069:帰還
デイノニクスは人間目線ではバカの子です。
それでも白亜紀ではかなり知能の高い種族。
今回はトウヤとポールの関係にヒビが入ります。
069:帰還
ある朝、人間が恐竜になってしまう現象が世界を襲った。
恐竜になってしまった人間たちは大多数が自我を失っていて、本能のままに他の人間たちを襲っている。
当の恐竜-デイノニクスになってしまったオレこと山本登也は、なぜか人間の時の自我と記憶を失わずにいた。
オレは、状況収拾の作戦行動中だったUS海兵隊のターク・カニンガム大尉チームとの共闘の後、社からリーダー支援業務の名目でターク隊長のチームに派遣される。
そして、情報収集作戦の熾烈な戦闘を経て、"ガイドブック"ともいえる本来の記憶を取り戻した。
-横田基地 US海兵隊 恐竜化シンドローム発症者隔離施設 上空 09:40 DAY4
なんだか久しぶりだ。
ヘリから見る基地は、何も変わってなかった。
オレは心のどこかで安堵する。
実際には、出撃したのは昨日の早朝なので、基地を空けていたのは正味30時間ほど。
しかし、その間にオレは、内面的に別物になったと言ってもいいほど変わった。
オレたち恐竜は、白亜紀から現代へタイムトラベルして来た。
その際『時空転移システム』の何らかの不具合により、人間に生まれ変わった後に恐竜に戻るという現象が発生してしまった。その影響か、ごく一部の恐竜以外は、記憶を持ち越せていない、または、記憶も自我も喪失してしまう事態が起きていた。
オレはと言うと、人間として生きていたこの数十年の記憶の上に、恐竜として生きていた白亜紀での記憶が甦り、ホモサピエンスチックな性格のデイノニクスになった。
その他、オレを含めた超越能力を備えた恐竜の出現。
事態は何の解消もされていないばかりか、頭痛のタネが増えた。
「なんだか散らかっているな」格納庫にハムヴィー1号を乗り入れたジョンソン先生(少佐)は、所々に散らばる紙コップや隅に山積みになっているパイプ椅子に目を走らせる。
戦闘に次ぐ戦闘で、1号はボロボロになっていた。2号も、オレが落雷攻撃のパワーソースにジェネレーターを使ったために過負荷を起こし、システムダウンしたまま。
つまりチームのアシは、どちらも修理が必要だった。
チームメンバーと保護した恐竜化症発症者(以下、恐竜。)も、数々の打ち身に引っ掻き傷や噛み傷だらけ。
「全員、即時ケガの手当および破傷風の接種を受けること。1300よりブリーフィングを行う。部屋は後ほど通達する。
以上。解散」
先生が格納庫前で必要事項を告げ、解散となった。
ドロマエオサウルス科の鎌爪は、破傷風菌の温床みたいな武器だしな。用心に越したことはない。
「ポール、オレシャワー浴びたい」
「オレも行く」
「トウヤさん、ここシャワー使わせてもらえるんですか?」ドロマエオサウルス・コンビの小野さんが訊いてくる。
「一緒に行きましょうか。佐野さんも」
「じゃ、私も。ジェシー、お願いね。マリさんもご一緒しませんか?」オレの姪、デイノニクスのミハルも女性陣を誘う。
結局、チーム全員でシャワー室に直行になった。
ついでに人間勢は全員着替え、パリッとリフレッシュして講堂に出向いた。
本来ここは恐竜向けの治療区画なんだけど、作戦中に負傷した兵員と保護した恐竜を一緒に運び込めるようにもなっている。
オレは、格闘戦は数知れずあったものの、結局無傷だったので、ドロマエオサウルス・コンビの付き添いだ。待ち時間に、ノートPCでブリーフィングの資料をまとめ始める。
しかし、一体何から伝えたものか。
マインドマップ・プロセッサーで要件を書き出す。
オレたち恐竜はエイリアンから侵略を受けた
エイリアンは地球に巨大隕石を落とした
隕石の影響で地球は氷河期が始まった
氷河期の影響でオレたち恐竜は滅亡がほぼ確実だった
オレたち恐竜は実は白亜紀から来た本物
オレたちはタイムマシンを作る技術を持っている
時間がとれず3ヶ月先までの転移テストしか実施出来なかった
オレは原理部分とコアシステムの主任
オレたちは移住目的でタイムマシンで"渡り"を行った
オレたちが第四紀を選んだのは人間が地球を破壊するのを阻止する目的
人間は地球を粉々に破壊してしまう
これは予知能力竜を総動員した未来予知プロジェクトの霊視結果
オレも一応予知能力持ちなので参加した
元々は人間が滅んだ後の時代に行くつもりだった
人間に対する各恐竜氏族の意見派閥
人間殲滅派(全氏族の89%)
スローガンは、地球を破壊してしまう人間を殲滅し、我々が地球と共に生きて行く道を作ろうではないか。
人間共存派(全氏族の8%)
人間も、私たちと同じ知性もあり、愛する心を持っているのだから、話し合えば分かる。共に手を取り合って生きて行こう。
調査派(全氏族の3%)
一方的な侵略行為も根拠の薄い融和対応も是とは出来ない。現地できちんとした調査を実施し、データを検証した上で、方針を決定しよう。
ナゾ
時空転移システム
恐竜が人間に生まれ変わった後恐竜に戻る現象が起きた
記憶喪失者が多数出た
自我まで失った者も多数
転移してくるタイミングがバラバラ
白亜紀にいなかった恐竜が転移してきた
または僻地でひっそりと生きていた者が渡りに乗ってしまった?
