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恐竜日和 ウォーク・アバウト  作者: ニジヘビ
ミリタリーお茶会編
43/138

043:ダイナソー・フッド #1-1

トウヤたちが保護した開かずの踏切恐竜。

ハドロサウルスのシマちゃんのお話1回目。



 043:ダイナソー・フッド #1-1


 私の名前は三嶋みしま 真波まなみ。高2。

 周りからはミシマとか、仲のいい友達からはシマちゃんとかマナミと呼ばれてる。


 これは、私が恐竜化シンドロームを発症して、ハドロサウルスになった時のこと。私にとって、全ての始まりの話だ。


 それは、2階の自分の部屋で寝ている時だった。

 メリメリという変な音がして、ぼんやりと起き始めてきたら、ゴキッとかすごい音がして、何かから落ちた。はじめ、ベッドから落ちたのかと思ったけど、周り煙たいし、咳をしていたら、お父さんとお母さんがパジャマで出て来た。


「なんだ、"これ"は」

「なによこの生き物!!」


 ええ!?なに!何がいるの!?


「出てけぇっ!!」父さんはそう言うと、何かを拾って私に投げつけて来た。


『やめて、私よ!』そう言っても、口から出てきたのは大きな掃除機みたいな唸り声。

 私は、お父さんが投げつけてくるものを避けようとしたら、よろけて転んだ。

 そうしたら、壁が壊れて、私は家の外に転げ落ちた。

 陽の光が差し込む家の中は、天井が抜け落ちて、いろんな瓦礫が積もっていた。

 私は2階で寝ていたはずなのに、転げ出て来たのは1階の居間だった。


 何があったの?

 体を起こそうとすると、なんだか、前かがみのまま立てない。

 どうしたっていうの?

 自分の体を確かめようと頭を巡らせると、陽の光の中、見慣れない影が私に合わせて動いた。その影の元は私から伸びていて、その端には長いシッポが付いていた。

 見回すと、私はポッチャリしたシマシマの恐竜になっていた。


 お父さんはまた私に何かを投げて来た。

 振り向くと、お父さんとお母さんが私を見る目は、もう、家族のやつじゃなかった。


 私は、仕方なく走ってその場を離れた。

 どこか隠れられる場所。

 私は江戸川の向こう岸にある里見公園を思い出して、そっちに逃げることにした。

 けれど、恐竜になったのは私だけじゃなかった。

 他の家でも、悲鳴と唸り声が聞こえて来て、叩き出されるように恐竜が飛び出してくる。

 ご近所さんの中には、草刈りガマや包丁、中には日本刀を持ち出している人もいた。

 今まで、人間が人間(?)を殺すなんて、テレビの中でしか見たことなかった。

 たまに国道の方や商店街の方で、警察がたくさん集まっている場面を通りかかる時、ひんやりした気配を感じるくらいだった。

 みんな、法律とか学校の倫社とか、魔法みたいな見えない力が働いていて、それで仲良くやってるんだとぼんやり思ってた。

 それが、私たちの中から、いきなり全部なくなった。

 何もしていないのに、殺される。

 私は逃げた。

 スマフォ持ってこれなかった。

 学生手帳も。

 今日は月曜日。夜には好きなアニメがやる日なのに。

 小走りになったり疲れて歩いていると、時折、二本足の小さなニワトリみたいな茶色い恐竜がチョロチョロと姿を見せる。

 私を見つめ、何かを伝えようと鳴き声を出しているのに、何を言おうとしているかさえ分からない。倫社に続いて現国もなくなったんだ。

 歩いている内に広い通りに出た。

 そこでは、トラックや車が、他の恐竜を轢き潰して殺していた。

 こういうの、パソゲーやゲーセンとかで見たことある。

 みんな、プレイヤーみたいな目だった。

 わたし、まだ夢見てるのかな。

 目の前の戦争みたいなのにぼんやりしていたら、何かに足をひっかかれた。

 みてみると、チョロチョロと付いてきたニワトリみたいなのが、羽を広げて、何かを叫んでる。


 逃げなさい!車がくるわ!早く!!


 最後の瞬間、ニワトリはそう言った気がした。

 顔を上げると、黒い自動車が、私に向かって真っすぐに突っ込んでくるのが見えた。

 ナンバープレートが黄色いな、と思うと、車に突き飛ばされて少し気を失ったみたいだった。

 何か熱いものが当たっているのに気が付くと、さっき私に突っ込んできた車が、私にのしかかって白いケムリを上げていた。


 前に、しつこい男子生徒に言い寄られてきたことがあった。

 私の好みからかけ離れたタイプ、主に性格がね、だったから、断った。

 そうしたら、あいつは最後だから、と放課後に私を呼び出して、私を殴り倒した。

 私は、ズボンのベルトを緩め始めたあいつを思い切り突き飛ばして、そのまま職員室に逃げ込んた。


 あの時と同じ、暗い怒りが私の中に燃え上がってきた。

 私はのしかかっている車をどかして起き上がる。

 すると、脇腹から、何かがヌルっと落ちた。

 それは、さっきのニワトリ恐竜のおばさんだった。

 車と私の間に挟まれて、つぶされて…。

 私に、危ないから逃げろって、最後まで言ってくれてたのに。

 私が、ぼんやりしていたから。声を、聞こうとしなかったから。


 ワァァァァァ~~~~~!!!!


