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第7話「異世界ローパー事情」

「そろそろ、なんか本格的に動きたいんだよなぁ……」


 俺はそんな事を呟き、自分の部屋の柔らかい弾力を返してくるベッドで仰向けになりながら、演算領域内から可視化したメモを取り出す。VRモニターのようなそれに指で文字を書き加えながら、さらに呟く。


「骨組みになるのは、まぁ金属とかがあるから、購入って手段があるとして、問題は金だな。金は働ける年齢まで待つか、親にねだるとして……エネルギーがないな。魔力で代用できるのか? 後は、ロボットの筋肉になるもんがまったく思いつかない」


 前世ならモーター。または圧縮空気なんかを使って関節を屈伸させる人工筋肉。後は最新の辺りで、高分子を使った人工筋肉なんてものがあったが、どれもこの世界には無い。モーターは原理自体はそこそこ単純なので、頑張れば作れるかもしれないが、頑張って作った日曜大工レベルのモーターが、ロボットの関節の動作を支えるには、物足りない気がする。

 それに俺が目指すロボットは、ガ○ダムとか、パ○レ○バーみたいな、作業用、または戦闘がこなせるロボットだ。モーターでは汎用性と出力にかなり問題がでそうだ。


『また何か考えてる?』


 などと考えていると突然、背後から声がかけられる。ここはベッド。しかも仰向けとなれば、普通背後からは声をかけられたりしないのだが、そんな非常識にももう慣れた。間違って注意したりすれば、幽霊手前の思念体であるアリシアは、面白がってさらにアクロバティックな事をする。よってスルー。


『むぅ……最近、アルドの反応つまらない』

『日々進化しているんだよ! 俺は! 敢えていうなら、アリシアにあった日の俺がver1.0だとすれば、今の俺は1.75だ!』

『???』


 アリシアは俺の正面に回りながら、首を傾げた。

 そこは何というか、微妙な進化とか、せめてver2になれとか突っ込んで欲しい所だったが、前世のネタが通じないのでこんなもんである。ホームシックにはならないが、こういう時になんか寂しさを感じるな。ジェネレーションギャップって奴なんだろうか。年齢的にも俺たち噛み合ってないし。


『アルド、失礼なこと考えてる』

『そ、そんな事ないですー。いつも誠実な事考えてますー』


 じとっとした目で見られ、慌てて目をそらす。俺がほとんど無表情なアリシアから機嫌や表情を読みとれるようになったように、アリシアは俺の考えを何となく察する事ができるようだった。迂闊な真似はできない。てか、俺は向こうの考えが読めないのにずるすぎる。


『で、何を考えてたの?』


 促されるまま、俺はアリシアに考えていた事を伝える。アリシアにはちょくちょく、こういった事を相談している。前世の事を相談できるのは彼女だけだし、この世界では異端である自分の考えを、躊躇せずに話せるのもまた、彼女だけだ。

 その事に関しては、非常に助かっていると思いつつ、少し、寂しくも思っている。この世界の両親には、よくして貰っている。愛して貰っていると、少し恥ずかしいがそう思う事ができる。でも、前世の事を相談はできていない。これは、俺が両親を信じ切れていないように思えて、自己嫌悪を感じてしまう。


『アルド、聞いてる?』

『ごめん、ちょっと考えごとしてた。何?』

『だから、どういった機能を求めているの? そのゴーレム』


 ロボットなんだけど……と思ったが、俺の世界でゴーレムを再現したい! といったら、きっとロボットだ、と言われる気がしたので、敢えて指摘はしない。気持ちは分かる。


『想定しているのは、物の持ち上げる時の補助とかかな。力が足りない人用に、動作の補助をするために、筋力、骨格の代わりになる機能を求めてる。魔法、魔術的に言うなら……人間に対して、強化魔法を使ってくれる鎧みたいなものかな』

『それってゴーレム?』


 アリシアの疑問に、俺は苦笑する。まぁ、この世界のゴーレムって、ざっくり言うと術者が操る人形で、自分の動作を補助させるくらいなら、ゴーレムにやらせりゃいいじゃんってものだからな。


