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恐竜日和 ウォーク・アバウト  作者: ニジヘビ
ミリタリーお茶会編
64/138

064:竜のために鐘は鳴る #1

オヤジ恐竜と恐竜娘の波瀾万丈の出会い。



 064:竜のために鐘は鳴る #1


 夜の小学校。

 避難者人質テロを起こした石山 浩司"元"一尉(通称コージ君)を狩りに、オレとミハルは、校舎の中を放送室に向かっている。

 常夜灯と消火栓の明かりが、床のタイルに反射してぼんやりと明るい。


 ちょっと肝試しを思い出す。

 笑う二宮金次郎像とか花子さんとか。


「トウヤさん、今よからぬコト考えてますね?」

「ああ。肝試しみたいだな、と思ってさ。墓場にローソク取りに行くパターンのヤツね。けど、チョット面白みがないんだよな」


 コンニャクの代わりにクレイモア地雷(M18クレイモア地雷。指向性の対人地雷。オトナの都合で、運用はリモコン起爆オンリーに限定されている。)とか、ヒトダマの代わりにM72ランチャー(M72 LAW。息の長い、使い捨て対戦車ロケットランチャー。)とか。

そういうので仕掛けらてこられたら、オモロ困るよな。


「やめましょうよぉ」

「何で?そのローソクを取りに行くのは、何を隠そう地獄の魔物なんだよ?襲う相手が欲しいと思わないか?」

「なんでお化けが肝試しやるんですか」

「行き帰りで、人間をたくさん血祭りに上げたお化けの勝ち」

「ルール、破綻してますって」

「"狩り"ってのは、そういうもんだろう?」

「あ、言われてみればそうかも」

「それも狩る対象は、恐竜いじめる悪い人間さん限定なんだ」

「石山"元"一尉…ですよね、相手は。どんな人間なんですか?」

「そうだな…、人も動物もいじめ殺して笑っていられるロクデナシ、かな?」オレはタクちゃん(大迫二尉)から聞いたエピソードを思い返す。

「先生とジェシーが、始祖鳥の藤沢先生を手術していた時の一件、覚えてる?

 アレがヤツそのままなんだよ」コッチはオレの実体験。

「あ!あの男ですか。いるだけで気分悪くなる人間ですね」

「コレで会うのは3回目なんだ。もうヤメにしたい。

 なあ、あのトシでアレなんだ。更生の余地はナイと思うんだけど、どうよ?

 野放しにも出来ないし」

「…殺した方がいい、って言ってます?」

「ああ」

「即答でバッサリですか」

「じゃあ、アレを捕まえたとしよう。

 誰が入れとくオリを作る?

 誰が見張る?

 誰がエサやりしてやる?

 誰がしつけ直す?

 誰が費用を出す?

 そしていつまで付き合う?

 そして、コレ大事。

 そんな価値が、アレにあるのか?」

「…"あります"。そう、思いたいです」ミハルは、祈るように、そうつぶやいた。

 変わってないな、まったく。狩猟恐竜にしとくには優し過ぎるよ、ミハルは。

 デイノニクスとしての記憶を失った上で、30年も人間として生きて来たんだ。無理もないけど。


 ハンターってのは、残忍でなくては生きていけない。

 どんな相手でも喰い殺せないと、メシにありつけないからだ。

 コレ、白亜紀の常識。


 ミハルはそんな世界で、オレの兄弟だかイトコだかの娘として、この世に孵化して来た。(他の種は知らんけど、多産多死のデイノニクスは、親族関係がかなり曖昧で、自分の嫡仔以外は全員甥か姪扱いになるんだ。)

