052:恐竜が来るとき #1-2
大迫二尉の話の続き。
ヤボを言うと恐竜さんが来ますよ。
052:恐竜が来るとき #1-2
避難所を襲撃し避難者を人質に取った恐竜化症発症者(以下、恐竜)を、人質もろとも掃射しようとした石山 浩司一尉を止めるため、私こと大迫 拓磨二尉は、上官に発砲せざる負えませんでした。
一発の銃声に続く私の一喝が響いた後、場は静まり返ります。
一尉は肩を押さえながら膝を付きます。
バカだな、私は。
必要に迫られての事とは言え、上官を撃ってしまいました。
人質も恐竜たちの牙に囲まれ、もはや風前の灯。
卑小な人間たちの招いたことに、もう救う手立てがありません。
けれど。
神さまというのはおられるのですね。
図太い爆音が近付いて来て、校門に武装した装甲車が現れます。
まさか。
校門をくぐって来たのは、ラーメン屋の前に止まっていた、アメリカさんの"あのハムヴィー"だったのです。
ハムヴィーは人質を取り囲んでいる恐竜の一団から離れた場所に止まり、しばらくの間状況を見分しているようでした。
やがて、無線にジョンソン少佐殿の声が入ります。
当然、こちらはロクに返答出来ません。
「要件は伝えた。手出しはするな」こちらが全く状況対応出来ない混乱の中、少佐殿はそう告げ無線を切られました。
山本少尉はバディの海兵隊員と共にハムヴィーから降り立つと、恐竜たちの前に進み出ます。
そして説得交渉を始めました。
クォーロロロ、クォーロロロ。
山本少尉は恐竜の言葉で人質犯に呼び掛けます。
犯人側もリーダーと思しき恐竜が応じます。
幾度かのやりとりの後、少尉は日本語で話し始めました。犯人側の要求を私たちにも伝えようという意図なのでしょうか?
「キミたちを動物扱いした人間たちへ挑戦、本当にそれが目的なのか?」
この場合の"挑戦"という言葉は、恐らく"復讐"のことなのでしょう。
隊員たちも避難者たちも固唾を飲んで成り行きを見守る他ありません。
「なあ、本音は、人間たちに、"ゴメン"を言わせたいだけなんだろ?
だから、殺してないんだろ?
だから、こんなことやったんだろ?」
実行犯の恐竜たちの中には仲間と見交わし、その通りだと言う様に頷き合う者が少なくありませんでした。
胸に手当をてて考えて欲しい…
頼む、こっちに戻って来てくれ…
1分だ、1分待つ
少尉の説得、と言うより呼び掛けに近い交渉に、実行犯側から何人かの恐竜が仲間を振り返りながら出て来ます。
やはり、私が発症者に感じていた事は間違いではなかったのです。
少尉は、投降して来た恐竜たちに、海兵隊のハムヴィーを指差して下がっているように指示をしました。
正解です。
今や人間側も正常な判断がつかなくなっています。
少尉は、残った恐竜たちと人質たちを見回した後、空を見上げ、しばらくぼんやりした後、バディと見交わします。
バディは、空に向けてライフルを1発撃ちます。
すると、海兵隊のハムヴィーから迫撃砲らしき砲声が上がりました。
1発2発3発。
ターレットに登ったジョンソン少佐殿です。
型遅れの単発式グレネードランチャーを次々に装填、射出投擲を行います。
どうやら、弾頭は騒音弾のようです。
爆発の代わりに激しい騒音を立て、人質犯たちを撹乱し行動不能にしています。
山本少尉は鳥のように高く跳躍すると、型遅れのガバメントを自動小銃のように連射を重ね、外周を取り囲む恐竜を片端から射落とし、群集の中に降りて行くと、残った恐竜を全て、見たことのない武術で倒してしまいました。
人質となっていた避難者の方々は全員無傷でした。
しかし、あろう事か、私たちの背後で成り行きを見守っていた避難者の中に、山本少尉に石を投げた者がいます。
なんという恥さらしな。
やはり山本少尉は、怒り心頭に避難者の前にひとっ飛びでやってきました。
50人ほどいた恐竜(後で計上したところ74人でした)を、ものの数秒で倒してしまった戦士を怒らせてしまいました。
