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恐竜日和 ウォーク・アバウト  作者: ニジヘビ
トリケラトプス編
34/138

034:デイノニクスの洗竜とワックス掛け

今回はですね、みんなでデイノニクスを洗ってワックス掛けする話ですよ。



 034:デイノニクスの洗竜とワックス掛け


 一日の終わりにはフロ。最低でもシャワーは浴びたい。

 相方のポールに話したら洗ってくれるというので、シャワータイムになった。


 これが、イヌやウマなら、いくらでもノウハウはあるんだろうが、モフモフの恐竜はどう洗ったものか、ハタと考える。

「じゃ、ジェシーに訊こう」相方のポールはそう言うとジェシーにスマフォをかけた。

 確かに。動物のお医者さんであるジェシーなら知ってるだろう。

『わたしもミハルをこれから洗う所なの。ちょうどいいからトウヤもシャワー室に連れて来て。じゃね!』

「女の子とシャワー入る?」

 グハァ!

 日本語のボキャブラリーがまだあまり多くないポールは、いきなり直球を投げて来た。

「婦人用浴室、または、婦人用シャワー室、だよ」

「ふじんようしゃわーしつ、か。サンクス。言い回しがよくなかったか?」

「日本でも、その類いの話を大っぴらにするのは品性を疑われるよ」オレが"でも"の部分を強調したのは言うまでもない。

「そうだよな?日本のカートゥーンだとキッズが今みたいな話題で盛り上がっているシーンが多いから、そういうものだと思っていた。やっぱり違うのか」

 あ~は~は~。

 まあ、80年代からの日本のアニメはなんであれ、海外でも有名なエンターテイメントになってるからなぁ。

 某ビデオストリーミングで18禁アニメがラインナップされていたのを目の当たりにした時、入会してよか…げふん、ホントにイイのかと思ったよ。

 ともあれ、日本が妙な誤解されているのはよく分かった。

「じゃ、洗い方だけ訊く」ポールはもう一度ジェシーにスマフォをかけた。

『イイから連れて来て、時間がないんだから!』ジェシーはそう言うなり切った。

「何だと思う?」

「あ~、洗い方を試行錯誤するのかな?」

「行ってみようぜ」

「そだな」


 更衣室の前でドアをノックすると「許可は取ってあるから、2人とも入って来て!」とジェシーから声が掛かる。

 まあ、ジェシーのことだから、大丈夫だろう。ポールと2人でのれんをくぐった。じゃなくて更衣室に入った。

 そこでは、ジェシーがシャツ姿でペンライト片手にミハルの体を調べている所だった。ミハルは退屈そうに佇んでいるばかり。

「なにしてるの?」

「トウヤなら知ってると思うけど、野鳥は、羽繕いの時に分泌腺から出る脂を自分の羽毛に塗って、雨を弾くように手入れするじゃない?

 これ、恐竜に当てはまらなかったら、羽毛が台無しになっちゃうわよ。

 だから、デイノニクスがどうなのか、ミハルを調べている所なの。ジョンソン少佐からもレポートを出すよう言われてるし。

 それで、30分限定でトウヤとポールも女子シャワー室に入る許可をもらってあるから心配しなくていいわよ」

 あ、診察だったのか。納得。

 そして安心した。よからぬ想像したオッサン恐竜のオレは、心が汚れてるな。

「"洗い"は洗剤なしでいいのかな?」

「うん。

 ミハルを診てみたけど、訓練であれだけ体を動かしたのに全然汚れていないし、汗の臭いもほとんどしてないのよね。

 デイノニクスってつくづくスゴい。

 だから野生の猛禽類の水浴びと同じ程度でいいと思うわ。

 ひどく汚れたら石鹸かな?

 問題なのは、洗った後の羽毛のケアなのよね。

 こんなきれいな生き物をボサボサにしたら獣医の名折れよ」

 ジェシーのリスペクトには照れるなぁ。ミハルを見ると、彼女も照れているのか、頚をすくめる。

「分泌腺の場所は分かった?」オレは照れ隠しに平静を装って、状況を訊いてみる。

「少なくとも、腰にはないわね。これから首と頭を調べる所」

「ああ、そう言えば爬虫類の中に、耳の後ろに分泌腺があるトカゲがいたっけね」


 ジェシーが調べた所、はやり分泌腺は、耳の後ろというかアゴの後ろというか、頭と頚の境目近くにあった。

 オレもミハルも同じ場所なので、これはデイノニクス共通らしい。

「多分だけれど、他のドロマエオサウルス科も同じなんじゃないかな?」

「ユタラプトルとかヴェロキラプトルとか?」

「生物学上、こうした分泌腺は変わることはまずないわ。種の祖先や進化過程で、なくなったりすることはあるけど。

 というわけでポール。トウヤも基本的に水洗いヨロシクね」

 オレはワイシャツでもヌイグルミでもないんだがなぁ…。アメリカ人に洗濯機にブチ込まれないように注意しないと。

 ジェシーは話を続ける。「それで、ひとつ実験してもらいたいのが羽繕いのタイミング」

「羽繕いのタイミング?」実験て、オネイさん…。

「そう。

 洗った後、羽毛に脂を引くのは、濡れている内がいいのか、乾いてからの方がいいのか、それだけはやってみないと分からないのよ」

「確かに。ワシタカだと乾いてからやるし、水鳥だと濡れている内だもんな」

「で、トウヤは濡れている内に試して。ミハルは乾いてからにするから。

 そして後で部屋に来た時に羽毛の状態を見せてね」

「う~ん、コレはカンだが、よく乾いてからの方がいいと思うぞ」ポールが珍しく意見を出した。

「何で?」

「クルマの撥水ワックスはクルマが乾いてから塗った方がノリがいい。長持ちする。鳥のは撥水ワックスだ。だからよく乾いてからの方がいい」所々つっかえたが、ポールは自論を見事に日本語で言い切った。しかもそれは、納得のいく筋が通ったものだった。「トウヤはさっき、イーグルは乾いてからワックスを塗ると言っていたしな」

