039:グッドモーニング・エドガワ
またしてもトウヤがキレます。今度はミハルも一緒にキレます。
039:グッドモーニング・エドガワ
ルートの下見を終え、ダン中尉がUAV撃墜のショックから立ち直ると、クルマの分乗ワリになった。
2台あるハムヴィーは、1号車はジョンソン先生(少佐)の医療機器、トルヴォサウルスの体重計や心電計などが満載なので、こちらはジョンソン先生が車長兼ドライバー。ナビにダン中尉。そしてジェシーはガンナーでターレットのM134ミニガン(車載の7.62mmガトリングガン)を握り、アンダーカバー(バックアップ)にデイノニクスのミハルが乗り込む。
2号車はトルヴォサウルスのター坊用の食糧、ブタのホール他肉尽くしで、車長はターク隊長。オレは土地勘があるのでナビ、ポールはガンナーで同じくターレットのミニガン、アンダーカバーにジョージ副長。
.308ウィンチェスター弾(7.62mmNATO弾とも。ライフル用だが多目的で強力な弾丸。シカくらいならこれ1発で仕留められる)を1秒で100発も繰り出すミニガンは、恐竜用にはオーバーキルの兵装だが、先生と隊長は、市街地で最短時間でレックスを止めるためだ、とやむにやまれぬ表情で説明してくれた。
確かに、ミニガンの一つ下の兵装だとGPMG(多目的機関銃)程度しかなく、ティラノの説得に失敗して襲ってこられたら、ストッピングパワーが圧倒的に足りず、間違いなしにハムヴィーが一瞬でスクラップにされてしまうだろう。
ちなみにM4アサルトライフルの.223レミントン弾でティラノを倒した時は、30連マガジンを20コほど使い、頭に集中砲火を10秒ほど掛けてようやく倒せたほどだ。(そして、オレのクルマがスクラップになった。)
「それでもまだ足りてないのか…」オレはハムヴィーを見上げ、ここまで強力な装甲車が、それでもオレたち恐竜と戦った場合に相打ちスレスレだという事実に、改めて恐竜たちのパワーに感慨深いものを感じる。
先生の掛け声で、みんなでハムヴィーに乗り込み、江戸川の土手を登ると、そこはすでに世紀末だった。
半壊した家々。
誰も消しに来られずに燃え続ける家。
荒れた街並み。
そこかしこに横たわる野ざらしの骸。
この辺りは旨い隠れ名店がいくつかあるんで、アキバにパーツ買いに行った帰りにいつも寄る、気に入ってる町なんだよ。
それが、なんて有り様だ!
オレのお気に入りのラーメン屋が、サ店が、タバコ屋が!
決めた。
今日は、江戸川をこんなにした連中を血祭りにする。
ラーメン屋の気のいいオヤジ、タバコ屋のオバちゃん、サ店のマスター。カタキは取るからな。
生きているなら、まあ、営業再開はよ頼んます。また行きますんで。
そんなオレの決意をあざ笑うように、イケニエ第1号はすぐに路地裏から現れた。
コイツならオレも知ってる。
背中に分厚いタイル状の骨板を何枚も生やした、ウシよりデカイ四つ足。シッポの先の4本のスパイク。
ステゴサウルスだ。
ヤツのテール・スパイクは、何をしてきたのか知らんが、赤黒く染まり、服の切れ端がまとわりついていた。
オレはミハルの方のクルマの様子を窺う。
先生が呼び掛けるや否や、ステゴはテール・スパイクを先生とミハルが乗っているハムヴィー1号に横なぎに叩き付けやがった。
総重量3tオーバー(装甲強化型なんで重いんだよ)に荷物を満載した身重のハムヴィーが大きく揺れ、ラジエーター・グリルから白煙が上がる。
「隊長!、応戦していいですよねっ!!」「チーフ!、応戦していいよなっ!!」オレとポールは同時に隊長へ戦闘許可をゴリ押しする。
「行って来い!。発砲も許可する!。だが可能な限り生け捕りにしろ。副長、ネットキャノンの援護だ」ターク隊長は、先生の身を案じてか、顔が真っ青だったが、さすが戦闘のプロだけあって、テキパキと指示を出してくれた。
