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恐竜日和 ウォーク・アバウト  作者: ニジヘビ
ベース・セッション編
74/138

074:ある晴れた朝を恐竜たちと一緒に

今回はトウヤがキャベツを買いに行く話。

シマちゃんも一緒に付いて行くそうです。

やれやれ。



 074:ある晴れた朝を恐竜たちと一緒に



 ターク隊長(カニンガム大尉)との朝のマラソンを終え、寝泊まりしている収容施設へと戻る。


 人間にとってはそれなりの運動量にはなるのだろうけど、デイノニクスのオレとトロオドンのマリさんにとっては散歩にもならない。


「トウヤさんはスポーツはされないのですか?」

 同行しているトロオドンのマリさんも走り足りないのか、道々スポーツネタが話題になる。

「能動的にはやりませんね。外出歩くのも体動かすのも好きですけど。こういうトコでやるのはラジオ体操くらいかな?」

「そう言えば、江戸川の避難所でやっておいででしたわね」

「ええ、ツーリングとかレクリエーションの方が好きなんですよ。

 しかし、何でまた?

 レースサポーターでも探してるのですか?

 自転車バイクのメンテなら得意ですよ」

「私、今週一杯はこちら(横田基地)におりますから、一緒に朝のマラソンはいかがでしょうか、と思いまして」

「今日みたいに出動がない日なら付き合いますよ。

 江戸川に戻られるのですか?」

「はい、そのつもりです。

 バイクもそうですけど、家に荷物を取りに戻らなくてはなりませんので」

「大変ですね。引っ越し手伝いますよ。

 あ、もちろん作戦がない時ですけど」

 隊長の手前、一応、な。

「ミズ・マリは引っ越し先は決まっているのか?」隊長は心配そうにマリさんを見下ろす。トロオドンのマリさんも、もたげる頭が隊長の腰の辺りにくるので、やはり見下ろされる形になる。

「ジョンソン少佐と今後の方針が固まりましたら、戻ってしばらく事務所に寝泊まりしようかと思います。あちらの方が仕事にも都合がいいですし」

「人間たちとの間に軋轢が生まれなければいいが」隊長がマリさんに心配そうに目を向ける。

「仕方のないことですが、必然的にそうなるでしょうね。恐竜、いえ、恐竜化症発症者の法的な権利回復と保護を訴えて行くのですから。

 それにアメリカ軍の保護下での活動は問題になりますので」

「そうか。危険が迫って来た時は早めに連絡をくれ。すぐに駆けつける」

「ありがとうございます。

 うまく立ち回るつもりではいますが、何分このご時世。焼き討ちの心配もありますので、その時はお願いします。

 案件のこともそうですが、本音を言えば、住み慣れた街に戻りたいのですよ。

 ああ、また江戸川の河原を走りたい。

 所でトウヤさん。バイクですけど、私が乗れるように手直しは出来ますか?」

「手直しも出来ますし、鋼材と機材があればマシン・ビルドも出来ますよ。

 どちらにします?」

「君たちが自転車に乗ったらとんでもないスピードが出そうだな」

 オレはちょっとマリさんの歩幅とトロオドンの速力から、自転車に乗った際のスピードをシミュレートしてみた。

 トロオドンは、歩幅は人間とそれほど変わらないものの、素で50km/h以上で走れる。だから…、分速で800mほど。回転数ケイデンスで900rpmほどか。ロードレーサーだと、チューブラーになるからタイヤ周長が確か2100mmくらい?

「トライアスロン用で女性用のマシンならトップギヤ比が1:0.8くらい。え~と…大体95km/hくらいかな?

