065:竜のために鐘は鳴る #2
ドロマエオサウルス・コンビの活躍。
やっぱりサーキット走るなら、2ストレーサーが楽しい。
065:竜のために鐘は鳴る #2
小学校の放送室を占拠しているテロ野郎。元自衛官の石山、通称コージ君を仕留めに、オレとミハルは、夜の校舎をチャカチャカと進む。タイル張りの床だと、どうやってもツメの音が立ってしまうな。
「ちょっと昇降口寄るよ。手ブラじゃ悪いんで、コージ君にはオミヤゲを持ってってやろう」
「おみやげって、何です?」
「ほら」
結構どこでも置いてるんだよな。小学校って。
校庭で遊ぶための、ボールやら何やらを入れとくケージ。
ちょっと失敬することにする。
2階の放送室への階段を登る所で、校庭の方から銃声が聴こえて来た。
聴き慣れたジェシー(シャルビノ少尉)のレミントンM700の音だった。エミさんたちが持ち帰った弾薬を早速振る舞っているようだな。
応戦を始めた敵の、ライフルの銃声が2。
M700の銃声。敵のライフルの銃声が1になる。
M700の銃声。
そして元の静寂が帰ってくる。
ジェシーってホントいいウデしてるよな。
「どうした、応答しろ!」階段の上の方から、言わずもがなの声がする。
壁の陰から覗くと、うろたえながら放送室の中を振り返る、手下の見張り。
脇見してんじゃないよ。
掛かるかどうか知れないが、加速モード・オン。
世界から音が消える、あの感覚が帰ってきた。
オレがサイドスローで投げたドッジボールは、手下の横面にクリーンヒット。
陸上以外のスポーツはニガテなんだけど、当たってよかった。外した時の用心に、ミハルに待機してもらっていたが、間に合った。
バウンドして戻って来たボールをキャッチしたところで、放送室から泡食ったコージ君が、ライフル片手に出てくる。右肩をタクちゃん(大迫二尉)に射抜かれてるんで、腕を吊っていた。
オレは、前肢のボールをバウンドさせ始める。
「ラーメン屋で会ったから、自己紹介はもういいよな?引導届けに来たぞ。出来たら、降参してくれ」挨拶代わりに、バクンっと口を鳴らせてやる。
タンッ タンッ
「ふざけてんのか!」
「オマエの代謝物質で校舎を汚染したくないんだよ」日本人のツラ汚しへ、心からのホンネをブチ撒ける。
タンッ タンッ
「クソ恐竜が!」コージ君は何を考えたのか、腰溜めの片手撃ちで、フルオートで撃ってきた。
マズルフラッシュの最初の向きを見て、簡単に避けられる。
オレの後ろの方で天井が爆ぜ、流れ弾だか跳弾だかで色々割れる音がする。
コージ君は、左手だけでライフルの抑えが利かないのか、マガジンが空になるまで撃ち続けた。
悪いんだけど、利き腕じゃない方の腕使って腰溜めのフルオートでタマ命中させるなんて、そんなのファンタジーだよ。映画の中でも観たコトない。
撃たれてる側の立場のコメントではあるけれど、せめてハンドガン使おうよ。
タンッ タンッ
「誰もいない夜の小学校で、カチコミの予行練習か?実弾のフルオートなんか使うなよ。もう降参してくれ」
「う、うう…」コージ君は大慌てでマグ・チェンジしようとする。しかし、マグポーチからマガジンを取り落とす。
タンッ タンッ
「そのタマ(.223レミントン。正確には5.56mmNATO)、1発いくらか知ってるか?」時間掛かりそうなんで、ネタ振りしてやる。
タンッ タンッ
「大体、40円から100円くらいか。オレが使ってる.45ACP弾だと、ファクトリー・ロード(弾薬メーカー生産品)品のバーゲンセールなら20円くらいからだ」
オレが話している間に、コージ君はようやくマガジンを取り出すが、ライフルには、空になったマガジンが刺さったままなのに気付き、大慌てでマガジンを抜こうとして、交換用に持っていたマガジンを取り落とした。
右手使えないんだから、しょうがないんだけどさぁ。
このバカ人間には、いい加減ウンザリだ。
タンッ タンッ
「オマエには、それ使う価値もないんだよ。
このボールで十分」
タンッ
「避けて見せろ!。次はオレのキバで、獲物としての誉れを供じてやる」
加速モード・全開。戦闘用防護服の性能か運がよければ、死なずに済むだろう。