「確かにそうね。しかしどうしようかしら」

「何が」

「もしも、乾いている方が失敗だったら?」

「仕上がりがきれいなのが、どちらか一方ってこともある。

 大丈夫だよ。

 生き物の体は、機械と違って柔軟なんだ。この実験でどっちがベターなのか証明出来たらめっけモノじゃないか。

 濡れている方でも乾いている方でも、どちらも試してみるべきだ」

「じゃあ、最初の通りお願い出来る?」

「OK。じゃあミハル、お互い巧く行くといいね。じゃあジェシー、また後で」自分のことも気掛かりだけれど、ミハルの仕上がりの方が心配だ。昨日と今日とハードラックが続いているので、これ以上気落ちするような事が続かないで欲しい。


 オレたちは紳士用シャワールームに戻った。

 そして、念願のシャワーをようやく浴びることが出来た。

 だが、さすがというか、デイノニクスの羽毛の撥水性能はかなり高く、シャワーの水は端から玉になり、羽毛の上を転がり落ちていく。

 これはこれでいいんだけど、これじゃシャワーを浴びてる意味がない。

 ええと、確か前にバードウォッチングで見たオオタカは、羽毛を逆立てて水に浸かっていたな。

 オレは軽く身を引き締まらせて羽毛を逆立てる。今度はシャワーのお湯はスルスルと羽毛の中へ滑り込み、汗を洗い落とし始めてくれた。

 オレは無意識にこまめに身震いをして、水を跳ね飛ばしながら体を洗い終えた。

「ポール、ブルブルしていいか?」

「ぶるぶる?」

「水を飛ばしたいんだ。アイ・ワナ・スプラッシン」

「へぇ、ブルブルと言うのか。待ってろ」ポールは急いでタオルを取ってきてガードした。「いいぞ」

 オレは思い切り身を震わせ、羽毛に染み込んだ水を跳ね飛ばす。案の定、ポールが盾代わりにしていたタオルは、水が滴るほどズブ濡れになった。

後で聞いた所、ミハルの方は、シャワーを浴び終わるなり無意識で身震いをしたとかで、ジェシーはズブ濡れになったとか…。


 さてシャワーは終わった。


 第2ラウンドの羽繕い。

 こちらもあまり意識しないで、羽毛を手櫛というか頭櫛で整えて終わり。口じゃ簡単に聞こえるかもしれないけれど、それなりに時間はかかる

「ドライヤーは?」ポールがハンドドライヤーをマシンガンのように腰ダメで構えながら訊いてくる。ご丁寧にも、ダダダダ~、とか口でボイスSEまでカマしてくる。

「ああ、頼むよ」オレも指を鉄砲の様に伸ばして、一発撃つ仕草で応じた。

 ポールはドライヤーの熱風を浴びせつつ、ざっと手櫛で羽毛を整えてくれている。

「手間かけて悪いな」

「オレ、クルマやイヌ洗うの好きだ」ポールは気にするなと言う。

「そういやクルマって何乗ってるの?」ランチタイムの時ガス入れに行くって言ってたんで気になってたんだよな。

「マスタン」

「ますたん?ひょっとしてマスタングのことか?」

「ああ」

「ええ!?エンジンは?V8?」

「Vハチ、サンマルハチCID(CID:容積単位で立方インチのこと。キュービック・インチとも言う。この場合はエンジン排気量の単位になる)」

 オレ、アメ車好きなんだよ。特にあの2ストバイクの加速力とトラックのようなバカトルクで車体を強引にコーナリングさせるあのフィーリングが大好きだ。

 よく『暴力的な加速』と揶揄されるが、それは、クルマに併せて操縦制御を変え、クルマの能力を引き出せるドライバーにとっては『どんな状況でも柔軟に対応出来る荒ぶる名馬』という意味に変わる。

 オレにとっては、アクセルを踏む、クルマに好きに走ってもらう、たまに行って欲しい方向を知らせる、程度のコトなんだがな。世間では、それで事故るのがなぜかフツーらしい。

「オレにも分からん」

「ナゾだよな」

 などなど、アメ車談議に燃え上がるうちに、オレの身体は乾き上がった。

「モフモフだ」

「ああ。体が軽い」

「なんかツヤがない」ポールは、残念そうにオレの背中を軽くなでながら羽艶を診ている。

 あ~、その顔、オレにも覚えがあるなぁ。


「ワックス掛け、シクった」オレはニヤ付きながら、ポールの顔を覗き込んで言う。

 それで2人で笑い出す。


「…ははは、あ~。デイノニクスのワックス掛けは、乾いてからがいいんだな」

「ああ、ジェシーに確認してもらったら2度掛けしよう」


 羽繕いは失敗したけれど、体はサッパリした。

 いい気分だ。


ポール :デイノニクスがワックス2度掛け必要だとは思わなかった。

ミハル :案外とドライヤー使ったのが悪かったのかも知れませんね。

ジェシー:じゃあ、次のオフはみんなでデイノニクス洗いね。

トウヤ :いっそ海行こうよ、海。


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