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恐竜日和 ウォーク・アバウト  作者: ニジヘビ
ミリタリーお茶会編
47/138

047:ブロークン・アローン

一人ぼっちのバリオニクスのサバイバル。



 047:ブロークン・アローン


 自衛隊にお引き取りいただくと、オレは、始祖鳥の藤沢さんの様子を見に行った。

 治療は終わった。しばらく安静にする必要はあるものの、峠は越した。

 胸にギプスをはめられた藤沢さんは横向きに寝かされ、静かに眠っている。

 さっきまで苦しそうだった浅い息は、静かに落ち着いている。


 よかった。


 オレは、藤沢さんと会った時のことを思い返す。

 あの時、藤沢さんは、人間も恐竜も同じように恐れていた。

 人間に限らず、聡い生き物は危険に敏感だ。

 大型恐竜になった目に付く発症者(以下、恐竜)はいざ知らず。人間より小さいサイズの恐竜はどうやって見つけたものかな?

 現状では、水も食べ物も手に入れられないのだから、遠からず餓死してしまう。

 町のあの惨状-人間と人間の成れの果てが殺し合う地獄絵図を見てしまうと、保護の呼び掛けに応じなくなることも考えられる。


 ふと影が落ちたので振り返るとジェシー(シャルビノ少尉)とシガー・パイプを咥えたバリオニクスの平さんが覗き込んでいた。


「見舞いに花でも用意できればいいんだが、あいにくウチは魚屋なんでな。どうでぃ、先生の塩梅は?」場に馴染んだのか、平さんが素のべらんめぇ調で様子を聞いて来る。後はハッピでも着せれば立派な江戸っ子だな。

「まだ麻酔が効いてるのか眠っていますよ」

「そっか。それにしても、オレとは大違ぇだな、ちっこい(小さい)のにきれぇ(綺麗)なもんだ」

 オレはバリオニクスを見上げる。

 ワニのようにいかつい顔付き。獣脚類セロポーダらしいしなやかな体型。筋骨逞しい両腕。

 ふと気になる。


 この3日間ナニ喰って生きてたんだ?


「平さんはこの3日間、どう凌いでいたんですか?」

「ああ、女房に叩き出されてよ。まあ、家ぶっ壊しちまったしカンカンになるのは分かっけど、"出てけバケモン"とか言われたのにゃさすがにハラ立ってな。

 で、家出て町行ったのよ。

 けどな、トウヤさん。アンタも見たろ、町のあの有り様。

 アリャあいけねぇ」平さんはため息混じりに首を振る。

「オレぁケンカは売られりゃ買うけどな、ありゃ、なんか違う。ヤクザの出入りだ。

 関わらんように、江戸川の方で魚捕って凌いでたのよ」


「魚って?」


「ああ、コイとかボラな。メートル級の。まあ、この図体は取り回しはてぇ変(大変)だがオオモノ漁には向いてんな。

 それに、喰って見りゃ案外ウマイもんだったしよ」


 よかった。発症者も含めて人間には口を付けていないようだ。

 それに、開け広げな話ぶりはサイコパスやマン・イーター(人喰い)には思えない。


 ホッとしたらバリオニクスに興味がわく。


 話からすると、バリオ(バリオニクス)って魚喰いだったのか。ガビアル(ワニの一属で主に魚介類を食べる)のように魚を捕ってたとはね。

それならあの口の作りも、前肢の鳶口みたいに先端だけ曲がった太い鉤爪も納得が行く。

オレらデイノニクスの前肢の鉤爪は、獲物を引っ掛けて捕らえるよう、猛禽類の鉤爪のように細めで鋭くカーブしている。

対するバリオの鉤爪は、獲物となる魚を取り逃さないようになっているんだな。

要は捕まえるための道具と捕まえた後の道具の違いということか。


「けど如何せん、メシ食った後はやる事なくて退屈でな、昨日は避難所巡りよ。

 さっきちっと(ちょっと)話したけど、人間のヤツら、サル見てェに石投げて来るもんだからよ、"やめろ"って言ってやったのよ。

 けど、このナリだし、出す声は人間にゃ通じねぇと来る。

 オマケに自衛隊のヤツらは銃向けてくるしよ、撃ってはこなかったけど。ヤツら正気じゃねぇ!」平さんはそこで言葉を切り、肩を竦めた。「シッポ巻いて逃げたよ」


 オレはタバコを出して咥え、平さんにもいるか訊くと「頼むよ」とパイプの先を下ろして来た。

 火を着けてお互いに一息吸うと、平さんは続けた。


「でだ。その後もう一ヶ所デバった(出掛けた)んだけどな、おーもう、ケンもホロロだ。

 あきらめて川に戻ったね」


 それにしても、居酒屋か赤提灯で隣に座られたら杯が進みそうなお方だね。話が滑らかで巧い。これでべらんめぇが取れれば講談家になれそうだ。

 実際、他の恐竜たちも集まって来ていたし、歩哨に着いている人間たちも、耳を傾けている様子だった。


「そんでよ、アンタら今朝河川敷に降りて来ただろ?