「ヨッシャ~ッ!!(×2)」
オレはクルマから降りると、近くに落ちている手頃なガレキを見繕う。
ポールはGPMGのボルトを引くとガッツリ構える。
一方、先生のクルマのターレットからは、デイノニクスのミハルが物凄い剣幕で飛び出て来て、屋根に跳び乗った。
「ギュリギュリギュリギュリ」ミハルは冠羽を逆立て、威嚇の唸りを上げ、ステゴを殺る気満々で睨み付けている。
オレはミハルにアイ・コンタクトで"ステゴの気を引く"よう頼む。
ミハルは、オレの合図に全身の羽毛を更に逆立て、身を震わせながら、唸り声を一層大きくした。その様は、同族のオレでも近寄り難いほどの怒髪天ぶりだった。
ステゴもその姿にビビっているのか、少し退がると唸り声で威嚇を始めた。
そこへオレは、小手調べにコブシ大のコンクリのカタマリを投げつける。
案の定、コンクリは分厚いゴム板に当たったように、ボコンと小さい音を立てただけだった。コイツにオレのチャカ(ハンドガンのスラング。主にセミ・オートを指す。)は効かなそうだ。
ステゴはオレに横腹を向け、例の動物のように感情の乏しい目でにらみ、威嚇の唸り声をあげた。
ケンカってのは、相手のツラやゲンコツだけ見たら、その時点で終わりなんだ。相手の目を中心に、体全体を捉えておいて、相手のアクションを先読みしておかんと、負ける。そして、今のオレたちにとって、負けは実質的な死を意味している。
そんなオレにとって、ステゴがオレにハラを見せた理由が気になった。何であれ、自分の弱点を相手にあっさりさらすなんて、おかしいだろ?
そして、腰の筋肉が締まったと思うと、テール・スパイクが風を切って飛んできた。
なるほどな。威嚇の咆哮で頭の方に気を取られていると、シッポのスパイクでとられるワケか。この技で何人の人間をキメたことやら…。
オレはヤツの頭にコンクリをもう一つ投げ付けながら垂直に跳ぶ。
これは多少は感じるのか、瞬きをして、少しよろけてくれた。
オレはポールにもステゴの気を引き付けるよう頼むと、加速モードをオンにした。
そして、イイ得物がないか、急いでガレキを見回す。
すると、ヒトのアタマ程のコンクリートのカタマリが付いた鉄パイプに目が止まる。ステゴの相手に、丁度手頃だ。オレは獲物を引きずり出すと、ステゴの死角に身を潜め、ポールとミハルの塩梅を窺う。
ステゴはミハルの示威攻撃とポールの威嚇射撃に攪乱され、あっちを向きこっちを向きと完全にふたりの術にハマり、テール・スパイクを使う間もない。
ふたりともいいフットワークだ。
オレはノド元のトーキー・マイクを指の甲で2回叩き、ふたりに合図すると、身を起こす。
そして、ステゴの死角から、加速モードで音もなく風のように忍び寄ると、ステゴのアタマに向けてコンクリ・パイプをフルスイングで振り抜く。
バグォッ!!
コンクリートのヘッドは、ステゴのアタマに叩き付けられた衝撃で、スローモーションで爆発したように砕け散り、パイプの方も剛性強度を超えるスピードでスイングしてしまったせいか、クレイ・アニメのスロー再生のようにゆっくりとグネグネとひん曲ってゆき、修理不可になってしまった。
そして、この一撃はさすがに利いたのか、ステゴはその場にノロノロと崩れ落ちた。
加速モードをカットしてステゴに近付く。
そして、一発食らわせた所を見てみるが、装甲というか分厚い皮膚はちょっとささくれ立っているだけだった。
目を覗き込んで見るが、完全に失神している。脇腹の心臓の方は元気そうに脈を打っていた。
まあ、この戦果ならコンクリ・パイプも成仏してくれそうだ。
そして、今朝支給された防弾ゴーグルが、早速役に立ってくれていた。砕けたコンクリの破片が気が付かない内にいくつも当たり、白く曇っていた。
「ミハル!センセは無事か!?」あ~もう!出発して10分で、もうコレなんて!