 タイ(幅)を広げるか、特注しないとタイヤが持ちそうにないですね」

「そのまま高速道路を走れるな。それがトップスピードになるのか?」

「トロオドンが50キロで走った時の概算です。走っている時の歩幅が分からないので、実際には違うかも。

 トップスピードだともっと出るでしょうね」

「ほら。やっぱり体力テストは必要ですよ」マリさんはしたり顔だ。

「う、自分のエンジニアカタギに負けた…。

 分かりました。やりましょう。

 オレも、第四紀での自分の運動力を知っておく必要がありそうだし」

「次の土曜日か日曜日ではどうだ?」

「いいですわ」

「じゃ隊長、いいプロモーター知ってるんで、後で紹介しますよ」


 基地に帰ってくると、オレは隊長に頼んでシャワーを浴びさせてもらう。

 マリさんは当然と言えば当然だが、シャルビノ少尉にお願いしますわ、と彼女の収容棟へと去って行った。


「隊長」オレはシャワー後の羽繕いをしながら、手持ち無沙汰にしている隊長に話し掛ける。

「何だ?」

「マリさんとかなり打ち解けられたのですね」

「さてな…。似た者同士ということで話を聴いただけだ」

「似た者同士、ですか?」

「あまり話題にしたくはないが、ミズ・マリは離婚するそうだ」

 マリさんの年齢だと、結婚していておかしくはないものな。

 恐竜に戻った者たちが避けては通れない道。オレは一人暮しだから気が楽だけれど、大多数の恐竜はそうはいかない。

「やはり、恐竜になった彼女へのご主人の仕打ちは、重荷になっているようだな。

 聞いているだろうが、私も離婚してそれほど経っていないからな。話を聴いてやり、1つ2つアドバイスを出しただけだ」隊長もプライベートは色々複雑なんだよな。

「マリさんの性格だと、ひとりで悩みをため込みやすいでしょうね。

 隊長のように懐の深い方なら、好い相談相手になります。

 惚れた腫れたは恐竜も人間と変わりませんから」

「まあ、日本女性らしい所は気に入っているがな」


 そこへジョージ(レナード大尉)とポール(エストラーダ中尉)がやって来た。


「ターク、探していたんですよ」

「どうした?」

「緊急事態です。草食恐竜たちの食料が底を付きました」

「…それは、大事だな」オレもそうだが、ターク隊長も"だからどうした?"という様子だった。

「街があの有様の上、ここは空軍基地ですから陸路での補給部隊が弱いため、調達に出かけるのが困難です。

 そこで、私たちに護衛エスコート任務の指令が下りました」なるほど。それなら海兵隊の出番だな。

「う~む。ホワイトハウスに提出する作戦方針草案を早くまとめたいのだがな」

「はい。その件につきましては、ジョンソン少佐殿も承知されておいでです。

 それにジェシーも恐竜の治療法レクチャーのため、本日は外出が出来ません。

 人間は私とポール、恐竜はトウヤとミハルとトシで任務に当たります。

ブリーフィングは0800からルームDですが、同席されますか?」

「分った、出席だけしよう。

 ハンドラーはどうするんだ?」


 軍では、恐竜メンバーと人間とのインシデント対策に、ハンドラーとして人間が恐竜メンバーに遂行するよう指示が出ている。

 表向きには、急に自我を失って凶暴化した場合や、実情を知らない人間に攻撃された時の火消し役としての立ち位置になる。

 実際には、白亜紀の記憶を失い、人間としての記憶しかない恐竜は、問題を起こすことはほぼない。


「トシにはローイン大尉に臨時で着いてもらいます。

 シュンはジョンソン少佐が事務サポートに欲しがりまして。

 ミハルは私かポールが着きます」

「不安だ…」

「ダン中尉はどうされました?」ダン中尉はミハルのセカンド・ハンドラーのはずなんだけど?

