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第9話「異世界の遊び」

「やっぱり、俺には剣は向いてないのかな」

『やはりアルドは魔術を使用するべき。浮気はだめ』


 一振りするだけで倒れちゃうし。落ち込む俺に、母はそんな事ないって言っていたけど。必死になってフォローされちゃうくらい可愛そうな才能だったんだ。アリシアはあの日から、しきりに魔術を勧めてくるし。

 ただ、毎日少しづつ続ければ、もっとできるようになると、母さんに慰められたので、素振りは毎日続けて見ている。再現率を落としたり、逆に増やしているが、大抵一振りするだけで、身動き一つできなくなるので、正直強くなれる気がしないが。まぁ、主に魔術を使って行くから良いけどね!

 という訳で、俺は剣以外でも身を守れる手段を得るために、実験を行っていた。今日は街の広場に適当に腰掛け、母さんに貰った穴が空いて使えなくなった古い鍋の蓋と、薪、父さんの使わなくなったベルトを貰って作業中である。

 RPGで良く序盤にお世話になる奴を作成中です。あ、鍋の蓋じゃないぞ。もっとしっかりした奴だ。

 ナイフを使ってがりがりと薪を削り、パズルのピースのようなものをつくっていく。

 すでに完成系はモニター内にできていたので、削りきったピースを、モニターのサンプル通りに、鍋の蓋、取っ手の無い裏側にはめていく。

 薪によって微妙に色が違うため、木片がはめ込まれた鍋の蓋(裏側)は、モザイク模様になってきている。前世で言うところの伝統工芸、寄木細工模様に似ている。が、色々違うので似ているだけだし、色合いをつけたい、だったらわざわざこんな手間をかける程でもない。これは、ちょっと特殊なギミック付きだ。

 最後の一ピースをはめると、仕込んで置いたギミックが発動して、ピシ! と音がする。逆さまにして振ってみるが、ただはめ込んだだけで、接着などしていない木片は、落ちてきたりしない。

 よしよし。ちゃんと機能しているみたいだ。


『完成?』

「うん。できた!」

「何ができたんですか?」


 完全にアリシアに言ったつもりだったので、後ろから声が掛かって慌てる。見ると、見知った少女が二人いた。

 

「あんた、学校以外でも一人なのね」


 そう声をかけてきたのは、二人の少女の片割れ、クリスだ。俺の数少ない友人である彼女は、少々口調が強い。気の弱い奴なら、今のでも悪く言われたように思うだろう。まぁ、繊細な奴なら学校以外でも一人、と言われた時点で傷つくだろう。

 俺は、モニターを閉じて(といっても、これは俺にしか見えないが)赤毛の少女、クリスの方を向いた。彼女は何故か仁王立ちしている。


「べ、別に、いつも一人って訳じゃ、ない……よ?」


 俺氏、すでに震え声。やめてぇ! 同じ年の子に、そんな事言われたらダメージ半端ないの!


「え、えっと。何をつくってたんですか?」


 そう、あからさまに話題変更をしてきたのは、最初に声をかけてきたのは、俺の数少ない友人二人目であるオリヴィアだ。黒髪を肩の辺りで切りそろえ、男の後ろを三歩下がって付いてくるような謙虚さは、大和撫子って言葉をつい思い浮かべる。


「んーと、盾?」

「なんでそんなものを……?」


 一昨日、ローパー狩りに行き、身を守る手段が必要だと思った事を話す。


「そ、そんな危険な事をなさってたんですか……!?」


 避難するようなオリヴィアの視線。顔が真っ青になっていて、声が若干震えてる。あれ。ローパーさんってそんなにやばいの?


「ローパーって、子供を頭からバリバリ食べちゃうんでしょ!? ……勝手に死んだりしたら許さないんだから!」


 クリスも涙目になって俺の肩を掴んだ。2人が落ち着くまで待つ。

 てか、ローパーってそんなに怖かったの? 母さんどうなってるの?

 俺は地味に動揺していたが、2人の手前、平然を装った。


「で、2人は今日は何してるの?」


 興奮気味だった2人が落ち着いた所を見計らい、俺から切り出す。日曜学校で会う以外で、俺は人に会わないので、2人が何をしているのか、気になる。


「街の外?」


 子供だけで出て良いんだろうか? 外は危険じゃないか? ローパーみたいなのがうじゃうじゃしている訳だし……


「遠くにいきませんから、大丈夫ですよ?」

「何か出てきても、私がやっつけてやるわ!」


 俺のそんな考えを表情から読みとったのか、オリヴィアが補足し、クリスが勇ましい声をあげる。でもクリスさん、さっきローパーの話が出ただけで涙目だったじゃないですか。無理するなって。


「アルドさんは、これから何をするんですか?」

「え? うーん。これもできたしなぁ」


 後はこれの性能実験くらいだろうか。ただ、それもそれほど時間がかかる訳でもない。


「うん。まぁ決まってない。暇かな」


 俺の言葉を聞いて、オリヴィアは少し、嬉しそうな顔をした。何でだろう?

