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愛狂ガール シリーズ

手作り、ちョコレート

作者: 高千穂 絵麻

 グロテスクな表現、気持ち悪いものが苦手な方は、ブラウザバックをお願いします。

 ※この作品はホラーです。ご注意ください。

 自分で言うのもなんだけど、女子力は高い方。

 料理は得意。家事はもちろんなんでもこなすし、セーターも手編みで作れる。

 最新のオシャレスポットもチェックしているし、流行も嫌味のない程度に取り入れる。


 見た目は中の上くらいかな。

 でも、スタイルはいいと思ってる。


 前、好きな人に告白したら、おまえ重いから、って言われて振られてから、めっちゃダイエットしたし。

 もともと、ぽっちゃだったから胸はあったけど、そこはうまく残して、他をめいっぱい削って、スレンダーながら、出るとこ出る、みたいな。


 そんな私を、好きになってくれた人がいた。

 クリスマスイブに告白されて、本気になった。


 彼は、私の外見じゃなく、中身が好きだ、と言ってくれた。

 どちらかというと家庭的な性格を、見抜いてくれたような気がして、とても嬉しかった。


 もっと内面からキレイになろう。

 性格も素直になろう。

 彼のためにできることをやろう。


 それからかな。


 体質改善として、ベジタリアンになって、刺激物もやめた。

 ニンニクやニラとかの、匂いがきつい野菜も摂らない。


 恋のせいもあるのかな?

 

 低血圧の私が、朝起きるの楽になった。

 パサパサだった髪がツヤツヤになり、さらっとしてきた。

 生理も乱れることがなく、早く終わるようになった。


 体重も減って、人には言えないけど、オナラが臭くなくなった。

 象とか牛とか、草食動物のフンは臭くないっていうけど、あながち嘘じゃないのかも。


 バラの花びらを食べる。

 口だけじゃなくて、バラのオイルが、ほのかに身体からも香るらしい。



 私は頑張った。


 明日はバレンタインデーだ。

 付き合い始めて、最初のチョコレートを渡す。


「美味しくなれなれ、萌えてねズキュン」


 愛情とともに。まぜまぜ。まぜまぜ。

 秘密の隠し味。愛情の味。まぜまぜ。まぜまぜ。


 彼は、私の作ったチョコレートを食べてくれるのかしら。

 男を捕まえるには、その胃袋をつかめ、って言うけれど。

 


 私が作ったチョコレート。チョコレートは私。



 バレンタインデー当日。

 

 かわいい包み紙の小さな箱を彼に渡す。

 

「これ、作ったんだ」

「お、あれー、なんで?」

「だって、今日はバレンタインデーじゃん」

「そっかぁ、サンキューな」

 

 そんなわざとらしさも、彼の愛嬌。

 

 彼はカバンに小箱をしまおうとする。

 

「今、食べてほしいなぁ。感想も聞きたいし」

「え? そう? そっかー、なんか照れるなー」

 

 そんなつもり、ないくせに。

 

 早く食べないかなぁ。

 

 彼が包み紙を破って、中の箱を空ける。

 

 中には、トリュフの丸いチョコレートが四つ。

 

「お、すげーじゃん、これ作ったの!?」

 

 いい反応! 子供みたいに喜んじゃって。

 

「うん、どうかな、うまくできてるかな?」

 

 彼が、一つつまんで持ち上げる。

 

 もったいぶらないで、早く食べてくれないかなー。

 

 早く早く早く!

 チョコレートを口に入れないかな。

 噛んで、舌で転がして、喉を通っていく。

 口の中に私が広がる。

 そして、喉に、お腹に。


「じゃあ、いっただきまーす」


 彼がチョコレートを唇に当てる。

 私もまだ触れたことがない彼の唇を、私の分身であるチョコレートが触れる。


 ううん、私が作ったチョコレート。チョコレートは私。



 歯が当たる。

 私を軽く噛んで、かじる


 唇と舌の動きで、私が口の中に侵入する。


 食べた!

 食べた食べた食べた!


 彼の歯が、私を噛む。砕いていく。すりつぶす。

 私は彼の中で、ボロボロに引き裂かれていく。小さくなっていく。


 そして、溶ける。

 彼の中で、彼の唾液に絡められて溶けていく!


「すごい嬉しそうだね。作るの、がんばった?」

「うん、すっごく」

「うーん、ちょっと深みのある、不思議な味がするね」


 それ、私! 私の味!


 彼の喉仏が、私を飲み込んだことを示すように、上下に動く。


 飲んだ! 飲み込んだ!

 私が彼の中に入った瞬間だ。

 私を受け入れてくれた瞬間だ。

 あまりの嬉しさに、涙が出そうになっちゃった。


「何か秘密でもあるの?」


「うん、私の愛情たっぷり、オリジナルブレンドなの。

 気に入って、くれたかな?」


「うん、とっても。美味しいよ」



 私はチョコレートを手作りした。

 愛情を込めて。私を込めて。


 初めは事故だった。

 

 チョコレートを包丁で砕いている時、勢い余って指を切ってしまったのだ。

 

 傷はそれ程深くはなかったけど、血がそこそこ出た。

 

「あ……」

 

 四つのトリュフ。


 一つは、血液を練り込んでみた。

 一つは、爪を焼いて粉にしたものをパウダーに混ぜた。

 一つは、髪を茹でて、煮汁を入れた。

 一つは、毎月の……。

 

 大丈夫、ベジタリアンの私は、ちっとも臭くない。

 バラのオイルで、ステキな香りもついているし。


 なにより、美味しいって言ってくれた。


 あまりの嬉しさに、私のお腹が、わしづかみにされたような気持になる。

 ああ、ここにあった私の内臓だった液体が、私の身体を巡っていた体液が、私を構成していた部品が、今、彼の身体の中に……。


 私だったタンパク質が、彼の中に入っていく。

 溶かされ、吸われ、彼の血肉になる。


 私は、彼の中で一つになる。



 あれ? 全部食べちゃったのね。

 もう、くいしんぼさんなんだから……。

 あなたの手にしているそのチョコレートは、手作りですか?

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― 新着の感想 ―
[良い点] まあ、美味しいなら問題無さそうですねぇ(震え声) [一言] 個人的にはチョコレートを砕いて溶かしてまた固めたモノは手作りとはカウントしません! でもこの彼女さんにそんなこと言う度胸が無いで…
[良い点] こう、なんて言うのかな? 序盤は重い女の子の不幸と、その改善でそわそわして、 中盤からおやおや~?って感じになって、 最後にああぁぁ~・・・な気持ちになった。 重い女の子からの自分入りチ…
[良い点] 『ホラー』という前提があったのでぞわぞわ、ぞわぞわ落ち着かない感じで最後まで一気に読めました。 一気に読ませる感がすごいです。 タイトルも読後「あぁ!」と気付いて二度おいしい! [一言] …
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