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恐竜日和 ウォーク・アバウト  作者: ニジヘビ
ミリタリーお茶会編
67/138

067:川辺にて

 本業が忙しくてしばらく動けなかったよ。

 今回は、バリオニクスの平さんが、トウヤとのお別れに郷土料理(?)を振る舞います。



 067:川辺にて


 東京都江戸川区某所の小学校、自衛隊さんの避難所で朝を迎える。

 戦闘につぐ戦闘で帰投が困難になったため、オレたち海兵隊チームは、自衛隊さんのご厚意で、避難所に泊めてもらったのだ。


 まだ陽が昇ったばかり。

 宿代わりにお借りしている教室は、生徒の子供たちが描いた絵や、校内スケジュールがあちこちに貼られている。

 チーム・メンバーと保護した発症者(以下、恐竜。)たちはまだ寝ているので、起こさないよう静かに眺める。

 ヘタウマな色々な絵。給食の献立表。黒板には4日前の日付と日直当番の子の名前。

オレの知らない時間がここで流れていて、今は止まったままになっていることを示す証跡エビデンス

そのどれもが、気恥ずかしくも愛おしく、そして切なく思う。

 教室を見回していると、目を覚ましたジェシー(シャルビノ少尉)と目が合う。ジェシーは、口の前で指を立てた後、外を指差す。

 オレたちは、装備を前肢にすると、校舎の外に出た。いつ襲撃があるか分からないので、各メンバーとも武器は常時携帯とされている。


 恐竜化シンドロームが始まって、今日で4日目になる。

 まだ朝早いので、校庭には自衛隊さんの歩哨しかいない。

「都内もクルマが走ってないと、結構空気がきれいなんだな。んっ~~」オレは伸びをしながら、誰に話すでもなくつぶやく。

 カメラのシャッター音がしたので振り返ると、再びシャッター音。ジェシーが、愛用のニコンF3/Tを構えていた。

「ワシタカのストレッチみたいで、きれいね」ジェシーは、満足気にニコンを下ろした。

「オヤジ恐竜褒めても、何も出ないよ」ちょっと照れるな。

「警戒心の強い生き物が、リラックスしている所を観られるだけでハッピーよ。好い一日になりそうだわ」

 そう言えば、ジェシーは、オレとミハルの撮影記録係だったっけね。

「いいショットになったかな?」

「多分ね。出来たら朝の羽繕いも撮りたいわね」

「う~ん歯磨きくらいで手を打たないか?歯を磨くデイノニクス」

 白亜紀でもそうだったけれど、身繕いや食事中の相手をガン見するのは、マナー上よろしくないんだよ。

「歯ブラシあるの?」

「そういや、お泊りセット持ってきてなかった。自衛隊さんに言ったらもらえないかな?」

「行ってみましょ」


 まだ朝早かったものの、自衛隊さんは、ウチの人数分持っていけと、ツーショのセルフィーと引き換えに、4ケースほど寄越してくれた。


 そして校舎に戻ろうとすると、バリオニクスの平さんが網を担いで校庭を横切って来る所に行き会う。

「お、早いなトウヤさん、ジェシーさん」

「おはようございます。どうしたんですか、朝から大漁ですね」平さんが背中に担いでいる網には、コイかなにからしき魚がたくさん入っているようだった。

「朝メシと夕メシの材料獲って来たのよ」

「一人でですか?」

「ん?、アイツらに河まで連れてってもらったよ」平さんは校庭の駐車スペースからやってくる二人の自衛隊さんを指差す。

 岩田曹長と成畑一曹。

 ここしばらく海兵隊ウチの脚代わりにトラックを出してくれているコンビだった。そう言えばこの二人、オレがチャカ壊してジェシーに怒られてる時にもフォローにきてくれたっけ。