超越能力を持つ個体が現れた
オレとミハルの極端な体重減
問題
恐竜禍(危険度:高)
ブラキオサウルスのムカリ(危険度:高)
殲滅派の存在(危険度:中)
ほぼ90%が殲滅派
恐竜に敵対的な人間への対応方針
真実の公開範囲
ターボ君&リモさん
メンバー
一般
軍
国(アメリカ?日本?どっちだ?)
死骸の山をどうするか
仕留めた恐竜を食べてもいいか?
コレはオレの個竜的な要望
一通り書き出した後、表計算ソフトで、白亜紀当時に各氏族が表明していた意思派閥を覚えている限り入力して円グラフにしたら、開いた口が塞がらなくなった。
調査派を表明したオレたちデイノニクスは、ひょっとしてバカなんじゃないかと思える。それほど、調査派を表明したクランは少なかった。
実に90%近くが人間殲滅派だった。
まあ、ざっくり7000万年も前なんだ。
統計学はなかったし、百分率なんて概念もなかった。
自分たちの意思が、どれくらい"世論に沿った物か"なんて判別する方法がなかったんだ。
いまさらながら、人間てヤツのアタマのよさに感心する。
3%。調査派はたったの3%…か…。
いや、ちょっと、気弱だった。前向きに言い直そう。
うわぁ~~~お、3%もいるぜ!!
ダメだ。どう言い直してもほとんど0。
グラスに注がれている牛乳で例えると、飲み残しと変わりない量だ。
あ~、ヤだよ~ハンバーガー食えなくなる未来とか、絶望的だよ。
それに今気付いたけれど、アレだ。
オレ、極悪竜。
人間がドロマエオサウルス科の又名に付けた、"略奪者"の呼び名に恥じない非道ぶりだ。
この恐竜禍は、『時空転移システム』の何らかのトラブルが原因。
そしてオレは、システムの基礎原理の発見者でコアシステムの主任開発竜。
つまり恐竜禍の元凶。
また、恐竜は氏族の約90%が人間殲滅派。
調査派はマイノリティの中のマイノリティ。
オレたちデイノニクスは調査派。
見方によっては、人間殲滅派の思惑をぶっ潰した、白亜紀の反逆竜。
まあ、それまで一顧だにされなかったオレの研究を、たったの半年で地球上の全恐竜を転移させられるようにしろとか、ムチャ振りカマされたワケだし。
罪はあるまいよ。
あ~しかし。これでどの面下げて、先生たち海兵隊に地球破壊抑止の調査に協力してくれ、なんて言えばいいんだろ?
ていうか、その場でハチの巣にされても文句言えねぇ…。
殲滅派も記憶取り戻したら、その場で八つ裂きにされちまうぜよ…。
逃げちゃおっかな~。
なんてな。
それじゃ、地球がアステロイドベルトにされるバッド・エンド確定なんだよ。
または人類滅亡のバッド・エンドか。
しゃあねぇ。
副長のジョージ(レナード大尉)と作戦会議だ。
オレはジョージにブラックベリーでショートメッセージを入れた。
トウヤ:ランチタイムMTGに付き合っていただけませんか?
ジョージ:昼過ぎのMTGが延期になった。ランチタイムMTGは重要な内容?
