071:ダンデライオン・クロック #1-2
トロオドンのセレブ貴婦人マリさんのお話2回目。
ホントはトウヤの回だったけど、マリさんに振りました…。
え~…ま、まぁ、気を楽に…。
071:ダンデライオン・クロック #1-2
私、風見 真利と申します。
34歳で小さいながらも弁護士事務所を営んでおります。
これは、あの非常識なデイノニクスの罪状認否を横田基地で聴かされた時のエピソードになります。
私は、恐竜化シンドロームと呼ばれております原因不明の疾病で、恐竜-トロオドンになってしまいました。
というのは、世間様への建前。
実の所は、白亜紀から現代へと"渡り"を行って参りました、旧世界の難民のひとりなのだそうです。
私たちは、米海兵隊のカニンガム小隊によって保護され、横田基地へと移送されました。
そこは、恐竜化症発症者(実際には本物の恐竜たち)の隔離施設と聞かされていましたが、実際には避難収容施設と変わりなく、検疫、医療、収容と一通りの設備が完備されています。
私は、部外者ですが、オブザーバーとして招聘されました"お客さん"ですので、検疫の間、ジェシーさん(シャルビノ少尉)とデイノニクスのミハル(坂月少尉)さんが随行して下さっています。
驚いたことに、検査官や医療従事者の方たちは、私たち恐竜に馴染んでいるらしく、よくある避難施設で見掛ける素っ気ない態度で、淡々と職務をこなしていました。
「どうしました?」
あまりの違いに私が呆然としていると、ミハルさんが訊いてきます。
「私が、日本側の避難施設に行った時は、石を投げられ追い払われたもので。まるで何かの悪夢でも見たようで…」
「ふふ。これもトウヤさんのおかげですね」
「そうね。
最初あのコは、たった1頭でレックス相手にケンカしていてね。私たちの援護もあって、結果的に倒しちゃったのよ。
それに尾ひれが付いて、1頭でレックスを蹴り倒したってことになったのね。
そんなモンスターが来るってんで、ウチのスタッフたちも戦々恐々としていたのよ。
それが、いざこっちに連れて来てみたら、下らないギャグ飛ばすわ、やれ、人間扱いしろ~、メシは旨く作れ~、寝床用意しろ~。
しまいにはこっちも発症者相手に緊張して片意地張っているのがバカバカしくなって、以後、こんな感じでやってるの。
まあ、こっちの方が発症者にとってもウチにとっても、お互い気が楽だしね。
それにその時のエピソードは"デマ"だと分ったので、もう彼をモンスター扱いするスタッフはいなくなったわ」
「でも、今朝、本当にひとりで倒していたって聞きましたよ?
それに、昨日だって、私も実際に目にしましたし」
あのデイノニクス-トウヤ(山本少尉)さんは、私の目の前で、カルノタウルスを一撃で昏倒させたばかりか、強力な落雷を発生させ、大型恐竜の軍勢を一瞬にして壊滅させてしまったのです。
私もドロマエオサウルスのシュンさんに"フォース・ウォール"と呼ばれた、バリヤー能力を得ているので、トウヤさんも何らかの超越能力を得ていることを確信しています。
ですので、彼の働きに疑いを挟む余地はありません。
「それが不思議なのよね。
ミハルもそうだけど、なんだかこのコたち、どんどんパワーアップしているみたいなの。
私たちのホラ話がどんどん現実になっているみたいよね」
ジェシーさんは、ミハルさんの背中を撫でながら、愉しげです。
まるで、自分のペットを自慢しているようでした。
なんとも図々しい限り。
あのデイノニクスにはまったく呆れてしまいます。
もっとも、その恩恵を私も受けているのですから、文句を付ける立場にありません。
検疫と健康診断が終わると、ミーティングがあるとのことで、お二人に別舎へと連れて行かれます。
通路の途中。ミハルさんが窓際に寄り、首をもたげると、動きを止めます。何かを聴いているようです。
私にも、ジェット旅客機らしき爆音が遠くから近付いてくるような音が、かすかに聴こえます。
