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第44話「迷宮探索準備」


 学校側から用意された羊皮紙に参加、不参加の記入をするのに、俺たちは三日、時間を使っていた。これは、情報収集のためだった。

 何の情報もないなか、流石にいきなり潜れるとは思えず、まずは情報収集を行い、参加できるかどうかを判断しようと俺、クリス、オリヴィアの三人で決めていた。


 結論はもちろん、参加だ。ただし、事前準備をちゃんとする必要がある。


 今は、校内にある談話室で、事前に持ち寄った情報のすり合わせをするために、ミーティングを行っていた。


「じゃ、まずは情報を整理しようか。はい、オリヴィア、場所についての情報をお願い」

「はい。まずオリエンテーションが行われる迷宮は、王都付近の《第三の迷宮》だそうです。深度は約50層、36層までが攻略済みの比較的攻略が進んでいる迷宮だそうです。冒険者の方に聞いた所、低層はゴブリンなどばかりで初心者向けだと。それと、ギルドで30層までの地図と、魔物の情報が売っているそうです」


 これがそうです、と渡された出現する敵についての資料と、10層までの地図が、大きめの机に広げられる。俺とクリスはそれをそれぞれ受け取り、パラパラと羊皮紙をめくって眺めた。


「なんで30層まで?」


 俺も気になった点だったが、それより早くクリスが口を挟む。


「なんでも、30層以降で出てくる魔物が強いそうで、地図の制作や魔物の情報の精査が全体に公開できるほど進んでいないそうです。また、30層までの地図も、実力に応じて販売するそうなので、ランクによっては購入できない地図があります」

「へぇーそうなんだ」

「それにそもそも、低ランクだと10層以下への進むこともギルド側では禁止しているそうです」


 オリヴィアにそこまで説明されて、俺はふと気づいた事を口にする。


「でもそれって、勝手に入っても証明する手段ないよね?」

「らしいですね。ただ、低~中層ではギルド専属の冒険者の方がいるそうなので、そちらに見つかってバレたりすると、最悪ランクの剥奪もあるんだとか。それに、そもそも自分の命をチップにして、分の悪い11層以降の中層、深層なんて言われる所には入らないそうです」

「へぇー」

「それと、初心者冒険者の方からは、まずは10層突破を目安に頑張る、という事を小目標にしているそうなので、冒険者の方からは概ね好評らしいです。10層を突破できるかどうかで初心者か一人前かどうか判断するのだとか」

「そうなんだ。ふむふむ」


 色々と出てきた情報に、俺は頷く。概ね知りたい事は知ることが出来た気がする。


「クリスは補足したいこととか、質問したいことは他にある?」

「無いわね!」

「俺も特に無いかな。オリヴィア、ありがとう」


 はい! と元気に返事をして、満足そうな笑顔を浮かべるオリヴィア。ひとまず迷宮についてざっくりと解ったところで、それに向けて何を用意するかを話し合う事にする。


「じゃ、場所についてある程度解ったところで、目的の設定と、どんな準備をするかって事を決めておこうか」

「目的? 迷宮内で二泊三日でしょ?」 

「そうだね。ただ、それだと目的次第では準備不足になるかも」

「?」


 良く解ってなさそうなクリスと、怪訝そうなオリヴィアに頷きながら、先を説明する。


「えっと。迷宮内で二泊三日、その間のレポートって言われてるけど、全然中身指定されてないよね? これって、最悪一層の入り口付近で二泊三日過ごしても良いんだよ。この部分だけを見たら」

「えぇー……」

「それは……」


 がっかり、というか、そんなんで良いの? という様子の二人にもう少し説明する。


「まぁ、極端な例だし、たぶんそれだと評価低いだろうね。相当に。ただ、仮に一層で二泊三日過ごす、って決めた場合、荷物はどんなものにする? ……必要最低限な荷物で済みそうじゃない?」