 けど、昨日のコトがあるんでな。

 オレ、すぐ近くで水に潜って隠れて見てたのよ」

「マジか!?ゼンゼン見えなかったぞ?着陸前にヘリで上空から確認したんだぞ?」

「おお。オリゃ魚にゃ詳しいからな。

 橋の下に影が落ちてるトコにいたのよ。

 水ん中の陽が斜めに差してる下の影だと、上からじゃ偏光サングラス使っても易々とは見えんからな」


 その時は言っていることがよく解らなかったので、後でよくよく聞いたら、驚いた。

 平さんがやっていた技は、水中の光が当たっている境界面のプリズム効果とティンダル効果に自分の体の保護色をフルに利用して姿を隠していたのだという。

 これじゃ光学観測じゃ見つけ出せない。

 ソナー使わないとムリだ。

 恐るべし、バリオニクス!というより、平さんの知力!


「まあ、そんでな、なんか楽しそうにダベったりラジコン飛ばしたり、なんか里見公園に花見に来たサラリーマンみてぇだったんでな、興味がわいたのさ。

 けどな、せなにしょってる(背中に背負っている)マリーンってな。あれ、アメリカのどっかの部隊だろ?イランだかなんだか向こうの方で、見境なしに爆弾落としまくって女子供も容赦なくぶっ飛ばしたの、前にニュースで観てな。

 こりゃマジヤベぇ連中だと思ったよ」


 それ、ちゃう。海兵隊ウチじゃない。

 どっかの部隊が誤爆したのは確かだけど、ウチだとせいぜいがサンダーボルト(A-10サンダーボルトⅡ攻撃機)チームと共同の小規模な作戦だし、レーザーマーカー(地上からのレーザー誘導照準支援)使うから、ミスはほとんどないぞ。


「で、いなくなるまで隠れてたらよ、なんか、トゲトゲしたのにケンカ売られて。トラックぶっ壊されて。

 わりぃけど、あんときゃザマミロと思っちまった。

 なのに爆弾は使わねぇ、マシンガンは脅しだけ。ヤッコさんを鉄パイプでぶん殴って生け捕りにしちまう。

 コイツら、なんか違う。そう思い始めてな。もう少し様子見ることにしたのよ。

 そしたらトウヤさんとジョンソン先生がレッカー呼びに出るじゃねぇか。バラけたらどっちもヤバくなるんじゃねぇか、とコッチがハラハラしてたら、呑気にちっこいの助けたりし始めてよ。

 そのうち、集まって来たバサバサ連中がちょっかい掛け出して、つられてデカいのまで来やがってドンパチになってな。

 したら(そうしたら)オメ、なんか兵隊が保護した恐竜ども庇って前のめりンなってケンカおっぱじめるじゃねぇか。

 フツーほっぽり出して逃げるぜ?

 おお、こりゃ手ぇ貸さにゃってんでな。あのハナシの分かんねェヤツら撫でてやったのよ。

 そしたらトウヤさん、アンタと同んなじ恐竜のミハルちゃんが出て来て、礼なんか言ってくるじゃねぇか。

 いやぁ嬉しかったの何の。3日ぶりに人と話せてな」

「実際、平さん、すごかったのよ。飛んで来た翼竜をジャンプでえ~と11羽か。口で次々と咥えて捕まえちゃったのよ」ミハルは、気分よさそうにノドをクルル、と鳴らせながら言い添える。

「ヒヒヒ。ありゃ面白かったねぇ」平さんも満足そうにタバコを吹かす。

「アパト(アパトサウルス)もおシリに咬みついて追い払っちゃったし」

「ああ。ああいう分からず屋のデクノボーは、最初にガツンとやっとくのよ」

「ミニガン(M134ミニガン。小型の車載バルカン砲)のタマがなくなっちゃって、大変だったから、思わぬ救援だったわ」ジェシーも、胸をなでおろしたように付け加えた。


 オレはミイラ縛りにされて積み上げられている翼竜を数えてみた。ざっと20羽以上…いる?