「おはようございます」

「おはようございます!山本少尉、シャルビノ少尉」

「朝イチから大漁だね」

「はい、平さんが一肌抜いでくれるというので、ちょっと張り切りました」

「朝メシ食べてくだろ?朝は鯉こく付ける。残りは夜にコイの唐揚げだ」

「あれ、平さん、一緒に来るんじゃなかったの?」

「これから避難所ココも大変だ。残って手伝うことにしたよ。オレのこの図体なら、漁で食いモノ取ってこれるしな」

「そうですか。色々とお世話になりました」ちょっと寂しくなる。

「なに、こっちこそ色々助かったよ。また遊び来てくれ。ジェシーさんもな」

「ええ。様子見に来ますよ」

 平さんたちは調理場の方へ魚を担いで行った。

 そこへ、少年トリケラトプスの光希君が走り寄って来て、合流する。自衛隊コンビの一人が、光希君の肩をポンポンと叩きながら、何か話し掛ける。

「道が見つかってよかった」

「ええ、ワタシもいい気分。それに、鯉こく楽しみだわ。どんな料理なの?」

「ん?江戸時代から続く、江戸の伝統料理。コイの味噌煮だよ」

 鯉こく。前に食べたことあるんで知ってるんだけど、あの時のは"本式"とかで、輪切りの鯉を、ネギか何かと一緒に濃いめの味噌で煮込んだモノだった。

 現代慣れしたオレの感覚からすれば、あまりおいしいとは思えないけれど、これが150年前ならそれなりのごちそうだったんだろな。

 とは言え、恐竜禍に見舞われている今、重要な栄養源になる。

 それに平さんのことだ。伝統的オーソドックスなレシピを出してくるとは思えない。

 ちょっと楽しみだ。


 教室(宿泊室)に戻ると、そろそろみなさん起き出してきていた。

 人数分の歯ブラシをもらってきたことを告げて、教壇の上に歯ブラシを置くと、洗い場へ出向く。

 今度は副長のジョージ(レナード大尉)が、M4ライフルを肩に下げて随行してくれることになった。

「サンクス、みんなの分まで」ジョージは、使い捨て歯ブラシをタクトのように振りながら、礼を言ってくる。

 オレは、周りに人間や恐竜がいないことを確認する。昨日の礼もあるし、ちょっと白亜紀のエピソードをジョージに教えとこう。

「この際言っちゃうと、デイノニクスを始め、多くの肉食竜は、歯が何度でも生え替わるから、別に磨く必要はないんだな。

 けど朝の羽繕いやうがいは、白亜紀でもやっていた習慣だし、オレたちからの狩りの獲物に対する礼儀の意味もあるんだ。

 それはそれとして、いい習慣は、人間だろうが恐竜だろうが続けるべきだ」

「そうだな。なあ、白亜紀じゃ恐竜同士で言葉は通じていたのかい?」

「英語みたいな話し言葉があったんだよ。

 ネイティブは同族系にしか通じないんだ。

 オレは言語学者じゃなかったんで、詳しくは知らないけど、ある程度は広く通じるみたいだ。

 例えば、オレは始祖鳥の藤沢先生とはネイティブで話が通じるけど、トリケラトプスのビルには通じない。

 けどオルニトレステスとか肉食と草食半々の種属は、草食とも話が通じるみたいだったな」

「ふーん。じゃあ、ミズ・ワタナベ(エミさん)は草食恐竜とも話が通じるんだ?」

「そのはず。けど、探ったりしないでよ?エミさんは、あくまでも"人間"なんだから」

「もちろんさ」

 どーなんだか…。

「あのさ、オレと話してる時はフツーなのに、なんで他のきょ…発症者を前にすると我を忘れるの?」

「うん?そんなにエキサイトしていたかい?」

「かなりね。ジェシーもそうだけど、他の発症者たちも結構引いてたよ」

「そんなに?」

 う~ん、やっぱり自覚なかったのか。

「せっかくの金髪、ブルーアイのイケメンが、イメージブチ壊しだよ。

 黙ってM4構えているなら、そのままハリウッドのアクションスターでも通用するのに。

 もったいないよ」

「…アクションスター?」

「ソレも自覚なかったっての!?」

「ああ」ジョージは手で口を覆い、照れつつも目を白黒させている。「…気を付ける」

「目指せ"カッコいい上司"。コレでもあなたを信頼しているんだ。分かりづらいだろうけどね」オレは鼻先でジョージの腰を小突く。


 外の洗い場では、トルヴォサウルスのターボ君がうずくまり、リモさんに高圧洗車機で口を洗ってもらっている所だった。

