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恐竜日和 ウォーク・アバウト  作者: ニジヘビ
ミリタリーお茶会編
42/138

042:マーケット・ガーデン

今回はいろいろとゆる~くヤバいです。



 042:マーケット・ガーデン


 商店街の中の踏切前。


 保護した恐竜、ハドロサウルス科の三嶋さんを手当てしている内に、恐竜化症発症者(以下、恐竜)たちに囲まれた。

 三嶋さんと同じオルニソポーダ(鳥脚類)をはじめ、中型のサウロポーダ(竜盤類)やセロポーダ(獣脚類)。

大中小さまざまな恐竜は、周囲の物陰からオレたちのことを窺っている。

 1、2、3、5…12頭。全員、ハムヴィーの銃座に着くポールの死角に潜まれていた。

 彼らは様子窺いだけなのか、それとも、保護したアロサウルスがいるせいで膠着状態なのか…。

 オレは、彼らをじっくりと一通り見まわす。


 みんな、3.11で何度も見た眼をしていた。


「シーナイト(タンデムローターの輸送用大型ヘリコプター)が下りられそうな場所、ですよね?」恐竜たちに襲撃の意図はないことが判ったので、彼らに気を配りながら、保護した三嶋さんと中崎さんの移送手順の話に戻る。

「またはオスプレイ(VTOL輸送機)を何機か寄こしてもらうか、単機でのピストン輸送、だな」

「自衛隊さんの救護施設はどうでしょうか?」

「断られたよ。その、なんだ、ワシたちが行くと人間の避難者たちがパニックを起こす、とな」

 ツライな。三嶋さんはティラノに何度も喰い付かれ、失血量が多いので、あまり動かせない。ハムヴィーはすでに荷物満載なので、4~5トンはある三嶋さんを乗せたらアクスル(車軸)が持たない。

「…どうにかします。まずは周りの"ひと"たちの保護を優先しますね」まあ、なんとか、な。

「頼むぞ」


 オレは周囲の発症者たちに呼びかけた。

 オレの声に、隠れていた恐竜化発症者たちは、おどおどしながら近付いて来る。

 姿を現した恐竜は、全部で14頭いた。半数以上が血を流していたり、脚を引きずっている。


 危険だ。

 集まってきた恐竜たちの中に、もし自我なしが紛れていたら?


「先生、オレが整列させます。先生はID登録をお願いします」そう言いながら、オレはいざという時に備え、ポールの射界を確保するため、ハムヴィーを停めてある車線の反対側にミネラルウォーターの箱を運び、集まってきた恐竜たちに並んでもらった。

こういう時、人は、目につきやすいものに集まってくる。その前にお祭り野郎がいればなおさらだ。オレの本業、開発したソフトのお披露目会で誘導を何度もやったことあるので、この辺は慣れだ。

 銃座のポールにアイ・コンタクトすると、相方はうなずき、ミニガンを上に向けたまま、ターレットをオレたちの方へ回した。

 集まってきた恐竜たちは、なんだかんだとほぼ1列に並んでくれた。中には、足を痛めている者を支えている者もいた。

 先生が五十音表とタブレットを手にID登録を次々行い、IDリストバンドを巻いた恐竜に、オレは次々ミネラルウォーターを渡す。前肢が手として使えるセロポーダの方には「手が使えない方に水を飲ませる手伝いをお願いします」と言い添えながら。

 驚いたことに、列の中には自我なしのケラトサウルス(体長5mほどの狩猟恐竜)もいたが、きちんと並んで水を受け取っていた。彼は、登録を済ませた恐竜たちの所で腰を落ち着かせ、ペットボトルのキャップを食いちぎって水を飲み干すと、そのまま静かにしてくれていた

 ワイルドだが、いいヤツのようだ。


 保護した恐竜たちのID登録を済ませ、ケガの手当てを済ませると10時近くなっていた。恐竜たちのケガは、切り傷と打撲ばかりで、始祖鳥の藤沢先生ほどの重傷者はいなかった。

それに人間や恐竜の襲撃がなかったのも、もっけの幸いだ。

 恐竜たちは、全員人間の言葉を喋れなくなっていた。だが、1頭の例外を除いて、みんな人間だった時の自我を保っていた。

 保護した恐竜たちは、直近でシーナイトかオスプレイが下りられる場所に移動し、そこから基地に搬送してもらうことに決めていたが、いかんせん、そんな場所は何キロも移動しないと、ない。


