第30話「三頭飢狼・遭遇」
今回は大増量8000文字オーバーでお送りしております
編成された討伐隊は行程の半分程まできていた。
現在は開けた場所で休憩を取っているところで、ここでいったん休息を取った後は、残りの行程を消化していくらしい。
俺とクリス、オリヴィアも休憩のために率いていた竜を休ませ、近くに座り、水で喉を潤す。
「迷宮地区まで半分ってところか。二人とも疲れてない?」
普段の体力から言って、行くだけならどうって事無い距離ではあったが、今回は強敵が待っている、という事もあって俺も含め、少なからず緊張を強いられている。着いたは良いけど力尽きていた……では笑えない。
「うん。大丈夫。腕も、籠手を使って固定してるし……邪魔にならない程度には動けそう」
「ええ。私は大丈夫です。アルドさんは平気ですか?」
クリスとオリヴィアの返事を聞いて、俺の方は大丈夫、と答えつつも、二人の返答をどこまで信じていいのか迷っていた。
特に、怪我を押してでもついて来たい、と言ってくるほど力が入っているクリスは心配だった。あのまま置いて来て、勝手についてきたりしたら困る……という考えもあって、目の届く範囲に置くために連れて来ていたが……やっぱり失敗だったか?
それを言ったら、三人で残るべきだったろう。と頭を振って思考を放棄する。
「……さん、アルドさん、大丈夫ですか?」
「うわっ! ご、ごめん。大丈夫だから。考え事してただけ」
いつの間にか、オリヴィアの顔が目の前にあって俺は驚く。考えに集中していたせいでオリヴィアの呼び声に気づかなかったようだ。俺は適当に誤魔化しながら立ち上がる。
「えっと、それで? 何かあったのか?」
「ええ。何か向こうが慌ただしいようで……」
オリヴィアが示した方を見れば、確かに兵が慌ただしくしているのが見える。そんな兵をかき分け、オリヴィアの父、フェリックスさんが現れる。
「誰か、代表はいるか?」
「代表って訳じゃないがね……あたしらでよければ話を聞きますよ」
フェリックスさんの呼びかけに、近くにいたガラベラが声をあげる。兵はフェリックスさんが率いる事になっているが、冒険者の方には特にいない。下手に決めようとすると誰が率いるのか? という事に揉めるので、時間も無いこともあって、大まかな指示をフェリックスさんから貰った後は、各自で動く事になっている。
「ふむ……確か君は、《鷹の目》の……」
「リーダーをやってるガラベラってもんです。貴族様」
他の冒険者も、ガラベラが話を聞くのに文句は無いようで、聞き耳を立てながら黙っている。……地味に有名だったんだなぁ、なんて思いながら、俺も話を盗み聞いた。
「時間も無いから手短に行こう……今回の討伐対象を見失った」
「まどろっこしくなくて良い……ですが、それはちょっと手短すぎませんかね?」
「もちろん詳しく話そう。今回の討伐に当たって、昨日の時点で、見張りを何人か向かわせていた。その者から連絡があった。目標を見失った……とね」
「……失礼覚悟で言いますけど、見張りも満足にできないような奴を向かわせたんですかい?」
ガラベラがそんな事を言う。かすかに怒りをにじませていた。フェリックスさんもその怒りを予想していたのか、首を振って答えた。
「十名程度とはいえ、すぐに動かせる中で最善を選んだつもりだ。人員の中には、現役を離れていたとはいえ《無音》に《狂剣姫》も居た」
「……本当、ですかい? というか、それが本当ならその二人が見張るだけだった、と?」
ガラベラが驚いているが、フェリックスさんが言うその二人はそんなにスゴいんだろうか。
その、なんというか厨ニっぽい二つ名がついてるんだが。いや、そういえば、高名な冒険者や功績を残した冒険者には二つ名がついている事が多いらしいし、きっと強いのだろう。
周りを見れば、冒険者も動揺しているものがちらほら見える。
「そうだ。倒せるようなら、と依頼していたが、できて足止めがせいぜい、援軍を用意されたし、と連絡を受け、朝から準備していた。そして、
見張りを立て、常に位置を把握していたのだが……どうやら、相手は一流の冒険者たちの囲いを突破、その後は見つかっていない」
「……」
緊張が高まり、誰もが声を発せずにいる中、フェリックスさんは淡々と述べていく。
「我々は方針を変えずにこのまま迷宮に向かう。その場で目標が見つかれば戦闘を行い、見つからない場合は迷宮付近に拠点を作り、捜索を行う。君たちにもそう覚悟してもらいたい。伝言を頼めるかね?」
「……解りました」
フェリックスさんは会話を打ち切ったあと、こちらをちらりと見たが、声をかけたりはせず、兵の方へと戻っていた。たぶん、オリヴィアの事が心配なのだろうが……立場のせいか、それらしいそぶりも見せなかった。
オリヴィアをちらりと見ると、視線に気づいた彼女が、笑顔を見せながら言った。
「大丈夫ですよ。父には、私のできることをします、と伝えてありますから」
簡単に言ってくれるが、随分覚悟の籠もった目をしていて、俺の方が覚悟が足りないんじゃないかと思える。