 そして、クリスの裾をちょんちょん、と引っ張る。クリスは真っ赤になって俯いた。


「ひ、一人で暇だって言うなら……わ、私が特別に、あんたに遊びを教えてあげるわ!」

「素直に遊ぼうって誘えば良いのに……」


 最近解ってきたのだが、クリスが上から目線でこちらに何か言ってくる時、それは大抵照れ隠しのようで、そんな友人を見て、俺とオリヴィアは苦笑している。


「な、何よ……私とは、遊べないって言うの……?」


 段々声が小さくなって、今にも消え入りそうになる。強気に見せる割りには、打たれ弱いんだからな……。


「いや、是非遊びを教えて貰いたいな。いっつも1人で暇してるし」


 そう言うと、クリスとオリヴィアは嬉しそうに顔を綻ばせて、俺を連れて、街の外に向かって歩き出した。

 アリシアは、大層拗ねていたが、後でちゃんと埋め合わせするから、と念話をして何とか許して貰った。



◇◆◇◆◇◆


「おや、君たち、街の外にお出かけかい?」


 そう言って声をかけて来たのは、先日、恐縮しまくっていた衛兵だった。


「そうよ! いつもの遊び場までいくの!」

「そうか……悪いが、今日は別の所で遊べないか?」


 衛兵は、やんわりと言いながらも、俺たちを通さないように進路を塞ぐ。


「何か、あったんですか?」


 俺がそう言うと、衛兵は困ったように顔をしかめた。


「いや、何もないんだけどね……」

「なら、良いじゃない! 昨日は通れたわよ!」


 クリスが強気で食い下がる。が、衛兵は一歩も譲らない。さては、何かあったな。


「うーん。あんまり言いたくないんだけど……実はね、外ではいつもより多く魔物が見つかっているらしいんだ。だから、あまり外に出て欲しくないんだよ」


 なるほど。今はまだ問題になっていないだけで、これから問題になるかもしれないと。その第一号が俺たちになったりしたら、衛兵さんにも迷惑になるし、それ以前に俺たちが被害者一号になりたくない。

 それに、確定情報ではないから、危険だから外にはでるな! と強くも言えない。騒ぎが大きくなっても問題だろうからな。


「うーでも……」

「クリスちゃん、今日は街の中で遊ぼう?」


 ぐずるクリスを、オリヴィアが宥める。まだ不満げなクリスに、俺の方から代案を切り出す。


「じゃ、場所が決まってないなら、うちに来ないか? うちなら多少広いし、普通に遊べると思うから」

「いく!」

「良いんですか!?」

「う、うん……たぶん大丈夫だけど……」


 なんかすごい食いつきだ。俺は若干引きながらも、大丈夫だと答える。母さんには言っていないが、たぶん大丈夫だろう。父さんはいつも仕事で出かけているらしいし。あ、そう言えば、父さんは日中何してるんだろうな……。

 街の外には出られなかったが、俺たちはほっとしたようなため息をつく衛兵さんを後目に、方向転換して、家に向かった。


「あら? あらあら? まぁまぁ! アルドったら、随分可愛らしいお友達を連れてきたのね!」


 そう、上機嫌に出迎えてくれたのは、案の定、母さんだった。そこまで上機嫌な理由は解らなかったが、家では狭いから遊べないわ、とか、家が片づいてないから、上がられるのはちょっと……と断られる可能性があったので、俺は安心した。まぁ、狭くも片づいて無くもないので、その線で断られる可能性はないとは思っていたので、何にせよ良かった。


「オリヴィアです、よろしくお願いいたします」


 まず、そう綺麗なお辞儀をして見せたのは、オリヴィアだった。クリスはそれを見て、何かに焦るように、声を張り上げる。


「く、クリスです! よろ、よろしくお願いします!」


 噛み噛みで、両手で自分の服を握り締めながらだったが、クリスがそう挨拶を終えると、母さんはさらに喜んで手を叩いた。


「まぁ! 2人とも、丁寧にありがとう。私はアルドの母の、カトレアよ。よろしくね」


 腰を折って、目線を2人の高さまで合わせると、母さんは2人にそう挨拶しながら、頭を撫でていた。

 なでなで。なでなで。

 長いよ! 撫でるの長いよ母さん!


「か、母さん、挨拶はこれくらいで……」

「はっ……いけないわね。可愛すぎてつい……」

 

 俺が声をかけるまで、世界の次元の向こう側にいた母さんは、正気に戻る。

 娘とか、可愛いものなのかね? 俺は子供を持った事がないので解らないが、母さんの様子を見ていると、何となくそんな風に思った。


「アルドちゃん! 一番はあなただから! あなたが一番可愛いから!」

「い、良いから! そう言うの要らないから!」


 俺の様子を見て、母さんは何を思ったのか、俺を胸に抱きしめ、ぐりぐりと頬を寄せる。俺は母さんの胸にされるがままになり、それを何とか止めさせようと手を伸ばして抵抗する。

