063:銃よさらば
死ぬほど腹を空かせたデイノニクスが、ようやく起きます。
弾薬が底を付いたトウヤたちに、石山 浩司"元"一尉が、完全武装でケンカを売ってきます。
063:銃よさらば
目を覚ますと、辺りは薄暗かった。
トロオドンのマリさんがいる。
トルヴォサウルスのターボ君も。
ポール(エストラーダ中尉)、ジェシー(シャルビノ少尉)、それにタクちゃん(大迫二尉)とオルニトレステスのエミさん。
そしてジョンソン先生(少佐)も。
みんな心配そうにオレの事を覗き込んでいる。
ここは…白亜紀じゃない。
オレは、オレたち恐竜は、白亜紀(約1億4500万年前から6600万年前までの地質学年代。)から第四紀(約258万年前から現代までの地質学年代。)の地球、現代に"渡り"をしたんだっけ。
「気分はどうだね?」先生がペンライトを取り出し、オレの眼に当てる。
「ハラ減りました。みんな無事ですか?」
「まったく、キミらしいな」先生は、ほっとしたように微笑む。
「自衛隊さんの方が半数近く重傷だ。幸いにも死者はゼロだ、今の所はな。私たちは、自衛隊さんの避難所に、一晩ご厄介になることにした。
一体どうしたというのだね?君もミハルも、体重が10キロ近くも減っているぞ」
ミハルは、オレの横に寝かされ、点滴を受けていた。
オレの前肢にも、同じ様に点滴のカテーテルが繋がっていた。
「姪は、ミハルの容態は?」
「君ほど深刻ではない。君に続けて倒れたのだ。ん、姪だって!?」
「色々と思い出した事があるんです。まだ整理が付いていないので、少し時間を下さい」
「いいとも。今日はゆっくり休め。おかげで私たちも命拾いした。明日帰ろう」
オレは体を起こす。
しかし、とても重い。
熱を出して寝込んだ後のようだ。
「何か食べられそう?」ジェシーが訊いてくる。
「ニク」ユッケ(日本じゃ販売禁止。残念!)とかレバ刺し(同じく日本じゃ販売禁止。しかしなんで馬刺はOKなんだろうね?)とか生き血の滴るタフタフのぉ~っ、ニクが喰いてぇっ!!
「2号の中に積んであるから、今はムリ」にべもない返事だった。
オレは、目をぱっちり開いて少しウルませ、「ヒュ~ン…(ハラ減った…)」と啼いてやる。
「トウヤ、ズルい。
コレが恐竜を130頭も黒焦げにして、2号のジェネレーター壊した恐竜に見える?ねぇ?」ジェシーは、呆れたようにみんなに振り返る。
「ワシのハムヴィーが、トホホ…」先生も、大げさに嘆いてみせてくれる。
「こんなになるまでオナカ空かせて走り回って、ブッ倒れるなんて。ホントにバカよ。さっきまで心拍が極端に落ち込んで、死ぬ寸前だったって言うのに」ジェシーは鼻をすすり上げる。
「バカなりに君たちを愛しているんだよ」
「まったく」ポールは、オレの額をコリコリ掻いてくれながら、ネックマイクを押さえて無線を入れた。「全車停止。負傷者用の物資を下ろす」
もとより低速でトロトロ走っていたこともあり、コンボイはすぐ止まったようだった。
「トウヤ、ちょっと待ってろ。副長、手伝って下さい」
ポールは、副長と一緒に、ハムヴィー2号に積んでいた50kg以上あるブタのホールを担いで来てくれた。それ、ターボ君のお土産用に持って来たヤツなんだけどな。
「どうした、トウヤ?ブッ倒れるほどハラ空いたんだろう?」
ユッケ…じゃない。
けど、ポールが持って来てくれたんだし…。
オレは運ばれて来たメシを食いちぎり、ミハルの鼻先に置いてやる。
程なくミハルの鼻先がヒコヒコ動いた。
ミハルはゆっくりと目を開けるとオレたちを見回す。
「ミハル。気が付いた?」
「ジェシー、私、どうしたの?」
「ハラ減りすぎて、オレと一緒にブッ倒れたんだと。肉あるから食べよう」
ミハルは、目の前の肉にかぶり付くと、あれよという間に食べ切った。
この分なら大丈夫そうだな。
オレも口を付け、後はもう、2頭でガシガシ喰いまくる。
ウマいことはウマいんだが、出来たらタプタプのレバーとかもあるとよかったな。
なにせ白亜紀じゃフツーに喰ってたんだ。まあ、時系列順に並べると40年ちょっととざっくり7000万年前まではな。
それに塩も欲しかった。
ダット5のドロマエオ・コンビもご相伴に入って来たきたので分けてやる。と言うより、デイノニクスとドロマエオサウルスが、狩った獲物を一緒に貪り食うような感じだ。
なんだかんだで、ブタ1頭食い切った。
しかし、まだ足りない。腹ペコの時にコンビニオニギリ1コだけ食ったような感じで、とりあえずのハラ塞ぎという所だ。
