024:スピリット・オブ・ライド
ホルスタインでも凄むと十分にコワいです。
024:スピリット・オブ・ライド
「オー。イッツ・ライカー・トルネード・アクロッスィン!(おー。竜巻が通り過ぎたみたいじゃないか!)」バギーを運転しているジョージ(レナード大尉)副長が口笛を吹きながら感想を漏らす。
兵舎やらオフィスやら格納庫やらが片っ端からぶっ壊され、トラックやハムヴィーがひっくり返されていた。
どうやら、錯乱したトリケラトプスが体当たりで壁をブチ破り、推し止めようとしたクルマを攻撃したようだ。
すがすがしい朝日が凄愴感を際立たせている。
「ハリアップ!ストップ・ザッツ・レスティヴ・トライセラ!」ターク隊長が苦い面持ちで声を荒げる。
「トウヤさん。隊長は何て言われたんですか?」ミハルが訊いて来る。
「レスティヴ・トライセラ、暴れトリケラを早く止めよう、と言ったんだよ」肩越しに見ると、後続車のミハルは眉根を寄せて惨状を見まわしていた。
多分、昨日ネットで状況を調べていたオレと同じ心境だろう。
「ミハル。オレたちも一歩間違えばこれをやらかしていたかもしれないんだ。人間てのはヤケクソになれば何でもやる。
忘れないでくれよ。
これ作るのがどんだけ大変なのか、そして、ぶっ壊すのは今のオレたちにとって対して手間はかからないんだってことを」
「…そうですね。警察官として軍人として今まで以上に精進しないといけませんね」
「大丈夫、私がついているから。自信持って」ジェシーがミハルの肩を軽くたたく。
そうこうするうちに、トリケラトプスが見えた。想像していたよりスマートな体つきで脚が速い。50~60km/hは出ている。
シャカ!
ドライバー以外の全員が、ライフルのボルトを引く音がする。
オレは、取り敢えずポールの手腕を信じて、銃の準備は先送りにした。
バギーが加速し、トリケラの脇をすり抜ける。
デカイ。
そして、血塗れになっているのが痛々しい。
暴走しながら破壊を繰り返す際に負ったケガなんだろう。
「副長、100m先で降ろしてくれ!ポール、ア・ユ・レディ?(ポール、準備いいか?)」
「ヤー!!」
ジョージはバギーをトリケラからかなり先行させてから止めた。
「トウヤ、ポール、レフ・トゥ・ユー。グッ・ラク!(トウヤ、ポール、任せたぞ。グッド・ラック!)」
「エントラスト・アス!(任せろ!)」
バギーは全力で走り去った。
ポールはトリケラが近づいて来ると、威嚇に空に向けてライフルを撃った。かなりやかましいが、これでもトリケラを止められるかあやしいものだ。
トリケラトプスのビル・フィールズは、とりあえず脚を遅めてくれた。
興奮しているのか、えり飾りが真っ赤だ。横綱級の力士が酔って凄んでいるような迫力。
こんなの相手にしないとダメなの?
『おーい、ビール!ビル・フィールーズ』ポールが英語で話しかける。『もうやめよう!帰ろうぜ!兵舎で何があったか知らんが、お互い、行き違いがあっただけなんだ!』
ビルは足を止めた。肩で大きく息を付き、身体中から血を滴らせている。遠目にもパックリ口を開けているケガがいくつも見えた。
『ほら、ダチの恐竜と一緒に迎えに来たんだ!話はオレたちが通すから、一緒に帰ろう!』
「フボォォ~~!」ビルが吠えた。
「ナンテ、イッタ?びるノ、ツウヤク」ポールがオレに訊いて来る。
予想はしていたが、やっぱりだ。「ソーリー。アフタ・オル・アイ・キャント・アンダスタン・トライセラトプセィズ(スマン。ヤッパ、トリケラトプス語は分からん)」そういうこともある。
「WTF!?(なんだと!?)」
うーん、チーム内での意志疎通に時間を割けなかったしな。人間たちは恐竜語は1種類だけだと思っていたようだ。アメリカの恐竜アニメも全部そうだしね。
「フォロ・ミー。アイ・ハブ・サム・プラン(着いて来てくれ。まだプランはあるんだ)」さて、どうしようかね?つたない英語力でどう対処する?相棒とも言葉で意志を伝え合えないのに?
