044:ダイナソー・フッド #1-2
ハドロサウルスの女子高生 VS ティラノ。
結末はもう分かってるんだけど、その途中はこんなんなってました…。
044:ダイナソー・フッド #1-2
みんなを逃がすと、私は土手の上に現れた私たちを狩る気満々のティラノへ向かって走り出した。
思い出すなぁ。あの放課後の教室。
もっと早くにあんなヤツのコクり断っておけば、あんなことにならなかった。
ん?
でも、無駄じゃなかったか。
力で人を言いなりにできるとか思ってるゲスには力で立ち向かうだけなんだって、学んだんだ。
ん、いい位置!
ティラノが大口を開けて喰らい付いて来るところへ、私は立ち上がって、相手の鼻を全力で突き飛ばした。
決めた。
私、こいつ倒したらちゃんと、ううん、しっかり勉強する。
みんなが困らないように、自分たちで食べ物を作れる方法。
こんなやつらをよせつけなくする方法。
みんなで仲良く暮らしていける方法。
何より、みんなと話ができるように、みんなの言葉をマスターする。
こんなバカなことやってるヒマなんてない。
ティラノは、私の一撃で鼻血を垂れ流して発狂してる。
どうした、ゲスの腐れゲーマー頭!バグりクソゲーキャラが、草食女子だからってなめんじゃないわよ!!
お、なんかスラスラ出てくる。そっか、結構ネットでスラング見たもんな。
あ~、もったいない使い方してたな。ちょっとは役に立ってるけど、こんなのいくら覚えたってケンカ以外使い道ないのに。
ん~?今度は回り込んでくるつもりか。
脇に回り込んで来て、背中に喰い付こうとしてくるティラノに、シッポの一撃!
今度もきれいに入った~。
おまけに、土手を転げ落ちて…、河に落ちてんの!!
そうだ、こいつ、人間たちにトドメ刺してもらおう。
道路か電車…そういえば、そろそろ開かずの踏切になる時間だわ。
仲間からこいつを引き離せるし、私はこの図体に利くキメ技持ってないから、一石二鳥じゃない。
私は鉄橋まで走り、ティラノをアオって線路に誘い込んだ。
そこまではよかった。
あ~、このトンマ!私って命掛かってるのに大バカ!
昨日一日、電車通ってなかったじゃない。
電車も止まってるってことぐらい気付けよ!
私は、自分で逃げ場のない檻にティラノと飛び込んでしまっていた。線路の両脇は家が隙間なくつながってる。
踏切は所々にあるけど、その先は私が身動き取れない細い道ばかりだ。
どこまで走れば脱出できる広い道路が出てくるのか、ゼンッゼン見えない!
マラソン、私、苦手なのに。体、大っきくなってもっとツライ。
そうして、私は踏切でつまづいて、転んだ。一瞬息が止まり、目の前が灰色のザラザラになる。
~~~~っ!!
今まで受けたことがない激痛が背中に走り、声にならない悲鳴が勝手に上がる。
グジュ…
ティラノのキバが肉に食い込んでくる音がする。
でも、こんなの、おばさんのに比べたら、こんなの何だ!
私は激痛をこらえながら、シッポを振り上げた。
バジュ!
振り上げたシッポがティラノの胸を叩き上げたら、派手なスパークが起きた。
私の反撃にのけぞったティラノが、架線で感電したんだと思う。
周りに苦い匂いが漂い、ティラノは倒れた。
けれど、私も余波を喰らって少し感電してしまった。
背中のダメージもあって、体を起こそうとしても、ガタガタ震えて思うように立てない。
私は今までずっと崩さなかったプライドを捨てることにした。
手を地面に着けて、四つ足で立った。
背中が燃えるように痛いけど、立てる。
シッポがまだジンジンしているけど、歩ける。
ヨロヨロ歩くと、少しずつ感電のショックが薄れて行く。
振り返ると、ティラノもなんとか立ち上がろうとしているところだった。
いいじゃん。
噛みつきと感電のマッチポンプ。
私はヤツのキバと感電の余波。ヤツは私のアッパーカットと感電直撃。
最後に立てたヤツが勝ちだね。
私はその後、2回喰い付かれ、2回ヤツを叩き上げ、一緒に感電する。
ヨロヨロ歩きながら、もう何コ目か分からない踏切を通り過ぎる。
あ~。ずっとカンカンカンカンうるさいな、クソ踏切。とっとと道を広げろっての…。
そう思った矢先、ようやく私でも抜け出せそうな広い踏切が見えた。
よ~ぉし。1歩ぉ。
くぅぉ~。1歩ぉ。
おぐぅ~。1歩ぉ。
よ~いっ痛ったぁ!
