表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恐竜日和 ウォーク・アバウト  作者: ニジヘビ
ミリタリーお茶会編
54/138

054:床が抜けたらサヨウナラ

鳥落とし名竜 跳ぶ!



 054:床が抜けたらサヨウナラ


 ハムヴィー1号の方は、自衛隊さんのご厚意でクルマ屋まで運んでもらえることになり、前輪を移送トラック後部のレッカー・ブームに乗せられている。

 バリオニクスの平さんが手伝ってくれたので、作業はごく簡単に済んだ。

 こういう時、大型の獣脚類セロポーダは頼もしい。

 それに平さんご自身も人の世話を焼くのが好きなタチらしく、自衛隊員の方々と色々やっている。


 オレとポール(エストラーダ中尉)は、この後のスケジュールをどう巻き上げたものか、悪知恵を全開でブン回していた。

 ステゴサウルスの攻撃を受けて自走不可になってしまったハムヴィー1号の修理。そして、ポールの新装備で自衛隊の大隈三佐からお借りした89式小銃のカスタマイズ。


 どちらもそれなりに作業に時間が掛かる。


 こういうのはトイ・ブロックの積み重ねと同じだ。

 高さを下げるためにどこを削るか。

 ラジエーターを外して、ラジエーターの損傷を治し、再び取り付ける。


 なんだかやれそうなんだよな。

 やれそうなんだけど、"それ"が見えない。


 そうこうする内に、出発前に損失したドローンを回収しに行く話が持ち上がった。

 墜落したドローンはまだ生きているらしく、搭載しているGPSの座標が、コントロールターミナルで確認出来ているというのだ。

 距離はここから1キロちょっと。

 避難所までの移動ルート調整と捜索でなんとかなる。近くまでクルマで出向いて、徒歩で回収。


 ああ、仕事が増えちゃった。も~。


「提案なんですけど」ジョンソン先生(少佐)に持ちかける。

「なんだね、トウヤ?」

「オレとミハルでちょっと行って取ってきましょうか?」

「ちょっと、って。危険だぞ?」

「逆に、狭い場所で小型恐竜に襲われたら同士討ちの可能性もありますよ。

 オレたちだけなら銃なしで応戦出来ますし、行くのに5分、回収に5分、戻るのに5分で済みますよ」

「ハンドラーの同行はどうする?人間とのトラブルが起きたら?」

「シカトブッこいてトンズラしてくるのはダメですか?」

 先生はオレの方に顔を向け、ニッコリ笑うとこう言った。

「ダメ」

 もう、ガンショップ寄る時間がなくなっちゃうよ。

「ほらほら、時は金なり。みんな早くクルマに乗った乗った」


 先生の号令に、バリオニクスの平さんがトラックをグラグラ揺らせながら荷台に乗り込む。


 みき…ごぼっご!