トウヤ:また"懺悔"聞いてください
ジョージ:OK;-)
オレはビュッフェで、ローイン大尉のハンバーガーを頼んだ後、テーブルでジョージを待った。
「やあ、待たせたね」
「お忙しい所、ありがとうございます」副長は、従軍牧師も兼任している、アサルトライフル・プリーチャーなんだ。
話自体、注意を要する内容なので、食べた後にすることにした。
食事自体は旨かったし、雑談も楽しかった。
そして、本題。
「コレなんですが。
オレが思い出した記憶をまとめました。
見ていただいた後で、今後どうするか相談に乗ってもらいたいんです」
「分った。とりあえず、見せてみてよ」
オレはノートPCを開き、ジョージの前に置いた。
パソコンの画面をつらつら眺める内に、ジョージの顔が真っ青になってゆく。
「トウヤ、この内容だけど、真実なのかい?」声が震えている。
オレは黙ってうなずく。
「マイガッ!!(神よっ!!)」ジョージは頭を抱えて悲鳴を上げた。
「スマン。僕じゃもうフォロー不可だ!」
…ですよね。
「こんなの人類の道徳観念を超えてるし、恐竜の道徳観はまだ君から教えてもらってないから判断出来ない!
エキスパート交えてコレをどうするか話し合いたい。
いいね?」
「否応ありませんよね」
ジョージはスマフォを出すと、どこかへ電話を掛けた。
『キューピークス…』知らない用語が早口でいくつか出てくる。
「じゃあ、行こう」ジョージは先に立って歩き出す。そして、オレがまだ"探検"を済ませてない区画に、オレを連れて来た。
どうやらVIP用の会議室らしい。重たそうなドアは、防音性が高そうだった。
部屋の中央には会議用にデカいテーブルが置かれ、その奥にポール(エストラーダ中尉)がいた。
「ジョージ、ポールには内緒の…」
「いいんだよ。ポールは、僕以上にこの状況を知っている。
隠していたけれど、情報将校なんだ。
中尉というのも表向きで、本当は少佐。実は僕よりも階級が上なのさ」
「だって日本語もしどろもどろで…」
「諜報要員なんだ。それくらいの演技訓練は受けている。
さ、資料見せて」
不愉快だ。
詰まる所、自己判断でアクションを起こせる立場にあり、いつ寝首を掻きに来るか分からない相手に、常時監視されていたわけだ。
そこまで考えが至らなかったオレが、バカだった。
まあ、ソレはソレだ。
オレはノートPCをエストラーダ少佐の前に置いた。
ポールは何も言わず、さっきジョージに見せたマインドマップをしばらく眺めていた。
やがてポールは、重々しく顔を上げる。
「これを明かしたということは、逃げるつもりはない、ということでいいんだな?」
「はい」
「白亜紀と第四紀をまたにかけた地球規模での騒乱の元凶。お前は、言わばA級戦犯以上の罪を犯しているんだぞ?」
「ざっと7000万年前、人類史以前のことです。現代の刑法では罪には出来ませんよ。
前向きに考えませんか?
私は、地球が破壊されるに至る原因を見付け出し、それを排除したいだけです」
「まったく、お前には呆れるよ。
白亜紀のタイムマシン発明者で、予知能力者のデイノニクス。
圧倒的な戦闘力を持ちながら、少年のように純粋。
仕方のないこととは言え、人類文明と恐竜文化の両方を崩壊させた張本竜。
まるでSFかホラ話だ」
ごもっとも。
「けどな。お前のバディとして、この3日間の付き合いから言わせてもらうとだ。
お前は、本当の事を言っているんだろうな。
しかしだ。
だからと言って、こんなの洗いざらいぶちまけるバカがどこにいる?
もう少し政治的配慮とか考えなかったのか?
バカ正直にも程がある」
バカって2回も言われちまった。
「考えたさ。
その上での判断だ。
さっきも言ったが、オレは、地球を蔑ろにする連中を狩り出して、息の根を止めたいだけだ。
そのための前渡金と思ってくれ。
どうする、ポール?