「ジェシー、聴き慣れないジェット機が来るわよ。なんていう飛行機?4発だけど音が甲高いわ」
「ん?」ジェシーさんは、少し耳をそばだてた後、腕時計を見ます。
「う~ん、そろそろか。内緒でちょっと珍しいモノ見に行きましょうか?」
「何ですか?」
「これからのことは、誰にも言っちゃダメよ。着いて来て」
ジェシーさんは、小走りで先に行きます。
そして、舎の2階へと上がります。
そこには、ライフルを持った衛兵がおり、通路を見張っていました。
「スリーズ、ルッコン(見学よ、3人ね)」ジェシーさんが衛兵に告げると通してもらえます。
通路には何人かの隊員がいて、皆一様に窓の外を見ています。中には双眼鏡を構えている方もいました。
「ノーフォト。アイズオンリー。キープ・シークレット。OK?(写真禁止。目視のみ。口外無用。OK?)」
「イエス」衛兵の注意に、ジェシーさんは素直に返事をします。
程なく爆音と共に、矢尻に似た姿のジェット機が着陸してきます。
「きれいな流線型ね。なんて飛行機なの?旅客機?昔のコンコルドみたいね」
「"ボーン"。表向きには"ランサー"って呼ばれているわ。超音速爆撃機B-1ね」
前に軍事ドキュメンタリーで見たことがある軍用機。ミハルさんが言うように、流線型の機体は小型旅客機と見まごう流麗なデザインでした。
衛兵たちがタラップ(ラダー)を取り囲み、周囲警戒が敷かれると、一人の人物が降りてきました。
今まで、何度もテレビやストリーミングで見たことのあるお方。
スマートな体型に、若く見える顔立ちの、ビジネススーツを着た黒人男性。
「本物なんですか?」ミハルさんも、あのお方を知っているらしく、ジェシーさんに尋ねます。
「公式にはここにはいない方。私たちは何も見ていない。OK?」
つまり、本人なのですね。
「さあ、行きましょう。ジョンソン少佐が待ってるわ」
階下の会議室。10名規模ほどの部屋。しっかりと防音が施されているようで、ドアを閉めると外の音は聴こえなくなります。
中央にがっしりした会議卓が置かれ、エストラーダ中尉とジョンソン少佐が上座に着いておられました。
下座にはカニンガム隊長他、チームメンバー。そしてドロマエオサウルスのトシさんとシュンさん。トウヤさんとレナード大尉は不在です。
私たちも、カニンガム隊長の側に着きます。
話の内容は、昨日車中でレナード大尉とトウヤさんから聞かされたものでした。
「ゼィラ・トゥルーダイナソアズ、マイグレーテッド・フロム・メソゾイック・エラ…(彼らは、中生代から渡りを行った、本物の恐竜なのだ…)」
ジョンソン少佐のスピーチに、隊長たちは、私を始めとした恐竜たちに振り向きます。
彼らは、なぜか一様に困惑されていました。
まるで、私たち記憶を失っている恐竜と同じ反応です。
真実を初めて聞かされた、今の佐野さんと同じように。
なぜ驚かないのか、こちらとしては不思議です。
場の最後に、トシさんとシュンさんの着任通達と官位授与が行われました。
二人とも上級曹長だそうです。
そして、13時から行われる予定だったミーティングは、17時に延期になり、その場にVIPが同席すると告げられました。
ミーティングが済むとランチの時間になっていました。
ミーティング参加のメンバーでビュッフェに行きます。
ミハルさんのおすすめで、私はポークチョップの大盛りです。
シュンさんは念願の牛丼。トシさんはスタンダードにランチプレートです。
意外にも、味は本国のように濃くはなく、日本人、いえ、日本食に慣れた恐竜の口に合います。
食事のおいしい軍隊は強いと聞いたことがありますが、兵力と無関係にこれはおいしい。
「マイガッ!(神よ!)」離れた席で叫び声が上がったので振り返ると、レナード大尉でした。対面にトウヤさんが座り、何事か打ち合わせをされているようです。
「こんなの人類の道徳観念を超えてるし、恐竜の道徳観はまだ君から教えてもらってないから判断出来ない!…」