私の腕でも、彼に命中させることは不可能です。
もしも死神が実在するとしたら、彼がそうです。
こちらの攻撃は一切届くことが叶わず、彼がもたらす死の接触は定命の存在が避けることは出来ないのです。
羽毛を逆立たせキバを剥く彼の姿は、異世界の魔物でした。
しかも、我が隊と避難者の間に立つ彼を撃ったら、弾は間違いなく全て流れ弾となって避難者を襲うことになるでしょう。
何より恐ろしいのは、校舎屋上に配置した狙撃手の存在を明らかに認識しており、スコープ越しに睨まれた射手は射すくめられ、身動きが取れなかったと事後に報告があげられました。
何という狡猾さでしょう。
獲物を仕留めるために、微塵も隙を作らない、本能の殺戮者。
隊の誰かが、一人でも恐怖に負けて銃の引き金を引けば、私たちは全滅するでしょう。
避難者たち-自治会長さんと周囲の方々は、少尉に石を投げた者を取り押さえ、生け贄のつもりか、少尉の前に突き出しました。
デイノニクスは、嬉しそうに目を細めると、興奮した様子でよだれを垂らしながら生け贄に駆け寄ります。
そして目を見開き、じっと品定めでもするように、生け贄を見つめます。
わりい子はいねが~
デイノニクスは、よく通る低い声で、そう唸りました。
…なまはげ、でしょうか?
次の瞬間、デイノニクスは生け贄の鼻先で、バクンッ、と大きな音を立て、食い付く素振りを見せました。
生け贄は失禁してへたり込みます。
イタズラして隊員さん困らせるわりい子はいねが~
スキキライして隊員さん困らせるわりい子はいねが~
デイノニクスは、耳障りな足音を立てて練り歩きながら、獲物を狙う魔物を演じ、優しい恐怖を撒き広げます。
泣ぁいてる子はいねが~
こさ(ここには)わりい子はいねぇ~~
壁の向こうへと姿を消した山本少尉に、拍手を送る隊員までいます。
なんて、人を食った態度を取る恐竜なのでしょう。
なんて、思いやりのある恐竜なのでしょう。
「医療班、前へ!」
つま弾き者のしがない二尉とか、関係ないですね、もう。山本少尉が退場すると、私はファーストエイドキットを両手にありったけ掴みます。
「私に続け!」私は、人質犯の恐竜が倒れている現場ヘ急ぎます。
ジョンソン少佐とエストラーダ中尉も、色々と装備をかついで現場へ向かいます。
「大迫二尉、だったな」軍医の本領発揮とばかり、テキパキと機材の展開を始めていたジョンソン少佐は、私を認めると話し掛けて来ました。「発症者の施術は私たちがやる。注意点を学びたい者が君の隊にいるなら、連れて来るのだ、すぐに」
「はい!」
エストラーダ中尉に銃撃された大型恐竜は、中尉の撃った特殊弾頭に失神しているだけで、10m近い体格もあるため、処置は弾丸の摘出だけ。少佐殿は麻酔の使い分けのアドバイスを医官隊員たちに師事します。
そして、山本少尉に銃撃された中型恐竜たちは、同じく特殊弾頭を受け、腰からシッポが麻痺しているだけなので、弾頭の摘出。
併せて、犯行意思がまだあるか確認します。
まだやるつもりなら、捕縛しなくてはなりません。
しかし、彼らは一様に首を横に振りました。
山本少尉が武術で倒した残りの恐竜たちは軒並み脳震盪か何かで失神しているだけなので、打撲を受けている患部にシップを貼ります。
そこへ、上官であり避難所の指揮官である大隈三佐殿がやって来ます。
私も、手当てを受けている実行犯の恐竜同様、一尉へ発砲した責任を取らなくてはなりません。
私は近付いて来る三佐殿の前に進み出ました。
「よくやった二尉、おかげで私も道が見えた」
「…?」私には三佐殿が言われていることが分かりませんでした。
「私は、一尉を止めるためとは言え、上官へ発砲してしまいました。覚悟はついております」
「おそらく出廷してもらうことにはなるが、その件については不起訴になるだろう。
第一、人質ごと実行犯を射殺するなど、誰が許可したのだ?
