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第58話「自主練と物質成形」

 俺、クリス、オリヴィア、フィオナの迷宮パーティメンバーに加え、そこにアレスとグラント、おまけにウィリアムが加わった7人は、実技で使われている放課後に訓練用のスペースを学園から借り、集まっていた。


「これって、何の集まり?」


 結構な大所帯になったのと、珍しいメンバーではあったので、疑問に思ったらしいクリスが、いの一番にそう言った。


「あれ、言ってなかったっけ。これは、アレスを使った実k──んんっ、彼の強化の為の自主練だよ。模擬戦とかもすると思って、みんなに声をかけたんだ」


 2日前にアレスに持ちかけられてから幾つかの準備を終えて、知り合いに声を掛けたのだ。クリスとオリヴィアは、いつも何となく一緒だったせいで、説明した気になっていた。

 クリスとオリヴィアは納得いったらしく、頷いていた。


「で、どんな事をするんだい?」


 ウィリアムが興味深そうに催促してきたので、俺は頷いてから説明を始める。


「うん。授業では基礎体力を中心にやっているアレスには、基礎体力向上+模擬戦かな。相手は固定にしたくないから、みんなのローテーションでしたい。それと、他のみんなはそれぞれ何か伸ばしたいものを決めて貰って、模擬戦をして貰おうかなと。相手はこっちで用意するよ」

「相手? ここにいるメンバーじゃないのか?」


 グラントは不思議そうに呟き、俺はそれに肯定を示した。俺が指をぱちりと鳴らすと、学園の影から、数体の全身鎧が現れる。


「な……!?」

「全身鎧の形をした人形だから、全力で叩いて良いよ。ただ、木偶では無いから気を付けてね」


 全身鎧は、ゲームでなら初回殺しそうな凶悪な様子の鎧で、騎士っぽさはありつつも、黒い色合いと形状から禍禍しい雰囲気を出している。名前は『黒騎士さん』だ。剣や大剣、槍など、木製ながら様々な武器を持たせている。


「相変わらず変わった魔法を使うね……」


 ウィリアムが若干引き気味に言っているが、便利でしょ、と軽く流しておく。何か言いたそうだったが、こちらが説明する気がないと解ると、口を噤んだ。

 グラントは驚いてはいたが、全力で叩ける相手と解り、やる気に満ちているようだ。アレスは、それらを見て何をさせられるのか、戦々恐々としている。

 クリスとオリヴィアは、フィオナを交えて何を練習するのかを話あっているようだ。


「いい? じゃ、それぞれ始めようか。アレスは一回こっちに来てね」

「わ、わかった」

「こっちはどうすればいいんだ?」

「鎧に向かって、戦闘開始って言えば模擬戦を始めるようにしようか。ただ攻撃を受けたり守ったりして欲しいだけなら、受けに回るように言って。訓練終了の場合は、終了で」


 緊張気味のアレスに、笑顔で応対しながら、始めたくてうずうずしているグラントに答える。グラントはいきなり戦闘開始を宣言し、黒騎士さんの一体と戦い始める。それを見て、各自相手を選び模擬戦や、黒騎士さんに攻撃を受けさせたりし始める。

 黒騎士さんはそれぞれ《魔力接続》によって俺と繋がっており、それの操作をそれぞれ行っている。鎧からのフィードバックで情報量が多くかなり辛いが、俺の練習でもあるのでがんばって処理する。

 黒騎士さんは内部構造がマギア・ギアと同じなので、この模擬戦で得た情報は随時更新させて貰う予定だ。


「アレスはまずはこれね」


 そう言って、アレスに腕輪を手渡す。アレスは手渡された腕輪を何度かひっくり返したりして眺めた。


「これは?」

「今説明するからちょっとまって」


 俺も同じ腕輪を取り出し、自分の腕に装備する。


「よし、と同じように腕輪付けてもらえる? で、腕輪に魔力を流しながら、《装着》って宣言して」

「《装着》……? うわっ」


 突然、自分の首から下が光に包まれた事でアレスが驚きの声を上げる。光が収まると、全身が鎧に包まれていた。


「なん、うわ、重っ」


 突然の出来事に色々処理が追いつかないらしく、アレスが鎧に驚き、ついでその重さに驚いていた。


「アレスはこれを着ながら、まずは俺と模擬戦をしようか」

「こ、これを着て、か……!?」


 見た目パワードスーツに見える一風変わったこの全身鎧は、装備者の魔力を使用して装備者の動作方向とは逆方向に負荷を掛けてくる逆パワードスーツである。

 アレスも少し動いてそれに気づいたようで、これを着てまともに模擬戦ができるのか、と疑問を抱いた。


「そう。早く動こうとする必要はないかな。この重い鎧で、ゆっくり模擬戦をする。まずは慣れるまで魔法はなし。動作は、正確性を重視して。動きがゆっくりになるから、自分の動きは相手の動きをよく見て、先を読んで動くようにする。ここまではわかった?」