なんだかすごいことになっているようです。
カニンガム隊長に注意を受け、私はランチに戻りました。
その後、待機と言うことで、割り振られた部屋でひたすら待ちます。
午前中にいらっしゃった方のため、基地内に戒厳令が敷かれているのです。
ジェシーさんとミハルさんはお忙しいのか、職務に戻られました。
代わって、部屋の前には衛兵が見張りに立ちます。
その間、私はトウヤさんに持ちかけられた依頼を、今後どうやって進めたものか思案します。
まったく。あのデイノニクスは、無茶なことを振ってくるものです。
外の衛兵に頼み、レポートパッドとペンを借り、色々とプランを考えますが、そう簡単にアイデアは出てきません。
そうしてあっという間にミーティングの時間になりました。
今度の会議室は、午前のミーティングに使われたものとは別の部屋で、先の倍ほどの収容人数がありそうです。
私を含め、以下のチームメンバーが下座に着きます。
ターク・カニンガム 大尉
エドワード・ダン 中尉
ジェシー・シャルビノ 少尉
坂月 美春 少尉 (デイノニクス)
小野 敏生 曹長 (ドロマエオサウルス)
佐野 舜介 曹長 (ドロマエオサウルス)
私、風見 真利 弁護士 (トロオドン)
そして上座には指揮官他以下の3名が着いていました。
ジェームズ・フォワード 司令
ボブ・ジョンソン 少佐 (先生)
ポール・エストラーダ 中尉
エストラーダ中尉だけ、他の方とは異なる、見慣れないユニフォームでした。
それよりも、上座の奥におられる方。
まさか、このためだけに来日されたVIPというのは、この方なのでしょうか?
やがて、トウヤさんが、レナード大尉と厳めしい顔つきの護衛4人に付き添われて現れました。
彼は場を見回し、上座の奥の人物に目を止めるなり、相当に驚いたのか冠羽を逆立てます。
「こちらの紹介は必要かね?」ジョンソン先生が、トウヤさんに訊いてくる。
「いいえ」
その言葉を境に、トウヤさんの雰囲気が別恐竜のように変わりました。
「はじめまして、"陛下"。
トウヤと申します」
敢えて人間名は使わないようです。
「はじめまして。
君の活躍報告は、毎回楽しみに見ているよ。
我が国も大騒動でね。今はお忍びでハワイに待避しているのだよ。
なんでも、この騒ぎを起こした張本人だって?」
「色々複雑なのです」
トウヤさんは、携えてきたノートPCをプロジェクターに繋ぎ、見慣れない図式を投影します。
マインドマップと呼ばれる情報整理法で記された、この恐竜禍カタストロフィーの顛末を示す内容でした。
トウヤさんが説明を始めようとすると、奥座の方は、"まずは読ませてくれ"と手を上げられました。
エイリアンの侵略。
恐竜時代の終焉。
タイムマシン建造。
まるでB級SF映画のシノプスです。
発売されて1年も経てば、レンタルショップから姿を消してしまうような作品と、大差ない内容でした。
「半年でタイムマシンを作ったというのは、本当なのかね?」
「白亜紀の全GDPが投入されましたから」
なんともクレージーです。
白亜紀の恐竜がどれだけいたのか知りませんが、私も含め、全ての恐竜に時空を超えさせる規模のタイムマシンを半年で作るとは。
「では、テスト期間はほとんど取れなかったのか?」
「はい。
草食竜たちの食糧難に加え、寒さに弱い者が多かったので、やむにやまれずの期限でした。
アマチュア同然の研究にすがらなくてはならなかったほど、事態は逼迫していたのです」
「よくやった、と言うべきなのか、よくもやってくれたな、と言うべきなのか」
「白亜紀の恐竜を全て救うためでした。
人間からのどんな言葉にも甘んじます。
私はやれる限りのことはやり尽くしました。
出来たら、あなたのような方とは、平和裏にお会いしたかった」
「この人間殲滅派について、もう少し詳しく説明してくれないか?」
「はい。
