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第34話「入学・初めてのエルフ」 ※イラスト付き

 故郷を離れ、王都へと向かう二週間程の旅は、特筆するような事もなく順調で、竜車による移動は快適だった。草食竜の上から眺める風景は、実にのんびりとしている。

 この快適さに拍車をかけたのは、オリヴィアが連れてきた従者のおかげだ。オリヴィアは従者を連れるのを嫌がったのだが、貴族で従者も連れていないとなめられる事もあるらしく、フェリックスさんが最低でもと老執事と侍女を付けていた。

 この2人は、オリヴィアだけでなく、俺たちの分の食事や、野営時の不寝番を率先してくれたりと、本当に至れりつくせりだった。

 こういった経験を積みたいから、と無理を言ってお願いしなければ、それらの当番を変わって貰えない程の徹底ぶりで、こちらが逆に気を使ってしまう程だ。従者2人は今も、オリヴィアが乗る竜車の御者をしており、車に乗るオリヴィアは、やや不満げで暇そうに座って大人しくしている。

 かく言う俺も随分前から退屈で、周囲の警戒は《探査》の魔術に丸投げし、手元に展開したディスプレイで、魔術について思いついた事をメモしたり、前回の戦いを踏まえて、マギア・ギアの改良点などを書き連ねたりしていた。

 そんな感じで、残りの道中を消化していると、驚きの声があがった。


「あれが、王都……!」


 そう声をあげたのは、クリスだ。俺も、ぼうっとしていた意識を正面に向けると、巨大な人工物が目に入る。

 故郷の街よりも大きな壁に囲まれたその都市は、その偉容を以て俺たちを迎えようとしている。

 

「おお……すごい大きいな」


 俺も思わずそんな事を言ってしまう。

 前世の記憶から、高層建築物は見慣れていたが、あれはそう言ったものとはまったく違った。恐らく、迷宮から溢れる《氾濫》に備えてなのだろうその大きな壁は、良く見るとあちこち補強されたような後がある。傷だらけのその様子は、長く戦い抜いた歴戦の勇士のようにも見える。


「あそこに、これから通う学園があるんですね。楽しみです」


 窓から半身を乗り出し、そう呟いたオリヴィアの言葉に、俺は頷いていた。


 そこからは巨大な門を通り、御者台から降りた侍女が、門番に街に来た目的を告げ、フェリックスさんが書いた手紙を渡すと、あっさりと中に通される。

 普通はもっと時間がかかるらしいのだが、オリヴィアが貴族であったため、オリヴィアの付き添い、というような形ですんなりと許可がおりたらしい。

 馬車の中身をあらためられていた商人の横を通りながら、俺は自分の乗る草食竜のコンテナの中身があらためられなくてほんとに良かったと思った。

 向こうに置いていけないと、マギア・ギアをコンテナに積んで持ってきていたが、中身を門番に聞かれていたら、なんて答えればいいのか解らない。フェリックスさんに感謝だ。俺は気づけていなかったが、何か手を回してくれていたのだろう。でなければ、あそこまで簡単に通れる筈もない。

 

 その後は、宿を取り、倉庫を買いとり、荷物をそこに置いた。

 学校にマギア・ギアを置くような場所を期待できないし、それを証明するかのように、学園では寮生活になると聞いている。貴族でもない自分が、そんな大きな場所を占有する事はできないだろう。


「自分の研究室とか、欲しいな」


 三頭飢狼での報酬もある、どこか良さそうなところを探して置こう、そうメモを取り、ひとまず学園生活に必要なもの以外を倉庫にしまい、防犯のために幾つか魔術を施して倉庫を後にする。


 それから三日後、俺、クリス、オリヴィアの三人は、学園へと向かっていた。

 三日も期間を後ろにずらしたのは、クリス、オリヴィアの入学試験日を待っていたためだった。

 入学試験は四半期に一度、定期的に行われているらしく、その試験日が近かったため、そこに合わせたのだ。

 入試がそんなに多いのは、どうやら学校に入ってもすぐに辞めていく人間が多く常に一定数の学生を確保しておくためらしい。すぐ辞める人間は、必要な技能を手にしたら辞めるもの、貴族などに引き抜かれるもの、授業に付いてこれなくなって辞めていくもの、など様々らしい。

 そのため、6年全ての単位をとって卒業する人間は以外と少ないんだとか。侍女さんが旅の途中で色々と教えてくれた。

 また、魔法や、武術といったものを教えているので、技能が目的で入学する人間は、比較的年齢が高かったりする。

 今まさに、試験を受けるらしい子供に混じって、明らかに教師ではなさそうな旅装をした壮年の男性が、門に設置された受付から試験表らしきものを受け取っていた。


 俺たちも、校舎に入るべく、門に向かう。

 校舎を目にした俺の感想は、一言で言えば普通だ。煉瓦が使われ、洋風な建築な為か、見た目は一見、大きな館のような三階立ての校舎。

 しかし、学校、という分類の建物のせいか、初めてみたはずなのに、どこか見慣れたような錯覚を覚える建物で、インパクトがない。そのため、これをすごい! とか、流石異世界! という気分になれないでいた。


