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第75話「新装備」

 半ば取り乱したミラベルに手を引かれ、俺も焦りを覚えながら、オリヴィアとクリスの元へ向かう。


「あ、アルドさん」


 2人が居る、という一室に入ると、明るい調子で俺を出迎えたのは、オリヴィアだった。


「あ、あれ?」


 見れば、クリスの姿もある。むすっとした様子で椅子に座っていた。確かに、身体の所々に擦り傷や、ちょっと切り傷が見て取れるが、動けなくなるほどではなさそうだ。

 オリヴィアも似たような傷はあったが、動けないというような程でもないらしく、お茶を用意していた。


「も、もう平気なんですか? オリヴィアさん、クリスさん」


 ミラベルの方にどうなってるの? と視線を送るとミラベルもどうやら困惑しているらしく、2人を交互に見比べていた。


「2人とも、怪我をしたって聞いたけど……」

「見ての通りよ」


 クリスはそれだけ言うと、またむすっとした表情をして黙ってしまった。

 オリヴィアはそんなクリスの様子に苦笑し、俺とミラベルは、オリヴィアに促されるままに席に着く。


「ミラベルさん、さっきはありがとう。ちょっとショックを受けてただけなので……怪我自体は大した事ありませんよ」

「怪我をしたって、何があったの?」

「そのお話をする前に、アルドさんにはこれを」


 懐から出されたそれは、大きな魔石だった。ごとりと音を立て、俺の目の前に置かれる。その大きさに、俺は目を見開いた。


「こ、これ……!?」

「はい。お約束していた魔石です」

「こんな大きなものを……どこで?」

「ギルドに依頼していたものが達成されたんです。その依頼主から譲っていただきました」


 現実的に難しい、とは思っていたとはいえ、2人が迷宮に潜っていた訳ではないと解り安堵する。怪我をした理由が、迷宮に潜った事ではないかと考えていたから心配した。もし迷宮にいき、2人でこの大きな魔石を持った魔物に対峙したのであれば、疲労や怪我がこの程度な筈もない、命の危険が無いと解って安心した。

 しかし、そうなると、今度は依頼人にあっていただけというのに怪我を負っている、という事が気になってくる。


「それなら、なんで怪我を? 大した事ない、って言ってたけど……」


 訓練で怪我をすることも多いので、今更女の子がそんな怪我をするような事……、なんて事は言わない。それを言って2人に酷く怒られた事もあるし。

 だけど、痕に残るような怪我がないなら無傷、なんて言う事もないし、その怪我を負った理由によっては、怪我の大小なんて関係ない。


「依頼主さんに訓練を付けてもらおう、って話になりまして。それで全力を出しても手も足もでなかったので、ちょっとショックを受けていたんです」


 そうなのか、と思ってクリスにも視線をやるが、クリスは体育座りで不満そうな顔をうずめたまま、こちらには視線を返すことはなかった。


「余りに歯が立たなかったので、クリスさんも拗ねてしまって……私も、もう少し戦えると思っていたのですが」


 もう少し詳しく聞くと、オリヴィアは依頼主であるナトゥスという人物に会い、訓練──というよりは、実践さながらの模擬戦を行ったらしい。その時の怪我だ、という事。上手く手加減されたらしく、それほど大きな怪我をしなかったそうだが、全力を出しても怪我一つ負わせることができなかったそうで、オリヴィアは悔しそうにしていた。

 まぁ、怪我をしたことには思う所が無かった訳ではないが、2人が納得しているようなら、俺が口を出すべきじゃないんだろう。

 

「そっか。解った。それなら約束通り、これを使って魔導炉、そして君専用の魔導甲冑を作るよ」

「ありがとうございます。アルドさん」


 今度こそ魔石を受け取り、角度を変えて眺めてみる。部屋のランプの明かりを複雑に返す魔石は綺麗だった。


「これだけの大きさなら、アルドさんが考えてた武装も単独起動もできそうですわね!」

「そうだね。それだけの出力も得られそうだ。さっそく組み込んでみようか」


 ミラベルのはしゃいだ声に、俺も頷く。


「よかったです。あの、私たちは今日の模擬戦で疲れてしまったので、この辺りで……」

「あ、ごめん。ゆっくり休んで。後は任せてくれれば、完璧に仕上げるから!」

「……はい。お願いしますね」


 オリヴィア達が疲れている、という事なので、用の済んだ俺とミラベルは退出する事にした。


「私たちが、アルドさんの側にいる資格……」


 去り際、オリヴィアが何か呟いていたようだが、大型の魔石とはしゃぐミラベルに気を取られ、良く聞こえなった俺は、その呟きを無視してしまった。


◆◇◆◇◆◇


「おはようオリヴィア、今日の調子はどう?」

「おはようございます。体調はもう万全ですよ」


 いつもの訓練場に入ると、オリヴィアがすでに訓練を始めていたので、声をかける。ウィリアム、ミラベル以外のメンツも訓練しているので、そちらにも声をかけながら、オリヴィアに近づいて、持っていたものを手渡す。