「ビル・フィールズ!」
オレは、トリケラトプスに近付き始めた。正気を失っているビルを刺激しないよう、けれど、堂々とリラックスして。
「プリーズ・リスン・マイ・ヴォイス」
家族から離れて、言葉の通じない国で友だちもなく、一人ぼっちで暮らしているのが、ビル・フィールズと言う人物。
「キャン・ユー・アンダスタンディング・ヒューマン・ランゲージ、コース・エングリッシュ?(人間の言葉は分かっているんだろ、英語とか?)」
それでも毎日ニコニコと暮らしていた所に、突然降って沸いた厄災。
『オレたちはオマエを迎えに来たんだ。帰って、ケガの手当てして朝メシにしよう。誰もオマエの事を怒ってなんかいない。ただ心配しているんだ。なぁ?』
「グフ~」
「なんだって?」
「グフ~」ビルはオレの話し掛けに反応している。コレがオレの声に対する反射行動なのか自律行動なのか、見極めないと。
『その前に、もう少し近付いていいか?離れ過ぎて話しづらいんだ。いいだろう?』ビルはオレの話し掛けに反応している。
「グフ~」なんか反射行動っぽい感じだ。
『これから近付くぞ。いいな?』
「…」頼む。このだんまりが突進用のタメに集中している訳じゃないように!
オレは、1歩脚を踏み出した。
ビルは動かない。
「フォロゥ・ミー」オレは、ポールにささやくと、もう1歩脚を踏み出した。
「フォッ!」ビルが威嚇の唸り声をあげる。
ふとポールを見ると、殺る気満々という雰囲気でライフルをガッツリ構えていた。
『ポール、オレたちはビルとの間に信頼関係を築かないとならない。ライフルを離してもらえないかな?』
「OK」
『なあ、ひどいケガだぞ。せめてファースト・エイドだけでもやらないか?』
ビルは答えずに、アタマを下げた。種族名の由来になっている立派な角がオレたちに向けられる。
ダメだ。
『ポール。ヤツがフッと息を吸ったら避けろ』
言い終わるかどうかというところでトリケラが猛突進して来た。
まあ、前方投影面積がデカいだけで、ティラノよりはスローモーだな。デイノニクスにとっては楽に避けられる。
「ヒィヤッハ~~!!」
ポールはトリケラを避けず、鼻の上に跨るように飛び乗った。
え~と。それは想定してなかったぞポール。これじゃEブレッドでトリケラを止められないじゃないか。
「キュア!(ポール!)」混乱してネイティブが出てしまった。しかし、その時不思議な感覚に包まれる。昨日は気付かなかったが、世界がビデオのスロー再生のようにゆっくりと動いている。
足元の砂粒のひとつひとつまではっきりと見え、爆走しているはずのトリケラトプスがほとんど止まっている。
けれど、今はこの現象にかまっている余裕はない。
オレはトリケラと並走しながらどうしたものかと考える。実際、アタマをを抱えたい状況だ。
トリケラは目の前のタンコブ(ポール)とオレとを交互に睨んでくる。
と、トリケラと目が合った時、巧いテが浮かんだ。
「ポール!トリケラの目を手で覆ってくれ!ホース・ブラインド!(ウマの目隠しだ!)」人間の言語に切り替えると、急に世界が元のスピードで動き始めた。まあ、後だ後!
「ザッツ・ライ!(その手があったか!)」
ポールはトリケラの鼻先の角に足を掛け、肩を額の角に押し付けて踏ん張ると、両手でトリケラの目を塞いだ。
案の定、トリケラは脚が遅くなり、程なくして停まった。
『おい、ビル。オレの言葉が分かるなら、1度頷いてくれ』
ポールの呼び掛けに、ビルはゆっくりと巨大な頭をうなずかせた。
『お願いだ、ビル。どうか気を鎮めてくれ。これ以上、暴れられるとかばうことができない。オレは恐竜が好きだ。だから、もうやめてくれ』
『そうだ、ビル。オレからも頼むよ。力になりたいんだ。だから、もうやめにして、帰ってケガの手当てをしよう』
『なあ、ビル。言葉は、喋れないのか?』
ビルは、身を震わせながらうなずいた。
『心配するな。喋れるようになる』
『そうとも。喋れるようになる。もう、一人喋れるようになったコがいるんだ。紹介するよ』
ビルはうなずいた。
「ミハル、ジェシー、一緒に来てくれ!新しい友人を紹介したいんだ」
走るものに乗ってみたくなるのは男の子のサガです。