 ここまで言って、二人は俺が言いたい事を何となく理解したようだった。


「そう。もし10層を隈無く探索しようとしたら、恐らくそれなりの荷物がいる。それは一層をだらだら過ごしている時の荷物とは比べものにならないだろうね」

「そう……かも?」


 クリスが首を傾げているが、これには別に正解がある訳ではないと思うので、クリスの疑問ももっともだと思う。ただ、なるべくパーティ内での意思統一はしておきたい。


「まぁ、慣れれば少ない荷物とかでいけるかも知れないけど。荷物を軽くしつつ、かつ万が一な出来事にも対応できるように不足が無いよう準備が必要だ。そのために、明確な目標設定が必要だと、俺は思ってる。その目標を基準に、荷物の過不足、ってのを出そうってこと」

「ふーん……じゃ、まずは目標を決めるのね。そうすると、10層までを目安にする?」


 クリスの疑問に、俺は頷く。


「で、いいかなって思ってるけど。11層以降は一応ギルドが禁止してるんでしょ?」

「はい、一応、私たちはのランクだと、20層までの許可がでる、っていうのは確認してきました」


 おお。オリヴィアの仕事が速くて助かる。それに、地元でのギルドランクがちゃんとこちらでも使えるっていうのが解っているのも助かる。


「や、さすがにその限度いっぱいまで潜るっていうのは怖い。ここは安全を確認するのと、迷宮に慣れるためにも、一番深いところは10層まで、って決めて置こう」


 初心者の壁が10層、というのは何か理由があるはずだ。いくらギルドのランク的にOKといっても、その辺りを確かめないままにその下に潜る勇気はなかった。


「目標は10層までの地図を自力で作成。それと、遭遇した魔物のレポートってとこかな」

「地図も敵の情報も、売ってるんでしょ?」

「まぁ、そうだけどね。ただ書いてないような事もあるかもしれないし、どこまで正確かってのを自分らの目で確かめるってのに意味があるかな? それに、そこを言っちゃうと、俺ら、たぶん迷宮でレポートする事無いよ……」

「そうね……」


 俺とクリスは頷きあい、オリヴィアが脱線しかかった話しを元に戻す。


「えっと、そうすると荷物は三日分の食料と、水。後は寝具とかでしょうか?」

「食料は一日分くらいは余分に持っておこうか。細かい装備だと、地図、ナイフ、ランタン、食器、ロープ、燃料とかかな」


 前世でアウトドアをした記憶を引っ張り出して、必要そうな荷物をピックアップする。

 ぱっと浮かんだものは他にももっとあるが、この世界にないものも多いため、ざっくりこの程度だ。テントなんかはこの世界のものは重くてかさばる上に、迷宮は屋根がないからといって困りはしないだろう。ほんとはコンロなんかもあると便利そうだ。作ってしまおうか……


「うぅ……重そうですね……」

「予備の武器とかもあるからね、当然、防具は装備してないといけないし。それに、レポートを作るなら、筆記用具がいるよ」


 オリヴィアがその装備の重さを想像し、顔を青ざめさせるが、まだあるんだという事を忘れないようにしてもらう。

 よくあるゲームなんかであれば、アイテムボックスなんていう超便利アイテムが出てくる所だが、そんな積載量制限を極限までなくして、かつ、かさばらないような便利なものは無い。ほんとに惜しい。


 他にも細かいものがないか、意見を出し合う。だいたいリストが固まったか、という所で、クリスがふと、思いついたようにいう。


「そうだアルド。あれは? 魔導甲冑で全部の荷物を持って、10層まで探索しちゃえば良いんじゃない? なんなら、20層まで一気にいけるかも!」

「あーそれね……」


 俺はクリスの言葉に、頬を掻きながら、事前に調べておいた事実を伝える。


「迷宮の入り口は高さ約2メートル、幅が3メートルくらいでさ。高さが四メートルはある魔導甲冑だと、そもそも入れないんだよね……」


 そう。それはかなり最初の段階で考えていた。特に指定されていないんだから、持ち込んでもいいんじゃね? と。剣と魔法のファンタジーを巨大ロボットで俺つえええ! してしまってもいいんじゃないかと。