追い付いて来たティラノがノーガードの背中に喰い付く。
何度目かの反撃に、機械的にシッポで振り払おうとした。
あれ?はは、シッポもう力、入んないや。
私の一撃は、ティラノの足を払い、ティラノはよろめいて線路脇の家へ頭を突っ込み、2階をぶっ壊した。家の中でネズミみたいに隠れているらしい人間から悲鳴が上がる。
けど、いいか。感電はナシだったし、あとちょっとだ。
いっぽ。もういっぽ…。
そうしてゴールにやってくると、そこでは想定外のイカれたヤバいヤツが待ち構えていた。
軍隊が装甲車でバルカン砲を構え「そこの君たち。何があったか知らないが、休戦にしないかね?」なんて言ってくる。
アハハ、何、その狂ったジョーク。
あ~~~~~もう!!こいつ(ティラノ)やっちゃって!!早く!
私ももう好きにしていいから!
私は死神に向かってラストスパートをかけた。
バルカン砲が赤く火を飛ばし始めた。
後ろから泥水に石を投げたような、ビチュビチュとかヤな音が続くよ。
この音が私の方に降りてきたらゲームオーバーになるんだろうな。
けれど、軍隊はティラノを倒しただけだった。
ううん、バルカンを撃って来たお兄さんは「おい、大丈夫か?しっかりしろ!」と声を掛けてきた。そして運転席にいるボスらしき人に「被害者の治療をお願いします」とさえ言ってくれた。
「先生、この恐竜さんは何て種類ですか?」装甲車の屋根の上に現れたその恐竜さんは、辺りを警戒しながらボスの兵隊さんに聞いてきた。
この人、映画に出てたラプトルとかいうモンスター、じゃなくて恐竜じゃないかな?
怖い。
ティラノみたく暴力的な、感情に訴えかける怖さじゃない。よく切れる刃物や針の先みたいな、死に直結しているものに似た、もっと根元的な怖さだった。
怖いんだけど、目を離せなかった。見とれてしまった。
魔物ってこんなクリーチャーのこと言うんだろうな。
なのに、なんでだろ、和尚さんに似た優しい目をしてる。
トウヤ、と呼ばれているその怖そうな恐竜さんは、ボスに「先生、水を飲ませてもいいですか?」なんて気安く聞いている。
それに友達に勧めるみたいに気さくな水の出し方をする。何より、私の水の飲み方を知っているようだ。
注いでくれた水はすぐ飲んじゃった。
ふー、生き返る~。
え、お代わり?いい人だ!もちろん欲しいです。デス・マラソンの後なんで、喉カラカラ。
ケガの手当てをしてもらっているうちに、私くらいの大きさの肉食恐竜が学生カバン持って出て来た。なんだか、トウヤさんにグズグズとワガママを続けている。
このコ、この世界がどうなったか、見えてない。
トウヤさんは、彼女をようやく迎え入れた。
こんなで生き延びられると思ってるのかな、あのコ?