「今日は補給のため、横須賀へ出張なんだ」

「トシさんは、訓練なしで実戦は大丈夫でしょうか?」ドロマエオ・コンビなら問題はないだろうけど、念のため。

「前には出さない。前回同様、偵察要員としてきてもらう」

「ハムヴィーで行くんですか?修理は済んでます?」

「そのハムヴィーの部品を取りに、ダン中尉が出かけるんだ。

 君のヘルサンダー・アタックで壊れたジェネレーター・ユニットをメーカーに送るのと、交換ユニットの引き取りだよ。

 有事下で部品が横須賀に来るなんて奇跡だ。

 代わりにMTVRが使える。青果市場には連絡してある。

 市場に行く。物資を受け取る。基地に帰ってくる。

 順調に行けば昼過ぎには帰ってこられる。

 …はずだよ」

 MTVR?

「う~ん。クルマ見てもいいですか?」


 朝飯前にジョージとポールと一緒に、今回のアシになるMTVR(Medium Tactical Vehicle Replacement:中型戦術車両後継型。6輪のAWDトラック。)を見に行く。

 8tクラスの軍用トラックらしい。

 座席さえなんとかなれば、オレでも運転できる。

 ハンガーに鎮座しているそいつは、キャブ・ルーフ(運転席の屋根)にCROWSⅡ(Common Remotely Operated Weapon Station Ⅱ:汎用遠隔制御銃塔。車載用のリモコン式銃塔。)に載せられたM2マシンガン(ブローニングM2。.50重機関銃。1933年から使われている息の長いマシンガン。弾幕斉射から狙撃までこなす、頼れる相棒。)が装備されていた。


 無骨な鉄のレシーバー・ボックスから突き出るブッといバレル。

 イイね。

 どっちかって言うと、ミニガン(M134。7.62mmガトリングガン。)よりコッチの方が白亜紀向きだ。


「デザインはミニガンより物々しいな」

「ああ。オレはM2の方が好きだ。ハムヴィーのミニガンはジョンソン少佐の趣味だ」ポールが応じる。なんだかんだ言ってコイツとはマシンや銃の趣味が合うんだよな。

「なあ、ポール」

「うん?」

「帰って来たら話がある。シナボンに連れて行ってくれないか?」

「ああ」ポールは少し寂しげだった。


 得物の見立ては済んだので、クルマ本体の方に取りかかる。

 ホイールや車軸アクスルはそれなりに使用感はあるものの、日本では地雷(本物の方ね)を踏む心配がないので十分だろう。

 エンジンは、日本でもユンボやブルで有名なCAT(米キャタピラー社)の12リッターディーゼル。エンジンが壊れる前にドライバーの方がネを上げてしまうほど頑丈なパワーユニット。

 ボディーはオフロード・トラックとしてデザインされているため、外版も民生より分厚く溶接も肉盛りがしっかりしている。ドアやカブキ(荷台の側板を差すスラング)も、たまに使う8tよりヒンジ(蝶番)が大型になっていた。日本のトラックは安いし作りはそれなりにいいけれど、欧米の方がボディが頑丈でイイ。

 その頑丈なアメリカ製でもティラノ(ティラノサウルス)やカルノ(カルノタウルス)にタックルの2発もカマされれば、スクラップになってしまうだろうが。


 まあ、キャベツ買いに行くだけだし、今回はコレで大丈夫か。


 ハムヴィーはアレはアレでイイけど、オレはこっちの方が気に入った。

 オレ、WRCのカミオン・クラス(オフロードトラック・クラス)好きなんだ。

 カマース(タタールスタン共和国の自動車メーカー)が、それ専用にスポーツ・トラックなんてシロモノを作ってて、ちょいマジに欲しいんだよな。


 さて。クルマの下見が終わったので、朝メシだ。


 ハンガーの脇は、昨日に引き続き、中型以上の恐竜化症発症者(以下、恐竜)たち用のテーブルが用意されていた。


 そこへハドロサウルスの三嶋みしま 真波まなみさんとファシャグナトゥスの原田はらだ 誠司せいじさん(通称、和尚さん)、そしてケラトサウルスのカイさんが、ハンガーの裏から出てきた。


 おや?


