第60話「新兵器稼働テスト」
先に動かしたのは通常装備の黒騎士さんだ。盾と剣を持った、この世界のオーソドックスなスタイル。剣はテストなので、特性のもの、以前地元の《鷹の目》パーティにも売った魔力剣だ。盾は結界を発生させる積み木細工の盾を改良した金属製の盾を使用している。
駆け出す黒騎士。対して、遅れて動き出したのはFA黒騎士さんだ。
「デカイのは見た目の通り、動きは遅いみたいね」
「だが、そうなると身体が重すぎてまともに打ち合えないんじゃないか?」
黒騎士さんが剣を打ち込み、泰然とした様子でFA黒騎士さんがそれを受け止める。数合、打ち合いを重ね、FA黒騎士さんがシールドバッシュを行い、黒騎士さんを押しのける。距離が空いた二機は、睨み会うようにして、ゆっくりと円形に周り始めた。
まぁ、動かしているのはどちらも俺なので、ここまでは動作チェック的な意味合いが強い。
ここまでの動きで、FA黒騎士さんの動きに問題が無かったので、ここからはちゃんとした試験として、模擬戦を行う予定だ。
同じ意識だと動かしながら両者の動きが見えすぎてしまい、自分で白けてしまうので、魔力演算領域を使って思考を分割、黒騎士さんとFA黒騎士さんの思考を覗いてしまわないように蓋をして、模擬戦を観戦する。
「相変わらず、良い動きをしているねぇ」
ウィリアムがいつの間にか模擬戦を観戦しており、いつのまにか、全員が集まって見ていた。
ちょっと大事になっている気がしたが、見るのも稽古になるし、あとでみんなに動作について聞いてみよう。
と、そんな風に自分の意識を逸らしても、魔力演算領域内で展開した黒騎士さんとFA黒騎士さんを操る意識は機体を動かし続けている。
睨み合いをしていた二機が動く。今度はFA黒騎士さんだ。金属音をガシャガシャとたてながら走るその姿は威圧感がある。黒騎士さんは横に回ろうと隙を伺うが、大きく盾と剣を広げ、駆けてくるFA黒騎士さんを前に、その選択を諦める。
黒騎士さんがしっかりと盾を構え直し、その後に剣を隠す。盾で受け、剣を差し込む腹積もりのようで、それに対して、気づいていないのか、FA黒騎士さんは真っ直ぐに突っ込んでいく。
FA黒騎士さんが盾を構えている黒騎士さんに飛び込むと同時、手にしていた剣を勢いよく振り下ろした。
「……!」
見ていた仲間たちから、驚き、息を呑む気配を感じる。耳に付く金属音。それと同時に、盾を構えたまま後に数メートルも後退する黒騎士さん。
黒騎士さんが踏ん張り、攻撃に耐えた結果、轍のように足跡が付けられた訓練場に、FA黒騎士さんの攻撃の重さが伺いしれる。普通のフルプレートの人間よりは軽いとはいえ、黒騎士さんも軽い訳ではない。体重は俺たち一人一人よりも重いというのに、踏ん張っていたはずの黒騎士さんがそのまま退かされるような威力。
しかし、驚くのはまだ早いようだった。FA黒騎士さんは、後退した黒騎士さんに追撃を仕掛けんと更に突進する。今度は剣では無く、盾を振り上げて。カイトシールドを模した盾は、先端が鋭角になっている。そして、先端には杭を打ち出す。パイルバンカーが仕込まれていた。FA黒騎士さんはその穂先を、盾を構え、先程の攻撃からようやく動き出せた黒騎士さんに向けている。
ドン、と空気が震える。パイルバンカーが躊躇無く放たれたのだ。爆音が訓練場に響き周り、グラント、フィオナの耳が良い二人が顔をしかめる。
パイルバンカーを打ち込まれた黒騎士さんは、盾の結界機能を展開してパイルを防いでいた。盾を覆った半透明の結界が、打ち込まれた杭を止めて居るが、杭は結界を半ば破り、ヒビを入れている。二度三度の攻撃には耐えられそうにないだろう。もちろん、一度解除し、再度張り直せば魔力を消費して結界は元に戻る。しかし、そんな暇は与えられない。
FA黒騎士さんは、ここで黒騎士さんの足を完全に止めさせ、そのまま止めを刺す腹積もりらしく、立て続けにパイルバンカーを撃ち放つ。
一撃、二撃と放たれる杭に、黒騎士さんは盾を巧みに使い防ぐ。
結界を使い受け止め、弾けて消える結界の合間に撃ち込まれる第二撃を、盾で横から殴りつけ、杭を盾表面に滑らせる。
二機は、そんな盾ででの激しい攻防をこなしながら、空いた手で剣を使い、攻撃しあう。
FA黒騎士さんは、パイルバンカーを巧みに使い、剣と合わせる事でまるで二刀流か何かのように流れる攻撃を続け、その流れを途切れさせない。
対して黒騎士さんはその攻撃を一つ一つ捌いていく。盾で防ぎ、弾き、逸らし、結界を使って阻害する。更には空いた手で剣を使い、相手の剣受け、逸らし、隙あらば攻撃として差し込む。
熾烈な攻防は、それでもFA黒騎士さんに軍配があがった。黒騎士さんは軽量さ、機敏さをもって相手の猛攻を凌ぐが、決定打が無い。
FA黒騎士さんは機敏さこそ無いものの、重量のある一撃で相手の動きを阻みながら、自分の身体の動きに頼らず攻撃を差し込めるパイルバンカーを使い、機動力を補い、手数を増やしている。
実際FA黒騎士さんを前に戦うとするなら、パイルバンカーの弾切れを狙いたい所だろうが、それは難しい。杭は大量に作って保管しているし、外して破損のない杭は回収し再利用できる。それも、戦闘中に。
となるとエネルギー切れか。しかし、今回は燃費などを測定しやすくするため、同じ簡易魔導炉から魔力を引っ張ってきて動かしているので、エネルギー切れは自分も動けなくなるだけだ。
「こ、こんなに動けたのか?」
アレスが呆けたように言う。アレスと模擬戦するときは、アレスは逆パワードスーツ(名称仮)を付けさせたままだったし、他の者に対しても、怪我や黒騎士さんの故障を考慮して全力稼働はほとんどさせた事がない。
激しく打ち合っていたグラントとクリスでさえ、驚いているようだ。
「くっ。まだ手加減されていただと……!」
や、違うからね、グラント。何か悔しそうに呟いているけども。
クリスも次は全力ださせてやる……みたいな感じで拳を作ったりするのやめて!