しかし、いつまで経っても、狩りが出来なかった。獲物に最後のトドメを刺す際に躊躇してしまう、哀れな性格のままだった。

 自分で食い扶持を獲って来れないヤツは、誰からも相手にされない。

 それに近所付き合いするなら、自分のハラを満たした上で、おみやげを持って行けるくらいの稼ぎがないとダメだ。

 強い能力を持った種に生まれ付いても、その遺伝子を活かせない個体は、進路希望を淘汰コースしか選べないのさ。

 だからオレたちデイノニクスは、そんな仔は見捨てる。

 ミハルは、そんな中で親竜にオレのトコに連れて来られた。


 オレは、ミハルを放っておいた。


 生きて行くガッツのないヤツは、どう構った所で、遠からずくたばる。

 他竜の食べ残しや、川辺に流れ着いた魚の死骸を漁り、いずれはどこかの群れの縄張りを侵し惨めに殺されるか、野垂れ死ぬものなんだ。


 オレのトコに来た時、あの娘はガリガリに痩せ細っていた。

 親も相当手を尽くしたんだろう。

 いろんな理由から狩りを出来ない仔に、狩りを仕込む方法は、幾つもある。

 その一番最後にあるものが、仔供に餌を与えず、自分から餌を獲るように仕向ける方法だ。

 オレたちデイノニクスは、確かに、大抵の生き物より恐ろしい姿をしているだろうし、無慈悲な殺戮者として悪名が高い。

 だが、それは、オレたちが生きる上でのこと。

 例え飢饉が起きても、糧が得られる限りは、ギリギリまで仔は育てる。

 意図的に餌を食わせないのは、本当にイカれた親か、教育のためしかない。

 ミハルの親竜は、その点では、毒にも薬にもならないフツーの親だった。

 やれる限り以上のことを考えたんだろうな。

 ミハルは、人間で言えば小学校に上がったくらい。

 冠羽も生え替わり切っていない、ポワポワの年仔だった。

 けれど、自分が置かれた後がない状況を薄々は感じ取っていたようで、オレの住処の隅でうずくまって震えていた。

 オレを、すがるように見つめながら。


 夜引いて研究に没頭していたオレは、何かにツンツンと突かれ、我に返った。

 ミハルだった。

「ねー、かりにいこーよ」幼いデイノニクスの娘は、震えながらオレの前肢うでにノーズ・タッチ(鼻先を摺り合わせる親愛のボディランゲージ)し、消えそうな小さい声で言って来た。

「そうだな…。チビケラトプスなんてどうだ?」メシも食わずに研究に没頭していて、オレもちょうど腹ペコだった。「もう秋だし、そろそろ脂が載ってウマい頃だ」


 その時のミハルの顔を、オレは今でも覚えている。

 誰からもかまってもらえなくなり、痩せ細っていた所に、好きな食べ物を訊かれた。

 自分の拠り所を見つけられた者の顔というものは、白亜紀でも現代でも変わらない。こちらも微笑ましくなる。

 それに、ミハルは自分から動いた。

 祈って待っているだけじゃ何も変わらないことに、自分で辿り着いた。

 オレは、そう言うヤツなら拒否ったりしない。


 一緒に狩りに出かけたミハルは、確かに獲物にトドメを差す際に躊躇する。

 しかし、それだけのことだ。

 狩りでの獲物の動きを読む目端は利くし、脚も速く持久力もあり、獲物を追い込むのも上手い。

 パワーのあるダンナに嫁いで、勢子せこ役や足止め役でも十二分にやって行ける。

 で、オレは、ミハルがカレシ見付けるまで、居候させることにしたんだよ。

 ざっくり7000万年前の、懐かしい思い出話さ。


「バカ言ってんじゃないよ」

 我知らず笑いが漏れる。

 まったく。コレでライフル持たせりゃ、ガンガン敵を倒し、CQB(Close Quarters Battle:近接戦闘。主に射撃武器を用いた数十m以内での戦い。)でオレよりハイスコア叩き出すお転婆さんなんだから。