 しかし、そんなに現実は甘くなかった。ロボットが大暴れできるようなスペースなんて無かったんだ……迷宮の下層では解らないけど。そもそも入れないんじゃ意味がない。コンテナで持って行く案も考えたが、現実的ではない上に、どこで組み立てるというのか。最悪、その大荷物のせいで探索中断、という予想があっさりとたった為に断念した。

 ほんとに、ロボットが入っちゃうようなアイテムボックスとか、空間収納的なものは何でないのか……


「そ、そうなんだ」


 遠い目をし出した俺に、哀れっぽい視線を向けたクリスは、その話題をやめ、次の話題に移る。


「……あ、そうだ。ねぇ、今更なんだけど、メンバーを一人、増やしても良いかなぁ?」

「え、うん良いんじゃないかな……えぇ!?」


 ここに来るまでに旅を経験していたし、このメンバーなら問題があっても何とかなる気はしていたが、メンバーが増えるなら話しは別だ。あまりリーダー面はしたくないが、このメンバーでは大抵リーダーとして行動しているので、俺の負担になる、というのもある。


「な、何よ、そんなに驚かなくても良いでしょ」

「あ、ごめん。ちょっとぼうっとしてたせいで結構驚いて。まぁ、構いはしないけど、誰を入れるのかっていうのと、理由を聞いてもいい?」

「うん。誰かっていうのは、フィオナを入れてあげたいなって」

「フィオナ?」


 俺は一瞬、素でそう聞き返す。すると、クリスが少し怒ったように眉をつり上げた。


「もう。一緒に訓練してるじゃない。狼獣人の女の子。……彼女、一人で探索するつもりだって言ってたから。最初はそういうのも有りかなって思ったんだけど、今日色々話してたら、やっぱり迷宮じゃ何が起こるか解らないし、仲間が必要かなって」


 ああ、彼女、狼の獣人だったのか。もうそんなに仲良くなったんだ。

 クリスの意見は解ったので、一緒に探索するオリヴィアの意見も聞くため、オリヴィアに問いかける。


「……オリヴィア、君は? メンバーが増える事についてはどう思う?」

「私は……構いません。もしその方が一人だというなら、入れてあげたいです」


 オリヴィアは問題ない、と。俺はクリスに向かって応える。


「正直、半分反対、半分賛成ってとこ」

「半分、っていうのは?」

「まぁ、個人的な部分もあるけど、まず第一にあるのは、加えるメンバーが女の子ってところ。男の場合でも問題が出そうだけど……クリス、オリヴィアとは付き合いが長いから、お互い何かあっても多少我慢が効くでしょ? でも、えっと、フィオナは付き合いが浅いから。何か不満が合っても男の俺に言いづらいかもしれないし、逆に俺も、彼女に対して言いづらいなって思ってる」

「あー……なるほど……」

「その辺のフォローを二人に頼む事になると思うけど、そこはいい? そこがクリアできるなら、俺は後は、フィオナ本人の意志確認して、OKなら良いよ」

「ほんと!? なら、フォローする! それに、フィオナにも嫌って言わせないから!」


 いやいや、そこはどうなの、と思ったが、オリヴィアも最大限フォローします、と協力を得られたので、クリスにフィオナの説得を任せる事にし、この場を解散した。


 その後、俺たちはフィオナを仲間に加え、迷宮探索の日まで何度かミーティングを行い、準備を進めた。

 

お読みいただきありがとうございます。


最近耳にしたのですが、ゴールデンウイーク、なる物が存在するそうです。

都市伝説のようなものでしょうか?黄金に輝く日々ってなんかすごいですよね。仕事に出て充実して輝くって、事が、ゴールデンウイークって事なんですかね……

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