今まで、ここまで喰ったのも初めてなんだが、それでもハラ、というか飢えが収まらないのは初めてだ。
ミハルもまだ食べたそうな様子だった。
「スマン。君のミヤゲに持って来たのに、手付けちゃって」
「いいっスよ。気が付いてよかった。ケータイも使えるようになったし」トルヴォサウルスのターボ君がノーズ・タッチ(鼻先を摺り合わせる親愛のボディランゲージ。)してきた。
「マジか?よくこんな短時間で復旧できたな?」
「設備班の方々が頑張って下さったんですよ」タクちゃんが、ミネラルウォーターのペットボトルをオレとミハルに手渡しながら、話に入ってきた。
「と言うより、電源の主幹が切られていただけなので、応急で繋いでもらいました。すぐに復旧しましたよ。平さんと石田君に手伝ってもらったので、すごく助かりました」
「じゃあ、設備は破壊されていなかったんですか?」
「ええ、不思議なことに」
「それに、アイツら、トウヤさんがカミナリ落とした恐竜たち、オカシイんですよ。軍隊みたく、すごく統制取れてて」
「ハイ。戦術や攻撃を仕掛るタイミングも見事なものでしたよ」タクちゃんも相槌を打ってくる。
ムカリ、アイツの仕業か。
今度会った時は気付かれる前に仕留める必要があるな…。ヤツの精神支配に捕まらない遠距離から。
避難所に戻ると様子がおかしかった。
暗くなっているのに、小学校の敷地は明かりが点いていなかった。
校庭にトラックを乗り入れたが、門番も出迎えの自衛隊員もいない。
大隈(三佐)さんとタクちゃん、そして、ターク隊長(カニンガム大尉)がクルマから降りて辺りの様子を窺う。
その時、タクちゃんのヘルメットに何かが当たり、倒れた。続けて、ライフルのものらしい太い銃声が校庭に響いた。
「敵襲っ!!」大隈さんとターク隊長の声が響いた。
それと同時に校舎の方から銃撃が始まった。
「ミハル!手伝え!」
オレは倒れたタクちゃんを拾いに加速モード…をかけようとしたが、急に体に力が入らなくなり、片膝を着いた。
ミハルも、オレと同じように、ヘタり込んでいた。
『ミハル、キミもか?』
『ええ、急に力が入らなくなりました』
『とりあえず、急ごう!』
オレたちは、ノーマルモード(といってもデイノニクスの大急ぎなんで、結構迅い)でタクちゃんを拾い上げると、すぐにトラックの陰にとって返った。
タクちゃんを診てみると、白目を剥いていたが、脈はあった。ジョンソン先生に診てもらった方がいいだろうけど、おそらく脳震盪だろう。メットのコメカミの辺りがわずかにえぐれていて、サイズからすると.308(.308ウィンチェスター弾。または7.62mmNATO弾。ライフル用の強力な実包。)がカスったようだった。
引きずってくる途中、他にも何発か弾が当たっていたような音がしていたけど、新しい血の臭いがしないので、戦闘用防護服に守られたようだ。
撃ち返そうと、銃を抜いたところで銃撃が止んだ。
「大隈ぁ!」
攻撃のあった側から、校内放送でアナウンスが始まった。日が落ちた後だというのに、近所迷惑なヤツだ。
「こちらは石山だ。ここ(避難所)は制圧した。避難者たちの命が惜しければ、お前と恐竜たちと交換だ」
おー、ヤツか。
「トウヤさん。大丈夫ですか?」ターボ君が、おそるおそる顔を出して来た。
オルニトレステスのエミさんも顔を出す。
「大迫さんが撃たれた。一応生きている」
「キュァー!!」エミさんが血相を変えてトラックから飛び降り、タクちゃんに駆け寄る。
「キュルル、キュルル!(しっかり、起きて下さい!)」エミさんは、必死の面持ちでタクちゃんを抱きかかえて揺する。動揺のあまり、ネイティブ(オルニトレステス語)になってますよ…。
「あまり揺すらないでください。タマがアタマに当たりました。脳震盪を起こしているはずですから…」
オレの声に、エミさんはピタリと動きを止める。そして、みるみるうちに羽毛を逆立て始めた。
「ゲリャリャリャ…(よくもウチのヒトを…)」威嚇のうなり声を上げながら、エミさんは立ち上がり、校舎の方をにらみ付けている。
そして、校舎の茂みに潜む石山の手下に向かって猛然とダッシュした。
「シャァ!(待った、待った!)」オレはあわててエミさんに飛びついて止めにかかる。
「キュアッ!クォゥクァ!(放して下さい!人間が人間を殺すなんて!)」
「ウォッ。オォッ(アナタが行っても殺られるだけだ。今は戻って)」
そんなオレたちの脇で、地面が爆ぜた。続けて、校舎の方からライフルの音。
すると、ウチのトラックから力強い銃声が響いた。