「やあ、おはようございます、三嶋さん。包帯、取れたんだね」挨拶がてらトリオに話し掛ける。ティラノにあれだけ深手を負わされていたのに、2日でもう包帯が取れるとは驚きだ。

「ええ」

「これから食事?」

 原田さんが持つトレーには、チキンソテーらしい皿が載っていた。

「ええ」

「オレも付き合ってもいいかな?」

「うん、いいよ」


 オレは確かに白亜紀生まれだが、草食恐竜がどれくらいの食餌を摂るのか知らない。

 今までは狩りのために獲物のコンディションしか見なかったから、生態そのものに目を向けていなかったからだ。

 今後の調達のこともあるし、1日の消費量を知ってく必要がある。


 しばらくするとハワイアンらしき給仕ボーイがコンテナを積んだカートを押してやって来た。

 いや、ボーイなんて失礼だった。

 所属はよく分からないけど、空軍の中尉だった。


 三嶋さんはレタスとキャベツとバナナ1房を給仕してもらっていた。

 カイさんはブタの半身かなにかが給仕される。


「食べないの?」オレが見ていると三嶋さんも何やらオレの方を待っている様子。

「トウヤさんは食べないんですか?」

「…じゃ、ちょっと取ってきていいかな?」

 オレは大急ぎでビュッフェに行くと、スクランブルエッグとローソルトのベーコンをもらい、三嶋さんのところへ戻った。なぜかジョージとポールの人間二人も付き合うことにしたらしい。


 三嶋さんは、丸のままのキャベツをモリモリ食べ始め、和尚さんは、細かく切り分けたチキンソテーをフルーツフォークで食べ始める。

 カイさんはというと、脚で肉を押さえ、メリメリと豪快に食いちぎり出す。白亜紀じゃ当たり前のスタイルだけれど、こうして見ると第四紀の猛禽類のスタイルに通じるモノがある。


「おいしそうに食べるね」ニコニコしながら食べる三嶋さんに、ジョージが話し掛ける。

「この体になってから野菜がおいしくて」

「その食いっぷり見てたら、オレも回鍋肉ホイコーローが喰いたくなってきたよ。

 この体じゃハラ壊すから、先生からOKもらえないだろうけど」

「量は足りてる?」ジョージは牧師さんらしい気配りを見せる。

「まだ分からないよ。…ん~でももうちょっとあるといいな」


 そこへジェシー(シャルビノ少尉)とスラブ系(?)らしき黒髪の女性がやってきた。


「マナミ、具合は…よさそうね」黒髪の女性は、三嶋さんに親しげに話し掛けてくる。ミステリアスな顔立ちだけれど、天使のような微笑みを見せる。

「おはようアニー。おかげさまで」三嶋さんは、すでに顔見知りらしい。

「トウヤは初めてだったわね。こちら、チーフ・ナースのジョアンナ・ミハイロワ」ジェシーが、連れの女性を紹介してくれる。「これからお世話になると思うわよ。今日これからあなたたちの治療や看護を連携するんで、その打ち合わせなのよ」なるほど。恐竜のお医者さんと看護師さんとでMTGやるのね。