オレがフルスイングで投げたドッジボールは、ソニックブームの遙か先を進んで行った。
そして縦の逆スピンが程よく掛かったボールは、次第にホップを始め、ヤツの首元にキマッた。
極超音速で激突したボールは破裂し、遅れて届いたソニックブームと合わせて轟音を上げた。
コージ君はボールと衝撃波に弾き飛ばされ、壁まで吹っ飛ぶ。
鉄筋モルタルの壁は、テロリストにビクともしなかった。
しかし、放送機器はそうでもなかったようだ。
校内用予鈴チャイムの時報タイマーが衝撃で誤作動を始めたらしい。
ウェストミンスター・ベル。
侮蔑を込めたように、少し濁った音だった。
気絶したコージ君と手下をパンツ一丁に剥き、タイラップで手足を捕縛する。パンツの中身だけは、ボディチェックだけで勘弁しておいてやる。も少しマジなテロリストだったら話は別だけどな。
装備一式を丸めて担ぐと、オレとミハルは、体育館の方へ急ぐ。
まだ避難者たちが人質に取られているはずだ。
「トウヤさん」
「ん?」
「殺さないでくれたんですね」
「ヤツの悪運が強かっただけだ。それに、エミさんにボコらせる約束したしね」7000万年前にもらった、果物へのお礼だよ。
そこでブラックベリーに、スマフォで撮ったものらしい壁に掲げられている体育館の見取り図が、メールで送られてきた。
人質の偵察に向かった、ドロマエオ・コンビからだった。
ミハルと一緒に見てみると、ご丁寧にも、避難者たちとテロの位置が、手書きか何かで書き込まれている。
「やりますね、あの二人」
メール本文を読んでみると、体育館では呆れるようなことが起きていた。
石山一味は、避難者たちに「凶暴化した恐竜の大群が襲撃に来ようとしている」と中途半端な状況説明をして、まるで自分達が護衛をしているように丸め込んでいるとのことだった。
「あいたた。ホントにこいつらテロリストだな」
そこへ、体育館の前にいるドロマエオの佐野さんから、広域通信が入る。
『ユタラプトルが来た。指示を請う』
え…、マジかよ。危ないから退避してもらうよう言っておいたのに…。
けど待てよ、逆に説明の手間が省けるな。
役者が揃ったってことだ。
『トウヤ、心当たりはあるか?』ターク隊長からトーキーに問い合わせが来る。
「さっき救出したリーダーの、上山さんだと思う。手伝いをしたがっていたので、足止めを頼む」
オレたちは体育館へと急いだ。
そこでは、大型と小型のドロマエオサウルス科の恐竜たちが佇んでいた。
きれいだ。
ユタラプトル。
ドロマエオサウルス科、最大の種。
体育館から漏れてくる薄明かりに浮かぶシルエットは、今まで見た中型セロポーダ(獣脚類)、アロサウルスともケラトサウルスとも違う、洗練されたものだった。
スマートに伸びる脚。
首から尻尾までの滑らかなライン。
ぬめりのある光を放つ脚の鎌爪。
デイノニクスをはるかに超えるパワーを持ちながら、野暮ったい所はどこにもない。
かつてサーキットを席巻していた2サイクルバイクのGP500ccレーサーを思い出す。
一緒にいるデイノニクスのオレとミハル、ドロマエオサウルス・コンビとを見比べると、それぞれが250ccレーサー、125ccレーサーといった趣がある。
2ストGPレーサーは、他のどんなバイクとも次元が違う、異質な存在だ。
全てがアスファルト上でのクラス最速タイムしか考えていない、恐ろしいまでに尖った能力。
獲物を狩るために世代進化と淘汰を繰り返してきたオレたちと、通じるものが多い。
現代じゃ難しいだろうが、一度みんなで大物の狩り(ツーリング)に行きたいものだな。
『上山さん。ここは危険だから退避して下さいと、言ったではありませんか』一応、厳めしい顔で一言告げる。
『いいや。ヤツらに一発カマしてやらないと気がすまない』そう言うと思ったよ。
『じゃ、ペナルティー替わりに、付き合ってもらいましょうか?』
『望む所です』ユタラプトルは、相好を崩した。
『ただし、相手はライフルを持っています。色々思う所はあるでしょうが、こちらの指示には即時従ってもらうことが条件です。いいですね?』
『分かりました』
ほどなく隊長たちが到着した。
そしてグリーティングになる。
今回、相手は二人だけれど、人間100人以上の人質を取っている。
