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第63話「約束と決意」

 アリシアさんと長い事話をしていたようだったけど、実際には数時間と言ったところだろうか。質問をしている途中で、彼女は堰を切ったように喋りだし、《アリシア》について語ってくれた。


 要約するとやはり、以前先生が語ってくれたような人生を歩んだらしい。彼女は魔法をより良く、幅広く使えるようにと魔術を生んだが、魔法を拠り所にする貴族や一部の権力者たちが自分の利益を守るために異端と認定、魔術を認める事はなかった。

 便利なら広く利用され、そんな権力者の言葉を覆せるのではないか、そうも思ったが、時の権力者たちの力は強大で、強欲であったらしい。

 彼女は広く技術を広めたかったが、独占したいと考えていた彼らとの意見は分かれ、彼女は独自に広めようとした。しかし、権力者たちは彼女の悪評を広め、魔法を使う賊までも彼女の名を語った。

 彼女の評判は地に落ち、自衛のために一般市民や衛兵にまで魔術を使わざる得ない状況まで追いつめられしまったそうだ。


「《アリシア》はそれを機に考えを改めた。自分の代では、魔術は広まらない。もっと時間をかける必要がある」


 そうして、記録として魔術の書をしたため、自分の知識、技術の一つ一つを残し始めた。


「同時に、知識を渡したくない、とも考えた。その結果が私たち分身」


 その頃の《アリシア》は人を信じられなくなっていた。

 技術を残すのも、人のために、と努力して来たが裏切られ、何のために残すのか、と自棄になっていた事もあったらしい。悩んだあげく、彼女は信頼できる人間が出てくるまで待つことにした。

 魔力の扱いに長けると、長く居きられるらしいが、それでも医療、衛生観念の未発達のこの世界では、100年を越え生き続けるのは、エルフのような長命種のみ。彼女は、自分の分身を作り、知識を渡す相手を分身に見定めさせる事にした。


「それが私たちアリシア」


 全て聞き終えた俺は、アリシアさんの顔を見つめながら、押し黙った。

 なんて言えば良いのか解らなかったのだ。自分がここで同情的に大変だったですね、なんて軽々しく言えない。自分が彼女の立場だったら、そんな事言っては欲しい訳ではないだろうと思った。


「……俺」


 それでも、何か伝えたい、という思いがあった。何を伝えれば良いか、俺自身定まってない。ただ、ここで何も言わないでいると、彼女の前で、俺は今後何も伝えられない気がした。


「俺が、あなたたちの後継者になります」


 俺の口から咄嗟に出たのは、そんな言葉だった。

 でも、以前から少しは考えては居た事ではある。アリシアが消えた後も自分の中でくすぶり続けていたそれ。


「……だめ。私は教えない」


 何となく予想はしてた。急にそんな事言われても、彼女も信じられないだろう。今は、それでいい。


「解ってます。だからこれは決意表明です。あなたに約束します。俺は、《アリシア》が残したものを広めて見せる」


 アリシアさんは首を振る。


「きっと苦労する」


 彼女は「苦労」なんて柔らかい表現を使ったが、その程度済まないだろう。これまでその「苦労」はオリヴィアの父の影響で抑えて貰っていた。

 しかし、これからは違う。魔術を広げる、というのはこれまでの世界を一度壊し、新しい何かを作る、という事。困難なんて掃いて捨てる程あるに違いない。

 そんな彼女の気遣いが、嬉しく思う。尚更引き下がる訳には行かないだろう。才能が無いから、とか俺が信用できないから、なんて理由では無く、彼女は俺を心配して忠告している。そんな彼女だからこそ、俺は何かしてあげたいと思う。


「それでも、です」


 だから、まずは俺は彼女の信用を得るだけの実績を手に入れる。これからは自発的に、精力的に。


「私は力を貸さない」

「それで良いです。……あ、でもたまに雑談しにここに来ても良いですか?」


 頑なだったアリシアさんの表情が、僅かに揺れる。何となく予想をするなら、今後ここに近づけさせたくない、でもそれくらいなら良いかな? という考えではないだろうか。


「……それくらいなら、良い」


 少し考えた末に、アリシアさんはそう言った。俺はその答えに少し笑う。俺の知ってるアリシアなら、そう言うんじゃないか、と思っていた通りの返答だった。いや、元は同じ人間の思考をコピーしているらしいので、当たり前なのだろうけど。

 ただ、俺は二人を同一人物として扱うのは何だか嫌だった。彼女たちに失礼だ、と感じているのかもしれない。同じような考えを持つ個人、そう接していきたい。


「じゃ、今日は長い事いたので、また今度」


 そう切り出して、俺は席を立つ。また今度、と言われたアリシアさんは少し驚いた顔をしていた。


「……また今度」

 

