027:デイノニクス・シューター
芸は身を助く。
トウヤは転んでもただでは起きないヤツね。
027:デイノニクス・シューター
まいったね。
自分のアゴが邪魔で両前肢でハンドガンを構えられない。まあ、それならそれだ。
「ジョージ。オレのスタイルで撃ってもいいかな?」
「どんな?」
「こんな」オレは銃を胸元で構えて的を狙った。
「うーん。トリガーから指を離した状態で見せてもらえるかな?」
「はい」オレは言われるまま指をトリガーガードに載せて的を狙った。
ジョージは後ろから照準器を覗き込み確認する。
「ええ?ぴったりド真ん中に照準されてるぞ?どうやったんだ?」
「西部劇ゴッコの賜物だよ。サイトを見ないでも当てられるように練習したことがあってね」
「お~。じゃあ、撃ってみて」
オレはトリガーに指を掛けて、試しに1発撃った。
しかし、やはり実銃のマズルジャンプ(反動による銃口の跳ね上がり)に弾は的の上の点外にかろうじて当たった。
後30センチばかり下なら丁度金的に命中だ。
今度は銃の反動を計算に入れ、肩と肘を柔らかくして撃つ。
うん。8点のサークルに入った。
もう一発。
今度は初の金的。
そこで、オレはセーフティを掛け、銃をホルスターに戻した。
そして、無造作にホルスターから銃を抜き、撃つ。
また、8点に当たってしまった。
もう一度、銃をホルスターに戻し、同じことを繰り返す。
そうして、1マガジン7発撃ち終えると9点と10点に命中させる事が出来るようになっていた。
銃をホールドオープンさせたままマガジンを抜き、スライドロックがかかった状態でテーブルの上に置くとジョージを振り返った。
「すごいな。初めてでメクラ撃ちでここまで当てるなんて。
距離を30ヤード(約27m)にしてもう1マガジンやってみて」ジョージはターゲットを引き寄せて交換すると、ちょっと遠くまで移動させた。ハードル上げられちゃいましたよ…。ちなみにさっきまでは15ヤード(13.5m)。
うーん。タマがお辞儀するのか、今度は若干下に当たるようになった。
まあ、慣れだ。これも1マガジン撃ち終える頃には金的に命中させられるようになった。
「ジェシー、ミハル。カマン!ウィズ・ガン!(ジェシー、ミハル。来てくれ!銃も一緒に!)」
「ルッキン・ウィズ・トウヤズ・シューティング。アンド・アフター・オール・コメン・フォ・ミー。(トウヤの射撃を見てから感想を聞かせてくれ)
ウェラ、トウヤ、リピート・アゲイン(じゃトウヤもう一度)」
オレはジョージに言われるままに、同じ事を繰り返した。今度は全弾金的に命中させる事が出来た。
「オー。ワイルド・ウェスト・ガンファイター!デュード!!」
「すごい!西部劇みたい!」
ジェシーもミハルも違う言語で同じ感想だった。
「ミハル。トウヤと同じ撃ち方はマスター出来るかな?」ジョージが確認してくる。てか、ジョージってアタリは柔らかいけど結構ハードな上司だよな。
「…マスターするまでかなり時間がかかると思います」
「うーん。まいったな」
ああだこうだと意見を出し合っているところにターク隊長(カニンガム大尉)がやってきた。
「どうした?」ターク隊長が状況を訊いて来る。
「報告します。デイノニクスは体型上、銃を両手で構えて顔の前に持って来れないことが分かりました。今、解決方法を考えている所です」ジョージは淡々と答えた。
「あの…」オレはおずおずと前肢(手)を挙げる。
「何かアイデアかね?」
「レーザーサイトを追加するのはダメでしょうか?」
「ウチはSWATではないのでな。壊れやすいハードウェアは運用していないんだ」
「いいえ。ずっとではなく、訓練の間だけでいいんです。
オレはさっきの抜き打ちをマスターする時にレーザーサイトを付けて練習しました。
それで3日程でさっき位のスコアになりました」
「そうか、ジェシーたちが騒いでいたのはコレだったのか。
トウヤ。やって見せてくれ」
「はい」今回からホットロードの弾になるからお辞儀なしで。
ポールとダンはおもむろにスマフォを出して録画を始める。
ホルスターからスッと抜いて斉射する。
マガジンを交換して今度は左で撃つ。
「いかがでしょうか?」振り返ると隊長たちはあっけに取られていた。
「…ガンスピンは出来るか?」
ホールドオープンしている銃のスライドストップを下ろし、ハンマーをハーフコックに下ろすと、スルスルとガンスピンを掛け、ホルスターに戻した。
こういう時、セミオートだとスマートに行かないが、致し方ない。
すると拍手が起きた。
え?ナニナニ!?
