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001:取り敢えず仕事に行こう

不良中年トウヤは、目を覚ましたら恐竜になっていた。

気を取り直して出勤しようとしたが、いろいろな問題に直面してしまう。




 001:取り敢えず仕事に行こう


 朝だ。


 窓の外から聴こえる野鳥の囀りを背景に、愛用のスマフォが耳に心地好いアラームを奏で始める。

 スッと引き寄せるように意識を浮かび上がらせ、枕元のスマフォに手を伸ばす。


 だが、なんだか変だ。


 指先で触れているはずのスマフォが妙に硬く、アラームを止めるタップが利かない。

 それ以外にも色々と違和感を覚えたので目を覚ます。


 オレこと山本やまもと 登也とうやは、恐竜になっていた。

 片田舎で悠々自適にソフトウェアエンジニアを生業にしている不良中年に、降って湧いたハプニングだ。


 とは言え、取り敢えず人間サイズなので、家の中でいきなり立ち往生と言うことにならずに済んだ。

 手と言うか前肢というか、昨日まで華麗にキーボードをタイピングしていた器官は、鳥の翼の先からこれまた鳥の足のような質感の太い3本指が伸びていて、その先には硬質な黒い鉤爪が伸びていた。

 なるほど。これじゃタッチパネルをタップ出来ないワケだ。

 2本脚で立って歩けるものの、足指は太いものが3本と退化したオマケみたいのが1本になり、内1本は肉厚の鎌のような巨大な鉤爪が生え、どうも人差し指がこの指に化けているらしい。起き上がる時に早速フトンに穴を開けてしまったので、床に付けないよう持ち上げるようにする。

 長いシッポがほとんど曲がらないので人間用の家の中ではかなりジャマになったけれど、取り敢えず洗面台まで行き、顔を見てみる。

 鏡には、冠羽を逆立てた恐竜が、戦々恐々という面持ちで見返していた。鼻先から口元周りには羽毛は生えてなく、そこだけワニかトカゲのような雰囲気。

口を開けてみると、剣呑な裂肉歯、つまり牙がゾロリ。

体は羽毛に覆われ、背中側は茶色の羽色で所々に黒や緑のラインやアクセントが入っていた。お腹の方は白一色。良くも悪くも狩りの待ち伏せに向いた色合いだな。

全体的にはなんとなくタカかキジに似ている。顔は…イヌワシに似た感じか。精悍だけれど、どこかおっとりした雰囲気。


 もう少し体を見聞していたい所だけれど、取り敢えず仕事に行くことにし、取り敢えずトイレ。

 が、狭い!シッポ邪魔!しょうがないので風呂場で済ませるものの、なんだか鳥の糞みたいなものが出て来たのには一瞬何かヤバイ病気にかかったかと思った。


 ともあれ気を取り直し、何とか服を着れるようにしてから歯を磨いて出かけた。

 というより、出かけようとした。

 もう大分時間が圧して来てるので靴を履くのはさっさと諦め、クルマに乗ろうとしたが、またもやシッポがジャマでクルマに乗れそうになかった。ついでに首が長くなったせいで頭が天井につかえる。

 こりゃムリだ。


 仕方ないので、バス停まで行くことにした。

 途中で行き合うご近所さんには、しらばっくれていつものようにあいさつをしつつ、何事もなかったようにすれ違う。

 住んでいるのが田舎なので、バス停までざっくり2キロはある。

 う~ん、メチャクチャタイムロスだよ。

 それはそれでいいや。

 取り敢えず、バスに乗れればいい。


 と、バス停までの道の途中で、わき道から恐竜が出て来た。

 …見かけはオレに似てるけど、なんか小さい。

「シャッ!」チビ恐竜はオレに気付くと身構え、威嚇して来た。

「…?」オレみたく恐竜になっちゃった人間?それとも本物の恐竜?なんか、後の方っぽい。

 佇んで何だろうと思っていると、脇道の方からキェーとか聞こえてきて、すぐさま先のチビ恐竜の仲間が2匹ほどトトトッと走って来た。最初に会った恐竜もすぐさまきびすを返して一緒に走り去った。

 そして、何だ、と思う間もなく、地響きが近付いて来た。


 現れたのは、ティラノサウルス。だと思う。

 茫然としていると、そいつと目が合った。

 その恐竜もさっきのチビ恐竜と同じで、眼に感情がなかった。

 しばらくじっと身動きしないでいたけれど、そいつはオレのことを認識している様子で、明らかな意思を持ってオレの方に近付いて来た。

「あの…」一応、話し掛けた。

 相手の方も口を開いた。ただし、無言でヨダレを垂らしながら。

 あ、こいつは喰われる。なんとなくそう思った。

 オレもすぐに逃げ出した。全力で。

 一瞬前までオレがいた場所で、バクン!とティラノがあの大口を閉じ合わせる音が響いた。


「何でだ!」いや。口ではそう叫んだものの、心では分っていた。

 あいつらタダの恐竜だ。オレのアタマはあまり高性能とはいえないが、それでも恐竜になってもきちんと機能しているようだ。動物は歯なんか磨かないもんな。

 取り敢えず、相手の方はオレよりかなり遅いようだ。というより、オレが早くなったらしい。横を流れる景色がクルマに乗っているのと大して変わらない流れ方だ。中々好いフィーリング。

 とにかく、その気はなかったものの、家まで帰って来てしまった。

 途中まで全力疾走だった割に、ほとんど息は上がっていない。

 恐竜、すげぇ。

 ともあれ庭の水道から直接水を飲みちょっと一息ついてから、目を覚ましてから起こったことを整理する。

「え~と、今は21世紀でココは日本。自分が恐竜になり、めげずに仕事に行こうとしたらティラノが現れて、オレを朝メシにしようとした………」5月の空は、オレの悩みなどどこ吹く風と青々と広がっている。「取り敢えずムダかな?」クレイジーなネタばかりで、マトモな情報が少ない。

 取り敢えず、朝メシ抜きなので、小腹が空いた。

 さすがにここまでアクシデントが重なっては、定刻出社はムリだ。

 何か食べよう。それがいい。


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