「ええ、私たちは大丈夫です!でもトラック(ハムヴィー)がやられました」
オレはミハルと全周警戒に中り、ポールとダン中尉に先生のハムヴィーを診てもらう。
ターク隊長とジョージ副長は、ステゴをロープで縛り上げ、近くの電柱に拘束すると、ビーコンを取り付けた。
一方で、ジェシーは記録用にステゴをニコンに収めている。
ハムヴィーは、左前のタイヤがホイールごと貫かれ、ラジエーターも大穴が開いていた。まるで対物ライフルかATW(対戦車兵器。主にロケットランチャーなど)でも喰らったような有り様だった。
「レッカーかヘリ呼ぶしかない」ポールは苦々し気に、ぶっ倒れているステゴを睨み付ける。
これが大昔のウィリスMBやM151ジープとかなら、オプションのトレーリングアーム付けとけば引いていくのも楽だったんだが、ハムヴィーは現代っ子なのでそんなオプションはない。
「後は牽いて行くしかありませんが、どちらも重量満載なので、車体が持つかどうか…」ダン中尉は、そこでふとオレに向き直ると「トウヤ、この辺で修理工場に心当たりがあったりしませんか?」と訊いてきた。
「え~、ハムヴィー直せるトコなんて日本に…」
ハムマー(ハムヴィーの民生バージョン。昔のウィリス/クライスラーのCJシリーズと同じ位置づけだが、エンジンだけディーゼル仕様になっている)なら日本にもディーラーが確かあったけど、どのみち店は東京の反対側だ。
後は陸上自衛隊が高機動車(通称、コウキ。陸上自衛隊が運用している、悪路走破性能に特化した人員輸送車。)と言うハムヴィーっぽいのを運用していて、それの民生バージョンがトヨタで販売してたっけね。
「ひょっとしたら、あそこなら。
14号(国道14号線)のトヨタでメガクルーザー(陸上自衛隊で運用されている高機動車の民生バージョン。)を扱ってる店があったっけ。
行ってみますか?」
まだ販売しているかどうか知らんけどね、メガクル。まあ、使えるパーツがなくても、まだ2手ほど残っている。
「マジか?」
「部品があるかどうか分かりませんし、そもそもこの状況で店やってるか分かりませんケド」
「回り道になるが仕方ない。トウヤ、案内を頼む。ポール、キミも一緒に来てくれ。カニンガム大尉はクルマを見張っていてくれ。ミハルを置いて行く。他のみんなも頼む」ジョンソン先生はテキパキ指示を出すと、肉食恐竜用の食糧に肉を満載したハムヴィー2号車に乗り込みエンジンを掛けた。
「ちょっとター坊に遅れるって伝えますね」
「ああ頼むよ」
リモさんのケータイにはすぐ繋がった。『あら、トウヤさん。どうしました?』
「すみません。ステゴサウルスにクルマ壊されちゃって、修理が必要なんです。
それでそちらに着くのが遅くなります」
『え~、クルマってアメリカさんだからハムマーでしたっけ?』電話口からター坊の野太くも心配そうな声が聞こえてくる。
「うん、大体そう。で、近くにメガクルーザー扱ってるトヨタがあったはずだから、そこに持って行ってみるつもりなんだ」
『ああ、あの店っすね。自走可なんですか?』
「それが、エンジンは掛かるけどラジエーターに大穴開けられて走れなくなった。レッカーかドーリーで運んでもらうつもりだよ」
『そっすか。じゃあ、知り合いなんで店に電話入れときます。後でオレも様子見に顔出しますわ』
「マジ?サンキュ!あと直したいの民生用のハムマーじゃなくて軍用のハムヴィーなんだ。ラジエーターに10cmくらいの大穴あいてるって、伝えておいてもらえるかな?」
『全件了解!』
ターク :そして、今度はステゴを殴り倒したワケだよな。
トウヤ :もう、なんとでも言って下さい。次は頭突きでもカマしましょうか?
ジョージ:それ、パキセファロサウルス(パキケファロサウルス)とだけはやるなよ。
ダン :ダイノニコス(デイノニクス)、コワい…。




