021:デイノニクスとトルヴォサウルスの約束
結局、会って話すのが一番早い。
021:デイノニクスとトルヴォサウルスの約束
「キミの淹れた珈琲は一味違うな。疲れが取れるよ」ジョンソン先生はカップを取り、香りをひとしきり楽しむと口を付けた。
ビデオチャット越しでのトルヴォサウルスのター坊への問診ももう終わりに近づいている様子だった。
「ありがとうございます
…彼、どうするつもりです?」
「…君と言いターボ君といい何とも不思議な症例だよ。できれば直に診察したいね
ああ、そう言えば、君の提案の効果がもう出始めている。遭遇した恐竜の4割程は、人間としての自我を保っているようだ。こちらからの呼び掛けに応じて来ているよ。
今の所キミやターボ君のように、人間の言葉を話せる罹患者はいないがね。
自衛隊にも情報連携したので、これから風向きが変わるだろう」
「残りの6割の方はどんな反応でしたか?」
「振り返りもせず逃げるか、襲って来るかのどちらか」そうか。オレが出会ったヴェロキラプトルやティラノサウルスと同じ、か。
「彼と会ってみたいですね」
「うむ。手段をどうしたものか…」
「リムジンでもチャーターしましょうか?」
「バカを言え」
「オレと一緒にター坊の所に出向くか、トレーラーを出すか、どちらかです」
「来てもらえると助かるのだがな。だが、しばらく検疫を兼ねて隔離という事になる」
「センセ。オレの淹れた珈琲…」そういや検疫のこと忘れてた…。
「少なくともヴァイラス(ウィルス)も細菌も出なかった。口疫の線はない」先生はそう言いながらお代わりを注げとコッフェルを突き出す。「軍の分子アナライザーをなめてくれるなよ」先生、ニンマリ。
オレがコーヒーを注ぐと先生は続けた。「とはいえ、今は10m級の恐竜を収容する宿泊施設が都合付けられん。彼を連れてきても寝泊まりしてもらう場所がないのが問題だ」
「体育館か格納庫はダメでしょうか?」
「格納庫は夜が冷えるからな。人間でも勧められん。体育館は検疫に使う予定があるから無理だ」
「会ってみたいのはヤマヤマ、ってコトですかう~ん」チト一思案。オレもター坊には会ってみたいんだが…。
「センセ、提案なんですが」
「なんだね?」
「オレたちの哨戒任務に同行されてはどうでしょう?」
「指揮官が席を空ける訳に行かんよ」
「保護出来なくとも所在確保と診察は意義があると思います。
それに先生はミハルとオレで護ります」
先生は腕を組んで考え込む。
「ミハルが回復したきっかけを解明する手掛かりが掴めるかも知れません。オレやジェシーに心理分析の真似事させるより、エキスパートがやる方がいいですよ」
「確かに、そうだな。物理療法のメソッドを立てるために、今は少しでも多くの症例を診たい。
では、明日は君たちの訓練があるから明後日に強襲偵察を実施しよう。プランは明日大尉(ターク隊長)と練る」
「よろしくお願いします。ちょっとアポ入れますね。あ、おみやげに食糧や生活物資は持って行ってもいいでしょうか?」
「うーん、ローイン大尉との相談になると思うが、許可する。10m級の肉食恐竜に提供出来る食糧となると、さすがに選択肢と量が限られるのでな」
「ありがとうございます!後、さっきの自我を保っている4割のハナシとウチら海兵隊の支援として出向く事も伝えますよ」
「お手並み拝見させてもらおう」
オレはミハルに代わってもらい、リモさんとターボ君に話し掛ける。「あの、明後日になってしまうのですが、そちらにお邪魔してもいいでしょうか?」
「危険ですよ!アパートからここまで8キロくらいだったけど、自分でもやっとの相手がウヨウヨしてるんですよ」
「ありがとう。でも心配はしないでも大丈夫だよ。街中で大物に出会っても、オレたちデイノニクスなら撹乱して逃げ切れるし。
それよりハラは減ってない?」
「不思議とそれほど減ってないんですよ。せいぜい小腹程度です」あれ、意外だな。
「明後日の昼まで持ちそう?」
「多分…」実際どうなるか彼にも分からないんだろうな。
「リモさんにオレのケータイ番号教えるから、ヤバそうになる前に早めに掛けて」
「そしてこれから大事なことを話すから、お二方ともよく聞いて、その上で最後の判断をして欲しいんだ」
「なんでしょう?」
「オレたち、アメリカの海兵隊なんだ」
「…映画によく出てくる部隊ですよね?」
「そう。オレたちは災害救援チームでね、再編成されたばかりなんだ。オレとミハルは編入されたばかりで、さっきミハルが言っていた明日の訓練はチームメンバーの擦り合わせのためにどうしても必要でね。早くメシ届けたいのやヤマヤマなんだけど、こっちも命かかってるんでしっかりチーム内で連携取れるようになってないとヤバいんだ」
「分かります。オレもシゴト近いことやってるんで」
「そして、もう一つ重要な事があるんだ。今分かっている範囲の最新情報だと、恐竜化した人間の6割が、自我を失っているらしい。ここまではいいかな?」
「6割…もですか?」
「そう。残り4割は人間としての自我も理性も残っていて、その中で人間の言葉を話せるのは、この場にいるオレたちだけしか確認されていないんだ。
そこでジョンソン先生はその原因を調べていてね、少しでも治療に繋がる情報を集めたがっているんだ。それも、ナル早(なるべく早く)で。
急がないと街がメチャクチャになる。
だから、今回お邪魔させてもらいたいのは、むしろ先生なんだ。オレたちは先生の護衛で随伴する。
もちろんただお邪魔して先生がター坊、キミを診察するだけ。
お土産にメシを担いでね。
どうかな?」
「ター坊の食事は嬉しいけれど、連れて行って閉じ込めたりしない?」
「ありません。
少なくとも、オレがリモさんにコンタクトとったのはオフの自由時間なんです。ミハルも好きに過ごしてますよ。
お邪魔させてもらうのは身体検査と問診のためで、ちょっと検査のために採血させてもらうくらいです。
オレたちはある意味奇跡的な存在なんです。
保護がムリでも所在確保はしておきたいんですよ」
「襲って来た恐竜はみんなおかしかった。
けど、トウヤさんとミハルさんは、確かに人間みたいな表情はないけど、なんていうか、人間みたいに感情伝わってくるんすよ。
ねえオバちゃん、いいだろ。来てもらっても?」
「うーん湯呑みがないのよね。お出しするお茶受けも買いにいけないし。
それでもよろしければお願いできるかしら?」
「了解しました。では明日1日こらえてください」
リモ :近所のコンビニにお茶受けのデリバリー頼もうかしら?
ターボ:ムリっす…