 私は泣いた。涙が止まらなかった。

 私の声に、運転席の男が目を覚ましたのか、挑戦的なゆがんだ笑いを浮かべながらエンジンをかけようとしている。


 消えて…なくなれっ!!


 私は運転席の男を車ごと、両手で力の限り突き飛ばした。

 車はこともなく吹き飛び、ガードレールにぶち当たっても止まらず、そのままガードレールを飛び越えて、誰かの家に突っ込んだ。


 私は自分がやったことに呆然としながら、改めて自分の体を振り返る。

 私の体はSUVみたいに大きくなっていた。

 手は動物の足みたいになっていた。


 行か…なくちゃ。


 こんなのいけない。

 こんなことしてちゃいけない。

 こんなとこいちゃいけない。

 こんなの


 人間じゃない


 私は、目を閉じて動かなくなったおばさんを、見下ろす。

 このおばさんも、人間なんだ。私と同じ、恐竜になった"ヒト"なんだ。最後まで、他の人をかばおうと命を懸けて、頑張ったんだ。

 私は、おばさんを頑張って抱き寄せて抱えて、立ち上がった。

 またあふれそうになった涙をがまんして、目をぬぐった。ぬぐおうとした。

 手が届かなくなっててぬぐえないから、腕に顔をこすりつけて、ぬぐった。

 私は、通りを走り出した。

 私の大きくなった体は、狭い通りだと身動き取れなくなる。

 私は覚悟を決めて、この通り沿いに街道に向かう。

 突っ込んできた車は、飛び越えたり、はたき飛ばした。

 途中で、他の小さな恐竜を拾い上げたりしながら。


 けれど、それも江戸川に掛かる橋までだった。

 橋の上では、大きなティラノサウルスみたいのやアパートサウルス(だっけ?)みたいのと車と人間が大乱闘していた。

 恐竜は体にガソリンでもかけられたのか、火を燃え上がらせながら、車や人間をなぎ倒していた。


 助けなくちゃ、と思った。でも、できなかった。

 もうあの人たちは渡っちゃいけない河を渡っちゃんだ。

 そう思った。


 あのひとたちを助けたら、私はあの中から出て来れなくなる。


 私は、川沿いの道に逃げ込み、そのまま少し進んでから、土手に登った。

 橋の上の恐竜は、もう見えなくなっていた。橋の上は、何もかもが燃えていた。その上に黒い煙が気持ち悪く渦巻いていた。


 私は、川沿いをおばさんを抱きかかえながら、とぼとぼ歩いた。

 いつの間にか、小さな恐竜たちがついて来ていた。

 そして、目的地の里見公園の見える岸まで来た。

 舟がないと、渡れない。

 私が乗っても沈まない、大きな船が。


 ごめんね、おばさん。


 私は、ここでおばさんを埋めることにした。

 動物の足みたいになった私の手は、土手の土を簡単に掘ることができた。

 おばさんを埋めようと振り返ると、一緒について来ていた小さい恐竜たちは、手を合わせていたり、首をうなだれていた。


 このおばさんね、私をかばってくれて、死んだの。


 伝わるかどうかなんて、どうでもよかった。

 でも、最後の最後まで"ひと"として生きたこのおばさんのことを、知っておいて欲しかった。

 私は、おばさんをできるだけ丁寧に穴に納め、そっと土をかぶせた。

 何かが足元を突っつくので見下ろしてみると、一緒に来ていた恐竜たちが、どこかからか杭を拾ってきていた。

 杭には、今日の日付と何かの読めない漢字が彫り込まれていた。

 多分、みんなで頑張って運んできて、鉤爪で彫ったんだろう。


 ありがとう。


 私は、"仲間"が用意してくれた杭を、おばさんを埋めた上に立てた。


 ナンマンダブ…。


 ナンマンダブとアーメンしか知らなかった。アーメンじゃないと思う。

 私、本当にもの知らずのガキだ。テレビとスマフォを散々いじって、情報の渦の中を自由に歩き回れていたのに、何も知らない。

 仲間が、近くからタンポポを積んで来て、墓に供えてくれた。いい匂いがする。

 そして、黒っぽい羽の生えた1メートルくらいの小さい恐竜(シッポまで全部入れると2メートルくらい?)が墓の前に来ると、白っぽい手を合わせて長い歌のような鳴き声を上げ始めた。


 クォーォークォークーウォー…


 お経らしき鳴き声を上げている小さな恐竜は胸元が白く、お坊さんの服(法衣)を着た和尚さんのようだった。

 そうして、おばさんの葬儀は終わった。


 次は江戸川を渡る方法だ。


 泳いで渡るか、まだふさがってない電車が通る鉄橋を渡るか、どっちかしかない。

 いろいろと疲れたので、土手に寝転がって考えていると、鼻先からおいしそうな匂いがする。

 タンポポ?