「ここが学園? 教会とは造りが違うんだね」

「そうですね。建物も随分大きいみたいです」


 それでも、クリス、オリヴィアにとっては十分もの珍しいらしく、さっきからきょろきょろと辺りを見回しては2人で話している。


「ほら、2人とも、良いの? のんびりしてると試験始まっちゃうんじゃない?」

「あ! う、うん。解ってる」

「大変、急がないと……」


 浮ついた様子の2人に声をかけると、試験の事を忘れていたらしく、2人とも慌て始める。2人は試験表を受け取り、俺は、王様の手紙を提出すると、受付の人間は、一瞬固まり、震える手で俺に手紙を返しながら、試験会場とは別のところに向かうように指示を受ける。

 試験表事に会場が違うようで、クリスとオリヴィアは、慌てて会場の位置を確認している。


「大丈夫か、本当に……」

「も、もちろん! 試験なんて余裕で合格してみせるから!」

「これでも、父やシスターからも勉強はできるとお墨付きを貰ってますし、大きなミスをしなければ、私もクリスさんも合格できますよ。たぶん」


 た、たぶんって……その大きなミスをしないかって心配なんだが。俺は、最後の一言は聞かなかった事にした。ここで何を言っても、試験は目前。なるようにしかならないだろう。


「なら、ちゃんと合格してくれよ? ここまで付き合って貰って、一人で入学、とか寂しいから。先に行ってまってる」

「うん! 絶対追いつくから!」

「私も、必ず合格して付いて行きます」


 そう言って、俺たちは別れて、それぞれの会場に向かった。


 指示された通りに校舎を進んでいくと、教師らしい女性とすれ違う。


「君、ここは試験会場ではないわ。すぐに会場の方に向かわないと、試験が始まってしまうわよ?」

「あ、すみません。受付でこれを見せたら、俺はこっちだって言われて来たんですが……」

「受付が? そんな筈は……」


 俺はそういって、王様からの手紙を教師に手渡す。渡された教師はその紙を見て、目を見開いて一瞬固まる。

 そんな反応ばっかりされると、その紙をもって、こう、「ひかえおろう!」 とか言ってみたくなる。そんな効力はこれっぽっちも無いのだけれど。


「そう。あなたが……解ったわ。ごめんなさい。確かにあなたはこっちであっているわね。ここからすぐ先に学長室と書かれた部屋があるから、そっちに向かって貰えるかしら……案内したいけれど、これから試験があるから。私はこれで」

「解りました。ご丁寧にありがとうございます」


 手紙を返されながらお礼を言うと、また驚かれる。何でそんなに驚かれるんだ。そう思いながらも、教師と別れ、言われた通りに進み、学長室へ。

 何気なく開けようとして、それは流石に失礼か、と思い立つ。そして、学長室、といえば教師であり、この学校で一番偉い人だと思い至り、自分の服装を整えてから、分厚い木の扉を2回、ノックした。


「……お入りなさい」

「失礼します!」


 なるべくはっきりとそう告げ、少しばかり緊張して扉をあける。扉をあけると、そこには人が2人いた。

 一人は、学園長だろう。質素だが、しっかりとしていそうな造りの執務机に手をおき、椅子に腰掛けている老人立派な長い髭を生やしている。歳は……80くらい、だろうか。

 もう一人は、なんだろうか。武人、というのは人目で解る。しかし、相対するとそれだけでは言い表せない。何というか、巨木に似た壮大さを感じるのだ。

 見た目は、60代くらいの老人で、顔には大きな傷が走っている。良く見れば、両耳も千切られたように先が欠けており、歪つだった。

 この老人は、眼孔が鋭く、こちらを射るように見据えており、顔の傷なども相まって、その鋭い眼光が3割増しに感じる。

 身体も、がっしりとした体つきをしていて、その立ち姿に一分の隙も見いだせない。いや、そんな隙を見いだす必要はないのだが、今にも斬りかかられそうな威圧を感じ、思わずそんな事を考えてしまう。

 俺は失礼が無いように、出来るだけ自然に、そして威圧に萎縮してしまわないように、自身に活を入れて、魔力を体内に満たす。


「おや、君は……?」


 学園長が、不思議そうに目を細める。俺は、王様からの手紙を取り出し、執務机の上に置いた。


「私は、この度王より推薦を受けこの学園に入学する事になりました、アルドと申します。この度、学園長にご挨拶を申し上げに参りました」


 目上の方なので、なるべく丁寧を心がけて一礼する。普段使わない言葉使いだし、間違っていないか非常に不安だ。間違っていても、引っ込める事はできないので、もうなるようになれ、という気分である。


