014:軍人の性分
トウヤがターク隊長とジョンソン少佐に凄まれタジタジになります。
014:軍人の性分
軽い食事の後、ビュッフェに入って来たターク小隊メンバーとティータイムになった。
『ヴェロセィラプター(ヴェロキラプトルの英語発音)の戦闘力というのは、全く大したものだ』ターク隊長が英語でジョンソン先生に話しかける。
『ヴェロセィラプターはあの映画監督が転用したものでな。ディノナィコス(同じくデイノニクスの英語発音その2)が正しい種の名前だ。テリブル・クロー(恐るべきツメ)の意味だよ』ジョンソン先生がさりげなく訂正する。この二人の英会話は発音が聞き取り易くていいな。
『紛らわしいですな。ヴェロセィラプターの方の意味は何なのですか?』
『すばしっこい略奪者、という意味だな。またはすばしっこい猛禽か』うん、今朝調べたから知ってる。
「パードン?(はい?)」
『"すばしっこい略奪者"、と言ったのだ』
『物騒な意味ですね』オレも同感です、隊長。
『ヴェロキの方は、シッポを別にすれば、体格は中型犬程しかない。その分身軽だからな。だから、発見当時、食い扶持をくすねるのは得意だと考えられたことから付けられた学名なのだ』
「ああ、オレが最初に会った恐竜か。ヴェロキラプトルってあんな小さいんですか」
「!ちょっと待て、トウヤ。遭遇したのは君の家の近くか?」ターク隊長が唐突に張りつめた表情で訊いて来た。
「は、はい、そうです」オレは隊長の気迫に圧されながら、しどろもどろに答えた。
「何匹いた?」隊長はメモとボールペンを取り出し、調書を書き付け始める。
「えーと…、3匹です。出会った直後に、先のあのティラノに出会い、家まで逃げ帰りました。その後は、隊長たちに助けられた次第です」
「体格は?」
「キジみたいにチョロチョロと走り去ったので、よくは判りませんが、確かに恐竜のシッポ付きのシバイヌくらいでした」
「レックスと遭遇した後に彼らはどうした?」
「3匹まとまって逃げて行きました」
「そうか。他に遭遇した恐竜はいないか?」
「ティラノの後に生け捕りにしたあのデイノニクスだけです」
「わかった、ありがとう。わたしはすぐコマンドポストに報告してくる。そのままくつろいでいてくれ」隊長はそう言うと音もなく立ち上がり、颯爽とビュッフェを出て行った。
「…ホントに軍隊なんだなぁ…」オレは、ターク隊長の気迫に、軍人としての責任感を感じ取りながらつぶやいた。そこには、命のやりとりの行く末を左右する立場にある者の、冷徹な性のようなものを感じた。
「もしも恐竜が見つかったらどうなります?」隊長の後ろ姿を見送りながら、オレは誰にともなく訊いた。
「可能な限り、生け捕り。それが不可能な場合や襲撃された場合は射殺許可がでているよ」答えたのは副長のジョージ(レナード大尉)だった。
そうだよな。それが人間にとっての『普通』だよな。
「ええと、副長。なぜあの時、オレではなくティラノを攻撃したんですか?」
「状況的にティラノサウルスが襲撃側なのが明白だったからだよ」
「では、あの後、もしもオレが逃げ出していたら、どうしました?」
「麻酔弾を使うことになった、と思う」
「では、もしもオレがあなたたちに牙を剥いていたら?」
「…ティラノサウルスと同じ運命になっていたと思う」
「オレが出会ったヴェロキって、家族だったのかな?」
オレの問い掛けにオレ以外のみんなが身を硬くする。
「軍隊なんだから攻撃されれば応戦するのは当然です。それは解ってる。そこで教えてもらいたいことがあります」
「何かな?」
「恐竜、つまり、突然ピンチになってどうしていいか分からない者に対して、問答無用で攻撃している訳ではないのですよね?」
「事前に警告しているかどうか、ということか?」
ジョンソン先生が少佐として応じて来た。
同席していた女性隊員のジェシーも、食事の手を止めて身を乗り出してくる。
「ええ。あるいは『保護するから安心してくれ』、とか」
「特に指示は出していないな…。
気を悪くせんで聞いて欲しいのだが、我々は出現している恐竜を脅威と捉えている。例えばライオンやバイソンなどの危険度の高い野性獣と同等の。
それというのも今までコミュニケーションが成立したケースがないからだ」
「そこなんですよ」
「というと?」
「人間といつも接している動物。例えばイヌやウマは、人間の言葉を理解している個体が多くいます。
そして恐竜になったとしても、昨日まで人間だった者が突然言葉が全く通じなくなるというのは、今のオレにとっては考えづらい。
あくまで仮定ですが、彼らは人間の言葉が話せなくなっているだけで、自我は保たれているのではないでしょうか?」
「そうなると、なぜ君だけが以前と同じ会話能力を保っているのか説明が付かん」
「先生。オレのプロフィールはどの程度調べましたか?
オレが昔バイクで事故をもらっている事はご存知ですか?」
「いや、直近5年にはなかったな」
「オレは15年程前、信号無視のクルマに衝突され、言葉が全く分からなくなりました。ヒアリングもスピーキングもスペリングも全て、です。
その後リハビリで今はこの通りです。
つまり、オレは通常の言語野にダメージを受けたせいで代替機能野を使っているんだと思うんですよ」
「二次的に会得した能力という訳か」
「ええ。もちろん今のオレの会話能力の復活も推測に過ぎません。
けれどそんな事実があるので、出来れば、ですが、出会った恐竜たちに威圧的に立ち向かうのではなく、あくまで保護するため、というスタンスは取れないものでしょうか?」
「う~む。具体的には?」
「そう難しいことじゃないと思います。
『そこを動くな!』を『オレたちの言葉が分かるか?』に切り替えるだけでかなり違った結果になると思います」
「確かにその通りだな。相手はあくまで民間人なのだからな…」さすがジョンソン先生。精神と心の権威だけある。
「ではトウヤ。実証してみてもらえるかな?」先生はまっすぐにオレを見ながら持ちかけて来た。
「…方法は?」この場合、交渉で勝ちに行くなら、こちらから条件を出す所だ。しかし、それで人間たちを納得させられるか正直微妙だ。少々危険だが、医師として立身したジョンソン少佐のヒポクラテス堅気を信じることにした。
「キミが倒したデイノニクスとの、意志疎通では?」先生の目が"出来そうか?"と切実に問いかけて来る。やはり先生も他の人間を納得させる材料が欲しかったようだ。
「それはいいですね。では隊長が戻られたら案内して下さい」
どうにか落とし所は悪くない所に落ち着いた。
それにしても相手が人間ならそれなりに勝算はあるものの、戦いで張り倒した相手でしかもそれが同族の恐竜とはね。
軍人はハンターとは違った怖さがありますね。