「よろしくね、トウヤ。武勇伝は色々聞いているわ。アニーかアンって呼んで」

「婦長さんですか。よろしくお願いします。ご出身はどちらなのですか?」

「スリヴェン州よブルガリアのね。日本人だとあまり馴染みがないでしょうけど」

「すいません。日本に似た自然とヨーグルトくらいしか。近いうち教えて下さい」

「そうね。じゃあ、一段落したらおスシでも食べに行きましょう」

「ブルガリアからおスシ食べに来たんですか?」

「そう。ディズニーランド見物と築地巡りに来て恐竜禍にハマっちゃったのよね」

「みんなで、マナミたちとブレックファースト?」

「ああ。これ喰ったら三嶋さんたちのメシ調達に行ってくる」

「メシ調達って?」

「ああ。そろそろ野菜がなくなりそうなんで、あのトラックで買いに行くんだ」

「私も行っていいですか?」早速三嶋さんが入ってくる。

「危ないからダメ。

 ケガ治りかけなのに、またティラノに食い付かれたらど~すんの?」

「ねえ、私がいれば、草食のえ~と自我無し?さんたちとも話が出来るけど。どう?」

「確かに。うちの子たちは全員セロポーダばかりで、草食竜のワード・キーパーがいないわね」

 自我を失って人間の言葉が通じなくなっている恐竜には、各種ごとのネイティブ言語しか通じない。

オレのチームはドロマエオサウルス科だけの構成なので、草食竜たちへの保護呼びかけネゴシエーションはムリだ。


「連れて行こう、トウヤ。

 臨時の通訳士インタープリターとオブザーバーだ」ジョージがウキウキと切り出す。


「ハンドラーはどうするんですか?」

 三嶋さんと原田さんを選ぶか、ミハルとトシさんを選ぶか?

「二人とも話があるんだ。ちょっと来てくれないかな?」

 ジョージは三嶋さんたちから少し離れた所まで、ポールと一緒にオレを連れて来た。

「僕は、やはり発症者たちをひとりでも多く保護したいから、連れて行こうと思うんだ。

 トウヤ、クレテイシアンとしてのセカンド・オピニオンを聞かせてくれないか?」

「クレテイシアン?」

「ああ、ゴメン。クレテイシャス(Cretaceous)、白亜紀のことで、白亜紀人、いや、白亜紀竜という意味だったんだ。失礼だったかな?」

 ああ、オレが"白亜紀世代"と言っているのと似た意味か。

「解り易くていいですね。でも、他の恐竜たちの意見も聴いてからの方がいいと思うな。

 白亜紀竜としての見解でしたっけ?

 ファシャグナトゥスはヴェロキラプトル同様、オレのいた地域(白亜紀のモンタナ州周辺)にはいなかったんでコメント不可です。

 出身はどこなんですか?」

 ちらと和尚さんを見返すと、三嶋さんにバナナの皮を剥いてやっていた。

「え~と、中国と北朝鮮の境目、れよ…遼寧省りょうねいしょうだったっけ。一応クレテイシアンだったかな?

 確か学説レベルだけれど、コンピーの仲間(コンプソグナトゥス科)は白亜紀のアメリカ西部にもいたはずだから、大まかな予想でいいよ」

「おっしゃる通り、いましたよ。オレのおこぼれに預かりに来る、カワイイのが。

 オレがいた地域のコンプソグナトゥス科も小型で、第四紀のフェネックのニッチにある、昆虫食のキツネに似た性格でした。

 和尚さんは落ち着いた方ですし、大丈夫だと思います。

 そしてハドロサウルスも、パニックさえ起こさなければ穏やかな種でしたし。

 原田さんの交渉力と三嶋さんの通訳は、草食竜を保護する時にいてくれた方が仕事がはかどるでしょうね。

 一方で、ミハルの火力とトシさんの偵察能力も捨てがたい。

 全員連れて行くのもアリじゃないですか?

 MTVRをもう1台出してもらえるなら間に合うと思います。

 その、人間さんが都合付けばいいんですが」

「じゃあ、決まりだな」

「ああ、オレも同意見だ。ミスター・カイも出来れば戦力に欲しい所なんだが、野菜が載せられなくなるからムリかな?」

「カイさんは覚えていないだろうけれど、白亜紀で何度か一緒に狩りに行ったことがありまして、いい狩り仲間でした。

 トルヴォサウルスのターボ君みたいな破壊力はありませんが、フットワーク系のライト級ボクサーのように、獲物からの反撃を避けるのが巧く、攻撃は急所をきれいに狙うものでしたよ。

