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第66話「決闘ですわ!」

「我が一族の秘術を盗んだ不届き者はどちらにいらっしゃいますの!?」


 そんな一声とともに、勢いよく教室の扉を開けて入ってきたのは、いったいそれで何を穿とうというのか、と聞いてみたくなるような見事なドリルな髪型の少女だった。

 なんというドリル。あのドリルは天を突くドリ……なんてアホな事を一瞬考えていたら、そのドリルな髪をした少女と目があった。

 俺と目があったその少女は、ただでさえ勝ち気な緑目が段々とつり上げ、こちらにずかずかと歩いて来たかと思うと、腕を振り上げて勢いよく振るった。


「!」


 俺の頬を叩く、乾いた音がした。なんて事はなく、俺は振るわれた平手打ちを椅子に座ったままで半ば無意識に避ける。

 仲間もいきなりな状況に唖然としているが、状況が全くわからないため、事の推移を見守っている。


「なぜ避けるんですの!」

「いや、普通初対面の人からの平手打ちなんて、避けるか怒るかの2択だと思うけど」


 あえての3択目で平手を受けてからの、涙ながらに親父にも殴られた事ないのに! とか言うのもあるのかもしれないが、普通避けるか、避けようと努力する事だろう。こちらに非が思い当たらないとなれば尚更だ。


「盗人猛々しいとはこの事ですわ!」


 全く人の話を聞かない様子のその少女に、俺は怒りを通り越して呆れを覚えつつ答える。


「人のことを盗人呼ばわりするからには、その証拠となるものや、証言者がいるって事だよね。まずはそれを聞こうか」


 本当は面倒だったが、ちょっと丁寧に返しているのは、先の言葉、我が秘術、という下りだった。秘術、なんて使われ方をするものに心辺りがあるとすれば、魔法、魔術の事だろう、という予想は立てられる。

 そして、魔法、魔術の事であれば、向こうに正当性があるなら、慰謝料の類は払っても良いと思っていた。

 特許に関してはこの国には存在しないが、俺が使った技術によって生計を立てているものがいるなら、別にそれを荒らしたいと思っている訳ではない。それに、俺としては魔術やロボットといった技術が広まれば良いので、すでに幾つか存在し、流通しているなら願ったりかなったりだ。


「そんなもの、見なくても解りますわ! 我が一族の人形術はこの国随一!」


 そんなもの、見なくても。ほう。これで幾つか解った事がある。この手の手合いには容赦不用。そして、人形、というからには何か魔導甲冑の事でいいたい事があるのだろう。もう少し穏便な形や、ちゃんとした交渉の場を用意されたなら、少しは考慮したかもしれない。

 が、こいつは見もしない俺のロボットを馬鹿にした訳だ。そういう事なら手加減するつもりはない。


「そんなもの、ね。たかだか人形ごときの術、盗むほどのものもないと思うけども」


全力で煽るような言葉に、目の前の少女の反応は劇的だった。


「! も、もう一度言ってみなさい!」

「だから、たかが人形遊び。そんなものは必要としないし、使いはしないよ。これまでも、これからもね」


 向こうは顔を真っ赤にして怒っているが、こちらも丁寧っぽい口調をしているだけで、内心はだいぶ頭に来ていた。再度振り上げられた彼女の平手を避けて、俺は立ち上がる。


「このような侮辱を受けたのは初めてですわ……! 撤回しなさい!」


 避けられる事を理解したのか、ビシッと音がしそうな切れと勢いで俺を指さし、彼女はそう言った。


「その言葉、鏡の前で言ったらいいよ」

「どこまでも人を馬鹿にして!」

「それも鏡の前で言ってね?」


 もはや彼女の顔色は赤を通り越して青く見える程に、怒りのボルテージが上がってきている。そして、最後の俺の一言でぷつりと何かが切れたようだった。


「決闘ですわ!」

「え。いや、結構です。弱いもの虐めはカッコ悪いでしょ」


 流石に決闘とか面倒だ。それに、決闘となると、一対一での戦闘、というイメージがあるが、そうなったら俺の方が圧倒的に有利ではないだろうか。別クラスだから良く知らないが、彼女はそんなに魔法ないし、体術が得意なんだろうか。少なくとも体術は学年で共同でやっているので、彼女は体術が不得手だろう、という予想はつく。


「当然ですわ! わたくしが勝てる訳ありませんもの」

「……」


 そこは当然なのかよ! と叫びたくなるのをぐっとこらえる。そして今日一番、彼女のドヤ顔にイラッとさせられるが、それも口を閉じて堪えた。さすがに女の子に衝動的に手をあげたりしたくはない。一拍おいて、深呼吸を一つ挟んでから努めて冷静に口を開く。