「すごいぞ!」
「でも、ガンスピンなら誰でも出来るでしょう?」
「ガンスピンだけならな。しかし、抜き打ちは私は出来ない。その…訓練のせいでな」隊長はバツが悪そうに言った。
そうか。銃は普通だと1.抜く、2.狙う、3.撃つ、だけど、抜き打ちの場合だと1.抜く、2.撃つ、で完結してるものな。エンジニア流に言うなら先読みキャッシュ・シューティングだな。
「それはそれとして、だ。少佐と司令に指示を仰ぐ」隊長はケータイでジョンソン先生に問い合わせた。
そしてしばらくすると、先生と先生よりも階級が上らしい人物と見知らぬ男の子がが揃ってやってくる。「司令だよ」ジョージがひそひそと教えてくれた。
「閲兵を兼ねて判断する。見せて見ろ」
「あちらのお子さんは?」気になったのでジョージに訊いてみる。
「指令の息子さんのマイクだよ。腕白ぼうずでしょっちゅう学校サボって基地に遊びに来るんだ」
まあそれはそれ。
今回は司令という超VIPにマイクというギャラリーがいる。
ちょっと張り切っちゃいましょう。
今朝の捕り物の最中に起きた現象を再現してみることにする。
息を整え、頭の中で使う言語を人間語からネイティブに切り替える。すると周りの時間の流れがゆっくりになる。
そこで銃を抜き、全弾斉射。
ブローバックするスライドが自動ドアが開く程度のスピードで動き、銃口から発射される鉛弾が煙を引きながら的に向かって飛んで行くのが見える。
弾は全て金的に命中する。
そしてさっきと同じようにスライドストップをおろしセーフティをかけるとガンスピンをかけてホルスターに銃をしまった。
「以上です」人間の言語に戻ると、時間の流れはやはり元に戻った。
「バッダース!!(Bad Ass。主にワル向けの"すっげぇ~!!"。ヒーローやアスリート向けは主にAwesomeを使う)」指令ジュニアが大はしゃぎする。
「…まるでビリー・ザ・キッドだ」司令はしばらくぼぅっとしていた後、呟くように言った。「それとマイク。汚い言葉を使ってはいかんぞ」
「じゃあ、隊長はダンストールさんですか」ダンストールはビリーの雇い主だった牧場経営者。人情に厚くビリーたちに慕われていたが、商売敵の牧場経営者に暗殺というか闇討ちされた。ちなみにオレ、彼ら(ビリーたち)のファン。
「やめてくれ、縁起でもない」ターク隊長はまんざらでもなさそうだった。
「あ、スミマセン。以後気を付けます」いやマジで。先生もそうだが、隊長が凶弾に倒れるなんてこと、冗談でも言うべきじゃないな。ホント気を付けよう。
「冗談はさておき。いかがでしょうか、司令殿?」隊長がお窺いを立てる。
「ふむ。個人的には許可したいが、銃を両手で構えるのにも訳があるからな。独断は出来ん。本部に問い合わせる」
「司令殿、お訊きしてもよいでしょうか?」
「許可する」
「私は海兵隊の伝統を何も知らないので、教えて下さい。
銃を両手で構えるスタイルにこだわるに至った経緯を」
「ひとつに物陰に潜んでいた敵に銃を奪われづらくする。ひとつに弾丸を命中させ易くする。かいつまんで説明するとそんな所だ」
「ありがとうございます、納得が行きました。
司令殿、重ねて失礼かと存じますがもう一つ教えて下さい。」
「ああ、なんだね?」
「供与頂いた銃ですが、ロープかワイヤーを繋ぐループが付いております。その目的はなんでしょうか?」
「ランヤード・リングだな。ケーブルは貸し出し可能だ」
「ではそのケーブルを使う事を前提に片手で使うスタイルを恐竜限定で許可していただけるようお願いします」
「安全対策を提案する、ということか。よろしい。先のレーザーサイトの件も含め、話してみよう」
オレの射撃訓練はそれで終わりになり、ジェシーと一緒にミハルのサポートに回ることになった。
何によらずガッツは大事。
なんでも経験しておくのはそれ以上に大事。




