第77話「決闘とオリヴィアの気持ち」
「なんか、この前より大事になってる……?」
闘技場に似た会場は、決闘運営委員なるモノが用意したもので、決闘が行われる際に使われる由緒正しいものらしい。日本では決闘を言い出したやつも許諾した奴も逮捕される法律があったので、決闘に由緒正しいとかあるんだ……というのは置いておいて。
その闘技場の席は、決闘自体には関係のない観客、つまり野次馬でいっぱいで、出店が出たりしている。トトカルチョも行われているのか、半券を握って自分の予想を熱く語っている奴なんかも見える。
席が纏めて取れなかったので、ここにいるのは、俺とクリス、それにウィリアムだけだった。ミラベルは特に、この決闘を見るのは複雑なようで、観戦を辞退していた。領に残るそうだ。
「学院外では決闘、ってなると娯楽的な意味もあるからねぇ。こうしてまとめて行われるんだよ」
「とは聞いていたけど、まさかこんな風になるなんて思ってなくてさ」
総勢で16組。一体どの程度の時間やるのかは想像もできないが、ちょっとした大会みたいな組数に、思わず眉を潜める多いのか、少ないのか。この世界に育ったとはいえ、故郷の街には無かったのでよくわからない。すでに2組程決闘が消化されていたが、今は互いの武器を放り出して、拳と拳で熱い語り合いをしている真っ最中だ。
隣にいるクリスは完全に興味がないのか、出店の串焼きが美味しいのか、それを夢中になって食べている。俺も彼女みたいに、この空気を楽しめばいいんだろうか。
「何?」
と、眺めていることに気付いたクリスが、俺を睨んだ。正直に答えると怒られそうなので、無難に返す。
「いや、美味しそうだなーって」
「これはダメよ、私のだから。向こうで買って来たら?」
まだ何も言っていないが、クリスにはそんな風に言われてしまった。そんなにもの欲しそうな顔をしただろうか。確かに鶏肉みたいなのが刺さった串焼きは美味しそうではあるけれど。
「まだ長いみたいですし、何か食べてきたらどうです?」
ウィリアムの言葉に少し悩む。確かに、今の状況を見れば、かなり時間がかかりそうだ。
「そうだな…ちょっとオリヴィアの様子も気になるし、ついでに何か買って食べてこようかな」
予想より大事になっている決闘に、オリヴィアの様子が気になっていた俺は、そう言って立ち上がる。
「オリヴィアの所にいくの? そしたら私もいく」
クリスが俺の言葉を聞いて残ってた串焼きを全て平らげ、立ち上がる。
「そんなに急いで食べなくてもいいのに」
「道中別のも食べたいから」
食い意地の張ったクリスにちょっと呆れつつも、俺は残ったウィリアムに声をかけた。
「ウィリアムはどうする?」
「ここに居るよ。戻ってくるとき、席がなくなってたら嫌だろ?」
「そうだけど」
とはいえ、こう言ってくれるのを断るのも、またなんか悪いな。
「……悪いな。なんか適当に食べ物買ってくるよ」
「期待しているよ」
結局俺はウィリアムの気遣いに礼を言って、俺とクリスは適当な出店で買い食いをしながら、控室にいるオリヴィアの所に向かった。
◆◇◆◇◆◇
長椅子に祈るような姿で座っていたオリヴィアは、部屋に入って来た俺たちを見て、身体を起こした。
「どう、オリヴィア。調子の方は」
「ええ、悪くはないです」
なんて言われて、うんわかったと納得できる程、俺は鈍感ではないつもりだ。
握られた手は、白っぽくなっているし、顔だって青く見える。
「聞いておいてなんだけど、それ、嘘だよね」
「青い顔していっても、説得力ないよ?」
俺とクリスに言われ、俯くオリヴィア。俺は持っていた紙袋を手渡しながら、彼女の隣に座る。クリスも同じように、反対隣に座った。
「ありがとうございます」
「ちょっとは食べた方が良いよ。それと……やっぱり、緊張してる?」
そりゃそうだろうな。自分の家の事を賭けてまで決闘している訳だし。こんな大勢の人前でだし……そう考えての事だったが、彼女の言葉は違った。
「いえ、決闘に関しては、特に」
あっさりそう言われて、俺は拍子抜けする。
「じゃ、何にそんなに緊張してるの?」
「えっと、それは……」
オリヴィアは俺の方を見た後、少し困った顔をしてから「いえ、なんでもないんです」と言った。なんかそういう反応されると気になるんだけど……それに、俺になんか関係があるのかな?