 オレは、集まってきた恐竜たちに、保護施設に移動するためのヘリが降りられそうな場所を訊いてみた。

重傷者や足を傷めている者、体の小さい者もいる。あまり遠くへは行けない。


『広ければいいのか?』

 そう訊いて来たのは、あの自我なし。ケラトサウルスだった。

『そうだ。オレたちが集まっているこの広さが、6コ以上ある広さだ』

 ケラトはあたりを見回し、必要な広さを確認しているようだった。

『着いてこい』


 オレは、恐竜たちを取りまとめ、ついて来るように指示を出した。

 先生とポールはハムヴィーに乗り込み、行軍速度でしんがりをノコノコついて来る。

 ケラトは、時折後ろを振り返り、脚を傷めている者が脱落しそうになっていると、しばらく立ち止まって待った。


 オレは歩きながらハンディトーキー(無線)のスイッチを入れ、自我なしのケラトサウルスにネイティブで話し掛けた。

『やあ』

『よう』

『名前、なんて言ったっけ?』

『?』ケラト氏は首をかしげる。『分からん』

『ハラは減ってないか』

『腹ペコだ。何か喰いたい』

『前はどこに住んでたんだい?』

『?』ケラトはまた首をかしげた。

 オレは、一番危険な質問をした。

『なぜ、他の恐竜を襲わない?』

『今はそんなことしたらイカン時だ』

『なあ、メシが食えるなら、他の恐竜を襲わないか?』

『当たり前だ。うまいメシは好きだが、ケンカもコロシも面倒だ』

 なんとなく、自我なしの内面が見えてきた。

 人間だった時の記憶を失い、恐竜としての人生経験もないから本能のままに生きてる。後は、個々の性格や品性によって行動決定しているんだろうな。

『暴れたり人間を襲っている他の恐竜をどう思う?』

『知らん。ケンカが好きな連中なんだろう?

人間は、私が何もしてないのにケンカ売ってくるムカ付くヤツらで、獲物にも手ごろなんだが、なんだか喰ったらイカン気がしてな。

それにさっきも言ったが、今はそういうことをしていい時期じゃない』

『もしも、人間の手伝いをする代わりにメシをオゴってもらえるなら、人間と付き合うかい?』

『悪くないな。荒事はないだろうな?』

『それは今は分からん。オレが今やってることだって、荒事といえば荒事なんだしな。場合によってはケンカになるし、買ったケンカから逃げたらダメなんだ』

『そうか。それくらいなら、やっても構わんな』

『話しておくよ』

『どうもな』

『なあ、なんでオレたちを助けようと思ったんだ?』

『お前たちのためじゃない。私のためだ。私のナワバリの獲物が減るのはイヤだ』

 なんか、エゴイストに見えてその実、自分の生きる土地を守ろうと考えている。なんとも偉大なヤツだな。

『なあ、名前、思い付くのがなかったら、オレが何か付けていいか?』

『そうだな…』ケラトは歩きながら『カイ、と呼んでくれ。思い付きだ』と言った。


 そんなオレたちの会話を遮るように、トラックがけたたましいエンジン音を響かせて突進してくる。

「そこのトラック。我々はアメリカ海兵隊だ。即時停止せよ。停止しなければ、攻撃の意思とみて応戦する」先生がハムヴィーの車外拡声器でトラックに警告を出した。


 轟音に紛れて「うるせぇクソ恐竜が!」とか失敬な罵声が聞こえた。


「ポール、ストップナッツ(ポール、アレを止めろ)」かすかに先生の命令が聞こえた。


「みんな伏せろ!」

 オレは隣のケラトも促し、伏せた。


 ハムヴィーのM134ミニガン(車載の7.62mmガトリングガン)が轟音と煙を巻き、暴走トラックの左前タイヤを車軸から切り取った。

 トラックは左に横転し、50mほど手前のガードレールにぶつかり、止まった。それにしてもポールのヤツ、つくづくいい腕だ。


 オレは銃を抜くとハンマーを起こし、横転したトラックに近付く。ポールとアイ・コンタクトを交わすと、ポールはすでにミニガンをトラックの運転席にポイントしていて、オレにうなずき返した。

 オレが近づくと、トラックの運転席から咳込みながらドライバーが這いずり出て来た。

「動くな。タマが外れっから!」今のこの世界の状況で、殺意を向けて来た相手を容赦する必要なんてあるか?

