049:スライド・リッジ
ガバメント残酷物語。
トウヤが初めて実戦で銃を使います。
049:スライド・リッジ
ラーメン屋の大将のエスコートに付き合った後、旦那さんに先立たれたおばあさんを避難所-最寄りの小学校まで連れて行くことになった。
大将も家族の様子見に一緒に来るそうなので案内してもらう。
クルマ屋までレッカー呼びに行くだけで、何でこんなに遠回りになるんだろ?
距離だってホンの数キロしか離れてないのに。
これが何にもない平常時ならデンワでJAF呼んで待ってればいいんだろうけど、恐竜がウヨウヨいる現状では、それこそ無茶ブリだ。
線路から現れたティラノサウルス倒して、ハドロサウルス御一行のケガ手当てして基地に送って、アンキロサウルスのご隠居とはぐれブロントサウルスのキックボクシング試合観戦して、遅い朝メシ食べて、バリオニクスとツレタバコして、トロオドンのネックレス造って、ラーメン喰って、出前のエスコートして…。
今日はもうオナカ一杯です。いろんなイミで。
それなのに、クルマ屋でトルヴォサウルスのターボ君と落ち合うという当初の約束がまだ片付いてない。
あー全ての元凶はあのステゴサウルスだ。
そんな所へケータイがかかってくる。
ター坊の大家さんのリモさんからだった。
スピーカーをオンにして受ける。
『こんにちわ、リモです。今はお邪魔じゃないかしら?』
「お疲れです。スンマセン、まだクルマ屋にたどり着けてナイんです」
『あら、大変ですね。私たちも倉庫に行くのに夕方まではかかりましたから、お察しします』え…それマジ?さらりと言われてちょっと絶句した。
『トウヤさんたちケガはありませんか?』野太い声、トルヴォのター坊だ。
「ケガはないけど、珈琲飲んで一服したい。クルマが業務用なんで禁煙なんだよ」元より軍用の車両なんで、灰皿付いてないんだ、ハムヴィー。
『スモーカーにはツラいですね。ええ、オレたちこれから待ち合わせのクルマ屋にデバろうかと(出掛けようかと)思ってたトコで、それで連絡入れたんスよ』
「オレたちの方は、これから避難所まで人を連れてくんで、まだかかりそうなんだ。
それより、そちらこそ外出歩いて大丈夫なのですか?」
『カラダがナマるんで。それに、おばちゃんも外出たがってるんスよ』
「今、翼竜が増えてる。空にも注意が必要になってきているんだよ?」
『それでしたらご心配なく。私、学生時代からアーチェリーをやっておりまして、今でも定期的に弓場に練習に行っていますの』マジか?なんとも頼もしい女傑だ。リモさんイカす!
「矢はたくさん用意しておいた方がいいですよ」
『30本…はあるかしら?多分、大丈夫です』
「森さん、石田くん。今、武装しているオレたちですら、そちらにたどり着くのに手いっぱいの状況です。気を抜かないでくださいよ?」
『ありがとうございます。では、お店でお会いしましょう』
そんなこんなで様々小学校に着いた。
が、そこでは大変なコトになっていた。
何で?
何で、こうなるの?
何で、こんななの?
何で、人質取られてカタマってんの!?
発症者(以下、恐竜)たちに避難者が人質に取られ、膠着状態になっていた。
校庭にはポツポツと恐竜が倒れている。アサルトライフルの掃射を受けたのだろう。みんなハチの巣にされて、息絶えているようだった。
かなり、イラっと来た。
人質は…ざっと50人以上いる。
校庭に人間も恐竜も入り乱れて一塊になっている。
ティラノサウルスか何からしい大物も3頭ほどいて、体の所々から赤黒い筋を垂らしている。
逃げられた他の人間たちは、自衛隊の後ろから戦々恐々で様子を見守っていた。
恐竜たちは、目に付くだけでも3~40頭はいる。
一塊になっているのは、おそらく狙撃への防護措置だろう。
そう考えると、自我なしでは到達できない作戦だ。
バカ野郎!!
恐竜たちをはじき出した自業自得の人間勢に、テロに踏み切って命を無駄にしている恐竜勢。
どっちもバカだ!!
こんなことしても何にもならねぇのに!
