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第74話「力試し」

「それで、力試しというのは」


 ナトゥスが出した条件。それは、力試しだった。

 彼女は、オリヴィア達の実力が見てみたいのだという。思ったより普通の条件で、安堵したオリヴィアだったが、同時に不審感も募る。オリヴィアの実力を見て、どうしようと言うのか。少し対峙しただけだったが、ナトゥスの実力は自分たちより上だ、というのはオリヴィアも、クリスも感じていた。恐らく、魔石も自前で用意したのだろう、とも予想している。

 あれだけの魔石を持つ魔物を倒せる程の実力者が、オリヴィア達にその実力を見たい、というのは中々理解しがたい出来事だった。


「まぁ、そんなに焦らないでくりゃれ」

 

 そう言って、ナトゥスは2人の前を歩き続ける。

 喫茶店では本当にお茶を楽しんだだけで、勘定を済ませた3人は、要件を済ませるために、場所を移すことになった。その要件が力試し、という事である以上、それなりに広い場所に移るつもりなのだろう。学園側を通り、ナトゥスは森に入る。

 森に入る直前、オリヴィアとクリスは躊躇した。流石に、同じ女性とはいえ、隔絶した実力のある、良く知らない相手と一緒に人影の無い森に入るのは抵抗があった。


「どうかしたかや?」


 そんな2人の気持ちを知ってか知らずか、あるいはこれもその「力試し」の内なのか、。ナトゥスがそう問いかける。オリヴィアとクリスは、視線だけで意思を交わして、森の奥へと進む事にした。


 しばらく無言で、森の奥へと進んでいくと、陽だまりのある、開けた場所へと来た。


「ここはわっちにとって大切な場所での。大事な話はできれば、人の無い所でしたかったのじゃ」


 そう言って、振り返ったナトゥスは、真剣な表情をしていた。


「もう一度自己紹介をさせて貰おうかの……わっちの名前はナトゥス。魔術師じゃ」


自身を魔術師、と名乗ったナトゥスは、さっきまでのフランクな気配から一転して、鋭い気配を纏っていた。


「おぬしらの側におる男──アルドと言ったか。魔術師と名乗っているらしいな? おぬしらは、魔術師が何か、知っておるのか?」


 オリヴィアはこの言葉に、ナトゥスがオリヴィア目当てで近づいてきたのではなく、アルドを目当てに自分たちに近づいてきたのだ、と悟った。


「魔王と呼ばれた魔術師、アリシアが使った魔法を使う人間、というのが魔術師では?」


 武器である杖を取り出し、構えながら、オリヴィアはそう言った。クリスも刀に手を添え、臨戦態勢だ。


「半分は正解じゃの。付け加えるなら、アリシア様から魔術を教わり、魔術を伝えられてきた者と、アリシア様を迫害し、その魔術を己がものとした卑怯者の二種類がおる」


 おぬしらはどっちじゃ。その言葉を最後に、ナトゥスを中心に魔力が渦巻く。


「さぁ、おぬしらの魔術。見せてくりゃれ」


 オリヴィアは、ナトゥスの高まった魔力に呼応するように、すぐさま簡易魔導炉を起動し、魔力を集め、対抗するために練り上げる。


「クリスさん」

「解った」


 たったこれだけのやり取りで、2人はその意思を伝えあい、クリスはオリヴィアを庇うように前に出て、オリヴィアは魔力の制御に集中する。

 アルドが使っているように、≪魔力接続≫ によって自分と簡易魔導炉を繋いで操れる魔力が増大したオリヴィアだったが、それには高い集中が強いられる。その時間稼ぎをクリスに頼み、増大した魔力の操作に集中したオリヴィアは、ナトゥスを打倒しうる魔術の準備に入った。


「倒しちゃっても、良いんでしょ!?」


 そんなオリヴィアの様子を、ちらりと横目に見ながら、クリスは先手を取ってナトゥスに向かって突進する。


「≪疾風≫≪轟一閃≫」

 

 身体強化から≪疾風≫ の得意の≪轟一閃≫の連携攻撃。魔術師──一般的に後衛として認知されるナトゥスは、それを前に僅かに眉を動かしたが、それだけだった

 

「ふむ。赤いおぬしは、魔術より剣の方が得意なのじゃな? だが……遅い」


 クリスの一撃をあっさりと交わしたナトゥスは、舞でも踊るかのようにクリスの懐に潜りこむ。そして、技を出し切り、無防備になったクリスの胸にそっと手を添えたかと思うと、魔力を放った。


「くぅっ!?」


 衝撃に吹き飛ばされるも、何とか身を捻って着地したクリスに、ナトゥスはからからと笑い声をあげる。


「自ら飛んで威力を逃したか。中々楽しませてくれるの。どれ。ではこちらも少し、力を見せてやろう」


 ごく自然にナトゥスの腕が伸び、人差し指がクリスに向く。何気ない動作だったが、オリヴィアは背筋に氷の塊を落とされるような悪寒がした。


「≪⒓の盾≫!」

「≪魔弾│(マジック・ブリット)≫」


 ナトゥスの指先から放たれたのは大した大きさもない魔力の塊だった。速度は矢より早いくらいだろうか。クリスの態勢が崩れていなければ、回避もできるだろう距離もある。しかし、胸を押さえ、蹲るクリスは動けずにいたため、オリヴィアはクリスを守るために集めた魔力で盾を形成した。