「まだ、あの事を気にしてるんだ?」
「うん…」
クリスは呆れたように、オリヴィアに向かってそう言った。何かを知っていそうなその口ぶりに、どうやら任せた方が良さそうだと、少し身を引く。
「もう、いつまでも気にし過ぎ。なんなら、本人に聞いてみればいいじゃない」
そう言ったクリスがこっちを向く。あ、やっぱりなんか俺関連なんですか。
「話が読めないけど、なんか聞きたいことがあるなら答えるよ?」
何を聞かれても誠実に答えようと、密かに覚悟を決めてそう言ってみる。
……でもいったい何を聞かれるっていうんだ。
オリヴィアはそんな俺を見て、一瞬口を開きかけたが、
「……やめておきます」
やめてしまった。おおい。一瞬前の俺の覚悟は……。
「それに、そう言っているクリスだって、面と向かっては聞けないんでしょう? だったら、私にだけ言わせるのはずるいです」
「そ、それは……いいの。私は自分の意思でそうするって決めたから」
なんか意味ありげな事を言われているけど何なんだろうか。こう、もやっとするからいっそ言ってしまって欲しい。すごい置いてけぼり感がある。
「私はそんな風には割り切れないです」
「変な所で臆病なんだから……でも、今日ので勝てなかったら、あなたが懸念してること、実現してしまうかもしれない」
「それはわかってます。絶対、勝ちますから」
そう言ってクリスに強い視線を送るオリヴィアは、さっきまでの蒼白い顔はしていなかった。
「なら、いいわ」
クリスは言いたいことを言って、控室を出てしまう。
「ちょ、クリス!?」
「アルドさん、もう大丈夫です。クリスさんと一緒に、観客席に戻ってください」
いいのか? さっきよりは全然、良さそうな顔をしているけど。
「これから決闘に向けて集中しますので、お願いします」
「そか。わかった。戻るよ」
そう言われてしまえば俺も無理にいるべきではないか。そもそも、あんまりここに来て役に立ったわけではないしな……。
「必ず勝ちますので」
「うん。信じてるよ」
「言っておいてなんですけど、面と向かってはっきり言われると、ちょっと重圧感じます」
俺は苦笑を返してから控室を後にして、観客席に戻った。
◆◇◆◇◆◇
ウィリアムにお土産の串焼きを渡しながら、取って置いて貰った席に座る。
「どうだった? オリヴィアの様子」
「んー。大丈夫そうだった」
「なんか曖昧だねぇ……」
だって他に良い言い方ないし。
「俺は全く役に立たなかったからね。俺はクリスに付いてっただけって形になった」
「なるほどね」
ウィリアムが納得した頃、会場の雰囲気が変わった。
「そろそろかな?」
ウィリアムがそう言うのと同時に、2人の人影がでてくる。中年の男女の一組。神経質そうな男女だった。
「あれがアデライト家の?」
「そうだね。間違いないと思うよ」
ウィリアムは俺の疑問に答え、頷く。決闘までする事になっていながら、その相手の顔も知らないなんて不思議な感じだ。
「じゃ、あれが件の人形か。彼らが自信満々なのもうなずけるか」
「だろうね。あれをみて臆したかい?」
そう言われた視線の先には、大きな岩巨人がいた。
ただの岩巨人ではない。黒い岩の集合体は、それだけで厄介といえるが、その巨人はさらに、武装をしていた。
武器、防具と呼ぶには大ざっぱだったが、身を守るための装甲のようなもので岩が補強され、手には剣を模した金属が握られている。
ずしりずしりと地面を揺らし、その足跡をくっきりと残しながら出て来たそれに、会場の視線は釘付けとなっている。
「実際に相手をするのは俺ではないからね……でも、あれくらいなら、きっと負けないさ」
そう断言できる仕上がりにはなっている筈だ。
「うん。そうだね。そうでなければ、手伝った甲斐も、無いわけだし」
自信を持っているのは俺だけでなく、ウィリアムもそうだ。彼とミラベルにはかなり手伝ってもらった。そのおかげで、新しく作った機体は万全と言えるだろう。
「そんな話をしてる間に、出て来たみたいよ?」
クリスの言葉を聞くまでもなく、俺の目にもそれが映る。
岩巨人に劣らない大きな体躯。しかし、そのシルエットは女性的だ。
優雅に歩を進めるその機体は、長い杖を持ち、スカートアーマーが僅かに揺れている。遠目から見ると、貴族の令嬢か何かに見違えるかもしれない。
「マギア・ギアに次いでの戦闘用だからね、しっかりと見せて貰おうかな『ブランチ』の力を」
ウィリアムがそう言ったのを聞きながら、これから始まる決闘に意識を集中した。
随分お待たせしました。
ちょっと別作を書いたりしてるうちに忙しくなったりしてなかなかこちらの更新ができず、申し訳ないです。リハビリ兼ねて今回は短め。
またぼちぼち週一ペースを目安に更新していこうと思いますので、よろしくお願いいたします。
また間が空いてしまうかもしれないので、良ければこの更新の間に書いていた別作など、読んで暇をつぶしていただければ。
▼チートスキル、影分身を手に入れた!
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