011:ショウガ焼きがイイ
ジョンソン先生がトウヤの肩たたきをします。
011:ショウガ焼きがイイ
肉テンコ盛りの牛丼とか、巨大なハンバーガーですとか、祭りの縁日屋台の食材不明だけれど手を出さずにいられない数々の串モノに皿モノ。
オレはそういった食い物が好きだ。
それだけに、栄養士なる面々と折り合いが悪い。
しかし、恐竜の身となり在日アメリカ軍に厄介になっている今、これからの食生活を話し合う必要があるんだ。これ重要。
重要だけど憂鬱だ~。栄養!カロリー!バランス!伝統ある食文化に真っ向からダメ出しする栄養士に、某国元大統領お付きだったシェフがキレるシーンが目に浮かぶ。
とは言え、実はアメリカ軍は世界有数のミリ飯が美味い所帯だそうな。
希望がない訳じゃない。
それに、彼らが対抗レシピとして考案したテリヤキビッグトウフハンバーグは秀逸だと思う。詰まる所、栄養士もシェフとしてのセンスが決め手なんだろうな。
そして、ジョンソン先生に面通しされたケビン栄養士は、トウフハンバーグのように食べておいしく健康的なレシピを考え付きそうな相手だと一目見て分かった。
メガネはかけているものの、ヤセの大食いというか、喰うことが好きそうな感じ。
しかもターク隊長と同じ大尉だよ。
「ハロー。マイネーミズ・トウヤ・ヤマモト」握手に、と手を出しかけるが一応直接接触禁止を言い渡されているので慌てて引っ込める。
「ハロー。ケビン・ローイン。コール・ケビン。後、日本語もOKだよ。よくあっちこっちに食べ歩きに出かけるから」
お!話せるヒトだ。
「食道楽の栄養士、ですか。O・W・グラントと知合い?」
「底なしの胃袋というのも魅力だけれど、節制は大切だよ」
「話せるしプロとしても一級のようですね。よろしくお願いしますよ、シェフ」
「聞いているかも知れんが、一応。フライドエッグとソーセージは食べても問題ないようだ」
ツーエッグ&ソーセージは朝の基本。
「やっぱり、動物たんぱく質系はOKなんだね。
アメリカン・ブレックファストがOKなら大丈夫、生きて行ける。コーヒーは飲める?」
「ええ、それもターク隊長達とティラノを片付けた後でカフェ・ブレイクをしましたが問題ないようです。
で、朝に目玉焼き食べただけなんで、何か食わせてもらえませんか?」
「そうか。食欲があるのはいいね。
ん~取り敢えず、ということなら、軽く食べてもらっておいた方がイイな。後3時間もすれば夕食だし。
手堅いところならハンバーガーかローストビーフサンド。野菜抜きで。ソースも無し。味付けは塩だけ」
「さっき、ショウガ焼きがイイとか言っておったよ」ジョンソン先生が苦笑しながら補足してくれる。
「ん~ライスとジンジャーがどう影響するかわからないからなぁ…」
「じゃあ、本場の味ってヤツを見てみたいからハンバーガーで。そうだ、チーズバーガーはイイですか?」オレは先生にお伺いを立てる。
「う~ん、それはギャンブルになるな。とはいえ、乳製品がクリアできれば、レシピの幅もかなり増える。少しだけでいいなら許可しよう」
「やった。じゃあ、それで。出来れば何かドリンクが付くとうれしいんですけど」
「コーヒーかお茶、後は水だね。そういえば、ドクのトコでミントティーをいただいたんだよね?気分はどう?めまいに似た症状とか腹具合がよくないとか、ないかな?」
「ないですね。じゃあ、ミントティーを付けてもらえます?」
「決まりだな。じゃあ、ワシも一緒に遅めのランチに付き合わせてもらうよ。トウヤと同じメニューでいい」
ケビンが厨房の方へ消え、しばらくするとハンバーガー・パティの焼けるイイ匂いがしてきた。
