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第35話「入学試験開始」

 上機嫌に前から話かけてくるマグナ学園長と、後ろから冷たい視線を送ってくる無言のライナスさんに挟まれながら、俺は校舎内を試験会場に向かって進んでいた。

 話しかけてくるマグナ学園長は、聞いてもいないのに色々と話してくれる。今は、試験内容について聞いているところだった。

 学園の試験内容は、幾つかに別れているらしい。


・魔法実技試験

・戦闘実技試験

・筆記試験


 の三項目らしく、これから向かうのは魔法実技の試験だとか。

 興味がない、と言えば嘘になる。この世界のまともな魔法なんて、教会でシスターが使っていた《灯火》を見たことがあるくらいで、それ以外は自分で開発した魔術のみ。

 また、魔術については、かつてアリシアが禁術だ、と言っていたが、それについては実感した事はない。なぜなら、一般人には魔法か魔術か、という区別は付かないらしく、使ったところで指摘されないからだ。

 また、迷宮のような危険と隣合わせの地域になると、魔法、魔術などと言い合うよりも、それが使えるか否か? という事の方が重要視されていた。でなければ、俺は早々に故郷を追い出されているだろうし、父や母、フェリックスさんの前で魔術を使用していて、魔術について指摘された事はない。

 まぁ、これが魔術だ、と宣言した事もないが……。

 見極められる人間が居ないのに、それを規制する理由も解らないし、何が地雷となるか解らない以上、学園で使われる魔法がどんなものか知れるのはありがたい。

 アリシアの情報は、100年は昔の事だと聞いていたが、その間に魔術の扱いが変わったのか、それとも何か別の理由があるのか、見極めないとならないだろう。

 この機会は、それらを調べるのに丁度良いのではないかと思っていた。


「ここが、魔法実技試験の会場じゃ」


 案内されるままに、校舎を離れ、外にある広場に出てきた。前世で言うなら、校庭のような場所だろうか。トラックが無いが、代わりに等間隔に案山子のような物が立たされており、その前には学生が並んでいる。

 その横で教師らしい人物が生徒の魔法を確認しており、羊皮紙に何か書き込んでいた。


「ほっほ。今期の新入生の様子はどうかのぉ」


 少し離れたところで、三人固まり、魔法試験の様子を眺める。俺は少し気になって周囲を見渡す。

 クリスとオリヴィアが、試験を受けている筈だ。あるいは別の会場か──そんな風に辺りを見回すと、オリヴィアの姿が目に入る。

 オリヴィアは、少し緊張した表情で、案山子を睨みつけていた。手に持つ杖を何度も掴んだり、離したりしており、彼女の緊張が伝わってくる。

もうすぐ順番も回ってくるようだ。

 オリヴィアはこちらに気づく様子はなく、何度も深呼吸をして落ち着こうと努力していた。「頑張れよ」と心の中で応援しつつ、他の生徒の魔法を観察する。

 何となく目に付いたのは、15、6歳に見える少年だ。凛々しい顔立ちをした金目金髪の少年で、立ち居振る舞いはどこか洗練されて見える。貴族か何かだろうか?

 少年は右手を案山子に向けると、短く、そして素早く詠唱する。


「風の精霊よ、切り裂け!」


 必要最小限までに絞られた詠唱に、俺は思わず、「おお」と唸る。《灯火》は長くて余分な詠唱が多かったが、今のは随分と短い。マグナ学園長もまた、「ほぉ」と呟き、興味深そうにしている反応を見ると、今のは中々早い部類らしい。

 威力の方も実践レベルで、魔力によって生まれた真空の刃が案山子を上下に分断した。切断面はここからでは遠いが、人の胴程もある案山子をあっさりと斬り飛ばしたところを見ると、鋭くない、という事はなさそうだ。

 魔法を放った少年は、上手くいったからか、安堵の息を吐く。教師が一言二言声をかけ、彼の試験は終わったらしい。

 その後も、試験は続き、魔法詠唱する声が会場に響き渡る。


「炎に宿りし苛烈なる者よ! 我が魔力を糧に、我が敵を打ち砕け!」

「水に宿りし優しき者よ! 我が魔力を糧に、我が敵に安寧なる死を!」

「風に宿りし移り気な君よ! 我が魔力を糧に我が願いを聞き届け賜え!」


 その後見れた魔法は、正直な所がっかりな内容であった。

 魔法を放った面々は満足そうにしていたり、周りも少し驚いているような者もいるが、込めた魔力に対しての効果が悪すぎる。最初の少年の倍は魔力を込めて、得られた効果がどれも案山子を強く揺らした程度。これならただ魔力を固めて投げた方が効率的だと思う。それに、優しき者に死を望むってどんな詠唱だ。自由過ぎる。

 しかし、周りを見るとこれが普通と言った実力なのだろう。もちろん、実践レベルでは無いにしろ、一般的なレベルが解るなら、今後魔術を隠していく場合に参考になる。

 そんな事を考えていると、オリヴィアの番が回ってきた。オリヴィアは案山子の前に立つと、目を瞑り、集中力を高めているようだった。

 オリヴィアは不意に目を見開くと、杖を構え、叫んだ。


「炎の使徒よ! 疾く在れ!」


 オリヴィアの放った魔法は、《炎弾》だ。

 拳大の炎の固まりが案山子に向かって高速で飛翔し、目標物に着弾と同時に圧縮されていた魔力と炎が爆発し、案山子を木っ端微塵に吹き飛ばす。

 オリヴィアとクリスとは、ここに来るまでに、魔術を極力使用しない事を約束している(クリスは魔術は苦手だったが)。

 そのため、今のようなダミー用の魔法を用意していた。

 魔術を使って目立ったりしない用に、と思って造り、3人で知恵を絞って、これくらいなら実用的かつ、魔法っぽいのじゃないだろうかと考えていたのだが……素人考えだったらしい。


(これは、目立ちすぎかも知れない……!)