『術者以外にも使える、って事が利点だから。それに、命令を遂行させるには、その命令を理解、実行する知能に変わる機能がいるだろ? そこは作るのに時間が掛かるし、現状、その機能ができるものの目処がないし。いったん、自分が操る、魔力は少なく、なるべく誰でも使えるって所を目指したいんだよね』


 自分の考えを一気に吐き出すが、アリシアは納得したように頷いている。

 まぁ、嘘は言ってないけど建前ではあるけどね! やっぱり人型ロボットには乗り込んで操ってこそなんぼの存在でしょ! 大きさが人間の鎧──パワードスーツ的な大きさを想定しているのは、巨大人型ロボットを作る前に、一度段階を踏みたいがためだ。

 そんな建前事はおくびに出さず、俺はアリシアに説明しきった。人の役に立つから! という点と、魔術の理念であった、「才能に左右されず、理論立てて使用できる」という点を押しておく。プレゼンって大事だからね!

 うんうんと頷いていたアリシアは、おもむろにこう言った。


『で、本音は?』


 完全に見抜かれてしまっていたらしい。俺はぐぬっ、と言葉に詰まった。やっぱり、心が読まれているんじゃなかろうか。

 俺は仕方なく、本音を口にした。


『人が乗れる巨大ロボットはロマンだから!』


 言うとなれば、全く躊躇わずに言う。俺は、この為に転生したと言っても過言ではないから! 妙なテンションを発揮しながら力説する俺。

 アリシアは、そんな俺をアホの子を見るような目で宙から見下ろした。


『……理解に苦しむ』

『だから建前を先にちゃんと言ったのに!?』

『やっかい……まぁ、建前の方の理屈は納得できる』


 そう言って、アリシアは思案するように顎に手を当てた。もったいぶる事もなく、アリシアは俺に、予想の一つを口にした。


『それと……人工筋肉、というのに、心辺りがある』

『本当か!? どんなもんなんだ!?』


 マジか。そんな都合の良いものあるのか。流石ファンタジー。俺は、どきどきしながら、次の言葉を待った。


『ローパーの触手』

『は?』

『だから、ローパーの触手』


 え、俺の知ってるローパーさんとは存在が違うの? 俺の知ってるローパーさんは2次元なヒロインさんを「触手には勝てなかったよ……」的な状態にする、その道の王道モンスターさんなんですが。


『えっとそれって、触手がうねうねな?』

『そう。よく知ってる。異世界にもいた?』


 流石ファンタジー。俺の予想の一枚も二枚も上をいってのけるッッ!

 ともあれ、俺は一つ、懸念を潰せそうな事を、素直に喜んだ。 



「お、お母さん! お願いがあるんだけど……」


 俺は、ありったけの勇気を振り絞って、母さんを見上げた。母は、優しい笑顔を浮かべて、腰を折り、俺に顔を近づけた。

 正直、美少女耐性が低い俺には、母さんの刺激は強い。俺は赤くなって目を逸らしながら、さらに羞恥するような言葉を続けた。


「……パー……欲しいんです」

「ん? なぁに? もう一回言って?」


 勇気を振り絞って、俺は言った。しかし、母さんはもっとはっきり言わせたいらしい。い、良いだろう。俺だって男だ。これくらいの羞恥、超えてみせる!


「ローパーの触手が欲しいんです! どこで売ってますか?」

「あぁ。ローパー。確かにいい時期ねぇ。そろそろ増えるし……買うのも良いけど、ストックが欲しいし、ちょうど良いから一緒に狩りにいきましょうか」


 おっふ。一世一代な気分で触手が欲しいなんてお願いしたら、反応としては普通だった。むしろ、ストックが家にあったなんて驚きなんですが。何に使われたんだろう? 