わずかな間を置いて、校舎の屋上から何か柔らかいものに弾が当たる音がした。
「うちのコに手ぇ出すんじゃないわよ!」ジェシーが、M700(米レミントン社製。高級ハンティングライフルのロングセラー。)のボルトを引いて、煙を細く引く薬莢を排出させながら、ドスの利いた声でうなる。
どうやら、敵の狙撃手は仕留めたようだ。
意趣返しとばかりに、オレたちに向けて銃撃が始まったので、タクちゃんの仇討ちに燃えて暴れるエミさんを抱えて、大急ぎでトラックに戻る。
エミさんは、フーフーと荒い鼻息を上げ、押さえている前肢を離したら、そのまま走り出しそうな剣幕。エンジン全開でスタートを待つ、ドラッグ・レーサーみたいだ。
「クォウッ。ウォゥ!(大事な人ヤられて怒るのは分かるけど今はマズい。ヤツらをボコるチャンス作る。約束するから、今は抑えて!)」
オルニトレステスは、狩猟恐竜の中ではかなり控えめな性質なのに、それをここまで怒らせるなんて。
「ウルルル~」エミさんは、目に涙を溜めながら暗がりに潜む敵をにらみ、心底悔しそうに歯ぎしりする。
「ジェシー、残弾は?」
「今ので最後よ。後は、ポールのライフルに詰まってる.223(.223レミントン弾。実際に使っているのは高性能版の5.56mmNATO弾。)が数発。この距離なら、弾さえあれば仕留められるのに…」
.223だけか…。M700のコンバーション・キット(口径変更用のパーツキット)があればなんとかなるんだが。
ん!?
「ジェシー。弾があればなんとか出来るの?」
「敵の数と位置は、さっきの攻撃で分かってる。残りは3人。後は放送室にいるテロ犯をどうするかだけ」
.308が1ケース。あとアサルトライフル用に.223が出来るだけたくさん必要だ。
「大隈さん、先生、隊長、マリさん。ちょっと相談があるんですが」エミさんは今にも飛び出して行きそうなのでオレが押さえているし、ダット5コンビもすぐ脇にいるので、そのまま作戦会議。
「また何か作戦があるのか?」
「1、タマ取ってくる。2、ジェシーに校庭の連中仕留めてもらう。3、ミハルとオレで放送室の石山を仕留める。4、隊長たちで体育館の人質を解放する。大筋はそんな所です。
大隈さん、石山の取り巻きというか、手下の数は分かりますか?」
「すまん。大迫なら分かるんだが、小隊の細かい内情は、私では分からん」大隈さんはすまなそうに言う。タクちゃんは脳震盪で気絶したままなんで、すぐには起きられないしなぁ。
「弾は誰が取ってくるんだ?」隊長が訊いて来る。
「エミさん。弾薬を備蓄してある場所は分かりますか?」エミさんも、大分落ち着いてきたようなので、前肢を離す。
「いいえ…」
「第一校舎と第二校舎の水量計室に、分けてしまっている。ライフル用の弾は、第一校舎の方だ」大隈さんが代わりに答えた。
「鍵は?」
「私が持っている。鍵をこじ開けられていなければ、石山たちも持ち弾は多くないはずだ」
「ええ。鍵をこじ開けて、弾を移動されている可能性もありますよね?」
「それだと最悪のケースになるな」
「エミさん。校舎の中は分かりますか?」
「はい。それに、言われて思い出しました。出撃前に弾を揃える手伝いをしましたから」
「小野さん、佐野さん。美竜レディーのエスコートと偵察を頼めるかな?戦う必要はないんだ。弾薬庫が開けられていたら、ナニもせずソッコーで逃げて下さい」
「見張りがいたらどうします?」
「コレを使え」隊長がM.E.U.(コルト社の半自動拳銃、ガバメントのUS海兵隊カスタム仕様。)とサウンド・サプレッサー(消音器)を出して来た。
「.45なら、オレも持ち弾ありますから、出します。
二人とも、実銃を撃ったことはある?」
「ガバならハワイで何度か撃ったことがあります」
「じゃ頼んます。いいですよね、先生?」
「状況的にやむを得んな。大隈さん、よろしいか?場合によっては民間人に君の元部下を射殺させる事になってしまうが」
「…緊急避難、という事で処理しましょう。銃の使用許可は出しますが、なるべく使わないようにしてください。使った時点で凶状持ちになってしまいますし、民間の方にそんなことをさせたくないので」
「マリさん。ペイ出来る宛は今はないんですけど、弁護士さんとしてのオピニオンをお願いできますか?法的にはどうなんでしょう?」
「持った時点で銃刀法違反。アウトよ」
オレ、今日一日で何発撃ったっけ?確実にアウトなヒト、と言うか、元より白亜紀から来たんだからセーフでいいのか?
