをやっている時のにこやかな雰囲気とは違い、獲物を探している時の狩猟竜のように張り詰めた様子だった。
とりあえず、モノを回してくのね。
カイさんシマちゃん力持ち恐竜さんにも手伝ってもらい、コンテナを降ろしてダンナさんの脇に置いて行く。
奥さんはダンナさんの脇に検品するキャベツを並べ、ダンナさんはキャベツを一瞬だけ手に取ると、すぐにタカシマ中尉に渡す。
タカシマ中尉はダンボール箱に検品の済んだキャベツを詰め、その脇ではジョージがダンボールを次々展開してゆく。
オレとミハルとトシさんは、詰め終わったダンボールを台車に積んで、積み込み作業をしている方へと運ぶ。
8tトラック2台一杯に積まれていたキャベツは、ものの1時間程度で検品が終わってしまった。
「さて、だ」ダンナさんはオレを呼び寄せると、菜切り包丁を出し、無造作にハネたキャベツを割り、中を見せる。
そのキャベツは、玉の中の方にウジャウジャと…。
「な?」ダンナさんはドヤ顔で微笑む。
一緒にいたタカシマ中尉が興味深そうに覗き込んでくる。
「モンシロチョウの幼生のコロニーですか。これで何日目くらいですか?」
「チビ共の大きさからすると多分2~3日モノってトコだろうな。1週間もしないうちに回りを食い荒らしに広がる。
喰われた所から病気が広がり、まあ、ショウジョウバエやミバエがいれば2週間もあればドロドロに腐る。後は倉庫の中があっという間にパーだ」
オバちゃんやTVなんかが"小バエ"とか呼んでるのは大抵ショウジョウバエ。ミバエは果物や野菜にたかる1cm位の小さめのハエ。コイツらのご先祖は白亜紀でもワンワンいたな。
「なるほど。ありがとうございます。
タカシマ中尉も生物専攻ですか?」
中尉は普段の穏やかさんに戻っている。
「私は検疫官なんだ。普段は基地に届いた肉とフルーツ専門でね。しかし、こういう生のサンプルは見ておきたい。草食竜や君たち肉食竜に出す食事の品質管理は、今後重要課題になる」
「じゃあ、いつもシマちゃんやカイさんに出している食事は、中尉殿が下調べされているのですか?」
「当然だ。基地で赤痢やコレラが出たらどうする?
それに、君たち恐竜の病疫学は未知の領域なんだ。
少なくとも、今は疫病に対処していられる余裕が全くない。
私が目を光らせている必要がある。
さっき見ていたが、和尚さんのように、小型で目のいいアシスタントがいてくれると助かるんだがな」
「どんなサポートが必要なのですか?」
「ダンボール箱のオレンジに産み付けられたハエのタマゴや、肉に着いている寄生虫を見付けて、取り除く。コンプソグナサス(コンプソネーサスの英語読み)だったか?小型で目が良さそうな恐竜は。目は多ければ多いほど助かる」
なんと。意外な需要だな。
「和尚さんに訊いてみますよ」
作業が終わると、奥さんが大量の釜揚げウドンを用意してくれた。
オレたちがウドンをいただいている間、シマちゃんは奥さんにハネ物(商品として出荷できない半端物)を喜んでもらっていた。
「ニンジン!甘くておいしい!!」シマちゃんがまたフィーバーし出す。
微笑ましいね。
まあ、分かるけどさ。
実際、第四紀は人間が改良を重ねたおかげで、野菜も肉も、ありとあらゆる食い物が白亜紀よりはるかにウマいもんな。
人間てのはスゴいもんだ。
奥さんがワル乗りして、ハネ物のニンジンをタワシでガシガシ洗ってはシマちゃんに与えるものだから、この娘もモリモリ食べる。
しかし、奥さんに気に入られたおかげで半端物のニンジンや去年採れた残り物のジャガイモをタダで大量にもらえた。
シマちゃんはホクホク顔だ。
「あなた女の子?歳はいくつなの」
「ええ。16歳、高校生なんです」
「アメリカさん手伝ってるの?」