そうして、トウヤさんはようやくお水のお代わりを持ってきてくれた。
そうしたら、仲間がこっそり集まってきているのに気が付いた。和尚さんも他のみんなも。
みんな、私を探して町の中を歩き回る内に人間たちに襲われたのか、あちこちケガをしている。
トウヤさんも私の仲間に気づいたらしく、その瞬間に別人というか別恐竜みたいになった。
冬の夜に窓を開けると流れ込んでくる冷気のカタマリみたいなのを千年分くらいまとめてラプトルの姿に凝縮したような、触っただけで命の火を立ち消えさせてしまうような、圧倒的な冷たさ。
けれど、トウヤさんは、私の前に立ちふさがるように立っているこの恐竜さんは、私と兵隊さんを守ろうとしてくれているんだと分かった。
"あの恐竜たちは私の仲間なんです"言葉が通じないけどよっぽどそう言おうかと思った。
でも、私はトウヤさんを信じることにした。
見ていると、やはりトウヤさんたちは、私の仲間も助けてくれるらしい。
私にくれたのと同じようにIDバンドを登録して、水のペットを配っている。
和尚さんは水を受け取ると、真っ先に私の方に走って来た。
クォッ!クー。(おお、嬢ちゃん!こんなになって)
和尚さんは私を見上げながら何か言う。
ティラノはなんとか片付いたよ。
ギャギャギャ!(まったく、無茶しよって、このバカ娘!)和尚さんはフワッと羽毛を逆立てた。
ギョロロ…(本当に心配したんだぞ。みんなで必死になって探して…)
言葉は分からないままだけど、和尚さんとこうしてまた会えて、よかった。
私はたまらくなって、顔を下ろして和尚さんにほおずりする。
和尚さんも腕を広げて私を抱きしめる。フワフワの羽毛があったかくて気持ちいい。
トウヤさんのボス、ジョンソン先生は、和尚さんたちも手当てしてくれた。
そして、私たちを安全な場所に避難させるため、ヘリコプターの乗り場まで誘導するという。
道案内は私より少し小さめの肉食恐竜さん。後で聞いたけど、カイさんていうんだ、頭に小さなトゲを3本生やしたあの人。
トウヤさんたちが"自我なし"って言ってるけど、何だろう?
カイさんは、時折後ろを振り返りながら、私が遅れるとゆっくり歩いてくれたり脚を止めて待ってくれた。
そうしてヘリコプターの乗り場まで移動する途中、まだ生き残っていたバカ人間がトラックで襲って来た。
でもポールさんがバルカンで車の前輪を吹き飛ばし、トウヤさんがそいつを張り倒して引きずって来た。
「オレらを殺そうとしたヤツだけど、どうする?」トウヤさんはそう聞いて来る。
人間たちからなんどもいじめ、じゃなくて、殺されそうになった私たちの中に、あの橋で見た黒い煙のような気持ち悪い雰囲気がしだす。
だめ、そんなの!
私がそう叫ぼうとした時、カイさんがバカを口で咥え上げた。
止めようとしたら、カイさんはそいつを放り上げ、野球のノックみたいにシッポでぶっ飛ばしてしまった。
これにはみんな唖然としてしまった。
カイさんは何か言ったらしく、短くうなる。言葉は分からなかったけど「こんなヤツにかまうことはない」と言ったんだと思う。
みんなその一件で笑い合った後、何かの建設予定地に着いた。町中でこんなに広い地面、久しぶりに見た。
待っていると白い大きなヘリコプターがやってきた。
トウヤさんたちは、まだこの町に残るんだそうだ。
会いに行かないとならない人がいて、その途中で私たちみたいに困っている恐竜や人を助けるのだと言っていた。
トウヤさんたちに手を振りながら、みんなヘリコプターに乗り込む。
中は私にとっては満員電車みたいに窮屈だった。
でも、この船は私が乗っても大丈夫。
たまに懐メロとかでかかる古い歌みたく、大きな力で浮き上がり、私たちを乗せて安全な場所まで飛んで行く。
見回すとみんないる。
みんな助かった。
私は安心して小さな窓から空を眺めているうちに、いつの間にか、あの名前も知らない不思議な歌を口ずさんでいた。
近くにいた小さい恐竜も一緒にキューキューと歌い出した。
なんだか、みんな知ってる歌みたいで、二人で歌っていると一人また一人と歌に入って来る。歌詞はみんなの言葉でバラバラだったけど、やがてきれいなコーラスになる。
そしてそれは突然だった。
短い間奏の後、次の歌詞を歌い始めた時、みんな日本語で歌っていた。
みんな顔を見合わせて不思議そうな顔をしていたけど、歌は続いて行く。
船は、魔法のかかったこの時間を抱いて雲の間を飛び、やがてタンポポのたくさん生えている飛行場へと私たちを送り届けた。
マナミ :…というコトがあったんですよ。
ジョンソン:うわ~!ワシも乗って行けばよかった!!
ポール :サブ・チーフは少佐殿以上に悔しがるだろうな。
トウヤ :まあ、何はともあれよかったじゃないですか。基地じゃタンポポ食い放題だし。
カイ :♪~♪♪~♪~♪~