有り体に言えば、テロリスト同然のタカ派です。
人間を皆殺しにしさえすれば、地球破壊は避けられる、という至極短絡的な意見です」
「共存派については?」
「…理想そのものです。けれど、本当に信じている恐竜もいました。
そちらのミズ風見の氏族一門、トロオドンはその代表格です」
理想、その点は同意できますね。
「最後の調査派はよく分かる。むしろ、なぜこんなに数が少ないのかが不思議だ」
「それは、あなたたち現代人類からの視点ではそうでしょう。
私たち恐竜は、よく言う"殴り倒してから考える"というロジックが常識なのです」
「君たちデイノニクスもそうなのかね?」
「私たちの一門は、敵と認識した対象には容赦しません。しかし、未知の対象に対しては非常に慎重なのです」
「逆にこの騒動は、殲滅派の行動を抑え込むのにも一役買っていると見ることは出来ないかね?」
「言われる通りです。
もしも殲滅派が白亜紀の記憶を取り戻したら、私は反逆者として処刑されるに違いありません」
奥座の方は微笑まれます。
「いやぁ、痛快だな。
人類にも被害は出ているが、90%もの勢力を、それと知らずに抑え込んだ訳だ」
「一つ付け加えさせて下さい」
「何だね?」
「殲滅派といえども心の中では、人類への攻撃に懐疑的な竜が少なくありません」
「どういうことだね?」
「大多数の竜は、白亜紀の記憶を失った状態だと、聞かれておいででしょうか?」
「ああ、報告で聞いたよ」
「それは、エゴがむき出しのピュアな状態、ですよね?」
「そうだな」
「その状態で、人間を助けようとしている竜が多くいます。人間に攻撃されたにもかかわらず、です」
「それは、この画面に書き切れなかった事柄かね?」
「はい。
そちらに控えているドロマエオサウルスのこのふたり。
白亜紀では私の同僚でした。
ドロマエオサウルスは人間殲滅派でしたし、白亜紀での彼らも、人間を滅ぼすことを是としていました。
しかし、当時、彼らの言葉の端々からは、まだ見ぬ人間たちへの興味が多く聞かれました。
ヤンキースファンとドジャースファンのように、表面ではいがみ合いながらも、その奥底では、人間のことを知りたがっていたのですよ。
この二人は、記憶を失っている今の状態で真実を知り、過去の自分の言動を教えられた時、"酩酊時にしでかした失態を、正気の時に持ち出された気分"だと言っていました。
現にこの二人は、初めて会った時から、海兵隊チームの支援に惜しみなく力を注いでくれ、今となっては私たちチームにとって、なくてはならない頼もしい戦力です」
トウヤさんは、頼もし気にチーム・メンバーを順に見回します。
「他にも、昨日一日で出会った恐竜たちの例を挙げれば、枚挙にいとまがないほどです」
「つまり、殲滅派の恐竜たちも、接し方によっては考えを変える可能性が高いと言うことだね?」
「そうです。
そのためには、真実は明かさない方がいい。けれど気付いた者を支えていく、そんな体勢が必要だと進言いたします」
「…この、人類が地球を破壊する未来予知だが、直接のトリガーは分からなかったのかね?」
「はい」
「例えば、君たちを襲ったエイリアンが再び地球にやってくる、と言う可能性は?」
「6700万年もの耐久性を持つ宇宙船は建造できるでしょうか?
この宇宙でのほとんどの元素が、半減期を超える時間が経過しています。
ムリでしょう」
「それは、君のエンジニアとしてのオピニオンかね?」
「そうです」
「ウラシマ・エフェクトで時間を超える、という方法も可能では?」
ウラシマ効果。
後でネットで調べた所、物体が移動していると、その速度に比例して、移動中の物体固有の時間経過が遅くなって行く現象のことだそうです。
関連ページを見て行くと、ちょうどいい例が掲載されていました。それによると、亜光速で1年間移動を続けると、移動体は1年しか時間が経過しないが、それ以外は70年近く時が進むのだそうだ。
なんだコレは??