オレは深呼吸してクールダウンする。
「…センセ、オレ、行って来ます」
「危険だ。許可できん。第一ここは自衛隊管轄の避難所だ。
ワシらが出向く必要はないのだぞ?」ジョンソン先生(少佐)は、真顔でオレに問いただして来る。
「ハナシを聞いてやらないといけませんよ。誰かが。
それに、竜神てのは優しくて愚かなモンなんですよ」オレも、バカ野郎の仲間入りすることにする。
「じゃあ、竜神には、毘沙門が付いていないと、カッコつかないよな」相方のポール(エストラーダ中尉)が加勢してくれる。頼もしいヤツが増えてくれた。
「万が一の時、逃げ切れるのか?」
「申し訳、ありませんが、援護、お願い致します」
「ワシはお前ほど上のキャノン(M134ミニガン。車載の7.62mmガトリングガン。)の扱いは巧くないのだぞ?」
「少佐殿、お忘れですか?オレは、退却戦の、エキスパート、なんですよ?」ああ、昨日聞いた、公開NGのあの武勇伝か。
「そうだったな…」先生は無線のハンドマイクを取り、周波数表で周波数を調べると、自衛隊のCP(指令所)に断りの連絡を入れた。向こうが何かがなり立てているようだったが、先生は「要件は伝えた。手出しはするな」と告げると無線を切った。
「…よし、行って来い。
さて、大黒さまは打出の小槌でも用意するとしよう。まさか使うハメになるとはな」先生も苦笑いしながら仲間入りしてきた。それにしても、先生は次々と隠し玉を出してくる。本当にハンマーかメイスでも出してくるんじゃないだろうな?
「コレ、クビに掛けろ。合図したら着けろ」ハムヴィーから降りると、ポールがイヤー・バッフル(耳栓)を渡して来た。チン・ストラップまで付いた、やたらゴツいデザインは、作戦行動用に考えられたものだと判るけど…。
「作戦に耳栓は使わないんじゃないのか?」昨日の射撃訓練でジョージ(レナード大尉)に訊いた時、使わないと聞いたんだけどな?
「必要な時もある」
オレたちは、人質を固めて陣取っている恐竜たちに近付いて行った。
『なあ、話し合わないか?』オレは近付きながら恐竜たちに、ネイティブで話し掛けた。
『お前こそ、こっちに来い。人間なんかの味方するな!』相手方でデイノニクス語が通じる恐竜が応えて来た。
『なあ、今スゴくマズいことやっちまってるんだけど、この後どうするんだ?』30mほど手前で脚を止める。
『……』
『なあ、日本語は分かるか?
もし分かるなら、人間たちに同時通訳するから、話を聞かせてもらいたいんだ。
オレは、君たちの代弁者として来た』
『ああ、喋ることは出来ないが、聞き取りはちゃんと出来ている』人質の中に紛れていてわかりづらいが、相手のリーダーは、人間たちより頭一つ高い、大型のラプトルらしい。
『日本語で話し掛けていいか?』
『ああ』
『後、言葉を変える前に、オフレコで一つだけ言わせてくれ。
今ならまだ間に合う。
このままじゃ一人づつ狙撃されて行く。
籠城戦やるにしても見た所、何も準備してないんだよな?
このままだと先細りでツラいぞ』
オレはそこで一旦言葉を切り、日本語に切り替えた。
「何が望みなんだ?」
『交渉はしない!オレたちを動物扱いしてはじき出した人間への復讐だ』
「キミたちを動物扱いした人間たちへ挑戦、本当にそれが目的なのか?」敢えて"復讐"という言葉は入れなかった。人間側の感情を煽るのはマズい。
『……』リーダーは言いよどむ。
「なあ、本音は、人間たちに、"ゴメン"を言わせたいだけなんだろ?
だから、殺してないんだろ?
だから、こんなことやったんだろ?」校庭に倒れているのは恐竜ばかりで、人間は一人もいない。それに、人質勢も逃げおおせた方も、どちらもケガらしいケガはしていない。
「食べる物もない。
夜露を凌ぐ居場所もない。
なにより、人として扱ってもらえない。
オレの前の仕事も似たようなもんだったからな。
自分に起きたことのように、よく解る。
けどな。それを理由にして、こんなことをするのは人として間違っている。
そう分かっていて、それでも、やむにやまれず、踏み切ったんだろう?」
これは、人間と、恐竜の、両方に宛てたメッセージだ。
「1分待つ。
胸に手当をてて考えて欲しい。
自分が人間だったら、"発症者"をどうしたか。
自分が勝ち組だの負け組だの曲がった根性で、"発症者"をイビリ出したりしないと言い切れるか。
その上で、そこから出てきて人として生きて行くか、人としての尊厳を自分の意思で捨ててケダモノとして退治されるか、決めろ。
もちろん、もう手を着けたんだ。
清算はゼロには出来ない。
けれど、それは新しい一歩のための払いなんだ。
オレからの頼みは、これから言う、たった一つだけだ」
オレは、そこで一旦言葉を切る。
「頼む、こっちに戻って来てくれ。
これだけのことをやるガッツがあるんだ、必ずやり直せる。
人間に、これ以上手出しはさせない。今は、それ以上は約束出来ない」
すまない。それが言えたらどれだけラクなことか…。
「今12時54分。
1分だ、1分待つ」
ためらいがちに仲間を振り返りながら出てくる、数頭の恐竜たち。
よかった。ゼロじゃなかった。
残る恐竜たちも、出てゆく者を止めなかった。
オレは彼らに頷き、後ろのハムヴィー2号の方に下がっていてもらうよう指差した。
居残る恐竜たち。
決意を揺るがせなかった者。
オレが手を下すのを待っている目。
オレと差し違えるため身構える目。
今までも、楽な人生じゃなかっただろう。
その終わりをこんな形で迎えるなんて、バカだ。
きれいな空、好い天気だ。
もう、ここまでだ。
オレはポールに、"もういいよな"と目配せする。
ポールはうなずくと、首にかけていたイヤー・バッフルを耳に装着し、終了の合図代わりに、空に向かって1発撃った。
オレもさっき渡されたイヤー・バッフルを耳にする。
何かが後方から立て続けに飛んで来た。
グレネード(迫撃弾)か?