「はい。通訳なんです。言葉を話せなくなっている方が多くいるので、その方たちの声を訳しています。私は草食担当で、肉食担当はあちらのトウヤさん…山本少尉なんです」
「そう…」奥さんは、JKハドロサウルスの顔を撫でながら、オレに会釈してくる。
オレも蕎麦猪口を掲げ、会釈を返す。
「ウチの息子とは話した?」
「ええ。ん~、いろいろありましたけど、普通でした。
大型の草食恐竜が畑を荒らしに来て困る、ってピリピリしていましたヨ。
さすがに私もニラまれちゃいました」
「まあ、それは悪かったわね。遠くから買いに来てくれたのに」
「来た甲斐がありましたよ。やっぱり獲れたてはおいしいですね」
「息子は話せるようになると思う?」
「ユカリさんも、さっき話せるようになりましたし。大丈夫ですよ」
「そう…」
奥さんは寂しげにつぶやいていた。
野菜満載のMTVRに乗り、オレたちは農家さんを出発する。
大量にオマケをもらったので荷台が狭くなってしまったため、オレと和尚さんはコックピットのルーフに乗る。1号車のミハルとトシさんも、同じようにルーフに乗っている。
5月の昼下がりの風は気持ちいい。
途中、ユカリちゃんの実家、往路で小休止を取ったコンビニに入り、ご両親に伝言を伝える。
後は基地まで何事もなければいいんだケド、とか思ってたら来ちゃったよ。
背中に細かいトゲトゲが並ぶ、20m級の竜脚類。3頭もだ。
シッポをムチのようにビュンビュン振り、道を塞いで威嚇してくる。
「シマちゃん、頼むよ」荷台の窓を開けて、コックピットからジョージが依頼する。
シマちゃんもルーフに身を乗り出して、相手の様子を窺う。カイさんも様子見に乗り出してくる。
「ヴォゥゥゥゥ」
「ん~。"そのうまそうな食い物をよこせ"。だって」
あー、賊か。さすがにバトルロイヤルを生き残った猛者は出会い頭から言うことが違うね。
「止めるように交渉でき…」ジョージがシマちゃんと作戦の打ち合わせをしようとした時、先頭のヤツが近寄ってくると、身を翻し、1号車にシッポを振りかぶる。
1号車はコックピットがなぎ払われ…。
ルーフに乗っていたミハルとトシさんは、寸手の所で弾き飛ばされるように跳んだ。
「…副長。ちょっと遅めのランチ出てきますわ」オレはルーフから飛び降りる。
「私も、ご相伴しよう」
カイさんも荷台から降りてくる。そして、ズタズタになった1号車のルーフからM2を引きちぎると、ボルトを引いた。
ミハルもライフルのボルトを引きながら出てきた。
トシさんもMP5KPDWのストックを起こしながら出てくる。
白亜紀では、カイさんと狩りをする時は、オレとミハルが獲物の気を引き、カイさんにクリティカル・ヒットを手数撃ちしてもらうのが常套手段だった。
チト数が多いが、相手は賊だ。
手加減する必要はない。
ウェイト差だけでも10倍以上差があるんだ。
『カイ、オレたちがヤツの気を引く。後ろ足を狙ってくれ』
『よかろう。タイミングは私が見る。好きにやってくれ』
『トシ、ステルスで攪乱。カイに後脚を晒させろ。出来そうか?』
『オウ、任せとけ』
『行くぞ、ミハル』
『ええ』
「トウヤ、持ってけ!」タカシマ中尉が、何か棒状の物を投げてよこした。
飛んできたのは、木製のシースに収められた、大型の大鉈だった。
全長40インチはある。
シースから引き抜いた得物は、黒焼きされたブレードだけで30インチ近い。
コイツはおあつらえ向きだ。
マチェットってのは、俗にブッシュナイフとも呼ばれる巨大なナタで、アウトドアで藪漕ぎに使う道具なんだ。
ヤブをバサバサと薙ぎ払うのに使うんで、細い灌木くらいなら両断できる。
藪漕ぎってのは、ハマると半日は出てこれなくなることも少なくない。安物やナマクラはすぐに使い物にならなくなる。
オレはまだ本物を使ったことがないんだが、さて、コイツはどうだろうね?