「で、何の決闘をするって?」

「人形決闘ですわ。お互いが操る人形を使って、その優劣を競うのですわ」

「優劣ね。どんな優劣を競おうって?」


 人形の、なんていうとイマイチぴんと来ないが。なんて思っていると、それでいいのか、と思ってしまうような事を彼女は言い出した。


「もちろん、戦闘ですわ! 人形同士をぶつけ合い、その優劣を競う伝統的な決闘ですの」

「伝統的……」


 そうなの? という意味を込めて、周りを見る。すると、俺の知り合いにはその伝統を知るものは居ない、という事が解った。目線の先では、仲間達が肩を竦めたり、首を振ったりしている。


「まぁ、戦闘、というなら、相手の人形が戦闘続行不能になるまで叩けばいいんだ?」

「なんと野蛮な……と言いたいところですが、簡単に言えば、そうなりますわね」


 まぁ、なら良いか。それなら願ったりである。何故ならこちらのロボットはほとんど戦闘用だし。ワーカーで決闘、おまけに戦闘以外で、なんて言われてたらそれはそれで面倒だ。


「わかった。いいよそれで」

「……随分あっさりと返事をなさいますのね」

「さっきも言ったけど、たかが人形に負けるようなものでは無いと自負しているしね。解り易くていいよ」


 思った事をそのまま言うと、言われた彼女はまた顔を赤くしていた。ついでに言うとプルプル震えているようだが、今回は手を上げたりしなかった。


「その強がりがいつまで持つのか、これから楽しみですわね!」

「負け惜しみなら、負けてから良いなよ?」

「~っ!! ああいえば、こう……! 良いですか! 三日期限をあげます! それまでにせいぜいあなたの人形を最高の状態に調整しておくんですのね!」


 彼女はそう言い残し、結局名乗りもせずに立ち去ってしまった。

 台風のような彼女を見送った俺は、一体何だったのだろうかと思いつつ、面倒くさいイベントがやってきたな、と現実逃避気味に思ったのだった。


「よかったの? 決闘なんか受けて」

「うーん。良いか悪いかで言うと微妙なんだけど、他にも同じようなのが居るなら、牽制にもできるかなと思って」


 クリス達に、簡単にそう説明した俺は、自信があるとはいえ、万が一に備えて全力で策を練り始めた。


 翌日、自室に書類が送られてきた。

 内容は、決闘には自作した人形を用いる事。その決着方法は、どちらかの人形が、こちらの指示を従わなくなるか、先頭不能になるまで破壊されたかを判断して行われる、という事。決闘を了承するかどうかの最終的な確認と、決闘に負けた場合はこちらの非を認め、慰謝料を払う事、またその持っている技術を引き渡すこと、という旨が遠回しな表現で書かれていた。遠回しに言っており、書類の文面上では解りづらいだけで、結局要求していることはヤ○ザみたいなものか。と俺は呆れていた。

 そもそも、慰謝料云々といってくるなら、どこそこに使っている技術は私たちが開発したもので、その類似性がこちらの技術を不当な流用をしているものではないか、と資料を寄越すのが先ではないだろうか。

 そして、相手は自分が負けるとは微塵も考えていないらしい。向こうが負けた時の事は何も書かれていなかった。仕方ないので、こちらが勝った場合は金輪際この件について関わらない事、こちらが使用している技術は、そちらの秘術なるものとは違う事を決闘終了後、一週間以内に公表する事などを書類に書き込む。


 あ、ちなみに、金髪ドリルの子は名前をミラベル・アデライトと言うらしい。差出人の名前と、昨日ウィリアムたちから聞いていた名前に齟齬が無いかを確認し、こちらの要望を書き添えて書類を返すことにした。


 決闘前日、返答した書類について揉めたが、技術うんぬんは盗んだと言うならそちらが資料にまとめてから来い、という事を言うと勢いがなくなったので、そのままミラベルに条件を飲ませ、誓約書の原本を向こうに渡し、手書きの複製を手元に控える。


 そんな事があって、のっけからテンションが上がらない決闘がスタートする事になった。試合会場となるのは訓練にも使われるいつものスペースで、見慣れた決闘場のようなその場所には、かなりの人が集まっている。

 そして、その中央で鎮座した金髪ドリルのミラベルが、高笑いをしていた。

 

「おほほほ! 良く逃げずに来ましたわね! 盗人さん!」


 俺も観客の歓声と視線が集中するのに辟易しながら、中央にいるミラベルがいったが、反射的に俺は言い返していた。


「ほんと、盗人猛々しいとはよく言うよね」

「本当に、貴方という人は……! その減らず口、叩けぬようにして差し上げますわ!」


 それも鏡にでも言いなよと思ったが、ここで口論している時間が惜しいと感じ、黙って先を促す。そんな俺の態度もミラベルは癪に触っているらしいが、こちらとしては付き合ってあげているだけ感謝して欲しい、という思いでいっぱいだった。


「まぁ、良いですわ。この決闘でどちらが正しいかはっきりと解るのですから!」


 どこからそんな自信がでるのだろう、というドヤ顔で、彼女は自信満々にそう言った。


お読みいただきありあがとうございます。

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