君たち人間が手伝ってくれなくても、オレはひとりでもやるぜ。
君たちが追手を差仕向けようと構わない」
ポールは、しばらくオレをじっと見つめた後、ちいさなため息を付いた。
「まったく。
オレが言ってるのはそういうことじゃない。
気の小さいお偉方がキーキー騒ぎ出すから、もっと軽めのネタを、時間を置きながら小出しにしてこい、と言っているんだ。
まあ、タイムリーではあるけどな」
「タイムリー?」
「昼からのミーティングが延期になったのは、ハワイからお偉いさんが、わざわざミーティングに参加しに来るからなんだ。
もう基地に到着している。
そのための準備に大忙しだというのに。
しょうがないから、プレゼンはお前がやれ。
レビューは済んだから、内容はこのままでいい。
ジョージ。すまんが、ミーティングまでトウヤに付いていてくれ。
オレは、まだ"掃除"があるんでな」
ジョージが立ち上がり、退出しようとするので、オレも付いて行く。
「トウヤ」ポールが呼び止める。
「なんでしょう?」
「トライセラ(トリケラトプスの英語発音略)のビルを止めたり、ラーメン食ったり、十字路での翼竜との戦闘。
オレのバディを任せられるヤツは、他にいないんだ。
硬くならんでくれ」
オレは何も答えず、敬礼を返して退出した。
「ポールのこと、気に障ったかな?」無言のまま通路を歩いていると、ジョージがオレを見下ろしながら話し掛けてきた。
デイノニクスは、体格的に人間の鳩尾の辺りに頭がくる。必然的に見下ろされる形になる。
「それは、まだ保留にさせて下さい」心の整理が付かない。
「…これは内緒だけど、キミの引き抜きを大統領に提言したのは、ポールなんだよ。ファースト・ハンドラーに真っ先に名乗りを上げたのもね」
オレはジョージを見上げる。
「それほど君を欲しがったんだ。
彼は、戦闘と諜報をどちらも秘密裏にこなさなくてはならない、重要なポジションだから」
「…ジェシー(シャルビノ少尉)もポールのことは知っているんだね?」
ジョージは無言でうなずく。
この前聞いた、アフリカでの秘密作戦の真相がうっすら見えてくる。
「でも、そんなの今の彼に取って、ただの始まりなんだと思う。
ジョンソン少佐からラーメン屋でのエピソードを聞いたけれど、彼があそこまで周りの人間に気を許す所を見たことがないそうだよ。
それに、昨日の夕方、君を失った時。
彼が、恐ろしく腹を立てていたのが分かる。
君の損失報告の後、一言も口をきかず、気でも違った様に目をギラ付かせて、戦闘アンドロイドのように黙々と敵を沈めて行った。
君が戻って来てから倒れた時なんて、半狂乱になってジョンソン少佐に喰ってかかったりね」
「…そんなことが?」
ジョージは静かにうなずく。
「…彼、海兵隊じゃないんだね?」
これはキラー・パスだったか。ジョージは、言葉に詰まった様子でしてオレを見下ろす。
「立場上、答えられないんだ。
今のはオフレコだよ、いいね。
これバラしたら、今度こそ、僕も一緒に国家反逆罪で銃殺だ」
なんだか、いたたまれない。
オレの本能は、ヤツを危険な敵だとアラームをがならせている。
けれど、ジョージはウソは言わない。
我知らずため息が漏れる。
「センセみたくストレートに言やいいのに」
オレは回れ右すると、元来た通路を戻る。
さっきの部屋の前まで来ると、ポールの姿がはっきり見える臭いがする。
オレは空中のニオイを辿り、何度か角を曲がる。
その先の通路では、見慣れた男が脚立の上にまたぎ立ちし、天井裏のダクトに内視鏡プローブを突っ込んで、戦々恐々という面持ちでモニターを睨んでいた。
「"掃除"手伝おうか?」
オレの声に、ポールはバツが悪そうに見下ろす。
「人間じゃ時間がかかるだろう?
C4のニオイ覚えさせてくれれば、すぐに探し出せる」
「…頼む」ポールは脚立から降りてくる。
「オマエのこと、納得したワケじゃないからな」
「抜かせ、このマッドサイエンティスト恐竜」ポールはそう言いながら、オレの額をコリコリと掻いてくる。
「じゃあ、後はよろしく"中尉殿"」
ジョージは、にこやかにそう言うと、仕事に戻って行った。
その後オレは、ポールと一緒にあちこちのダクトや溝を嗅ぎ回り、30分程で"掃除"を完了させた。
途中で、暗殺用らしき、ちょっとデキの好い爆弾が見付かった。
ちょうどパソコンを持っていたので、起爆回路のマイクロ・コントローラーをちょっといじり、作動不能にしてやる。
爆弾には仕掛けたヤツの臭いがプンプン残っていたので、犯人は簡単に特定出来た。
ヤッコさんは、オレがキバを剥いて睨むと、命乞いをしながら洗いざらい白状した。
ちょっといい憂さ晴らしになった。
ジェシー:トウヤってお人好し。
ポール :オレのコト、ホントに気が付かなかったのか?あれだけ"フリ"出してたってのに。
トウヤ :キュル(白亜紀じゃそこまで考える必要なかった。疑わしい相手は、敵認定で即殺してたし)。
ミハル :なんかネイティブでヤヴァイこと言ってますよ。