 母さんが止めるまで抵抗していたが、結局母さんが満足するまで離して貰えなかった。俺はぐったりしながら、


「に、庭の方に行こうか……」


 そう、何とか切り出すのがやっとだった。


 庭に逃げるようにやってきたが、ここまで来て気づく、庭は綺麗に整理されており、雑草の類も生えていない。しかし、整理されているがゆえに、広い土のある地面と、それを囲う塀しか存在しない。遊ぶには不適節かもしれなかった。


「さて、何して遊ぶ?」


 ただ、異世界ではどんな遊びをするんだろうと、少し期待を込めて、クリスとオリヴィアをみる。


「えっと……」

「そうですね……」


 2人の様子を見るに、やはりこの庭はすっきりしすぎているらしい。まぁ、剣の修行に使うくらいだからな。あまり2人を困らせてもしょうがない、とこの事態を作り出した責任もあるし、俺から案を出す。


「えっと、なら、身体を動かす遊びと、そうでない遊び、どっちがいい?」

「……身体を動かす遊び!」


 まぁ、そうでしょうね。俺はクリスを見て、ちょっと苦笑しながら頷く。オリヴィアを見ると、同じような顔をしていた。


 さて、身体を動かす遊び、といっても、剣を振るくらいならともかく、かけっこをするには手狭な庭では、やれる事は少ない。なので、俺は前世の記憶から、適切そうな遊びを一つ、提案する。


「『だるまさんがころんだ』をしよう」

「だるまさんがころんだ?」


 クリスとオリヴィアの疑問が重なる。俺は予想通りの反応に、そのまま説明を続ける。


「うん。この遊びはね──」


 俺は、前世のうろ覚えな記憶を頼りに、「だるまさんがころんだ」を説明する。この世界に似た遊びがあるんじゃないかと思っていたが、2人の様子を見るに、まったく無いらしい。2人は説明が終わる頃には興味津々で、さっそく遊びながら説明する事にした。


「じゃ、最初は俺が鬼をやるから」そう言って、塀の片側につき、2人は反対側につく。


「いいわよ!」

「準備万端です!」

「よーし。じゃ、だーるーまーさーんがー」


 たたたっとかけてくる足音が聞こえてくる。普通なら、ここで早く言い終えたりしてフェイントをかける所だが、最初からそれをやるとややこしくなるだろう。そう思い、テンポを変えずに言い終える。


「こーろーんーだっ」


 ばっと振り向くと、ぴたっ、とその場にいた全員が動きを止めた。そう、全員。2人では無かった。一人増えている。


「母さん、何やってるんですか……?」

「えー! 良いじゃない! 私も混ぜて!」


 足を振り下ろす寸前の器用な格好で、母が止まっているのを見て、俺はため息をつきながら、鬼の役を徹する。


 その後も、母さんが大人気ない身体能力を発揮した以外は何も問題なく、子供2人に楽しんで貰えた。一人満足げにしている大人もいたが、まぁ、そっちはおまけである。

 なんだか接待したサラリーマンな気分になりながら、2人を家の途中まで送る。


「またね!」

「では、また」


 別れ際、2人にそう言われ、俺は一瞬ぽかんとしたが、すぐに、俺も同じように返す。そっか。なんだか、こういうやり取りは久しぶりだったので、驚いた。こうやって、またね、っていうのはなんか良いな。同時に、前世で、さよならも言えずに別れを告げてしまった仲間の事が頭を過ぎり、少し寂しくなる。


「何て顔してるのよ! また会えるわ!」

「そうですよ。また一緒に遊びましょう」


 これ以上何か言えば、俺は泣き出しそうだったので、ばいばい! とだけ言って家の方に向かって走る。2人泣きそうな顔を見られるのは、恥ずかしかった。


 ちなみに、家ではアリシアの機嫌を取るのが大変──と思ったが、あっさりと解決した。

 盾に施したギミックを見せたら機嫌が直り、俺を無視して熱中する程だったのだ。逆に無視されるような感じになって俺は寂しく思ったが、俺がクリスたちと遊んでいた時は、彼女も同じように思っていたのだろうと我慢する。

 さらに加えて、母さんに盾の性能実験に手伝って貰った所、その日の夜に父さんと口論になっていた。


「あの子は天才よ! 鍛冶師に弟子入りさせるか、工房に通わせるべきだわ!」

「な、何を言っているんだ……この前は剣士にするって言っていたじゃないか」

「両方するのよ!」

「子供に無茶をさせるな!」


 始終こんな感じだった。母さんは俺の教育方針に関してかなりブレているらしい……俺のせいで家族不和が出たりするのは嫌だったが、父さんが上手く御してくれると信じたい。母さんが期待してくれるのは嬉しいが、俺は普通人なので、正直天才! と期待されるのは勘弁して欲しい。どこかで落ち着いてくれると嬉しいんだが……

 そんな事を考えながら、壁の隅でまだ俺の盾の構造を見ているアリシアを見、おやすみと声をかける。まったく気づいてくれなかった事に地味にショックを受けつつ、今度からもっとアリシアに気を使おう……と思いながら眠りについた。


ちょっと前々話で描写もれがありましたので、追記しました。

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