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第73話「簡単な条件」

「ダメだからね」


 クリスは明確に、何が、とは口にしなかった。しかし、言われたオリヴィアにも解っている。クリスはオリヴィアに、ダンジョンに入るのは許さない、と言っているのだった。


「解ってます……」


 そう言って、オリヴィアはほんの少し口を尖らせ、クリスの言葉に頷く。そう、オリヴィアはダンジョンの前まで来た。来てしまっていた。

 本当なら危険を承知で魔石を取りに行きたいが、それがばれればアルドとの約束を破ってしまう。約束を破れば、例え魔石を取って来れたとしても、アルドは魔導甲冑を作らず、1人で決闘に向かうだろう。それでは本末転倒だった。クリスはそれを良く理解しているため、オリヴィアを厳しく見張っている。


「……ねぇ、やっぱり──」

「ダメだよ。気持ちは解らなくないけど、ばれたらアルド、本当に一人でいくよ。きっと。それに、オリヴィアだけで、魔石をどうやって入手するの? 仮に私が手伝った所で、B級魔石が手に入るような魔物、私たちだけで倒すのは、困難だよね。特に、アルドにばれずに、なんてなったら、短期間に、無傷でも倒せないとたぶんばれちゃう」

「う……」


 オリヴィアは言葉に詰まった。そんな肝心、大前提な部分がすっかり抜け落ちるくらいに焦っていたことに気付き、項垂れる。こんな事をしていても、すでに詰んでいたのだ。ダンジョンの入り口なんかにいるよりは、他の案を模索した方が良いかもしれない。時間だってもう残り少ない──

 そう、諦めてダンジョンから離れようと思った時、ふいに声をかけられた。


「お嬢さん、何かお困りかや?」


 声の方を向けば、美しい少女が立っていた。金糸の如き金髪を靡かせた少女で、柔らかい微笑を浮べている。

 笑みが消えると、整った顔立ちが協調されるようだった。その場に立っているだけなのに、目立つような目鼻立ちは、彫刻のような完成させれた美を思わせる。線は細いが、それは女性的なラインを損なっている、という訳ではない。ローブ越しに見えるボディラインは間違っても男性ではないことを告げているし、寧ろその細さが儚さのようなものを演出しているようにも思えた。

 身にしているのは薄いローブだけ。武器のようなものも身にしておらず、およそダンジョンに向かうように思えない装備。しかし、オリヴィアはそんな少女から、手折れば散るような儚さより、心の通った刀剣、鍛えられた鋼のような力強さを感じた。

 柔らかな物腰と、まったく同居しないその違和感に緊張感を覚え、オリヴィアは僅かに身構えた。


「あなた、いつからそこに居たの?」


 クリスも同じ気持ち──かと思えば、オリヴィアよりもさらに緊張している。すでに刀に軽く触れ、オリヴィアを庇いながら、いつでも必殺の技を放てるような位置にいる。

 クリスはオリヴィアと違い、普段から気配を読むような訓練をしているらしく、その差が対応の差に表れたらしい。ダンジョンの入り口で、そこまで警戒心が高かった訳ではないとはいえ、まったく気配を感じる事がなかったため、クリスは最大の警戒を持ってその少女を睨みつけた。オリヴィアは親友の突然の変化に意を唱える事はなく、むしろ信頼しているからこそ、彼女もまた、警戒レベルをあげていた。


「ふぅむ。思ったよりできるようで、余計な緊張をさせてしまったかの」


 切っ先を突きつけるような気配を発するクリスを前にしても、それをさして気にした様子もなく、少しだけ困ったように小首を傾げる少女。


「わっちは少しおぬしたちと話がしたかっただけじゃ。脅かしてしまったのなら非礼を詫びよう。その恐ろし気な魔力を収めてくれると嬉しいのじゃが」


 友好的に笑うその少女は、気の抜ける程あっさりと間合いを詰め、クリスの手を抑え、オリヴィアはそれを、ただ茫然と見ている事しかできなかった。


「少し話がしたい、どこかでお茶と洒落込もうではないか。わっちの名はナトゥスでありんす」

「え、あ──……」


 表情を悪戯っぽく変化させたその少女は、ナトゥスと名乗り、オリヴィアとクリスの手を取ってダンジョンの外へと出た。

 

◆◇◆◇◆◇


 あれよあれよ言う間に、2人はナトゥスによって連れ出され、近くの喫茶店に連れ込まれてしまった。

 最初はどこに連れられてしまうのかと戦々恐々だった2人だったが、ダンジョンを出たあと、ナトゥスはマイペースに突き進み、目についた喫茶店に入ったかと思うと、自分の分の飲み物を頼んでしまった。


「2人は何か飲まないのかの? ここはわっちのおごりじゃ。好きなものを頼むと言い」

「……じゃあ、これを」

「私も同じのを」


 差し出されたお品書きに、クリスは渋々と言った様子で適当な飲み物を指さし、オリヴィアは何か選ぶのが面倒だったためにクリスと同じものを頼んだ。


「さて、何から話そうかの」


 飲み物が来るのも待たずにそう切り出したナトゥスに、オリヴィアとクリスの視線が集まる。


「そうじゃのう。まずは、交渉から入らせてもらおうかの」

「交渉、ですか?」


 交渉、と聞いて、あっさりとクリスがこちらに投げるような気配を感じたオリヴィアは、率先して答えた。


「そうじゃ。わっちには、お嬢さんのクエストに応える用意がありんす」


 そう言って、ことりと小さな音を立てて、店のテーブルに置かれたのは、見事な大きさの石。血のように紅いそれは、オリヴィアが求める魔石だった。


「そ、それは……!」

「たまたま、手元にあっての。お主が必要としておる、と受付からも聞いてなどうじゃ?」

「ぜ、是非! 譲ってくださいませんか!」

「ふむ。条件次第かの」


 思わず立ち上がる程に興奮したオリヴィアだったが、条件、と聞いて一気に冷静になる。ナトゥスは、どこか試すような、悪戯っぽい表情をしていた。


「一応、依頼にあった報酬分は用意しておりますが」

「足りんの。しかし、まぁ……可愛らしいお嬢さん方の依頼。わっちも達成に協力はしたい。そこで、一つだけ条件を呑んで貰いたいんじゃ」

「条件、ですか」


 また、条件ですか……アルドといい、何故こうも条件をつけたがるのか。オリヴィアは内心で辟易しながらナトゥスの言葉に耳を傾けた。


「何、簡単なものでありんす。そんなに緊張しないでくりゃれ」


 だと良いんですが。オリヴィアはそう思いながら、続くナトゥスの条件を聞き入れた。





遅くなって申し訳ないです。

ちょっと短め。

別に、モンハンが面白いから、ネコ嬢が可愛すぎて三次元に生きるのがつらくなったからが遅くなった理由じゃないんです。ほんとです。

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