私はそんなことは断じて認めない。
お前は一尉の独裁行為を止めてくれたのだよ。
一尉と彼の賛同者はテロ未遂容疑で、拘束する。
君は証人として喚問を受けるだろう。
この件については以上だ。
質問はあるか?」
事態のあまりの転換に、私はようやくの思いで、首を横に振るばかりです。
三佐殿は、よし、とほほ笑みます。
「それにしてもあの抜き撃ち、いい腕だったぞ。
おまけに、うまい具合に海兵隊が来てくれたものだ。
人員不足ではあるがな。大丈夫だと思わんか?」
恐竜たちの中には、ジョンソン少佐や医療班の手助けをしている者もいました。避難者の方からも、医療の心得のある方が助力に加わっています。
その光景は、私が銃を抜く直前に心をかすめたものに近いものでした。
「上層部では判断に時間がかかり過ぎる。
私の独断ではあるが、発症者たちへの発砲許可を限定的に凍結する。
以後、防衛目的以外での発砲許可はCPか私に仰げ。
小隊は、残存隊員を再編成の上、お前に預ける。
とりあえずこの場を片付けたら、海兵隊が保護している恐竜たちを引き取りに行こう。
避難者にヒヨることはない。なに、文句があるなら他所へ移ってもらうだけのことだ」
三佐殿はそう言われると、ジョンソン少佐の方へと歩いて行きました。
「…へえ、大変でしたね。二尉も抜き撃ちが得意なんですか」私の話が終わると、山本少尉が口を開きます。
「ええ。恥ずかしながら」
「今度ラーメンでも食いながら、西部劇のハナシしませんか?」
一瞬、何のことなのかわかりませんでした。この混乱がすぐに終わるような口振りです。
まるで、バカではありませんか?
「いいですね。是非」私もバカなので、話に乗ることにしました。
「オレも誘え。まだあの店のチャーシュー、食ってないんだ」ターレットに立つ、山本少尉のバディ、エストラーダ(ポール)中尉が、忘れてるぞ、と言わんばかりに言い添えてきます。
「チャーシューか。あの店のレシピなら、ワシも食してみたいな」ハンドルを握るジョンソン少佐も口元を崩しながら加わります。
「ところで、早速一人見付かったが、どうするね二尉?」
少佐殿はハムヴィーのスピードを緩めます。
少佐殿が指す先には、トボトボと歩く恐竜の姿があります。
恐竜が私たちに気付き、顔を上げてこちらを振り向きます。
「お停め下さい、少佐殿。保護します!」私はようやく言いたかったことが言えるようになりました。
恐竜は私たちに気が付き、逃げ出そうとします。
「おーい、もう大丈夫です。よければ乗って行きませんか?避難所まで、お連れします」私は窓から身を乗り出し、ありったけの大きな声で呼び掛けました。
恐竜は立ち止まると振り返り、驚いたようにしばらく私の方を見つめ、手(前肢)に何かを掲げます。
クォゥッ!(これ、ありがとうございました!)
見覚えのある恐竜、あの恐竜だ。
振っているのは、あの時渡したポーチでした。
生きて…いてくれた。
あんな約束をしたものだから、この後、私は事ある毎に目の前のこのデイノニクスに手を焼かされることになるのです。
けれど、食べ逃したあの店のラーメン。
外人さんがまた食べたいと言い出すほどの逸品がまた食べられるよう、世界を持ち直すためにがんばるのは、やぶさかではありませんね。
ポール :このネタ、アレだろ?おじいさんとおばあさんがどんどん弱っていく話。
ジョンソン :モトは子供向けの絵本なのだが、人気があったので映画化されたのだな。
トウヤ :オレ、この作品ニガテなんだよ。なんか、コワかった。
タク :私も見ましたけど、なんともピンときませんでしたね。とりあえず、核兵器は地球の迷惑です。
海兵隊トリオ:同感だ(×3)