 疑問が俺の頭をもたげたが、気づいたら深淵をのぞき込んで、自分のSAN値が減らされそうなので、疑問を努めて頭から追い出した。



 街の外、初めて出るな。

 俺は、段々と迫ってくる街壁を見てそう思う。

 

 この街は、街壁と呼ばれる大きな壁にぐるりと囲まれている。四方に門があり、そこから人が出入りできる構造で、その他には窓一つない。高さは3メートル程のようで、魔物から街を守っている。


「き、今日はどちらへ出るのでしょうか!?」


 そう、緊張気味に声をかけてきたのは、衛兵だった。門の前に一人で立っていた彼は、母に気づくと居住まいを但し、びし! と音がでるような敬礼をしている。


「子供と少し、森まで」

「さ、左様ですか! お気をつけて……と言っても、あなた様には必要の無い言葉かもしれませんが! あ、ご子息様もお気をつけて言ってらっしゃいませ!」


 彼はずっと恐縮しっぱなしだった。つか、何ですかご子息様って。

 母さんはいったい、何をしたんですか。母さんは目を逸らし、何もしてないわよ? と言って教えてくれなかった。気になる。

 が、そんな余裕もすぐになくなってしまった。


 俺は母さんとローパー狩りに森にきていた。街から少し離れた所の森で、当然、観光地のように舗装されておりません。が、母さんは獣道を舗装された道をテンション高く飛び回る子供みたいに、ぴょんぴょん進んでいく。車が無く、移動がほぼ徒歩で魔力の強化恩恵もある異世界人の母さんの体力と、魔力の強化ができるようになったとはいえ、生粋のインドア派元現代人の俺では、体力の値に差がありすぎる。

 ちなみに、外は危険、という事で、母は胸部を覆うハーフプレートを身に付け、腰当ての横に、剣を2本帯びていた。二刀流かっけえ! と思ったら一本は予備らしい。2本使う事もあるそうだが。

 俺は子供用に調整された、皮の鎧と皮の兜を装備している。剣は長くて重いため、ナイフを持っているが、無闇に振り回さないように厳命されている。

 そして当然、皮でできていて子供用サイズとはいえ、俺にとってはこのフル装備は重い。最初こそテンションがあがっていたが、今は恨めしいほどに歩みが遅くなっていた。


「アルドちゃーん。大丈夫ー?」

「だ、だい、ぜひゅ、ぶ……」

『アルド限界なら、言った方がいい』


 もはや死に体だが、男は矜持の生き物である。例え血の繋がった母さん相手だろうとも、見栄を張らないといけないのである。


「少し、休みましょうか」


 母は微笑みながらそう言った。俺は声を出すのもおっくうで、ただ頷く。しょうがないな。母さんが休みたいなら、その提案を受けるのにやぶさかではないのですよ。

 俺は、ちょうど良い位置にあった、岩の上に腰掛けた。


「ふぅ……」


 岩の上とは言え、腰掛けられるかどうかで、随分と違う。強ばっていた足から、力が抜け、気だるい感覚が両足を支配した。……帰りはちゃんと歩いて帰れるのだろうか。


「アルド!」

『アルドっ』


 完全に気を抜いた所で、母さんの鋭い声と、アリシアの焦ったような念話が飛ぶ。あ、森の中だから油断するなとか、そんな感じかな? 俺は警戒心を高めようとしたところで、空と地上が逆さまになった。


「え? えぇぇ!?」


 何が起こっているのか、さっぱり解らない。ただ理解できたのは、天地が逆転している事、右足が異常なまでに痛みを発していることだった。何かに掴まれているような痛みに、俺は顔をしかめながら、それを見た。


 薄桃色の長い、紐みたいなものが、俺の足に巻き付いて、俺を引っ張りあげている。それは、しなりながら、今も蠢いていた。


 やばい!