そこらの家や塀にクチバシが突き刺さっていたり失神して身動き取れなくなっているのも入れたら50羽以上になりそうだ。

 ジョンソン先生をチラリと見ると、やはり目を泳がせていた。

「すごいな。水陸両用でこの戦闘力」オレは気を取り直して素直な感想を言った。

 なるほど。スピノサウルスやスコミムスよりはるかに小さいバリオニクスのボディサイズは、飛ぶ鳥(翼竜)を落とせる機動力もあるようだ。案外、白亜紀では、魚を食う翼竜も捕食していた可能性があるな。

「シールズ顔負けだ。隊長、スカウトしたらどうです?」

「うむ。ぜひ欲しい」

「あ、悪ぃ。おりゃ戦争はやらねぇんだ」

「え~(×2)」

「じゃ、協力してくれ、って言ったら?」オレも軍隊=戦争と思ってたことだし、違う見方からの立ち位置を提案してみる。

「協力?」

「ココの留守番、頼みたいんだよ。今はこれしか出せんけど」オレは封を切ってない手持ちのハイライトを全部出した。

「気前いいねぇ、乗った!」平さんは嬉しそうに目を細めて頷いた。

「予備のライター置いてくから、誰かに着けてもらってよ」

「よし、任せとけ」

「じゃあ先生、とりあえず行きましょう」

「うむ。急がんとな」

「じゃあジェシー、ミニガンのタマは1号に積んどいたからロード(装填)よろしく!」

「アリガト。発射間隔伸ばして節約するわ」

「発射間隔?6000発固定じゃないんだ?」

「それ戦闘機のM61バルカンかミニガンの初期モデルよ。今のミニガンは分間2000発から4000発まで調整可能なの。1号車のは全力の4000発なんで、あっという間に使い切っちゃったんだ」

 そうなんだ?ガトリングガンってみんな分間6000発だと思ってた。後でポールに聞いてみよう。

「ミハルも気を付けてな。後、平さんのサポート頼むよ」

「ハイ。トウヤさんもしっかりね。なるべく早く帰って来て下さいよ」

「ではな、大尉。なるべく早く戻る」先生は居並ぶ面々に敬礼すると、そそくさとハムヴィー2号を出した。


「センセ」2号が隊長たちから十分に離れてから、オレは訊いた。

「何だね?」

「あの翼竜って、さっきオレたちを追って来たヤツの仲間なんじゃ…?」始祖鳥の藤沢先生を襲ったヤツの、ね。ジェシーたちをピンチに陥れたのは、群れていた翼竜を追い散らしたオレらなんじゃないのか?

「あ~。ワシ、知らん」あ、逃げた。

 ま、いいか。

「そう言えば、ハムヴィーと高機動車に互換性が一切ないこと、ご存じだったんですね?」

「当然だ。どの道、ポールと君がいれば何とかするだろう?それにした所で、整備施設まで1号を移送せんことには、そのスキルも発揮出来ん。頼むぞ」

「イエッサー。

 あ~あ、やっぱりプランBになっちゃうか。

 なあ、ポールは知ってた?」

「いや。だがダメだと予想してた。トーキョーはディーゼルダメなんだろ?」ポールは銃座から答える。

「ついでに、このミニガンは分間2000発まで絞ってる。前に中東で苦戦したことがあったからな。

 さっきジェシーと話してただろ?

 残弾2400発ある」

「じゃあ…80秒分あるのか」踏切のティラノは5秒ほどかかったから、消費したのは150発。巧くやれば15頭は倒せるか。

「GPMG(多目的機関銃)は?」

「GPMGはボックスマガジン2つ240発。

 ミニガンとタマは共用出来ない。

 M4(アサルトライフル)はマガジン6個177発」

「え?GPMGとミニガンってタマ同じじゃないの?」

「タマは同じだけど、ミニガン、ベルトレスだ」

「ベルト給弾じゃないのか!」

「う~ん。どこかでちょっと作戦ミーティングをした方がよさそうだな」


ジョンソン:しかしよくあの隠伏術を考え付いたな。

タイラ  :いや、漁の最中にコイに何度も騙されたんで、マネしてみたんでさ。

トウヤ  :スピノサウルスだと背びれが目立つから使えない、バリオニクスならでのワザだよな。

ターク  :ウチのアンダー・ウォーター(水中訓練)教官にぜひ!


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