「これは?」

「うん。新しい装備」

「新しい装備……ですか?」


 オリヴィアは困惑した様子で、それでも俺が手渡した三つの物体を受け取る。彼女の困惑は二つ、なんで新装備? それとこれは何? という感じだった。


「そうそう。オリヴィアの専用機のために用意した新装備なんだけど、色々新しいから、機体ができるまで、先にこっちを習熟して貰おうかなって思って」

「はぁ……?」


 オリヴィアに渡した装備は、鋭角な形をした、例えるなら鳥の模型のようなものだった。翼など稼働するものはないが、嘴を思わせる先端に、二枚の羽を模した鋭い突起がはえており、中央には小さいながら簡易魔導炉を設置している。


「名前は……そうだなぁ。スワローって事にしておこうか。たぶん口で説明しても解りづらいから、実演してみるよ」

「お願いします」


 形状からは武装と言われても困るものだという自覚はあったので、俺はオリヴィアを連れて、的にできる杭が並ぶ訓練所の一角に連れていく。剣を打ち込んだり、魔法を打ち込むための木偶が乱雑に並ぶ一角で、俺とオリヴィアは新武器、スワローを持ってそれらの前に立つ。

 足元に三機のスワローを置いて貰い、俺はオリヴィアに説明を始めた。


「まずは基本的な機能を説明しようか。この武器は簡易魔導炉を積んだ補助器なんだ」

「補助器、というのは?」


 聞きなれない言葉に、オリヴィアが首を傾げた。俺はスワローを起動し、≪魔力接続≫をしながら、補足説明する。


「よしよし。起動自体は問題ないかな……補助器っていうのは、文字通り、使用者の補助を目的としたものだよ。補助の形には色々あるけど、ここで、スワローのいう補助は、魔術全般を想定してる」

「魔術全般の補助……!? そんな事が」

「まぁ、施策だから、そこまで大それたものでもないんだけどね……と。準備できた」


 パスを繋いだスワローから、特に不備を感じなかった俺は、オリヴィアに俺の前にでないように忠告しながら、スワローから少し離れ、魔力をスワローに通して動作させる。


「スワロー起動。いけっ!」


 俺の声と共に、三機のスワローが弾けるように宙に舞う。


「あっ……!?」


 突然の出来事に後ろのオリヴィアが不安げな声をあげるが、もちろんこれは動作不良ではない。


「まだ驚くのは早いよ!」


 スワローは俺の意思を受け取り、後部から魔力を噴き出すとその勢いで宙を駆け巡った。杭の間を素早く、縫うように飛行し、校舎の壁に激突する瞬間、機首をあげ、壁のぎりぎりを飛んで激突を避ける。そこからさらに加速し、俺の方に戻ってきた三機のスワローは、速度を落としながら、上空を旋回し始める。


「す、すごい……」

「まだまだ。補助器としての真価、見せてないからね!」


 そう、これはまだ基本機能だ。遠距離攻撃が主体となるオリヴィアのために作ったこの新武装。その真価はここからだ。


「≪飛燕刃≫」


 魔力を纏ったスワローが、輝きはじめ、勢いを増して杭に向かって飛ぶ。その大きさ、華奢に見えるその形状から、激突したスワローが破砕するような幻想を見たオリヴィアが、息を飲む。俺は笑ってそれを否定する。

 スワローは杭を前に速度を落とさず、むしろ増しながら飛翔し、杭に衝突する。軽いスワローは杭に当たり、弾かれたり破損することなく、杭をあっさりと切り飛ばし、速度を落とすことなく飛行を続け、次の標的に向かって飛ぶ。

 次々と杭の先端が宙を舞うなか、滑るように飛行したスワローが急上昇する。


「撃ち抜け!」

 

 俺の号令のもと、三機のスワローから次々に収束した魔力が打ち出された。レーザーのような光条が幾つも乱れ飛び、宙を舞っていた杭の先端を撃ち抜いた。


「……」

「基本的には使用する魔力をスワローの方で増やしたり、魔術を使用する起点にしたりするんだけど、慣れればこういう事も出来るし、もっと色々できるようになると思うんだ」


 あっけにとられ、声もだせずにいるオリヴィアに俺はそう説明した。

 その後、新装備に慣れて貰うため、オリヴィアに実際に操作して貰う。しかし……


「上手くできません……」


 スワローは飛行する際、半ば自動で飛ぶため、≪⒓の盾≫≪⒓の剣≫と違ってその場で待機できない。勝手に動いている間に制御を離れたり、複数同時に制御しようとして、スワロー同士をぶつけてしまったりしたオリヴィアは、すっかり意気消沈してしまっていた。

 

 うーん。得意だと思ったんだけど……どうしたんだろう。そもそも、訓練に集中できていないような。


 俺は肩を落とすオリヴィアに、少しづつ慣れていこう、と声をかけて、どうしたものかと頭を悩ませた。



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