 ただ、今の彼自身、記憶を全て失っていますし、荒事はやりたくないと言っていたので、訊いてみないと、なんとも」


 ジョージがカイさんに話を持ち掛けると一つ返事で承けてくれ、結局みんな行くことになった。

 そしてハンドラーを調達することになる。

 しかし海兵隊はもうイッパイイッパイなので、フォワード司令に話を持ち掛けた所、快くスタッフを出してくれることになった。

 和尚さんたちは民間人ということもあり、階級低くてもいいので、ケビン(ローイン大尉)の部下から1人と整備班から2人来てもらえることになり、MTVRも2台に増えた。


 ミハルにはポールが付き、トシさんにはケビンが付くことになった。


 三嶋さんには空軍から整備班のダニエル・カーチス軍曹、原田さんにはマケイン・バーンズ軍曹、どちらも最先任上級曹長とのことだった。

 そして、カイさんには、先のボーイをしていた空軍のケント・タカシマ中尉が、それぞれやって来た。

 海兵隊がハンドラーに中尉以上の階級を充てているため、空軍としてもハンドラーに士官を充てようとしたものの、有事下でスタッフが多忙の上、民間竜のハンドラーと言うこともあり、顔なじみと手空きのスタッフが臨時でアサインされた形だった。


 カーチス軍曹は原田さんと三嶋さんと顔なじみのようで、急遽名乗りを上げたらしい。

 バーンズ軍曹は非番だったものの、ハンドラーとしてのお鉢に喜び勇んで出てきたのだそうな。


「人間の間ではハンドラーになるのがブームなのですか?」オレは空軍整備班のバーンズ軍曹に訊いてみた。

「単にマナミたちコーラス・トリオのファンなのですよ」軍曹は片頬で微笑む。「恐竜とペアを組みたがる人間は多いと思いますよ」

「なぜ?お互い大変かもしれないのに?」

「それは、人間が様々な対象とコミュニケーションを取りたがる理由にも通じます。

 多分、自分とかけ離れた存在とコミュニケーションを取り、相手の内面に映し出される自分を感じるのが面白いからじゃないでしょうか?

 まあ、空軍ウチのパイロットの受け売りですが。

 それに私はマナミたちのファンですので、協力は惜しみません。

 ヤマモト少尉とも同行できて光栄です」


 こうして海兵隊&空軍の混成買い出しチームが出来上がった。


 表向き、ジョージが最上位の階級なので、搭乗割を決めてくれた。

 オレのハンドラーはジョージが付くことになり、三嶋さんトリオと一緒に荷台に乗ることになった。

 ポールはミハルたちと一緒に1号車に搭乗。


 昭島市の三多摩市場サンタマまで、国道16号を6kmばかり南下する。


「ポールさんと何かあったんですか?」トラックが走り出してしばらくすると三嶋さんが話し掛けて来た。

「…ちょっと保安上の隠し事をされててね。カチ合っちゃったんだ」ポールの正体他機密事項アレコレは伏せて、三嶋さんにざっくり説明する。

「それはポールさんが悪いな。

 でもトウヤさんも意気地になり過ぎなんじゃないかな」

「"意固地"だ」和尚さんがそっと訂正してくる。

「あ、そうそう。

 別にいいじゃない。秘密の一つや二つ。

 ポールさんだって軍人さんなんだし、お兄さんなんだから」

「オレ、アラフォーなんだが…」

「ウッソ!?20代だと思ってた」

「礼を言うべきか、引っぱたくべきか、迷う所だな」この娘は…。

「だって恐竜のトシなんて分かんないし、トウヤさん、話し方若いんだもん」それもそうか。

「私のトシは分かるかね?見かけだけで」和尚さんがニヤ付きながら話しに入ってくる。

「んと、…分かんない。5歳?あ、見かけね!見かけから判断したらだからね!」

「あのなぁ。その10倍は歳取ってるよ」

「グレイト(ご立派)」

「じゃ、私は?」

「6歳から7歳くらいだな」

 匂いから判断すると大体それくらいになる。

 ハドロサウルスとしては成竜になる手前だ。恐竜には厳密な成竜という線引きがないからな。基本的に産卵可能になったら成竜扱いになる。

 いい加減に聞こえるかも知れないけれど、それ言ったら人間だっていい加減なもんだ。昔は元服とか言って10歳くらいで大人の仲間入りで、早ければ14歳くらいには結婚していたんだからな。西洋も東洋もどっちも、だ。