 ⒓枚ある魔力の盾が、拳大に満たない魔力の塊を受け止める。一枚目は振れた瞬間に穴が開き、二枚、三枚と同じように貫通する。速度こそ落ちていたが、威力は落とせていない。

 オリヴィアはそれを見ながらただ手をこまねいていた訳ではない。盾の魔力量を増やし、盾自身に角度を付けさせその魔弾の軌道を逸らそうと奮闘する。

 それが功を奏し、10枚盾を貫通した所で、11枚目の盾が魔弾を逸らす事に成功した。逸れた魔弾が森の奥へと消えていく。


「この程度かや? あまりわっちを失望させんでくりゃれ」

 

 何とかダメージから立ち直ったクリスと、今の一撃を防ぐだけで、大量の汗をかく程に精神力を削られていたオリヴィアは、自分たちの窮地を悟った。


◆◇◆◇


 ここの所、オリヴィアは魔石集めに奔走しているようだった。

 今日も朝早くからギルドへと向かったらしく、姿を見かけていない。

 もう何年もオリヴィアとは一緒にいるので、別行動が長くなると何となく物足りないような、収まりが悪いような気持ちになる。クリスがオリヴィアに付き添って、この場に居ないのも、それに拍車をかけているのかもしれない。

 そんな俺は今何をしているのかと言うと、ここ最近の日課である図書室に来ていた。ウィリアム、ミラベルの三人で、専用機について作成を行っている。こちらも、そう期日が残っていないため佳境に入っており、2人は簡易魔導炉からディスプレイを呼び出して、集中して作業を行っている。

 機体周りはベースがすでにあるため、2人にそれを任せ、俺はその横でその機体に装備させる武器の作成を行っていた。


「近接武器じゃ、意味ないしな……」


 幾つか案をまとめ、立体に起こしたディスプレイを見つめつつ、そんな事を呟く。オリヴィアは純粋に後衛だ。それも、銃器のような遠距離武器を扱う後衛ではなく、魔術を駆使する魔術師。当然、武器も彼女が扱う魔術を強化、補助するようなものが好まれる。

 マギア・ギアや、ワーカーが、人間の動作の拡張を主にしているように、魔術に特化した武器も、魔術を拡張できるようなものがいい。口にすれば簡単だが、それがまた難しい。


「単純な運用魔力を増やせば、それだけ攻撃力は上がる」


 ディスプレイを弄ると表示上でデモ用に作った人型の立体が魔術の光を放つ。魔力量が増え、魔術の光も強くなる──確かに、単純に強くはなる。が、これだと強くなる、といってもせいぜい足し算。扱える魔力量が単純増加しただけだ。増加量は魔導炉に使う魔力によるが、マギア・ギアとそこまで差別化できないし、魔術師専用、という程のものにはできない。

 そのままだと、オリヴィアは近接距離を苦手としているため、近接攻撃ができないマギア・ギアという中途半端な機体になってしまう。

 

「理想はやっぱり、機械的に魔術を制御して、負担を減らしたり魔術の威力をあげたり、とかか?」


 マギア・ギアはどちらかというと、機械の動作を魔術で補佐しているので、新武器では魔術の動作を機械で補佐する、が理想だろうか。ただ、例えば銃のような武器を作り、機械的な機構を用いて魔法の弾を飛ばす、というような武器にしてしまうと、武器によって使用できる魔術を決めてしまうため、応用力が下がってしまいそうだ。

 

「どうかしたのかい?」


 思考が煮詰まり、いい案が出ずに唸っていると、それに気づいたウィリアムが俺に声をかけてきた。その声を聞いて、ミラベルも俺の様子に気づいたらしく、俺の方に視線を向ける。


「ごめん。邪魔しちゃったか。オリヴィアの専用機に付ける武装について、いい案が出ないなと悩んでてね」

「新武装……今のままでも、充分強そうではあるけどねぇ」

「私もそう思いますわ」


 そう返してくる2人に、さっきまで考えていた内容を教えると、納得したような顔で、腕を組んだりして考え始めた。


「応用力がない、っていうのは何となく解るけど、応用力がない事は悪いことなのかい? 応用力があっても、そのせいで使いづらい武器より、用途を限定してやった方が使いやすいとは思うけどねぇ」


 ウィリアムが言った事は間違っていない。出来る事が多い、という事は咄嗟の時に何をしたら良いのか迷う、というミスを誘発しかねない。


「しかし、オリイヴィアさんは基本的には後衛なんですよね? それでしたら、仮にそれが通用しない、という場面で幾つか対応できる手段が持てる、応用力のある武器でも良いのでは? その方が、後衛の役割を果たせるような気がしますわ」


 続けてミラベルが言った事も、やはり正しいように思う。そして、今まさに俺が悩んでいる部分でもあった。


「2人が言ってくれた通りなんだよね。どちらもメリットデメリットはある」


 しかし、そろそろ時間もない。ここらで決めて、動き始めたいところだ。あまり新しすぎる武器だと、今度はオリヴィアが武器の習熟に使う時間がなくなってしまう。危うく忘れてしまう所だった。


「オリヴィアがすぐに使える、って条件を加味すると、そう凝った武器は作れないし、もう一回考えてみるよ」


 2人にそう言って、自分の作業に戻るよう促した。

 そんなやり取りをして数時間、俺たちはそれぞれの作業に区切りをつけ、機体の完成の目途を何とか立てたのだった。


 後は魔導炉に使う魔石があれば……そう思った矢先、ぼろぼろになったクリスと、オリヴィアが、魔石を持って帰ったと、寮にいたミラベルとフィオナから伝えられた。


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