 そもそも、魔法の一般レベルが解らなかったのだ。クリス、オリヴィアの2人は俺の魔術を基準にしているので、2人の方が一般的だろう、という考えには当てはまらなかった。その事実に、今更ながら気づく。


「ほっほっほ。今期は面白い子がいるようですな」

「そのようだな。特に最後の者は、随分と実戦を想定した魔法を覚えているようだの」


 マグナ学園長と、ライナスさんがそれぞれそう評価し、俺は冷や汗を流す。使ったのが魔法だったため、特に問題はないだろうが、これほど注目されると、今後はより注意して魔法を使わないといけないだろう。


「では、今度は戦闘実技試験を見てみるとするかの」

 

 マグナ学園長の言葉に、俺はオリヴィアが他の受験者に質問責めになっているのを後目に、戦闘実技試験を行っている会場に移動する。

 校舎の裏側に回ると、魔法試験会場のような広場があった。さっきと違うのは、足下に線が引かれ、四角く区切られている事と、その中で受講者たちが各々武器を持って打ち合っている所だろう。


「戦闘実技試験では、受講生がどの程度戦闘に慣れているかを見ている」


 そう呟いたのはライナスさんだ。相変わらず鋭い眼光で会場に素早く視線をなげている。


「学園では主に、ダンジョン内で生き残る術を教えておる。その中で戦闘力というのは、最も単純で、重要なモノの一つだ」


 もちろん、強いだけでは生き残れはせんがな。

 そう続けるライナスさんの言葉を聞きながら、俺も会場を見回す。目的の人物はすぐに見つけられた。クリスだ。もしかしたら筆記の方かも、と思っていたが、どうやら彼女は先にこちらに回されたらしい。

 彼女は体育座りで、少しつまらなそうに受講生の動きを目で追っている。試験が終わったなら、あんな顔もしていないだろうし、彼女もまだ試験が終わっていないようだ。

 試験内容は試合に似た模擬線のようだ。四角く区切られた枠内に2人受講生が呼び出され、その中で武器を振るっている。奇特なものは、走りながら詠唱し、魔法を何とか当てようと奮戦している。中々実戦的なようだ。しかし、気になる点がある。


「あれ、もしかして真剣ですか?」

「そうだ。加減できるかどうかも見ているからな」


 刃引きされているものを使ったりしているのかと思えば、見たとおり真剣、刃引きのされていない武器を使っての試験らしく、受講者の中には互いに腰が引けているものもいる。

 そしてそんな中で、特に目を引くものがあった。


「ばかな……リアル犬耳に、尻尾だと……!?」


 思わず二度見し、そんな事を呟いてしまう俺。あ、会場内の武器とか戦闘力とかは割とどうでもいいです。母や色々な冒険者を見てきているし、どのランクでどの程度の実力か、というのは肌感覚であるが、ある程度解る。

 ちなみにクリスに関しては、まったく心配していない。一緒に剣を振っただけあり実力はよく解っているし、そもそもオーガを単独撃破できるようなものは少なく、同年代、となるほぼ皆無といえる。


「知り合いかの?」

「え、いえ。耳と尻尾がもふもふで……」


 マグナ学園長に唐突に聞かれ、焦って余計な事を呟いた俺は、顔が熱くなるのを感じた。何言ってるんだ。


「ほっほ。獣人族を見るのは初めてかね?」

「はい」


 さっき、初めて残念なエルフをみたばかりですので、とはいえない。ちらりとライナスさんを見れば、何だと言わんばかりに睨まれ、すぐに視線をマグナ学園長に戻す。

 

「彼女のような者を獣人族と言ってな、獣のような特徴を持つ一族なんじゃよ」

「はぁ~」


 俺はマグナ学園長に、生返事を返した。

 エルフと同じように、前世ではアニメや漫画、ゲームなんかでは良く見るポピュラーな種族であった獣人だが、見た目が人とそう変わらないエルフと違って、獣人の方は中々インパクトがある。

 何せ、動いているのである。犬耳が。尻尾が。

 ぴょこぴょこと動く青みがかかった色の耳は、せわしなく動き、辺りを伺っている、尻尾を垂れさせ、少女の身なりには不釣り合いなほど大きなハルバードを掻き抱きながら試合に向かう。

 そして、その対戦相手は、黒いフードを被った人物だった。

遅くなってすみません。

感想返しがしたいのですが、現在時間が取れないため、次回更新時などに返答させていただければと思います

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