「かなり規模の大きい敵でしたので、母船はかなり巨大だと思います。
それだけの図体で光の速度を出したら、あっという間に隕石やデブリでスクラップになってしまいますよ」
前に、高速道路を自動車で走っていた時、フロントガラスに前走車のタイヤに噛んでいたらしい小石が飛んできたことがありました。
すごい音がして、後で調べてみるとフロントガラスがわずかに欠けていました。
時速100キロの自動車が約秒速27メートルで、光の速度は約秒速3億メートル。一千万倍以上の速度で小石がぶつかってきたら、自動車ぐらいなら簡単に穴が開いてしまうでしょう。
「そうした要因から身を守るバリヤー技術があったとしたら?」
「あれらはそんな技術は持っていませんでした。
だから私たち恐竜に袋だたきにされたのですよ」
「つまり、私たち人類が、この蒼い惑星を、破壊してしまうのだね?」
考え付く否定要素が全て払拭され、沈痛な面持ちをされます。
人間として、そんな未来を提示されてしまっては、さぞかしつらいことと思います。
「かつての副大統領殿も言われておいでです。
どの道、人間は、地球をボロボロにして自滅する未来しかないのですよ。
でも、私はそのような未来は願い下げです」
話の元副大統領は、有名なドキュメンタリー映画を制作されましたね。
「君が、テロリストが地球を破壊すると予測している、と報告を受けた。
その根拠は?」奥座の方は、エストラーダ中尉をチラ見しながら訊ねてこられます。
「私は、狩猟恐竜としての記憶を失った状態で、40年ほど人間として生きて来ました。
"人間"というネイチャーを見聞するのに十分な時間だと思います。
その結果、人間が自分の住む星を自発的に破壊しえないと結論付けました。
それに、人間同士の間で何らかの抑止力が働くことも予想しています」
この場合の"ネイチャー"に相当する言葉は、日本語にはありません。
敢えて訳すと、自然界における人間という存在の振る舞い、とでもなるのでしょうか。
「なるほどな。
それで、問題を起こす勢力を見つけ出す助力を、願い出ているのか」
「はい。
海兵隊に加え、DIAの職員もチームにいることですし」トウヤさんはエストラーダ中尉を一瞥する。「困難ではありますが、達成できないタスクではないと考えています」
「この、"ムカリ"という恐竜の人物像は?」
「白亜紀で私の上司でした。冷徹なプロジェクト・リーダーで、白亜紀の記憶を持っています。
彼は殲滅派ですが、さらに2点ほど問題があります」
「続けてくれ」
「一つ目ですが、彼は、第四紀に渡って来た恐竜が生きて行く世界を確立するため、人類に対して反旗を翻しています。
目的達成にひたむきで、妥協が付け入る隙がありません。
利権で心を動かすことができない、もっともやっかいな相手なのです。
彼と交渉を試みましたが、彼が欲しいものを端的に言うなら、地球が破壊される要因が払拭された未来と言えます。
明言はしませんでしたが、その確実な未来を示せるなら、"手を緩めてもいい"と言っていました。
二つ目は、下の方に記載しております、超越能力を保有している竜なのです。
彼の持つ能力は、他の竜を精神支配し、自分の意のままに操るもので、それも同時に多数の個体を操れます。
報告に挙がっていると思いますが、同時に150頭ほどの恐竜を操り、私たちを襲わせました。
彼に時間を与えれば、それだけ彼の軍勢を増やすことになります。
しかも、戦闘報告を読まれておいでと思いますが、彼は戦略家としての才も優れているのです」
トウヤさんは、エストラーダ中尉に合図します。
「これは、山本少尉のヘッドカムに記録されていたものです」ポールさんはそう言い置き、スクリーンに映像を投影します。
それは、トウヤさんがムカリ氏と対峙しているシーンの記録でした。
ムカリ氏は、威風堂々としたブラキオサウルスでした。
肉体的にも人物的にも大物を感じさせます。
でも、どこか寂し気な印象を受けました。
-ムカリ、あんたはいいヤツだ。ボスとしても信頼している。だが、人間たちを問答無用で根絶やしにするのは乱暴だ。いただけないな。
-このまま捨て置けば、彼らは地球を消し去ってしまうのだぞ。それが分っていてもか?
-ムカリ。オレたちが見通せなかった未来もあるとは、考えないのか?
-あるいはそうかもしれん。だが私は、こちらの世界へいざなった同胞を守らねばならん。そのために、確実な方法を選択するまでだ。
-なあ。白亜紀にオレたちが見た未来は、第四紀に来る前の時間軸のものだと分っているか?
-いいや。不確定要素が増えたと言うことか?
-そうだ。もう分岐がどうなっているのか、オレ程度では見分けられないが、少なくとも人間を滅ぼす以外の道を模索できる余地はありうる。
-私を納得させる決め手を持っているかね?
-残念だが今はない。
-なら、当初のプランを進めるのが妥当ではないかね?今の私は、記憶を失っている者を精神支配し使役する能力を得ている。部下なら選り取り見取りなのさ。使えるかどうかは別問題だがね。
-さっきの銃声は、お前が?
