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第68話「決闘が終わって」

「これはどういう状況なんだ」


 と、頭を抱えたくなりながら、俺はそう言った。

 頭を抱えたい状況で、そうしないでいるのは、現在マギア・ギアのコクピット内におり、自分の身体をこう動かしたい! という思考が魔力接続の魔術によって機体にフィードバックされ機体をそのように動かしてしまう恐れがあるからだ。

しかし、このままでいる事も出来ないため、俺は状況の打開を求めて言葉を発した。

 

「そろそろ、頭をあげない?」

『いいえ、あげませんわ! 私の非礼をきちんとお詫びするまでは!』


 機体の視覚情報の先では、決闘の相手──ミラベルが土下座している。

 敵の人形──RPGとかのゲームでよく見るような、ゴーレムみたいなものをボロクソに負かせた後、突然ミラベルが先ほどまでの態度を改め、土下座を始めたのだ。

 謝られているとはいえ、俺の心は全く晴れない。いや、これまでの会話で嫌に感じた部分はもうないのだ。何故ならさっきゴーレムを負かせた時に晴らしてしまったので。今一番晴れない気持ちでいる原因が、目の前の土下座だったりする。

 別にそんなものは求めてない、っていうのが本音だし、衆人環視の中で土下座をさせている(ように見える)状況は、とっても勘弁してほしい状況だった。


「いや、うん。その誠意は受け取ったよ」

『なりませんわ! この程度では謝罪に含まれませんもの!』


 いや、なんでそれをそっちが決めるんだよ! と俺は思った。謝ってくれては居るが、結局話を聞いてくれないのは変わらない。そういう意味では何も進展がないので、非常に面倒だ。あるいはそういう風に思わせ、相手に辟易させ、決闘に負けた分を帳消しにできないまでも、無理な要求を提示させないような何らかの策略……!と思ったりしたが


『私が間違っておりました……貴方の、アルドさんの技術力には大変感服いたしました!』


 顔をあげ、そんな風にキラキラした目で言われてしまうと、悪い気はしない。おまけに、こんな純真な瞳をした子を疑うのか? なんて思いも多少でてしまう。これで本当に演技だとしたら、俺は女性というものが全体的に信頼できなくなる自信がある。


「わかった、わかったよ。その話は後でしよう。今は取りあえず、決闘が俺の勝ちって事で終わりでいい?」

『はい!』


 それだけ確認を取り、俺はマギア・ギアから降りる。

 先程降参もしたことも合わせ、見届け人である学園長に確認を取り、学園長が俺の勝利を宣言した事で、この決闘は終わりとなった。


 観客も最後のミラベルの様子に困惑していたが、決闘の終了が宣言されるにつれてだんだんと解散していく。解散していく観客の話題は、さっきまでの迫力のある巨大な人型の戦闘のようで、興奮冷めやらぬ様子だ。

 あまり、戦闘マシンだ、という印象を持たせたくはなかったが、なってしまったものは仕方ない。ワーカーの他に、もっと生活に密着できるようなロボットの開発を急ぐべきかもしれない。

 技術が広まれば、それは遅かれ早かれ軍事と密接する。むしろ、軍事利用目的で開発されたものが、民間の生活用の技術に流用される事が多いくらいなのだから、避けては通れない道だろう。

 せめて、そうなる日がくるまでに、出来ることをしないと。


 過ぎてしまった事はしょうがない、と俺は気分を切り替え、自室に戻る事にした。


◆◇◆◇◆◇


「本当にすみませんでした!」

「それはもう良いんだって。俺も煽るような事を言った訳だし」

「いえ、あれ程の技術があるならば、私の扱う人形術を子ども扱いするのも道理ですわ! それに気付けなかった私のなんと愚かな事か……!」


 自室に戻ってすぐ、もう会わないだろうと思っていたミラベルが、再び頭を下げてきた。廊下で頭を下げられると非常に面倒だったので、自室に入れようかとも思ったが、部屋に入れたくない、関わりたくないという思いが強く、かといってあのまま無視すれば、男子寮の俺の自室の前でずっと土下座をしそうな勢いであったので、仕方なく、俺とミラベルは談話室の一つにいる。

 そして、談話室に来た彼女はずっとこんな感じだった。やたらと俺の事を持ち上げてくるのがこそばゆい思いだが、決闘前は貶して来てただろうに、とそのちぐはぐな行動に違和感を覚えていた。

 こちらとしては、決闘でその辺りを解決できたと考えているので、どうでもよかったのだが、いつまでも話をやめない彼女の話を切るために、その事について聞いてみる事にした。


「確かに決闘で、戦闘面においては優れていると証明した訳だけど。あれだけ自信満々にしていたのに、どういう風の吹き回しなんだ?」


 戦闘以外だったら、また何か違う結末だったかもしれない。そんな思いもあって、俺は彼女にそう聞いてみた。


「あ、あれは……その。私にもよく解らないのです。そうしなければいけない、と思っていたのですが……」

「はぁ?」


 曖昧な答えに、つい間の抜けた返事を返してしまう。ふざけているのかとも思ったが、彼女は本気で困惑しているようにも見える。だとすれば、あの決闘にはいったい何があったというのか。