「うをっ!?」

 なんかヤな音がしたと思ったら、バリオニクスの脚が床の下から付き出している。荷台が平さんの体重を支え切れなかったようだ。

 コクピットから自衛官二人が降りて来て、荷台の惨状に悲鳴を上げる。

「こりゃアレだ。屋根の上歩くみてぇにフレームの上乗らんとイカン」

「センセ。平さんって何トンありました?」

「これは失念しておった。5338キロもあるのに」

 片脚だけで5トン掛けたらさすがに床が抜けるか…。

「過積載でキップ切られませんかね?」

「有事作戦行動中の事故です。タマにありますよ」隊員さんはため息をついた。


「う…」

 一方のハムヴィー1号勢は小~中型恐竜勢と一緒にもう一台のトラックに乗り込もうとするが、荷台の前で二の足を踏んでいる。

「どうしたの?」

 ルーフを分厚いキャンバスで覆われている荷台の奥では、外から差し込む光を目の奥で爛々(らんらん)と反射させながら、10頭程の恐竜たちがこちらの様子を伺っていた。

 今更気付いたが、場の面々は、トリケラトプスの遠藤君を除けば全員狩猟恐竜だった。

「どうしました?」トロオドンのマリさんが訊いて来る。

「中々絵になるな、と思って。記念にちょっと写真撮らせて」

 オレは、ブラックベリーを出し、カメラアプリを起動する。

「ハイ、みんな笑って。チ~ズ」


 皆さんがトリケラの遠藤君を取り囲み、ニッコリとキバを剥いての1枚が撮れた。


「まあ、アフリカでよく見たしね。ヌーとかライオンの群れ」ジェシーが乗り込み、ミハルが後に続く。

「副長も入りませんか」

 ジョージ(レナード大尉)は、顔を引きつらせながら荷台に乗り込んだ。

「では私も」隊長は苦笑しながら乗り込む。

「とんだドッキリだな」先生も乗り込む。

「じゃあ面白そうだから私も」大迫さんが悪ノリして入る。

「私もこういうのは嫌いじゃない」大隈三佐、あなたもですか。

「親睦を深めるいい機会だな」自治会長さんが最後に続く。

「では撮りますよ」

 そうして人間勢も一緒に、狩猟恐竜に囲まれての1枚が撮れた。

「よく撮れました?」マリさんが出て来たので、撮れた写真を見せる。

「キャ~!ナニコレ!」マリさんは悲鳴を上げた。

 増感モードで撮ったキメの荒い写真の中では、目を爛々と光らせた恐竜たちが人間を取り囲み、悪ノリした人間勢と遠藤君は助けてくれ、とでも叫びながら笑っている。

「なんだ、どうした?」平さんが慌ててやって来る。

「写真撮ってたんだ。ちょっと好いと思わない?」

 平さんにはウケたようだった。

「あんだよ、こんな面白そうなこと。オレも入れろ」

 で、結局この後、海兵隊、自衛隊、保護恐竜全員で、トラックの前での記念撮影になった。


 そしてようやく出発。


 オレは再び2号に隊長たちと乗り込む。今回はダン中尉が同乗して、ドローンの墜落ポイントまでナビゲートだ。隊長はオレの隣。ちょっと狭い。

「オー、イッツ・ジャーク…(これは、ひどいな…)」ターク隊長が町を見回しながら呟く。

 例によって"障害物"をかき分けながら進む訳だけど、始めて町に出る隊長と副長は、目にする惨状に滅入っている様子だ。

「ミハル、ジェシー、気分は大丈夫かい?」オレは無線トーキー越しに後続のトラックに分乗している二人に話し掛ける。

『ひどいものね。アフリカでもここまで酷くはなかったわ』

『気分悪いです。精神的な意味ですけど』ミハルはかすかに唸り声を立てている様子だった。『それより臭いがひどいです』

 オレは結構山歩きで、動物の成れの果てを見慣れているので割と平気だが、ミハルには少々堪えるようだった。

 オレにとってはなんとなくウマそうな匂いなんだけどな。

精神安定剤トランキライザーを処方するかね?』先生が合いの手を入れてくれる。

『大丈夫です』


 そうしてドローン墜落ポイント最寄りまでやって来た。

 もう、速攻で片付けたいキモチ。


 今回は自衛隊さんには待っていてもらう予定だったが、なぜか大迫さんが付いてくる。一緒にオルニトレステスの渡辺さんも付いてくると言い出し、ダット5のドロマエオサウルス・コンビも付いてくることになった。

 代わりにポールが残り、ミニガン(M134ミニガン。車載の7.62mmガトリングガン)で睨みを利かせることになった。

 バリオの平さんはトリケラの遠藤君と一緒に護衛に残ることになった。


 先導はオレとターミナル片手のダン中尉、そして、ドロマエオの小野さん。

 しんがりはジェシーとミハルとドロマエオの佐野さん。

 

 ダン中尉はターミナルをRDF(電波探知)モードに切り替え、オレと並んで歩く。

 分かるだろ?少なくともアメリカ軍と自衛隊じゃ、歩スマやる時はポイントマンが護衛に付かないと懲罰モンなんだぜ?