-そうとも。配下の竜に襲わせている。なかなか練度の高い人間たちだ。それに、君が救った竜たちも抵抗している。だが、もう半分ほどに減った。なに、君と話している間に、カタはつくだろう。
-何人死んだ。竜も人間も合わせて。
-今は進捗以上の状況を見る時期ではない。だが人間の方はほぼ半分まで減っているようだ。
-ムカリ、頼むから止めてくれ。そして高位スキルのプレコグナイターを探すサポートをしてくれないか?
-ここまで来て、別のプランに路線を変えろというのかね?
-出来るならそうして欲しい。いずれにせよ、現状確認をする必要性があるとは思わないか?
-先に答えているが、今の君は、私を納得させる決め手を持っていないのだぞ?私が手を緩めると思うのか?
ビデオはそこで終わりました。
そして、私は、あることに思い至りました。
囚人のジレンマ
このデイノニクスは、バカかと思うほど、嘘をつかない。
まるで、中世ヨーロッパの騎士のように。
例え自分が不利な立場に追いやられると分かっていても、真実を告げる。
それが、最終的に自他共に利をもたらす結果となることを、知っているのだ。
彼は、それを実行する、勇気と粘り強さを持っているのだろう。
なんとも弁護士気質をうずかせる恐竜。
そして、恐るべき智恵者だ。
「君は、一時的に彼の支配下に堕ちたと報告を受けている。
工作員として何らかのマインドコントロールを施された可能性については、今の映像記録が否定しうるに十分な証拠となるのでいい。
だが、彼が君の支配を解いたのは、なぜだ?」
「見当も付きません。
彼らしくない振る舞いです」
本当に心当たりがないのでしょう。彼は首を横に振ります。
「ミスタ・ムカリの"ドローン・コマンダー"以外に超越能力はどんなものがあるのだね?」
「ドローン・コマンダーですか、気の利いた呼び名ですね。今後使わせて下さい。
他の能力ですが、一例しか確認されていません。
他ならぬ、私が授かったギフトで、"加速モード"と呼んでいます。
体感時間を極端に低下させ、高速でアクションを起こせる能力です」
私は、トシさんとシュンさんに"どうします?"と目を合わせます。
二人とも迷っているようでした。
「個人的な興味から訊くのだが、君の能力のデモンストレーションを見せてもらえないか?」
トウヤさんはしばらく考え込みます。
そして、フラッシュライトを取り出し、発光部のヘッドだけ取り外しました。
「すみませんが、部屋を暗くしてもらえますか?」
暗がりの中で、何かが羽ばたくような音がかすかに聴こえてきます。
程なくデイノニクスの指先に明かりが灯り、それは見る間に輝きを増して行きます。
そこかしこから、感嘆のつぶやきが聴こえてきます。
「もういいですよね?」その言葉を境に魔法が解けた。
部屋の照明が灯く。
「ありがとう。
一体どうやったんだね?」
「皮膚をこすり合わせると、静電気が発生するのは、ご存知と思います。
それと似てはいますが、原理的に異なる方法です。
掌と掌を接触させないようにして近付けたり遠ざけたりすると、電極分離による誘導磁界が発生します。
これを極端に高速で行うことで、交流電気を発生させました。
そして、LEDの持ち方を加減して、皮膚と羽毛で半導体性を励起させて大体直流になるよう整流させました」
自分を発電機に変えたという事なのでしょうか?
「なるほどな、君は…」感銘を受けられたのか、トウヤさんをじっと見つめます。
今まで話せずじまいでしたが、この場が最後の機会になりそうです。
私は、そこで手を挙げました。
ドロマエオサウルスのふたりも同時でした。
トウヤ :マリさん、キツ~。
マリ :あなたの功績も認めますけど、見ているこちらがハラハラしますよ。
ミハル :そうそう。この際言っちゃって下さいよ。
トウヤ :ジェシー!コムスメがいぢめるよぉ~!
ジェシー:ハイハイ、そこケンカしない。言い方キツいかもしんないけど、一応褒められてるんだから。マリさんも、デリケートなオヤジ恐竜にもっとソフトにね。
トウヤ :うう、超VIP前にして、メンタル削れ切ってるのに、ヒドい…。
トシ :なんだか学園モノみたいだな…。
シュン :りゅ~せん~けい~~