ジェシーとポールに、物陰から狙撃してもらうのが、一番ラクだ。
しかし、もうちょっと冴えた作戦にしたいね。
ターク隊長に提案する。
「ちょっと危険だが、その作戦の方が丸く収まるか。テロ犯を無傷で捕縛できるしな。どう思う、副長?」隊長はアゴを撫でながら、ジョージ(レナード大尉)副長にオピニオンを求める。
「やはり、恐竜(失礼)を参加させての作戦立案は、トウヤの方がうまいな」ドロマエオコンビと上山さんを見る副長の顔は頼もしげだ。
「ポール、ジェシー、ミハル。一緒に来て。
小野さんと佐野さん。危険だけど、よろしくお願いしますよ」
2頭のドロマエオは、サムズアップすると、闇の中へ消えて行った。
オレたちは、一緒に体育館の中へ入る。
避難者を丸め込んでるんだから、いきなり撃ってはこないだろう。
体育館の中は、照明がまぶしいくらいだ。折りたたみベッドが片付けられ、避難者たちが中央に集められて思い思いに床に座っていた。
その両脇に、石山一味の残り二人が歩哨として立ち、ライフルを握っている。
「自治会長さん、おられますか?山本です」自治会長の和田さんの顔を探す。
「おお、山本くん。応援に来てくれたのか?」会長さんが立ち上がり、手を振ってくる。
おい 昼間出て来たアイツだ
ナマハゲきょうりゅう~ コワい~
拉致られている避難者たちがざわめく。
「いいえ」石山一味には、話を合わせようとするスキを与えない。「あなたたちの救出に来たのです」
「何だって?」
「会長さん。あなたたちは警護を受けているのではなく、反乱を起こした石山一味に、人質として拘束されているのですよ。
それも、ここの責任者の大隈三佐とオレたち発症者への、リベンジのダシにするために、です」
その瞬間、避難者たちが二人に向ける目が変わった。
「会長さん。この場には、昼間テロを起こして捕縛された発症者たちがいませんよね?彼らは今、どこにいますか?」
「聞かされていない。君たち、どうなんだ?」会長さんは、石山一味のどちらにというでもなく問い質す。
「別の場所に避難させているだけですよ」手下、え~とコイツは6番目だから手下Fでいいか。ヤツは作り笑顔で答えた。
「…だそうです。上山さん、本当の所はいかがですか?」
入り口の陰から、ユタラプトルの精悍な姿が現れる。
「こ…の…ウソ…ツキ…ども…」上山さんは、つかえながらも日本語で応じてくれた。
これは手下二人もさすがにうろたえたようだった。
そこへ、キャットウォークの死角から、ダット5のドロマエオ・コンビが一味の背後へ音もなく舞い降り、銃を突きつける。
身軽なドロマエオサウルスならではの奇襲。しかもサバゲーの熟練者だけあって、絶妙なタイミングだった。
「銃を捨てろ!(×2)」
石山一味の二人は、冠羽を逆立て殺る気満々のドロマエオサウルスに、応戦しようかと迷っているようだった。相手は自分の腰くらいまでの体高しかない小型恐竜だ。
だが、背後を取られている上、間合いの外にいる俊敏な恐竜が相手では、勝ち目がないと考え直したらしい。
二人ともライフルを床に放った。
「両手をアタマの後ろに組み、跪け!(×2)」
ドロマエオ・コンビは、敵の背後から用心しながら前肢を伸ばし、相手のホルスターから拳銃を抜き取った。
丁度そこで再び予鈴チャイムが鳴り始める
さっきの誤作動の続きなのか、休み時間かホームルームの終わりを告げる予鈴らしい
避難者たちのそこかしこから失笑が漏れる。
体育館に響くウェストミンスター・ベルの響きは耳に優しく、実に心地よかった。
ターク :それにしても、桁違いのフットワークだな。ドロマエオサウルスは。
ジョージ :鮮やかな制圧でしたね。
トシ :この体も悪くない気がしてきた。
シュン :ああ、いい機動力だな。
ポール :でも125cc、ライフル装備できない。ついでにGP時代後れ。
トウヤ :250ccは万能型。オレは鈴鹿向けで、ミハルだと富士向けになるかな?
ミハル :私、バイクじゃないですw。
トオル :500ccというのは?
トウヤ :ずばり、モンスター。ミニガン手持ち出来そうですよね?
ジョージ :ポール、帰ったら早速…
ジョンソン:却下だw。