 とっさにそう思う。あれはただ、宙に引きずりあげる動きじゃない。一度あげて、下に叩きつけるための動きだ。そして、下には岩がある。

 死ぬ──そんな言葉が頭をかすめる。この勢いで叩きつけられれば、トマトを堅いコンクリに叩きつけるみたいに、俺は赤い中身をぶちまけるに違いない。そう思えた。


「はぁっ!」


 しかし、そんな想像は、裂帛の気合いと共に切り裂かれた。いつの間にか、俺の真下辺りまで近づいていた母が、目にも止まらない早さで剣を引き抜き、振り抜いていたのだ。

 ざくっ! と良い音共に、俺の足に巻き付いていた触手が切り裂かれ、支えを失った俺は、落下する。もう引っ張る力はなくなったとはいえ、かなりの高さ。俺は衝撃に備えて、身体を丸め、目をつぶった。

 衝撃が来た。が、それほど大きなものではない。岩の上のような感触ではなく、柔らかなもので、受け止められたような感触。


「もう大丈夫」


 母さんの腕に包まれながら、その声を聞き、強ばっていた身体から、力が抜ける。強ばった身体。そうだ。俺はこの事態に、怯えて、指一本動かせなかった事に気づいた。


「もう大丈夫よ」


 しかし、そんな危機なんて、大した事はないのだ。そう思えるほど、母さんの言葉には自信があった。

 母さんは俺をそっと地面におろすと、俺は足の力が上手くいれられず、腰砕けになって地面にへたりこむ。アリシアが心配そうにのぞき込み、俺は目線で、大丈夫だと伝えておく。


「そこで、もう少し休んでなさい。すぐ終わるから」


 長い金髪を靡かせて、剣を構える母さんの姿は、物語にでてくる英雄のように凛々しい。……相手が、ローパーでなく、ドラゴンとかであったなら、さぞ絵になるだろう。そんなバカな事を考えられる程度には、俺にも余裕が出てきた。

 切られた触手の先には、緑色の円筒形をした物体があり、そこから薄桃色をした触手がいくつも延びている。そして、円筒形をした本体らしいぶったいには、大きな口があり、その口の周りをずらりと牙が存在した。見た目はイソギンチャクのようにも見えるが、凶悪さが段違いだった。


 何あれキモッ! ローパー、キモッ!


 俺は唖然としながら、ローパーを見、次の瞬間には母さんが動き出した。ローパーが母さんを驚異と感じ取り、触手を一斉に、槍のように突き刺してくる。

 母さんはそれを易々と避け、くぐり抜けながら、自分の身体に当たりそうな一本を、剣で弾く。

 触手は、ドスッと音を立てて、木の幹に突き刺さった。

 こわっ! ローパーこわっ!

 俺はすでに、この世界のローパーに涙目だ。

 

 危なげなく、ローパーを剣の間合いに入れた母さんは、剣を高く掲げ、


「ふっ!」


 という鋭い呼気と共に一刀両断した。本体が二つに裂かれたあと、触手はびくびくと動いていたが、やがて停止した。

 凶悪なローパーよりも、母さんの方が強いという事実に、俺は少し複雑な気分だった。まぁ、前世みたいならめぇ! な展開もある意味で刺激が強すぎるので願いさげではあったが。


 母さんは剣に付いた、ローパーの体液を持参していた布で拭うと、剣をしまい、代わりに、俺に持たせたようなナイフを一本取り出して、触手を剥ぎ始めた。

 俺は勝手が解らず、母さんの後ろから、邪魔にならないようにその作業を見学する。


『うわ。なんかすご……』

『私も、初めて見た』


 アリシアが俺の念話に同意する。こうして、俺の初ローパー狩りは終わった。

 ようやく、この素材でロボットが作れる! 俺は小躍りしたい気分だったが、世の中はそんなに甘くはなかった。


「じゃ、これを持って返りましょうか」


 ロボットの素材ゲットだぜ! というテンションは、これから待つ地獄の予告に、一瞬にして吹き飛んだ。


「これだけとれれば、当分はソファとベットのクッションに困らないわね」


 そして、俺は世の真実を知り、母さんの知らない所で、今日一番SAN値が削られていた。

 スプリングも無い世界で、柔らかいベットとソファーってどうやって作られてるんだろう、という疑問は、図らずとも解決された……俺の、少々の狂気と共に。

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