「ヒドい。それじゃ小学生じゃないですか」

「サイとかゾウだとそれくらいだよ」シマちゃんてイジられキャラなのか?

「おうふ!

 とにかく、仕方のないことだったんだし、許してあげたら?

 そんなのつまんないよ。あんなに息合ってたのに」

「昔ブラック企業に入ったことがあったんでね。用心深くなってるんだ」


 白亜紀でも第四紀でもハマったなんて、オレって進歩してないのな。

 どっちも身を切って凌ぐハメになったし。


「ポールさんの本心を知りたいのですか?」和尚さんが水を向けてくる。

「そうですね…そうです」

「では、ポールさんが思いもよらない質問をぶつけてみてはいかがかな?」

「と言われると?」

「ありきたりの質問ではだめですな。相手の出方を窺うための問いにする必要がありますぞ。

 例えば、話題の根元にある問題が最悪な状態になったらどうするか。答えに詰まるような想定外の内容がいいです。それも斜め下のセンで」

「なるほどな。しかし、オレ程度がプロの虚を突くなんて出来るでしょうか?」

「それなら問題が起きた際の最悪な結末を考えて質問を練るといいですよ」

「詳しいんですね、和尚さん」アダ名は伊達じゃないな。

「一応カウンセラーの資格も持っていますし、実際、役所での家庭相談会でカウンセリングもやりますから」


 途中何度かルーフの拡声器とM2が吠え猛る事態もあったものの、オレとミハルが出るまでもなく、ようよう市場にたどり着いた。

 しかしシャッターは全て閉められている。

 事務所の方へ行ってみると、市場の職員の方が応対に出て来られる。

 そして、オレたち恐竜勢を見て悲鳴を上げた。


「傷付くなぁ(×4)/傷付くわねぇ(×2)」オレたち恐竜勢は、ため息を付ながら顔を見合わせる。


「ちょっとオジさん待ってよ。私たち、野菜を買いに来ただけなのに、何で悲鳴を上げるワケ?」人間からすれば十二分に巨大なハドロサウルスが、市場の職員さんに詰め寄る。

「あーマナミ、ちょっと待て。私と代われ」和尚さんが割って入った。


 落ち着いた話しぶりをするファシャグナトゥスに、職員さんは落ち着きを取り戻してくれた。

「それが、この恐竜禍で農家さんを始めどこも外に出れないので、品物が入ってこないのですよ」


 orz…。


「申し訳ありませんが、農家さんへ直接行ってくださいな。これ住所です」職員さんは和尚さんにメモを渡してくる。

 道順を記したちょっとした地図と住所がしたためてあった。


「しょうがないな…(×12)」


 危険ではあるものの、全員一致で、国道を戻り青梅の郊外にある農家さんまで行くことになった。


マナミ  :おっかいもの~♪おっかいもの~♪

トシ   :なんかキャベツ買いに行くことになった。

シュン  :じゃ、ついでに小麦粉買ってきてくれ。後、豚肉とタマゴと紅ショウガ。

ジョンソン:お好み焼きか。ワシの分も頼む。

トウヤ  :青のりと揚げ玉も必要だな。メモメモ。

ミハル  :ソース忘れないで下さいよ。

マリ   :干しイカもお願いしますね。

ターク  :ついでに日曜日の分も用意しておいたらどうだ?


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