 なんだかこのマシン、ターボ君と平さんの生活必需品になりつつあるな。

「おはようございます」笑いをかみ殺しながら挨拶する。

「あら、おはようございます。好い朝ね」

「泊まられたんですか?」

「ええ、この子ったら昨日の夜ハッスルしたものだから、あの後そのまま寝ちゃったのよ。私じゃこの子抱えてベッドまで運べないし」リモさんは肩をすくめる。

「朝食を頂いたら戻ります。色々お騒がせしました」

「いいえ、こちらこそ。また来てくださいね。今度はお茶しましょう」

「この騒動が一段落したら、ぜひ」

 一方のターボ君は、いつもと違う神妙な様子で、何か訊きたそうだった。

「どうしたんだい?静かだけど」


「トウヤさん。前にオレと会ったことありますよね?昨日今日ってことじゃなく」


 記憶が戻りかけているのか?

 だとしたら、注意しないと。

 彼に取って、一体どちらがいいのか。人間として生きて行くか、白亜紀からやって来た時間旅行者か。

 彼の目は、大切な願い事をしている時のように切実なものだった。


 彼は、白亜紀でも今と同じ気さくなタチで、気の知れた狩り友だった

 それに彼は大型狩猟竜としては珍しく、人間を一方的に滅ぼすなんて間違っている、と調査派のスタンスだった。


 周りには他に誰もいない。

 オレはアイコンタクトで、ジョージに話してもいいか確認した。

 ジョージは、少し間を置いてからうなずいた。


「…そうだよ」

「一緒に恐竜の音楽フェスに行ったことも、ほんとにあったことなんですか?」

「そうだよ」

「ミハルさんと一緒に、3人で狩りに行ったことも?」

「そうだよ」

「あの戦争も?」

「そうだよ」


「かなり悩みましたよ。気がヘンになったんじゃないかって」


「大丈夫だよ。キミは、街にいる連中のようになったりしない。請け合うよ。

 この件は、昨日判ったばかりで、まだ機密扱いなんだ。

 君は昔も今もいいヤツだし、口も固い。

 悪いけれど、他言無用だよ」

 オレは、リモさんも含めて、念を押す。

「本当はもっと色々伝えないとならないことがあるんですよ。

 けれどここは場が悪い。

 遠からず有識者を交えて話します。

 それまで、オレと貴大たかひろ君を信じてはもらえませんか?」

「…私は、今までと同じように貴大と接していればいいのね?」

「はい。取り敢えず、オレと貴大君に限っては、白亜紀のアメリカから現代の日本へホームステイやワーキングホリデーに来たんだと考えてもらって差し支えありません。

 けど出自は内緒、という事で」

 オレはターボ君にノーズ・タッチ(鼻先を摺り合わせる親愛のボディランゲージ)しながら続ける。


「ようやく会えたな。ようこそ、第四紀へ」


 この体になってから、というより、元の体というのは口が大きいので、歯を磨くのに結構手間が掛かる。

 ようやく磨き終わったものの、朝食まではまだ時間がある。

 手持ち無沙汰にポケットから愛用のライターサイズ・ラジオを出して付けると、ラジオ体操の時間だった。6:30か。

 一応、人間だった時に習慣にしてたんで、体操を始める。

 すると、他の恐竜やら人間やらが、会釈しながら入ってくる。

 そうすると、自衛隊さんがちょっと大きめのラジオを持って来てくれ、そのまま体操に加わった。

 まあ、なんだ。

 ラジオ体操第一は、獣脚類セロポーダでも出来るんだけど、それなりに制限はある。ついでに言わせてもらえると、尻尾周りの運動も入っているといいんだけどな。

 なんだかんだと第二まで体を動かし、お開きになった。


 そこで、校舎の方から悲鳴が上がり、何かが崩れる地響きがする。


 校舎の隅にある用具室の辺りだ。

 昨日逮捕した石山元一尉(コージ君)とその一味を収監してある。

 副長と自衛隊さんたち、そしてターボ君も一緒に行くと、用具室の辺りが半壊し、外で6~8m前後の見掛けない中型セロポーダがうずくまっていた。

 人間勢がライフルを構えると、何かがぶちりとちぎれる音をたて、セロポーダが無表情な目でオレたちを振り返る。その口元は赤黒く染まり、人間のモノらしい脚が咥えられていた。