 しかし、相手はどうやらアジア系の外人らしい。日本語があまり通じない残念さんだった。

 オレの知らない言語で、悪意をぶつけてくるのは判った。

 こんなクソにこれ以上タマと時間を使うのは、エントロピーが無意味に増えるだけだな。オレは、銃のハンマーを下すと、相手の後ろに飛び移り、八卦掌で相手を気絶させた。

 オレは、クソの足を引きずり、みんなの所へ戻った。


「オレらを殺そうとしたヤツだけど、どうする?」オレは、クソをみんなの前にブッ転がすと聞いた。

 恐竜たちは、口々に不穏な唸り声を上げ始める。

 そこへ、ケラトのカイさんが出て来て、クソ野郎を咥え上げた。

 あ~、マズいかな…?

 見ていると、カイさんは咥えたクソ野郎を放り上げると、野球のノック練習のようにテール・スマッシュで打ち上げる。フライは、すぐ近くのコンビニ前のゴミ箱に直撃した。


『行こうや。な?』ノックの鮮やかな手際とにわかに湧き上がった背徳感に静まり返る中、カイさんは振り向くとみんなを促す。


 誰かが、笑いを漏らした。

 その笑いは瞬く間に伝染し、恐竜も人間も関係なしに、ハラを抱え肩を揺らし、笑い合った。


 ガンッ!!ガララン!


『こんなところでどうだ』カイさんは、何かの工事現場らしいスチールの衝立を蹴り倒すと振り返る。

 そこは、何かの施設の建設予定地らしく、更地状態で1ヘクタールばかりあった。こればかりはネットの地図サービスじゃ分からない。

「これだけあれば、シーナイトも降りられます。ミスタ・カイ、礼を言わせてもらいますぞ」先生はカイさんの前で嬉し気に礼を言う。

 オレはその姿を横目に、工事現場の予定表を見る。

 スーパーの新築予定地。7200平米…!?


 応援にやってきたCH-46 シーナイトに、保護した恐竜たちが並んで乗り込んで行く。

 言葉が通じない種同士が、ケガした者を支え合いながら、シッポや前肢を振ってくる。

『基地でお会いしましょう』

『また後で!』

「フォーーーッ!」

「ゴォーーーッ!」

 言葉が分かる者も、分からない者も、思いは同じだろう。返礼に、オレも彼らに前肢を振り返す。


『少佐殿、早速のお手柄ですね。こんなに多くの発症者を保護されるなんて』シーナイトのパイロットは、今朝オレたちを運んでくれたコール大尉だった。追加物資のミネラルウォーターと弾薬を運んできてくれたので、その受領確認に降りてきている。

『何、ウチの新しい爆弾コンビのおかげさ』

「そうだ、少佐殿。ちょっとお話が…」そろそろ離陸の気配がしたので、オレは失礼を承知で二人の話に割り込んだ。


 シーナイトは砂塵を巻き上げ離陸してゆく。

 カイさんや三嶋さんたち恐竜を連れて、横田基地に向けて。

 スカイグレーの天の浮舟は、すぐに空に溶け込んで見えなくなった。


「よし。片づけて戻るぞ」

「イエッサー(×2)」

 先生の号令に、オレたちは工事現場の衝立を元に戻しにかかる。

「よく気が付いたな」ポールが予定表を指さす。そこには櫂不動産と記されている。

「カイさん、記憶が戻るといいけど」

「自我なしとはいえ、いいお方だった。後は情報部の手腕次第だな。ワシらはワシらで、まだまだやらねばならんことがある。目的地にまるでたどり着けておらんどころか、振り出しに戻るところだしな」

「早く藤沢先生(始祖鳥)をジェシーに診てもらわないと」


 オレたちはハムヴィーに乗り込み、隊長たちの待つ1号車へ向けて出発した。


ジョンソン:毎回タイトルに凝っているが、今回のが分かる者はいるのか?

ポール  :今回もマジ分かんねぇ。

トウヤ  :え~?これを機に戦争映画を観てもらってですね、愛と平和と暴力とを再実感してもらってですね…


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