「ほっほ。丁寧にありがとう。儂が学園長をしているマグナというものじゃ。こちらの横にいる方が、武術指南をしているライナス殿という。……そうかそうか。君が王からの推薦の子であったか。話には聞いているよ」

「あ、はい。その、何というか、恐縮です」


 マグナ学園長が、そう言って自分の髭をゆっくりと撫でる。俺は挨拶に、と言ったが、この後はどうすればいいのか良く解らなかった。曖昧に答えてしまって背筋が凍る。そもそも、何を話に聞いているのか。気になる。

 ライナスと紹介された人物は、思った通り武人といって言い人物で、だまったまま彫像のように立っている。

 圧迫面接の方だまだマシだ、俺も試験会場に行きたい。この時俺はそう思った。

 その間にも、マグナ学園長は羊皮紙を取り出し、俺の方にペンと一緒に差し出した。


「これは……?」

「うむ。良く読んで、そこに名前を記入してくれんかね?」


 その羊皮紙は、入学に関する書類らしく、要項が細かく書かれている。俺はざっくりと目を通し、特に問題無いことを確認すると、名前を書き入れた。

 マグナ学園長はそれを受け取り、満足そうに一つ頷く。


「うむうむ。これで、君は晴れて学園の一員だ」

「ありがとうございます。これからよろしくお願いします」


 言うべき事が見つからなかったので、とりあえず感謝しておく。この時ばかりは、感謝という言葉が実に応用性のある言葉だと感じずにはいられなかった。

 そして、すかさず逃げの一手。

 

「では、これで……」

「ああ、どうだね。せっかくだから試験の見学をしていっては」


 しかし、まわり込まれてしまった!

 そんな言葉が、俺の頭でリフレインした。後は失礼しますといって勢いよく頭をさげて部屋を退散して終わりだった筈なのに、一瞬にしてその目論見は消え去ってしまう。


「え? は、はい。是非見学させてください」


 あぁ、前世の日本人のさがだろうか。思わずそう口をついてしまってから、後悔する。正直なところ、何の用もないなら、さっさとこの場から退散してしまいたい。

 いや、まだこのライナスさんという人に睨まれていなければ、随分楽な筈だ……!


「どうですか? ライナス殿もご一緒に」

「……そうだな。新入生の実力も見てみたい。一緒に行こう」


 まさかの追撃、だと!? 俺はマグナ学園長に避難の視線も送る事ができず、ただ固唾を飲んで成り行きを見守るしかなかった。


「では、行くとしようか」


 マグナ学園長はゆっくりと立ち上がり、俺の横を通りすぎようとする。


「お? おっとと」

「うわ!? だ、大丈夫ですか学園長」


 しかし、マグナ学園長は足がもつれてしまったのか、急によろけ、俺は慌てて身体を支える。


「すまんのう。いやいや、最近急に立ち上がると立ちくらみがしていかん」


 マジですか。ほんと気をつけてください。そう思っていると、これまで黙っていたライナスさんが口を開いた。


「まだ若いのだ、情けない事を言うでないわ、マグナよ」

「ほっほ。ライナス殿のような、エルフ種の方と比べれば、儂もまだまだ若造でしょうが、人間ではそろそろもう良い歳ですでな」


 なん……だと。

 今、マグナ学園長は、さらっと大事な事を言わなかったか? エルフってエルフ? あの、ゲームとかで有名な。男性女性とも見目麗しく、いつまでも若作りで長命、ついでに華奢で、ステータス的には筋力よりも魔力が成長しやすいイメージの。

 そんなエルフのイメージが、がらがらと崩れていくのを感じる。

 そう言えば、この場ではてっきり学園長が最年長かと思っていたが、ライナスさんは学園長に敬語を使っておらず、逆にライナスさんは馴れ馴れしく話していた。武人で礼儀の面で目を瞑られているのかとか失礼な事を考えていたが、違ったらしい。


「さ、時間も惜しい。試験を見学しにいこうかの」


 衝撃を受けてる時間は、あまりなく、俺はマグナ学園長の言葉に機械的に頷いた。

 マグナ学園長の後ろに付き、その後ろにライナスさんが続くスタイルで、試験会場に向かう。

 俺は密かに、早く解放されたい、とため息を付いてマグナ学園長の後に続いた。

遅くなってしまいすみません。

34話になります。


余談ですが、ついにロボットの画像をいただきました!

イラストレーター様、ありがとうございますー!


▼パイルバンカー付き

挿絵(By みてみん)


▼武装なし

挿絵(By みてみん)


な、なんかロボットの描写が貧弱な気がする…!

イラストに負けないように、本文も頑張って書きたいと思います!

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