「手ブラで行って、途中で拾ったことにしておいたらどうでしょうね。拾った銃を自己責任で使うタテマエです」
「本来は手を触れずに通報するのが筋なのよ。けれど、やむなく最寄りの政府機関に移送するのはアリね」
「…お二人とも、どうだね?」
「どっちでも構いませんよ。ここでビビってたら漢が廃る」
「それに、有事の際はその限りではありませんし」マリさんが、シレッと言い添える。
「出来たら試射させてもらえませんか?しばらく撃ってないし、銃のクセを知っておきたいんです」
「うーん。マガジンが後2つ、14発だけなんだ。作戦を遂行出来る?
あ、それに、オレたちのこの体だと、銃を顔の前まで持ってこれないから、照準器使えないよ。大丈夫?」
「サバゲーの最中に一々サイト使ってるヒマないんで、大丈夫ですよ。
それに、見張りの銃を分取るから、行きの分があればいいです」
「じゃ、ワシのも持って行け」先生がPX4 .45(伊ベレッタ社の半自動拳銃。)とサウンド・サプレッサーを出した。「事後のことは心配するな。ワシがなんとかする」
小野さんも佐野さんも、さすがに店を開くほどのガンマニアとだけあって、数発撃っただけで銃のクセを会得したようだ。
それに、サイトフリーで銃を命中させる。
「M1911A1(米コルト社の半自動拳銃、ガバメントの第二次大戦期のモデル。まだ西部開拓時代の荒々しさが随所に残るデザイン。)のが雰囲気出ていいんだけどな」佐野さんがホルスターのフィッティングをしながらぼやく。
「ああ、ノルマンディーな。イヤならオレが使おうか?」
「フフ。こればっかはセガール・ファンとして譲れねぇな。じゃあ、渡辺さん、弾薬庫のカギは持ちましたね?行きましょうか」
ドロマエオサウルスにエスコートされ、オルニトレステスは、闇の中へ溶けて行った。
「じゃ、オレたちも行こうか?」オレはミハルに促した。放送室に詰めているであろう、コージ君を狩りに、だ。
「ええ」
「そうだ、大隈さん」
「何だね?」
「生け捕りにする必要、ありますか?」
「…君たちに任せる」
「ミハル?」
「…生かしたまま捕らえるべきなんでしょうね、警察官としての答えなら。けれど海兵隊としても、恐竜としても、彼らの言動は度を超えています。
それに、彼らもバトルドレスを着ているでしょうから、ヘッドショットで仕留める以外に手はないでしょう?」
「だよな」
オレはホルスターをベストから外す。
「預かってて下さい」銃はポールからの借り物だが、オレは大隈さんに預ける。もう、大隈さんも残弾ゼロだし、"元"とは言え、大隈さんの部下をこれから手に掛けるんだ。ワビの意味もある。それに、ポールの89式にはまだわずかにタマが残っていることだしね。
「武器はいいのか?」
「コレで足ります」
オレは、黒光りするカギヅメをかざした。
タク :スミマセン。ついにこんなことになってしまって…。
ジョンソン:それはいいとして…。なにを指折り数えているのかね?
トウヤ :ええ、ヤツのツケです。オレ、金融系のシステムも組んだコトあるんで、こういうのは得意なんですよ。
ターク :カルノタウルスを本当に蹴り倒した、金融システム開発経験のあるデイノニクスって…
トウヤ :ご安心を。1万分の1円の狂いも出しません。経理さんも満足されていました。
大隈 :彼でホントウに大丈夫なのか!?