 住宅街をフラフラするダン中尉に導かれて、ゾロゾロ歩いて行くと一軒家の前で止まれのハンド・サインを出す。


 ホント、ダン中尉って喋んないよな。


 ダン中尉はターミナルをあちこちに向けてドローンが出しているビーコン波を探している。

 やがて"この奥だ"と指差す先は、ブロック塀の向こう、民家の敷地だ。"壁を乗り越えて行く"とハンド・サインを出してくる。

 "ちょっと待て。オレが見て来る"とハンド・サインを返す。

 "アンブッシュ(待ち伏せ)に気を付けろ"

 "ラジャー(了解)"何のアンブッシュに気を付ければいいのか分からんけど、取り敢えず分かった。


 オレは壁の上にピョンと飛び乗り中を見て見た。

「トウヤさん、不法侵入ですよ。ちょっと待っててください」恐竜の婦警さんがニラんでくる。

 も~、ミハルさんマジメ過ぎだよ。

 ミハルは玄関に周ると、ドアチャイムを何度か押して待った。しばらくすると、家の中から「はーい、どなた?」と返事が返って来た。

 やがてドアが開いて奥さんが出て来た。

「すみません。アメリカ海兵隊です。遺失物捜索のためこちらの敷地に立ち入らせていただけないでしょうか?」

「ヒっ…あなた~恐竜よ!」

「ちょっとマズかったか」

 副長が代わりに首を突っ込む。

「我々はアメリカ海兵隊だ。逸失した物資の捜索中であります。速やかに協力するよう、要請します」

 副長、あんた日本語の使い方間違ってますって。その物言いじゃ、どっからどう聞いても上から目線じゃないですか。

ミハルもなんか不安を煽る物言いだし。

 も~。

 オレは二人をそっとどかして、バトンタッチ。

「あのー、お騒がせしてすみません。ご主人でしょうか?」

「なんだおまえは?」男性は竹刀を向けて来る。

「アメリカ軍です。救援活動をしてます」例によって竹刀は無視する。「ラジコンをなくして困っているのですが、こちらのお庭に落ちてしまったようなのです。ご迷惑をおかけしてホント申し訳ないですが、お庭を探させてもらえないものでしょうか?」

「ラジコンだって?」

「ええ。行方不明者の捜索や災害地域の調査に使うドローンなので、どうしても必要なのです」

「ああ。まぁ、そういうことなら…」

「本当ですか?ありがとうございます」

「…君は言葉が喋れるのか?その…恐竜になってしまったのに」

「ええ、元からお喋りなものでして。今はアメリカさんと自衛隊さんをお手伝いしています」

「そうか。入っていいよ。庭を荒らさないでくれ」

「はい。ありがとうございます。では上官とパイロットと仲間の恐竜の4人、失礼させて下さい」

「終わったら声をかけてくれ」

「はい、すぐ済ませます」

「隊長、ダン中尉、それと小野さんたちも探すの手伝って下さい」

「へえ、恐竜でもこんな小さいのもいるのか」

「ええ。民間の方なのですが、協力してくださっているのです」

「こんちわ。お邪魔します」ドロマエオ・コンビは、ご主人にチャっと前肢を振り、裏手の庭の方へと入って行く。

「失礼します」隊長は会釈するとGPMG握ったまま裏庭へ…。ソレ置いてった方がよくありませんか?

「お邪魔します」ダン中尉はターミナルをガン見しながらゾンビみたいに無造作に入って行く。


 オレが最後に入って行くと、庭には2羽ニワトリっぽい恐竜がドローンを探している。

 その周りで軍人さんが厳めしい面持ちでウロウロ。


「う~ん…?」ダン中尉は電波を拾えなくなったのか、ターミナルをあちこちに向けている。

「隊長、どうです?」

「なぜか見当たらん」

「ダン中尉、ひょっとして曲折波を拾っちゃってませんか?」

「そうかもしれない」

 VHFでも発信ユニットが調度いい塩梅で遮蔽物に隠れていると、遮蔽物越しに電波の回り込みが起きて、発信源が分からなくなることがタマにある。発信源が目の前にあるようにRDFレシーバーが勘違いをおこすんだな。

 オレ、ラジコンはほとんどやらないけど、電波モノは得意なんだ。

「ダン中尉、それちょっと貸してくださいな」

「探せるのか?」

「簡単です。レシーバー側のアンテナ切り詰めて、フェーズ・シフト(相位ずれ)起こさせるんですよ。

 ビーコンの周波数は分かりますか?」

 ダン中尉は、確か…、とあやふやながら周波数を教えてくれた。

「このターミナルのアンテナ実装位置はどの辺ですか?」

 ダン中尉はターミナルの上部を指差す。パターンアンテナかアレイアンテナだろうね。

 オレはナイフを出すと、メタルソーブレードをアンテナの辺りに当て、少しづつずらしてゆき、ゲインが最低になる場所を探す。次にゲインが最高になる場所を探した。

 メタルソーブレードは他のブレードと違い炭素鋼が使われているので、磁界を狂わせることが出来る。言い換えると、アンテナの同調周波数をずらすことができる。

 電波を発生させる電子回路ってのは面白いもので、目的の周波数を発生させると周波数が倍の電波も発生してしまう。

 この弱い電波はフィルター回路などである程度除去されているものの、完全に消すことは出来ない。完全に消すと、今度は本来必要とする周波数も使い物にならなくなるほどクオリティーとパワーが落ちてしまうからだ。