「侍女から本家の手紙を受け取りまして、我が家の秘術を盗んだ者がいると。侍女からも話を聞き、カッとなったことまでは覚えているのですが……」


 なんだそれ。俺はもっと詳しく話を聞こうとしたところで、ふと人影が目に入り、押し黙る。


「お嬢様」


 静かに、鋭い声が俺たちの間に割って入る。

 見ると、メイド服を着た女性が談話質の入り口に立っていた。目立ったような特徴もないが、手が加えられたかのように整えられた容姿をした女性。俺は、驚きが顔にでないように繕うので精一杯だった。

 貴族の生徒の中には、侍女を自室に待機させるものもいる。そこまでする貴族があまりいないので、数は少ないが、絶対にないわけではない。だが、俺はそんな事に驚いた訳ではない。何時からそこにいたのか? そして目の前に立っているというのに、人間らしい気配が一切しない。どこか虚ろに見えるその瞳が、俺とミラベルを見下ろしている。そこに、言い知れぬ不快感と警戒心を覚えた。


「もう少し上手くできるかと思いましたが……やはり期待外れでしたか」

「何を言って……」


 と、俺はそれ以上の言葉を飲み込んだ。気づけば、ミラベルががたがたと震え、侍女の方を見ていたからだ。


「あ、ああぁ……お母さま、お許しください、わた、私は……」

「言い訳はいいのです。奥様は使えぬ駒は処分せよ、とおっしゃっております」


 侍女に向かって、母と言っていたが、侍女はミラベルの母親、というにはあまりに似ていない。それに、侍女は奥様、という事もいっていたので、侍女の後ろにはミラベルの母親がいる、という事だろうか。

 それにしても、胸糞が悪い話だった。娘が駒で、処分しろ、と? 本気でそんな事をいっているのだろうか。


「最後は苦しまずに、というのが奥様の優しさでございます」


 機械的な動作で、スカートの奥からナイフを取り出した侍女が、それを素早く投擲した。


「何、してるっ!?」


 咄嗟に、ミラベルに向かって飛翔するナイフを、雑談室の机に置きっぱなしになっていたインク壺で迎撃する。ぱりん、と壺が割れる音と、残っていたインクが、血糊のように飛び散り辺りを汚した。


「きゃっ」


 飛び散った壺の破片とインクに驚いたミラベルが小さく悲鳴をあげ、恐ろしいものを見るように侍女を見つめる。侍女は使える主である筈の少女にナイフを投げたというのに、その顔になんの表情も乗せぬまま、ただ無機質にミラベルを見つめていた。

 

「邪魔をしないでください。貴方の相手はお嬢様を処分した後にしてあげます」

 

 処分という言葉に、ミラベルが震えた。俺は相手には答えず、最大限警戒しながらその動きを見る。相手は本気だった。


「そんな時間、あるのかよ? ここでこんな大それた事をすれば、すぐに人が来る」


談話室なんて目立つ所で襲撃なんてイカれてる……とそこまで考えた所で、俺たち以外の人影が居ない、という事に気付いた。


「これは……結界か……!?」

「それに気付ける程度の力量がありますか。やはり貴方は危険な様子。先に貴方を片付けるとしましょう」


 これから部屋の掃除を始めます。というくらい事務的で軽い死刑宣告。立ち上がりながら、俺は刀を手元に展開し、叫んだ。


「そう簡単に、させるか!」


 その言葉を皮切りに、俺と侍女が同時に動いた。侍女は先ほどと同じように2本のナイフを両手に取り出し、俺に向かって切りかかってきた。鋭いが、単調な攻撃。こちらの攻撃の方が圧倒的に早い。脅しの意味も込めて、侍女に向かって刀を振るう。

 侍女の目がその刀の軌道を追う。しかし、一瞬視界に捉えただけで侍女は俺の刀を意に介さず、刀の軌道に向かってそのまま突進してくる。持っているナイフで刀を防御しようともしない。


「っ!」


 その動きに焦ったのは俺だった。このままだと肩口からバッサリと侍女を切る事になる。咄嗟に刀を峰に返し、突っ込んでくる侍女に叩きつけた。


 固い感触。肉や骨を打つ感覚ではなく、もっと固い何か。手に返ってくる衝撃も、随分と重い手応えだ。


「く……」


 尋常でないその衝撃に驚いている暇はなかった。常人なら骨の1本2本折ってもおかしくない一撃だったというのに、刀を肩に受けた侍女は、そのまま痛みに怯んだ様子も見せず、ナイフを突き出してきたのだ。

 俺は突き出されたナイフを身体を強引に捻って躱す。左胸を正確に狙ったその突きに肝が冷える。2撃目を繰り出そうとしている相手の腹に前蹴りを入れて下がらせ、俺は刀を構えなおした。

 さっきの一撃、完全に躱したと思ったが、制服が裂かれてしまっていた。あと一瞬でも遅れていれば、と嫌な想像が脳裏に浮かぶ。今の一瞬で上がった息を整えて、俺は今度は自分から攻める事にした。

 侍女が迎撃のため、再びナイフを突き出す。


「ふっ……!」


 ナイフを避け、今度振るった刀は峰でなく刃のまま。確かめたいことがあったからだ。侍女は俺の狙いに気付き、腕を引こうとしたがもう遅い。


 キンッ! と澄んだ、甲高い音がした。およそ人間を切ったとは思えない手応え。切り落とした侍女の腕からは、血の一滴も流れていない。


「お前……人形か」


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