 校舎の陰から、歩哨に就いていたらしい自衛隊員が顔を出し、必死の面持ちでハンド・サインを送ってくる。

 オレは、救護に向かうとハンド・サインで副長に告げ、アンノウン・セロポーダの死角を縫い、加速モードで隊員の所へと馳せる。

 校舎の陰に隠れている隊員の後ろでは、昨日逮捕したコージ君お付の手下が、体を壁に預け、荒い息をついている。左手で押さえている右の二の腕から先はなく、ズボンのベルトで止血を続けているけれど、ショックで痙攣を起こし掛かけている。コレはマズいな。

「大丈夫か、ケガはないか?」もちろん自衛隊さんに向けての確認だ。

 隊員は、急に現れたオレにギョッとしながらも、声を立てずにアンノウンから身を隠す。

「私は大丈夫です。収監していた石山一味の中から"発症者"が出ました。扉を破り、中から出てきた時に攻撃され、ライフルを破壊されてしまいました。その…今喰われているのは…逃げ出した石山の手下で…」

「…アレ…は…た、隊長だ…」石山一味の生き残りが、ゼエゼエと息をつきながら途切れ途切れに言う。「く…喰われて…いるのは、飯能と…葉山だ…」

 アンノウンに踏みつけられ、すでに息絶えている石山一味の顔は、ここからでも見えた。確かに、昨日体育館で対峙した二人だった。

「分った。キミはコイツを救護室へ連れて行ってくれ。オレは戻る」オレは、ポーチからファーストエイド・キットを出して、隊員に渡す。「モルヒネが入っている。コイツがショック死しないよう、打ってから連れて行ってくれ」