「…ビーフ100%。脂の匂いが強いからミキサー挽きかな?焼き始めの音が大きめだからパティはチルドか解凍済みのものか。このパティだとテリヤキソースが合いそうだ」
「そうか。五感がかなりよくなっていたのだったな」
「ええ。今だと先生の心臓の音も聞こえますし。ん~、朝食はコーンスープとトーストかなにか焼いたパン。チーズ、ドレッシングかビネガー…いや、野菜の青い匂いがしないからピクルスかな?それとラテかなにか。午前中は結構忙しかったようですね。体を動かした時の水っぽい汗の匂い。奥さんがいらっしゃるのはホントですね。後子供さんが2人。金魚か熱帯魚を飼っていて、クルマで通勤?人混みの匂いがしないですね」
「こりゃたまげた。全部当たっている。耳と鼻だけでそこまで分かるのか?」
「自分でも驚きです」
「君、ウチで働かないか?偵察要員や先導斥候要員にぜひ欲しい」
「会社通して下さいな。どちらにしても戦争協力はしませんが」一応、ハケンなもんで。もっとも、ソフトウェアエンジニアから戦闘チームのポイントマンなんてジョブチェンジ、無茶もいい所だ。オレはやぶさかじゃないけど社長はOK出さんだろう。
「軍といっても、戦争ばかりではないんだ。ワシのセクションはむしろ災害救援が主な任務でね。迅速な初動対応を必要とされる状況に投入されるのだよ。
今回の災害はその最たる例だな。
確かにヘリなどの支援航空機は使えるが、やはりもっとも重要なのは腕のいいスカウトなのだよ。
君なら瓦礫の下に生き埋めになっている人間も見つけられるのではないかね?
それに、バードウォッチングが趣味というのは実に興味深い」
「先生、いずれにせよ、オレは隔離されてる状況ですよ?
それに、この能力は一過性のものかもしれないじゃないですか。明日の朝には人間に戻ってるかもしれませんよ?」
「恐竜としての能力が削げ落ちたとしても、君にはバードウォッチャーとしてのスキルは残る。
検査の一環で視野検査を受けたと思うが、これは視力の影響があまりない検査だ。そして、君の注意力は戦闘機パイロット並みのスコアなのだよ。
つまり、君はスカウトとして非常に高い素養を備えている」
「民間人をスカウト(こちらは現地採用の方の意味)して問題になりませんか?」
「ならんようにしている。悪いようにはせん。
ワシは確かに軍人だ。しかし、医師としての職能を軍のバックアップの元で振るっているに過ぎない。
お膳立てが整ってからの現地入りでは助けられない者も多いのだ。
だが、海兵隊は違う。
陰で『殴り込み部隊』などと言われてはいるが、有事に際してもっとも迅速な対応を可能としている組織なのだよ」
先生はそこで一息入れる。
「ワシはそうして救助活動を続けるうちに、気が付いたら少佐になっておった。
丁度ワシの意思が大統領が推進している政策に後押しされた形になったのだ」
「ええと、つまり軍に完全バックアップされた医師団で救援活動を指揮している訳ですか?」
「その通りだ」
「なんだかイギリスの人形劇みたいですね」
「あの作品はワシにとっての原点だな」先生は嬉しそうにウィンクを返してきた。
そうか、それがジョンソン先生のジュブナイル。
そして先生が軍人に見えないのも納得行く。
「先生、お茶はさっきの残りって、もらえます?おいしかったし、そろそろ冷めて飲み頃だと思うんです。
お話の方は、社を通して下さい。そして隔離が解けた上でなら、考えます」
「そうだな、筋は通そう。待っていてくれ」ジョンソン先生は立ち上がると厨房のケビンに一声掛け、軍服ライフル4人衆たちにも一言告げると、オフィスの方へと戻って行った。