ちなみにCQC(Close Quarters Combat:近接格闘。武器または武術を用いた数m以内での戦い。)ならオレの方が強いんだな。


『おぉい、誰かいるのか?』

 廊下の奥の方から、判りやすいドロマエオサウルス語が、微かに聞こえてくる。声が聞こえてきた方を捜索してみると、用具室の中に恐竜がいるようだ。

 ドアをノックしてみる。

『誰かいるのか?ここから出してくれ』中から聞き覚えのある声がする。

『昼間襲撃して来た発症者か?』

『そうだ。閉じ込められている。自衛隊の隊員が反乱を起こした』

『こちらは昼間の海兵隊だ。少し待っていてくれ』ターク(カニンガム大尉)隊長に指示を仰ぐことにする。

「カミン、キャップ。デセィズ・トウヤ(隊長、応答願います。こちらトウヤ)」

「デセィズ・ターク(こちらターク)」

「現在位置、用具室前。発症者たちを発見。カギが掛かった密室に閉じ込められている。解放していいか?」

「やってくれ」

「ROG。オヴァ(了解。以上)」


『待っていろ、今開ける』

 オレはアーミー・ナイフを出すと、リーマー・ブレードを起こしてドアの解錠ピッキングに掛かる。

 用具室くらいだと、錠はそれほど精度は高くない。錠はすぐに開いた。


 中には、昼間テロを起こし、その後帰順した恐竜たちのほとんどが、ギュウギュウ詰めで収容されていた。

 その中には、昼間に説得交渉した、リーダーのユタラプトルもいた。

「他の仲間はどこにいますか?たしか大型竜の発症者の方もいましたよね?」オレはリーダーに訊いてみた。

『裏の校庭に連れて行かれました。人間の避難者たちは、最後に見た時は、体育館に集められたままでした』

「連れて行かれた後、銃声は聴こえましたか?」

『さっき、聴こえました』

「10分くらい前のものでしたら、私たちが受けた襲撃のものです」

『でしたら、ありませんでした』

 よかった。それならまだ生きているだろう。

「石山一味の数は分かりますか?」

『確か…8人いたはずです。ボスを入れて』

「その中に狙撃ライフルを持った手下はいましたか?」

「1人いました」

 屋上のスナイパー、ジェシーが仕留めたヤツが1。校庭の連中が3。残り4人か。

「分かりました。情報提供、感謝します。裏庭まで案内します。あなたの仲間が拘束されていると思うので手を貸して下さい」

 ちょっとターク隊長に状況報告。


「カミン、キャップ。デセィズ・トウヤ」

「デセィズ・ターク」

「報告。敵の数は残り7名。発症者たちを解放。これより校外へ待避させる。裏庭に大型種の発症者が捕縛されている。これより状況偵察に向かう」

「手間は掛けるな」

「ROG。発症者のリーダーの話では、人間の避難者たちは、体育館に拉致されている。そちらの態勢が整い次第、偵察を要請する」

「ROG」

「オヴァ」


 オレたちはひっそりと移動し、裏庭が見える廊下まで来た。

 そこでは、昼間戦ったティラノたちが地に伏せ、地面に打ち込まれたいくつもの杭とトラック牽引用のワイヤー・ロープで、がんじがらめに地面に縛り付けられていた。まるで、小人の国に入ったガリバーだ。

 辺りに見張りはいないようだ。


「ひどい…」ミハルが冠羽を逆立てる。

 まったくだ。よくもまあ、ここまで辱めることができるもんだ。

 コージ君にも同じ目に遭わせて教育してやりたいぜ。出来たら砂漠のど真ん中で、真っ昼間にな。

 オレは、手持ちの一番大きいナイフをシースごと外した。このスチール・ワイヤーだと、普通のブレードもウェーブ・ブレード(ロープやベルト切断用の刃)も刃が立たない。セレーション(汎用のノコ刃。木工金工両用)を使った方が早い。

「これでロープを切って。オレとミハルは、敵のリーダーを仕留めに行きます」セレーションの使い方を教えて、手渡す。

『あの、よければ名前を教えてもらえませんか?』

「オレは山本 登也少尉。こちらは坂月 美春少尉」

『私は上山かみやま とおる

「上山さん。これから、この学校は戦場になります。この方の縛めを解いたら、校外で隠れていて下さい。

 オレは、あのクズを片付けたら、その脚で体育館に向かいます。

 お気を付けて」

『あ、あの』

「はい?」

『私も手伝います』

「…さっき、体育館に拉致られてる人間たちのこと、訊いてもいないのに教えてくれましたよね。人間に、散々な目に遭わされたのに?」

『あなたに殴られて目が覚めましたよ。それに、手当てを受けている時に貼られたシップ、心に沁みました』

 ユタラプトル、『波濤爪』の一門。白亜紀では、人間殲滅派を支持する氏族一門だった。上山さんが、白亜紀の記憶を取り戻しているかどうか分からないけれど、少なくとも人間との交流は、悪くない体験になったはずだ。

 それに、彼らが、今後どう考えるにせよ、狭い視野で短絡的に世界を捉えて欲しくはない。

「それが分ったからこそ、あなたは生き残るべきなんだ。じゃあな。昼間は蹴り倒して悪かった」


「カミン、キャップ。デセィズ・トウヤ」

「デセィズ・ターク」

「報告。大型の発症者たちを発見。見張りはナシ。救出した発症者に解放させる。発症者のリーダーに、校外に待避するよう指示を出した。オレたちはタスク復帰。放送室に向かう」

「よくやった。こちらは、ミズ・エミとドロマエオ・ブラザースが戻ってきた。弾薬を入手。これより反撃に移る。体育館への偵察にはドロマエオ・ブラザースを向かわせた。捕虜になっている他の隊員の救出には、ミズ・エミを向かわせた」

「ROG。体育館で落ち合いましょう」

「ROG」

「オヴァ」


 さて、海兵隊&自衛隊混成小隊の、本格的な反撃開始だ。

 逃げるなよ。

 今、りに行くから。


ミハル:昔そんなことがあったんですか?

トウヤ:スマン、ムカリ。お前の気持ちがちょっと分かっちまった。

ムカリ:だろう?

ターボ:トウヤさん、オレのは?

トウヤ:その内出てくるよ。


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