「副長、トウヤです」オレはトーキーで副長を呼び出す。

「どうした?」

「自衛隊員は無事。石山一味は2名死亡、1名重体。隊員に救護室へ搬送するよう指示しました」

「ROG。コッチに戻ってこれそうか?」

「はい。しばらく時間を稼いでから戻ります。それまでに戦闘準備を整えておいて下さい」

「今、僕のも含めてライフルは6丁ある。援護はなんとか出来るぞ」

「今はタマがもったいないからイイです。

 それより、これから石山にネゴシエートします。

 多分、自我無しに堕ちてると思います。

 記録通訳は、そこにターボ君とエミさんもいるから、ふたりに頼んで下さい。

 場合によっては、"アレ"を片付けます」

「ROG。相手はティラノサウルス科で、種は特定できない。ユーティラヌスかゴルゴサウルスだ。君なら大丈夫だろうけど、ムリはするな」

「コピー。オヴァ」


 オレは、アンノウンの前に進み出る。

 それにしても、ガッコの裏庭で因縁の対決なんてな。半世紀前の番長モノ漫画だよ…。


「イシヤマ!」

『何だ、お前は?狩りのおこぼれが欲しいなら、後にしろ』オレに敵愾心マル剥きにしていた、コージ君らしからぬ物言い。

「石山。お前が喰ったのは、お前の部下なんだぞ。分からないのか?」

『何変な言葉話してんだ、とっとと失せろ!』

 …だろう、な。ナンボがナンボでも、部下を食い殺すリーダーなんてのは、白亜紀でもいやしない。

 ネイティブしか話さず、日本語も理解出来ていない。


 恐竜になって自我も失い、文字通りのヒトデナシに堕ちたか。


『食い残し漁りの能なし風情が。オレのナワバリ荒らし回って、只で済むと思ってやしないだろうな?』せめてもの情けだ。ネィティブで引導をくれてやる。

『生意気なチビめ、食い殺すぞ』

『笑わせるな!口上はもう飽きた。オレの爪研ぎ台になれ』


 オレは石山の成れの果てに向けて踏み出す。

 石山は怒り心頭に、猛ダッシュしてくる。

 オレに向けて、大口を開けて食いかかってくるアンノウン。


 加速モード・オン。


 オレはヤツの右腕に向けて、ヤツのアゴの下から全力で跳ぶ。

 体格の割に矮小な腕。デザートフォークにもならない、二本爪。

 肘関節の内側に両脚の鎌爪を揃えて突き立て、手首に食い付くと、テールをフルスイングし、ヤツの腕を体の外側に全力でこじる。

 鎌爪が靱帯を切り裂くと、スピンが掛かった加速状態のオレの全体重に、ヤツの腕は関節が外れ、粘土のように肘から抜け落ちる。


 地面に脚が付くまで、ちょっと時間があるので、スマンが一口。

 やっぱり取れたての肉の味は格別なんだ。

 口の中に広がる、濃厚なスープが染みた肉の味。

 うめぇ!

 6700万年ぶりの獲物の味は、石山一味の生き残りのカタキの分もあり、格別だ。


 手羽先は結構ウマかった。

 次はモモだな。

 今は、獲物の外に向けて、慣性のままブッ飛んでいる所。翼を広げて地面に急降下し、地に脚が付くと軌道変更のステップを踏んで尻尾の方へ跳ぶ。

 尻尾に取り付くと、両鎌爪と前脚の爪を突き立ててブレーキ代わりにしつつ、相手の尻尾を引っ張る。

 相手は後ろの方へとゆっくりとバランスを崩し、膝が伸び始める。

 オレは、鎌爪を立てて尻尾の裏側を、左膝の裏に向けて猛ダッシュ。

 今度はちょっと部位が大きいので、シースからナイフを抜き、鎌爪もフル導入して腱をあらかたカット。ついでにモモをひとかじり。

 ん~~!!