 サバイバルで頑張れば食べれるとか聞いたっぽいことはあったかもしれないけれど、おいしそうな匂いが確かにする。

 むし…ろうとしたけれど、私の手はもうそんなことできない。

 仕方ないので、ちょっと花をかじってみた。


 …なにこれ、甘くておいしい!

 ええ、なにこれ、こんなの初めて!


 私はタンポポのあまりのおいしさに、世界が変わった。

 私は夢中でタンポポをプチプチモグモグと頬張った。

 そして、珍しく"おなか一杯"に食べた。

 そうしたら、のどが渇いた。

 水…は目の前に、たゆたゆと大量に流れている。

 黒く濁ってて変な匂いがして、なにが混ざっているのか分からない、江戸川の水。これを飲むのは最後の手段の次手くらいにしたい。

 そう考えると、泳いで渡るのはナシだな。考えてみれば、小さい仲間たちが溺れるのはだめだから、泳ぐのはやめよう。

 電車の鉄橋も、小さい仲間たちが渡れそうにないから、これもナシ。

 見てみると、仲間の中にはバッタみたいなのを捕まえて食べているのもいるけれど、それ以外のはほとんどがお肉しか食べれなそうな姿だ。

 まずは、みんなの水と食べ物を買いに行こう。スーパーかコンビニに…。

 …バカだな、私って。

 恐竜の私たちが、人間たちのお店でものを売ってもらえるなんて。そもそもお金なんて持ってないし。


 私は、橋の下に隠れて、夕方まで持ちこたえた。人間が来ると仲間が知らせてくれるので、ボート小屋や葦の茂みに隠れてやり過ごす。

 そして、暗くなってきたので、町の方にコソコソと出かける。仲間はみんなついて来た。

 やっぱり、お店はみんな閉まっていた。

 こんなことするのは非常識なのは分かってる。

 けれど、みんなおなかをすかせている。

 ごめんなさい。私はコンビニのシャッターを手で突き破り、店の中に入った。…頭だけ。

 見ていると、小さい仲間たちは一斉に店の中になだれ込んで、ソーセージや肉を連係プレーでカゴに詰め出し、ずるずると引きずって来た。なんか、律儀なのがいて、カゴに詰めた商品の金額を電卓でタカタカと計算して、借用書を書いてレジに張っている。よく見れば、お経をあげていた白手のカラス恐竜、和尚さんだった。

 水も、和尚さんが帰り道に公園まで連れて来てくれて、水飲み場を教えてくれた。みんなで頑張って蛇口を開け、順番に飲んだ。

 そして、みんなでまた川に戻って、みんなで丸くなって寝た。少し寒かったけど、みんなでくっついていると結構我慢できた。


 次の日も同じ感じで、暗くなるまでみんなで河原で過ごす。

 見ていると、肉食らしい小さな恐竜たちは、連携してネズミやイタチみたいなのを狩って食べていた。みんな、生きるために一生懸命だ。

 ポカポカといい天気。河原の草の上で寝るには持ってこいの日。みんなで陽にあたりながらウトウト昼寝して過ごす。

 そして、夜にまたみんなで"買い物"に行って、公園で水を飲んで、みんなでくっついて寝た。

 あ~、タンポポと東京水サイコー!。これだけあれば、ずっと生きていけそう。

 このまま河原にタンポポやバッタが好きな草をたくさん植えて、ネズミとかたくさんいれば、みんなで暮らしていけるんじゃないかな。

私は寝ながら、ゆらゆら揺れる川の反射を眺めているうちに、そんなことを考えた。


 けど、そんなの甘かった。小娘のたわごとだ。


 次の朝、明るくなると、仲間が危険を知らせて来た。

 ティラノサウルス。

 そいつは、私たちの方に真っすぐ進んでくる。

 大きい。私の倍くらいある。


 そいつは、人間が私を見るのと同じ目をしていた。


 逃げてみんな!


 言葉が通じるかどうかなんて知らない。けれど、仲間の恐竜たちは、振り返りながらあちこちに逃げ始めてくれた。

 一方でティラノは大声で吠え、走るスピードを上げて来た。


 ギャギャ!


 足元で声がした。見下ろすと和尚さんが私の足を必死に押していた。その目はおばさんが最後に見せたものと同じ、"逃げろ"と言っていた。

 私は、和尚さんを鼻先でそっと押して、どいてもらった。


 ありがとうございました。

 あいつは私が引き止めます。

 帰ってきたら、また、いろいろ教えてください。


 クォ…


 私は走り出した。

 今度は、もう職員室も警察もない。

 けど、あんな目をした面白半分の"人間"なんかに、私の仲間を好きになんてさせない。

 私は、"こっち側"の"人"なんだ!


トウヤ  :あーイイな。ノンビリと昼寝。

マナミ  :あの~私これからガチ修羅場なんですけど。

ポール  :ミニガン構えて待ってるから。

ジョンソン:まあ、その、なんだ。あまりケガせんようにな。

和尚   :あぁ~もう、今から胃が痛い。


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