オレが得物の具合を見ていると、1号をズタボロにしてくれたヤツが、性懲りもなくシッポをスイングしてくる。
早速、切れ味を試せるな。
加速モード。
オレは前に出ると、近付いてくるシッポに、間接部を狙ってマチェットを一閃して跳ぶ。
ブレードは結構使い込んだ感じだったが切れ味はよく、ブヅヅん、と、いい感触とともにシッポを両断した。
クビナガ共のシッポってのは、ムチの攻撃部位はほとんどが腱ばかりで筋肉が付いていない。
ムチがヒットする瞬間は、遠心力のせいで間接部もユルユルで、腱も最高度に張り詰めている。間接部にちょっと切り目を入れるだけで、自重で簡単にプッツリ切れてしまうんだ。
白亜紀じゃオレとミハルで、苦労しながらシッポを落としていたモンだ。
今で言う長縄跳びの要領で、超音速で飛んでくる長縄を後ろ跳びでやり過ごす際に、脚の鎌爪とタイミング勝負だけで。
場合によってはマルチ・ダッチ(複数の縄で行う長縄跳び)になるんで、こうなると、もう跳ぶとか避けるとかのレベルじゃなく、生きて帰ってくるだけで精一杯だった。
それが今じゃ、加速モードの恩恵があるので、タイミングも攻撃箇所も最適なポイントを狙えるし、タカシマ中尉が貸してくれたマチェットまであるので一撃で済んじまった。
すんげぇラク!!
オフェンス恐竜勢は、転がってくるシッポを一斉に跳び越え、それを合図に、オレたちは散開した。
ヤツは何が起きたのか分かっていないようだった。急に軽くなったシッポに、前につんのめりながらよろける。
オレはミハルとヤツの死角になる腹の下に入り、ヤツが振り返るであろう方向と逆の方に出る。
ミハルはここで取り巻きたちの後ろ足の膝に向けてそれぞれ1マグずつ.223レミントンを叩き込む。
ミハルもなんだかんだ言って覚えているようだな。
長いシッポをムチ代わりに使うクビナガは、後脚を先に潰すと、すぐに自慢の武器が使えなくなる。
大質量のシッポを支える土台がガタガタになり、踏ん張れなくなるからだ。
白亜紀で問題だったのは、相手のシッポが使えなくなるまで後脚にダメージを与え続けるのが結構大変だったことだ。
相手がシッポを使えるウチは、同時にコッチもいつどこから飛んでくるか分からない攻撃に注意しながら、攻撃を続けることになるからだ。
ここでポイントになるのは、フットワークのある竜にダメージを喰らわせないよう獲物を攪乱し続け、ヒット・アンド・ウェイの手数押しで攻めるか、パワーと装甲の厚い竜に大ダメージを入れてもらうかのどちらかだ。
これはケラトサウルスのカイさんか、トルヴォサウルスのターボ君がそれぞれ役割を受け持ってくれていた。
このキバとツメの四重奏は、白亜紀で食いっぱぐれることはなく、狙った獲物を確実に仕留めた。
今風に言えば、オレとミハルはバイオリンのパート。カイさんはチェロ。ターボ君はコントラバスを受け持っていた。
今回はターボ君はいないものの、技巧派のゲストでドロマエオサウルスのトシさんが加わっている。
トシさんはステルスを巧みに使い、四方八方からSMGの軽快な早弾きで聴衆の注意を自分に向けながら囲い込む。
オレとミハルは、二重奏で囲いの内側からメロディーラインを奏で、獲物を翻弄する。
捕捉できない敵の攻撃から逃げられず、脚元の死角からの攻撃にどんどんダメージが貯まって行く中、不意にカイさんの力強いベース(ブローニングM2。.50重機関銃。)が轟き、ダメージが貯まっている後ろ脚を打ち砕く。
3頭のクビナガは、程なく両方の後ろ脚が立たなくなり、前脚だけで体を引きずって逃げようとするが、匍匐前進しか出来ないサウロポーダが、セロポーダの機動力から逃げられるはずもない。
クビナガ共は程なく酸欠で動けなくなり、最後までそんなバカな、と言わんばかりだった。
オレたちは、荒い息をつきながら動けなくなっているクビナガ共から離れる。
この手の獲物は、死ぬ間際に断末魔の痙攣でバタバタ暴れて危険なんだ。
静かになった所に、カイさんのM2で.50Calを脳天に叩き込んでもらい、フォルテで綴じた。
狩りは、大成功を収めた。
オレたちは倒した得物を前に、感動に身を打ち振るわせる。
ガラン…。
不吉な音に振り返ると、カイさんがM2を取り落とし、呆然と佇んでいた。
「私…、私は…、人間?恐竜?恐竜のはずだ。人間で恐竜に…、ここはどこなんだ!?」
ケラトサウルスは目を見開き、錯乱状態に陥りかかっていた。
マナミ :ちょ、カイさん大丈夫?
トウヤ :ウドン食ったせいかな?
ミハル :何のんきなこと言ってんですか!それにポールさんたちが大変なんですよ!
ジョージ:そうだよ!メディ~~~~ック!!