 で、この周波数が倍の電波だと弱すぎて、却って曲折波や反射波が起こりづらい。

 これを拾うわけだ。

 電波はすぐ見つかった。

「屋根の端にでも引っかかっているようですね。ここからでは見えませんが」

 見上げる屋根は9mほどある。これじゃオレでも無理だ。

 脚立を借りよう。

 玄関に回ってご主人に相談してみたけれど、やはり屋根まで届く脚立はお持ちではないそうだ。

『あの…』オルニトレステスの渡辺さんがネイティブで話し掛けて来た。

『屋根まで登ればいいのでしょうか?』

「ええ、そうです。ドローンはどうも屋根の端に引っかかっているようなのですよ」

『私がやってみます』

「何て言っているのですか?」大迫さんが訊いて来る。

「屋根まで登ってくれる、と言っています」

「大丈夫かい?」

『わたし、学生時代に陸上でハイジャンプやってましたから。』

「跳ぶってこと!?」

『自己ベストで1.75mでした』渡辺さんは頷きながら言った。

 どうなんだろ?オレは陸上には興味ないので、この記録がどの程度の水準なのかが分からない。

 取り敢えず通訳した。

「スゴイじゃないですか!大会なら決勝枠に余裕で入れますよ」大迫さんは知っているようなので後で聞いてみたら、日本ならトップ5入りの記録だと言う。

「マジですか?屋根まで軽く9mはありますよ?」

『今の…この姿だととても身軽なので、このお宅くらいならなんとかなりそうです』


オレは大迫さんに通訳する。渡辺さんご自身は、それなりに抵抗はあるようだけれど、恐竜としての自分の能力を発揮することにしてくれたようだった。


「けれど、失敗してあの高さから落ちたら、ケガどころでは済みませんよ?」大迫さんがうろたえながら止めようとする。

『気にしないで下さい。

 ただそこに困っているひとがいるから。手を貸すだけです』

 渡辺さんは目を伏せて微笑みながらそう言うと、『大丈夫ですよ』と言った。


 2~3坪程の庭。都内の一軒家としてはかなり広い。

 しかし、屋根まで跳ぶには、助走距離はないも同然。

 今のオレでも、2階のバルコニーに前肢が届くかどうかと言う所だ。


 渡辺さんは狭い敷地の片隅に佇み、コンセントレーションに入った。

 シッポを波打たせ、ステップを確かめながら、ゆっくりと息を整え、祈るように空を見つめる。

 物音一つで壊れてしまいそうな、張り詰めた厳粛な世界。


 オルニトレステスは3歩程助走すると、ほぼ垂直に跳んだ。

 滑らかな流線型のシルエットが、龍のように空へ登ってゆく。

 だが、屋根までもう少しという所で、跳躍は急に勢いを失って行く。

 渡辺さんは、体を前に丸め、尻尾を振り上げると、空中で1回転し屋根のフチにストっと降りた。


 その瞬間、庭の隅に固まるギャラリーたちが一斉に沸き返る。


 …走り高跳びの躍動感と床運動の軽快さを合わせたような、鮮やかなジャンプだった。


「ありましたよ!」屋根から渡辺さんが顔を覗かせ、満面の笑みを浮かべてドローンを見せて来た。


タク  :オルニトレステス、きれいなジャンプフォームだったな。ビデオに撮っておけばよかった。

渡辺  :そんな、恥ずかしいです…。

ジョージ:できればこの目で見たかったですね。

ターク :多分、ヘッドカムに記録が残っていると思うが。

副長ズ :それ下さいっ!!!

トウヤ :スケベなオジさんたちが何か言ってますよ?

渡辺  :(ポッ…)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