「な、なんとか」

「あ、あと、身体強化だけは積極的に使っていこう。この鎧は、重いだけじゃなくて装着者の動きを阻害する。それと、魔力についても阻害するから、これでどんな状態でも魔力を練れるように併せて訓練するから」

「そ、そこまで考えていたのか……わかった」


 アレスが感心してそう言ってくれるが、正直装備を準備するのに時間がかかったので、前世のうろ覚えな記憶から適当にそれっぽい事を言っているだけだったりする。

 装備の用意に関しては、魔術で物を収納できるようになり、更にその収納している物の情報を操作し、変更する新魔術《物質成形フォーミング》を開発し、素材を加工できるようになったので、かなり製作がはかどるようになった。

 イメージとしてはパソコン状で3Dデザインを作った後に3Dプリンターで製作するようなもので、これが無かったら1日で黒騎士さんを用意したり、この鎧を用意する事はできなかった。それに、自分の技術力不足や、この世界の加工技術が不足しているせいで出来なかった事が一挙に解決できたのは嬉しい。


「じゃ、早速模擬戦を始めようか」


 アレスは鎧のせいで動きづらそうにしながら頷いた。


「ほら、動きを読まないと一方的に攻め込まれるぞ!」


 俺はアレスに怒鳴りながら、木剣を振り回す。振る速度は大分ゆっくりで、軌道が良く解る分、アレスはそれを一つ一つ対応しようとして、後手に回り、数手目には完全に防ぐ事が出来ず、鎧の上から叩かれる、という事を繰り返していた。


「うぐ……」


 負荷がかかっているため、叩くといっても威力は出ない。しかし、タイミングと当てる箇所が良かったためか、アレスは俺の攻撃に、息を詰まらせてうめいた。


「自分の動きと相手の動きで、自分が動きやすいようにコントロールする

!」


 俺の助言を受け、アレスは半ばやけくそに前にでる。前に出ながら、自分の木剣で俺の木剣を払うが、それは俺が誘導した動きだ。払われた勢いのまま、半歩進みながら身体ごと回転させ、片手を木剣から離し、アレスに裏拳を見舞う。


「おごっ」

「あ、ごめん」


 今度もタイミング良く、鎧の無い頭にクリーンヒットしてしまい、アレスは呻いた。


「ちょっと休憩しよう。俺の方も集中力が切れてきた……お互い怪我するかも」

「わ、わかった」


 アレスも異論は無いようで、息を切らせながら頷く。

 休憩しながら周りを見てみると、みんな思い思いに黒騎士相手に試している。

 グラントはほとんど休憩を挟まず、黒騎士さん相手に模擬戦を続けている。やはり前回の迷宮探索では思うところがあったのだろう。気合いのノリが違うが、根を詰めすぎるのも問題だろうから、後でペースを落とすように言おう。

 ウィリアムは黒騎士さん相手に色々試すように短剣を振ったり、魔法を試したりしている。黒騎士さんは受けに回っており、ひたすら盾を使って攻撃を受けたり、足を使って捌いたりしている。普段回避ばかりしているので、こういう防御主体の動きは練習していないので色々はかどる。

 フィオナはいったん休憩中。先ほどまではグラントと同じように模擬戦を行っていた。フィオナはリーチの長い武器を使っていたので、黒騎士さん経由でリーチの長い武器に対する経験が積めて助かっている。その動きは槍を持つ黒騎士さんに反映しており、フィオナの相手にしている黒騎士さんは、回を重ねる毎に動きに切れをましていたりする。


「はぁ!」

「《12の剣》!」


 クリス、オリヴィアは気合いのノった声で黒騎士さを相手にしている。

 クリス、オリヴィアの相手は他のメンバーよりももう少しランクが高い。他の黒騎士さんは動きこそ制限していないが、魔術は使わない。二人が相手にしている黒騎士さんは、簡易魔導炉からの魔力供給によって、魔術も使うタイプで、クリスには遠距離攻撃を織り交ぜながら戦い、オリヴィア相手には積極的に前にでながら、魔術で場を攪乱するといういやらしい動きをさせている。

 二人が課題に感じている苦手距離を中心に動いており、二人は真面目に取り組んでいるようだ。


「みんなすごいな……」


 アレスはそんな他のメンバーを見て、ふとため息を付いた。


「アレスにもすぐ追いついてもらうよ? 出ないとこっちとして教えがいがないし」


 これは本音だ。訓練用の装備や黒騎士さんなど、データ収集的な導入が多いし、これからも増やす予定だが、仮にもアレスとは約束している訳だし、強くする、という目的は達成する。その第一目標はこのメンバーに付いてこられるようにする事だ。


「しかし……追いつけるだろうか……」


 迷宮での無力感からか、アレスはかなり落ち込んでいる。俺はそれを見て、何かいい手はないかと思い、口を開く。


「アレス、どうだろう。必殺技に興味はないか?」


お読みいただきありがとうございます。

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