 今まで、クリスマスにローストチキンのモモを毎年食ってきたけれど、40年分の味も、今口の中に広がるこの味の前にはかすんでしまうな。


 尻尾を引かれ後ろにバランスを崩した状態のアンノウンは、膝が伸びきっている状態で腱と靱帯の支えがなくなったため、ゴリッと音を立てて膝関節が外れ始めた。

 さて、後はほっといても倒れてくれるから、トドメの用意だな。


 オレは、倒れてくる獲物のアタマの方に回る。

 アクション映画の演出だと、この後空高く跳び、直上からフィニッシュを決める方が絵にはなるんだけど、加速状態だと逆にダメージ上げられないんだ。

 自由落下より地を蹴ってダッシュする方がスピードを上げ易いもんでね。

 オレは地面に爪を立て、加速モード全開でダッシュする。

 そして、倒れてくる獲物の脳天に向けてジャンプした。

 このレベルの物理エネルギー系になると、厚さ5センチ程度のカルシウム壁は、キッチンのプラスチック製ボウル程度の強度しかなくなる。

 まだ落下中の獲物の頭部は、オレのドロップキックを受け、頸椎が折れる感触に続き、頭蓋が砕けながら陥没して行く。


 オレは、断末魔のアオリを受けないよう後ろに跳びすさり、加速モードをオフにして様子を見る。


 倒れた獲物はピクリとも動かず、次第に胸がしぼんでいった。


 これで、一つ心配事が減った。



 平さんの心づくしの朝餉をいただいた後、タークチームは、帰投のためピックアップ・ポイントの河川敷へと移動する。

 名残惜しいけれど、ここで多くの恐竜たちとお別れだ。

 自衛隊さんがトラックを出してくれたので、大迫二尉他、主立った恐竜たちも見送りに来る。

 トルヴォサウルスのターボ君とも、久しぶりに会えた。

 バリオニクスの平さんは江戸川に残り、避難所でボランティアを始めるという。少年トリケラトプスの光希君を養子に引き取って。

「また来いよ。今度来た時、ウマい刺身喰わせてやっから」

「じゃ、手土産にいい醤油持ってくるよ。鯉こくごちそうさまでした。ネギか芹があるとよかったな」

「ちげぇねえ(違いない)」二頭で苦笑する。

「コーキ君も元気でな」

「うん。おじさんもケガしないでね」


「じゃ、ターボ君、リモさん。また後で。近いうちにすぐコッチに来ることになる」ブラキオサウルスの能力者、ムカリの捜索があるからな。

「いつでも来てくださいよ」

「今度来た時は、ミハルと一緒に白亜紀の思い出話でもしよう。

 リモさん。石田君は白亜紀でもターボと呼ばれていました。名前の意味も"貴大"そのままです。いいヤツだし頼れるから、心配しないで今まで通り接してあげて下さい。

 ただ、体が大きいから、彼の死角に入らないよう注意して下さいね。気付かずに彼のシリに潰されたら、エラい事になりますよ」

「ふふ、分かったわ。今度いらっしゃったら、次こそはお茶にしましょう」

「ええ、楽しみにしてます」


「二尉殿、お世話になりました」オレはエスコートに来てくれたタクちゃんに敬礼で別れを告げる。

「多分、昨日逃げたブラキオサウルス捜索の共同作戦が近い内に展開されると思います。その時、またお世話になります」

「少尉。本当に助かりましたよ。ターボ君もそうですけど、あなたたち抜きでこの世界を生き残れるとは思えない。何かあったら連絡して下さい。

 それに、プライベートでラーメン食べに行く話もあることですし」

「はい。少佐殿とバディも一緒に。

 エミさん。色々ありがとうございました」

「私の方こそ。また言葉が喋られるようになって、お礼の言葉もありませんよ」

「あなたはなんだかんだ言って、"ヒト"との交流が好きな方なんだ。自分に自信持って行けば、何もかも上手くいきますよ」白亜紀で、果物農家を切り回していたオルニトレステス。記憶を取り戻せていないのが残念だよ。「タクちゃんをよろしくね」


 別れを告げていると、爆音が聴こえてきた。

 コール大尉のCH-46 シーナイトが、また来てくれた。

 今度は、CH-47 チヌークを2機随伴している。


「もうオナカ一杯だ。そろそろ帰投するぞ」ジョンソン先生(少佐)はホクホク顔だ。

 恐竜たちの様々な症例ケースを大量にサンプリングできたからだ。

 トロオドンのマリさんは当初の予定通り、ジョンソン先生に精神科医からのヒアリングをするために付いてくると言う。

 もちろん弁護士としての情報収集と、今後の作戦会議のためだ。

 そして、ミリタリー・ショップ ダット5のドロマエオサウルス・コンビも。作戦協力者として頼もしい戦力が増えた。


 チヌークにハムヴィーを吊り下げると、3機のタンデムローターが、いつもより図太いタービン音を轟かせてリフト・オフ。


 避難所のメンバーが、堤防の上から手を振るのが、窓から見える。


 ターボ君とリモさんとのお茶会は結局出来なかったので、作戦(?)は失敗と言うことになる。

 しかし、目標を遥かに超える成果を得られた。

 自衛隊の猛者、習志野空挺部隊とコネが出来たのは大きい。江戸川区エリアの恐竜勢や人間勢にも知り合いがたくさん出来た。


 何より、オレ自身、取り戻した"記憶"が最大の成果と言える。

 壊れつつあるこの世界を生き抜く上で、重要な鍵となるからだ。


 オレは、"ガイドブック"となるこの記憶と経験を頼りに、この世界を歩いて行ってみようと思う。

 また昨日のようなファイヤー・パーティーが出来る日を、夢見ながら。


ジョンソン:ようやく一段落だ。なんでこんなに大変だったんだ?

トウヤ  :さあ?

ターク  :作戦の見通しが甘かったな。

ミハル  :生き残れば勝ちですよ。

マリ   :そうです。さあ、これから忙しくなりますわよ。


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