あんな手足がもげても良いみたいな動きは、こういうテストでも無ければしないから!
と、ちょっと意識が脇に逸れた所で、また二機の動きに変化があった。
「ん!?」
と驚いたのはウィリアムだ。FA黒騎士さんの猛攻に耐えかねた黒騎士さんが、盾を構えて付きだしていた。シールドバッシュ。先制の際にFA黒騎士さんにされていた事を仕返そうしている。
それでは力が足りないだろう、と思われたそのシールドバッシュは、俺たちの予想を裏切った。
黒騎士さんの力が足りず、FA黒騎士さんに押し切られる、という予想は外れ、黒騎士さんの盾が爆発して、FA黒騎士さんが吹き飛ばされる。
「ば、爆発……!?」
オリヴィアが驚く。余りに短く一瞬の事だったため、見えなかったのだろう。黒騎士さんは盾を前に突きだし、それが相手に触れる直前、相手と盾の間に《蒼炎》で爆発を起こし、足りない力を補ったらしい。
「魔術ね。あっちの盾には結界以外仕込んでないから」
と、一応全員に補足しておく。皆、模擬戦に釘付けで聞いてる余裕はなさそうだけども。
黒騎士さんはようやく猛攻から抜け出せ、今度はこちらの番だと言わんばかりに動き始める。手始めに《三閃》《轟一閃》など剣技を織り交ぜつつ、攻撃後はすばやく離脱、離れたら今度は遠距離から《蒼炎》を放ち一方的に攻撃を加えるような形に。
これはFA黒騎士さんにとっては嫌な展開だ。これが嫌だから猛攻を仕掛けていたと言っても過言ではない。重装甲、重武装のFAは人工筋肉を増加させている、とは言っても黒騎士さんより動きは重い。
ヒット&ウェイにより、為す術なく打たれるだけになったFA黒騎士さんは盾をどっしりと構え、時を待つように耐えている。
FA黒騎士さんも魔術を使えば、膠着はするものの一方的にされるような事はない。はて、何を待ってるのか?
傍観者として立つ俺も、見ている仲間たちと同じように考えていると、倒しきれずにいるFA黒騎士さんにじれたのか、黒騎士さんが更なる攻勢にでる所だった。
しかし、その動きはFA黒騎士さんが狙っていたタイミングでもあった。
バシュッと空気が抜ける音共に、FA黒騎士さんの腰辺りから何か射出された。
FA黒騎士さんが放ったのは、「足が遅いなら、相手の足を止めれば良いじゃない」をコンセプトにしてノリで作ったワイヤーアンカーだ。左右の腰部から圧縮空気で打ち込まれたそれは、一方は黒騎士さんの盾に弾かれたものの、もう一方が上手く剣を持つ手に絡まる。
黒騎士さんは絡まるワイヤーを引き、FA黒騎士さんの姿勢を崩せないか試したが、いかんせん重量差がありすぎる。ワイヤーを引きちぎる事も、姿勢を崩す事もできずに膠着に持ち込まれてしまった。
剣で切ろうにも、魔力がしっかりと通ったワイヤーは切り裂く事も難しい。
すると、黒騎士さんはすぐさまそれを外すの諦め、素早くFA黒騎士さんに近づき、ワイヤーを弛ませようするが、それもワイヤーは音を立てて巻き取られ、すぐにピンと張ってしまう。
それでも、離れられないなら自由に動ける内に攻撃を、と素早く近づいた黒騎士さんだったが、それは、悪手だった。
獣の咆哮に似た、発射音。瞬きする間もなく放たれる閃光。
次の瞬間、FA黒騎士さんの肩に備えられた砲口から伸びた閃光が、黒騎士さんの構える盾を結界毎貫通し、半身を吹き飛ばした。
『はっ……?』
俺以外の驚きの声があがる。俺も驚いてはいたが、それは予想より大火力だった、というだけの事。
FA黒騎士さんの動作が遅くなっていたのは、猛攻に耐えていたため、というだけでは無かった。魔力を肩に付けていたキャノン・ロアに充填していたため、動作に回す魔力が最小限になっていたというだけの事。
そして、十二分に充填された魔力は閃光となって打ち出され、黒騎士ささんを打ち抜き、その後にあった訓練場と外とを仕分ける外壁を打ち崩した、という訳である。
「……」
説明しろ、と言われているような全員の責めるような視線。
正直、俺もこんなつもりじゃなかった、としか言いようがない。
「え、えっと。……てへっ☆」
全員からの無言の圧力に、茶目っ気を出して誤魔化そうとしてみたが、やっぱりだめだった。俺はこの後、仲間たちから説教を受ける事になる。
壊れた訓練場の壁はスタッフ(俺)が補修しました。
お読みいただきありがとうございます。