 そう返してくれた彼女は、はにかむような笑顔を浮かべていた。


◆◇◆◇◆◇


 寮に戻って一眠りし、最近日課になる朝の訓練に向かう。訓練場にはすでに、固定メンバーとなった、クリス、オリヴィア、フィオナ、ウィリアム、アレス、グラントがいた。強制している訳ではないので、一人二人、揃わない日もあるのだが、今日は皆やる気があるみたいで全員揃っている。


「うん。都合が良いな」


 俺はそう呟く。昨日決めた事を、このメンバーに打ち明けてみようと思っていたからだ。時間をかけると言いづらくなる。こう、主に自分の決意が鈍りそうとかそういう所で。


「みんな、ちょっと聞いて欲しい事があるんだ」


 そんな言葉を切って、俺はこれからどうしたいのか、俺は信頼のおける仲間たちに告げる事にした。

 前世では、ロボットを作りたいと思って、転生を果たした今世で念願のロボットを作成する事ができた。でも、それ以降は何をしたいのか、いまいち自分でも解らなかった。

 でもこれからは違う。魔術を広める。それと同時に、ロボットと、その有用性を広める。この世界で作ったロボット──魔導甲冑は、魔術によって動いているため、ロボットを広める、という事は、魔術を広めないといけないからだ。

 俺は、そんな事をみんなに伝える。そして、その手伝いをしてくれないか、という事も。そして、魔術が禁術扱いされてる今、その行為には困難が伴うであろう事。全部話したと思う。

 喋り始めると、まくし立てるように喋っていた。聞いていたみんなは唖然とし、喋り終わった時俺は、早まったか、と思った。でも言い切った。

 誰もが喋らない。沈黙が降りた中で、声をあげる者があった。


「私は良いよ。アルドのしたい事を手伝う」


 真っ先にそう言ってくれたのはクリスだった。


「アルドさんの弟子になるって決めたんですから、魔術を広めるのには賛成です。むしろ、やっとその気になりましたか、って感じですよ? お父様はいつも、アルドさんが何時そう言い出さないかってひやひやしてましたから」


 オリヴィアの言葉に、そうだったのか、と思う。魔導甲冑が完成した時、確かにオリヴィアの父、フェリックスさんは魔導甲冑の性能に驚き、恐怖を覚えたとも言っていた。

 その言葉を聞いてから、まぁ、出来ていたとは言わないが、自重してきたつもりだったし、積極的に魔導甲冑を広めようとか、魔術を広めようとはしていなかった。


「はは……そうだね。決意するの、遅くてごめん。でも、もう口に出していった以上、引っ込める気はないよ」

「ふふ。そうでないと、支えがいがありませんから。私も、微力ながらお手伝いさせていただきます」


 今でも、魔術を広げたら、過去アリシアがされたように、悪用されたり、迫害を受けるのでは、という恐怖はある。

 俺は、2人も手伝ってくれる事に自分でも思っていた以上に安堵しながら、他のメンバーの言葉を待った。


「僕らはこの学園に、技術を求めにやってきているんだ。未知の技術に触れる機会があるのは、こっちとしても願ったりだねぇ」

「俺も特に異論はない。助けて貰った恩もある。それを返せると言うなら、喜んで協力する」

「お前たちについて行けば、もっと強くなれる。なら、この話を断るなんて事はできねぇな」


 ウィリアム、アレス、グラントがそんな風に言った。別に、この話を断ったからって何かペナルティを出すわけではないし、特に疎遠になる、というつもりも無かったのだが、手伝って貰えるなら純粋に嬉しい。

 フィオナは、少しもじもじとして、困ったような顔を俺に向けた。


「わ、私でも、お役に、立てますか……?」

「もちろん。よろしく頼むよ」


 フィオナは俺の言葉に嬉しそうに頷く。これで全員、賛同してくれたようだ。俺はこの結果に満足しながら、皆を見渡す。 


「で、これから何をするんだ?」


 グラントが皆を代表して疑問を口にした。俺は彼に頷き返して、皆に聞こえるように答える。


「うん。基本、これまでと変わらない。ただ、魔術に関してはこれまで以上にがっつり教えるつもり」

「なんだ。拍子抜けだな」


 グラントの言葉に、クリスも頷く。他の皆も多かれ少なかれ同じように思っているようだ。俺は、それを見てにやりと笑みを返す。


「もちろん、新しい事もするよ。訓練だけだと魔術を広められないしね」

「新しい事?」


 皆の興味心身な視線が俺に集中し、俺は一人一人見渡しながら、その考えを口にした。


「魔導甲冑を量産化して、手始めに土木建築辺りに売り出そうと思うんだ。その前段階として、全員が魔導甲冑に乗れるようにするのと、量産機の作成を行おうと思う」

お読みいただきありがとうございます。

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