視界の片隅にハムヴィー2号を入れると、ターレットに上がった先生が、グレネード・ランチャーをリロードしている姿があった。
M79 グレネードランチャー。某戦闘アンドロイドが最後のキメに使った名器。あれがさっき"大黒さま"が言っていた"打出の小槌"か。
じゃあ、"竜神さま"もやることやるか。
オレは加速モード全開で切り込んだ。
グレネードは恐竜たちの後方に着弾すると、けたたましい騒音を立て始める。
大型の獣脚類はうろたえてグレネードが落ちた方を振り向き、小型の連中は何が起きたのか見えないため浮足立っている。
撃って来るとは思っていなかったようだ。
甘いんだよ!
相方の毘沙門は、M4アサルトライフルのバーストを、隙だらけの大物衆に叩き込み始める。
オレは、ポールの射線を邪魔しないよう注意して跳び、銃を抜いた。
人質を取り囲む外周の恐竜たちが、オレの方をノロノロと振り向き始める。
そいつらに向けてトリガーをストっと引く。
撃鉄がユルユル降りて行き、ハンマーピンを打つと、そのインパクトが薬莢底の雷管を起爆させる。
プライマーが発生させた熱エネルギーと噴射エネルギーは、薬莢内の火薬と酸素を撹拌させながら連鎖燃焼を誘発させ、高圧ガスを発生させる。
そのガス圧が弾頭を抑え込んでいる薬莢の煽動抵抗限界を超えてゆくに連れて、弾頭がジリジリとこじれながらリリースされて行く。
薬室から銃身へ押し出された弾頭は、初活慣性を削りながら銃身螺旋溝との煽動抵抗によって回転を始め、直進性を増強されながら銃口へと進んで行く。
この辺りからスライドのストレート・ブローバックが始まり、チェンバーからカートリッジが引き抜かれ始める。
そして破壊の意志を与えられた弾頭がバレルノーズから、ようやく射出された。
オレはメンド臭いのでハンド・スナップで銃をシャクり、その慣性で強制的にスライドのブローバックを完結させて排莢し、銃を下に振ってマガジン内のカートリッジを強制的に繰り上げさせ、その返しの慣性でスライドを強制復帰させ、チェンバーにカートリッジを強制ロードさせる。
多分、もっとイイ鉄砲だと、こんな手間かけなくても、スカスカ連射できるんだろうな。
eブレット(電気ショック弾)が人質を押さえる恐竜に向けて慣性突進して行くのを確認すると、マガジン内の残り6発を、順を追って他の恐竜にお見舞いし、スライドが後退中にマガジンリリース(弾倉固定機構解除ボタン)を押し込んでマガジンを引き抜いてやり、お代わりのマガジンを突っ込む。
そうしてガバ(コルト社の半自動拳銃、ガバメント。US海兵隊カスタム仕様のため、正しくはM.E.Uピストル。)を加速状態全開の連射速度でマガジンをカラにした所で、スライドがブローバックしなくなった。
しょうがないので発射するたびにスライドをいちいち前肢で引き、カートリッジを強制排莢して連射を続ける。
後1発もってくれ、後1人、人質を助けさせてくれ。
もう1発もってくれ。
もう1発。
もう1発…。
そうしてがんばってもらっていたら、ガバはマガジン4本目でスライドの中から、グォブッ!、的な音というか感触がして、スライドが引けなくなった。
見てみると、スライドの背がヤな感じで盛り上がっている。
壊しちゃったか!?
後でジェシーに怒られる。
昨日借りたばっかなのに!
見なかった事にしてハンマーをハーフコックに下ろし、銃をホルスターに戻した。
掃射は済ませた。めぼしい恐竜まで40mほどある。後、2億ナノ秒ほどで着弾するだろう。
さて、降りる場所を考えないとな。
ジョンソン:軍に長いこといるが、ガバメントがあんな壊れ方したのを見るのは初めてだ。
ポール :ガバって壊れるモンなのか!?オマエ、おかしいぞ。
トウヤ :"ガバがガバガバ"って言ってみて。
ジョンソン:?ガバがばがばが
ポール :がばがぼがが?