「わかった。二人の力には期待してる。俺たちは俺たちのできることをやって、三人で生きて戻ろう」
「はい!」「うん!」
精神的には休めたと言いづらい休息の後、討伐隊は当面の目標である迷宮へ向かう。
迷宮は森の奥にあるそうで、そろそろ森に差し掛かる……という所で、数人の冒険者らしき人達が見える。あれが恐らく、見張りをしていた冒険者たちなのだろう。
「あれ」
その数人の中に二人ほど見知った人がいる。というより、朝まで一緒だったというべきか。
「と、父さん!? 母さんまで! なんでここに!?」
最後尾近くの俺たちの所まで下がってきた見張り役の冒険者たちの中には、父と母の姿がある。俺は驚きながら、二人に話しかけた。
「あら。自分の子供が頑張っているのに、親が家でのんびりしている訳にはいかないでしょう?」
「ほんとは、お前たちが追いつく前にカタを付けたかったんだけどね……」
母が胸を張って答え、父が頬を掻きながら気まずそうにそう付け加えた。そんな二人は目立った怪我はないようだったが、ぼろぼろの様子で、程度の差もあるが、他の者も同じような状態だった。
「それ……」
俺が指摘しようとすると、母さんは顔をしかめた。
「ああ、これね。大丈夫。怪我する程の戦闘じゃなかったから……というより、この人数じゃ戦闘なんてごめんね。逃げ回るのがせいぜいってところ」
母さんの言葉に、少しほっとする。しかし、実力をよく知る母さんが逃げ回るのがせいぜい、と評価する討伐目標に、背筋が寒くなる。
その考えに恐怖を覚える前に、俺は話題を逸らそうと、父さんにも声をかけた。
「あれ、でも母さんがそんな風に言う相手に、よく父さんも着いて行こうと思ったね」
そんな事を言うと、父さんは顔をしかめて
「そんな風に思われてたのか……これでも、現役を離れたとはいえ、迷宮を一人で切り抜けてきた冒険者なんだよ」
なんて言ってきた。初耳である。驚いてなんと返答して良いか悩んでいると、母さんが昔を懐かしむように呟く。
「昔から、魔物の背後をとって一撃! っていうのがあなたの得意技だもんね……妻としては、夫にはもっと正面から、男らしく戦って欲しいんだけど」
「一人でそんなリスクを負っては戦えないよ……それに、夫としては、妻には昔みたいに無茶したりしないで、控えめに戦って欲しいんだけど」
そんな言い合いをしている二人を見ながら、俺は固まっていた。
するとなんだ、もしかしてフェリックスさんが言っていた腕利きの冒険者っていうのは……
「えっと、母さんは元冒険者だって知ってたけど、父さんも? ……もしかして、フェリックスさんが言っていた腕利きの冒険者で《無音》と《狂剣姫》って……」
「あら、恥ずかしい。そんな風に呼ばれていた事もあったわね」
「臆病者って言われているみたいで、あんまり好きじゃないんだけどね……否定もできないけど」
……ってやっぱりそうなのか!
しかし、そうなると討伐目標との彼我の戦力がかなり見えてくる。
まず、一対一の戦闘では勝てないだろう。
いったい、どんな相手なのか。
考え無いようにしていた、相手の戦力に対する恐怖が沸き起こる。腕利き冒険者たちをあっさりと全滅させ、はっきりとその実力を知る母さんが、逃げの一手を選択するような魔物。
無事に、戻れるだろうか。そんな思いが過ぎる。
準備はしてきた。しかし、それには不備は無いだろうか。
「くそ、今更……」
身体が震えていた。考えないようにしていた。でないと、怖くて動けなくなるのが解っていたから。相手の脅威。正確に計ってしまえば、立ち向かう勇気が萎えてしまうのは、解っていた。戦闘経験があったとしても、死が怖くない訳じゃない。
だから、考えないようにしていた。気づかない振りをしていた。
「怖い事なんてないわ」
「あ……」
気づけば、ふわり、と柔らかく包み込まれていた。
「あの時も側で守ってあげられなかったからね……でも、今度はそうは行かないわよ」
あの時、といのは、前回経験した氾濫の事だ。母さんは街の外で、こちらに向かう大量の魔物を倒していた、と後から聞いた。父さんも恐らく、そうだったのだろう。側に居てやれなくてごめん、と謝られたのを覚えている。
「……何をそんなに思い詰めているのか解らないけど。こういうのは大人の仕事だ。そんな無理をしてまで、子供が戦いに立つ必要はないんだよ」
母さんの胸に抱かれながら、父さんに頭を撫でられた俺は、安堵感に一瞬惚けたあと、急に恥ずかしさがこみ上げてくる。
「か、母さん、父さん! そんな子供じゃないってば!」
俺は母さんから離れる。周りが生暖かい視線を送っているのが解る。頬が紅くなるのを感じる。
「ふふん? そうかしら。あなた達は後方で、のんびりしていれば良いわ。後は私たち大人がカタをつけるから」
「そうだぞ。大船に乗ったつもりでゆっくりしてるといい」
「そっちこそ、俺たちに守られるようなヘマするなよ!」
二人に口々にそんな事を言われ、俺は恥ずかしさも相まって、負け惜しみみたいに言い返す。
ふと、母さんが真剣な目をして、両手を俺の肩に置いた。
「良い? 戦闘に入って、危険だと思ったら、二人を連れて迷わず逃げなさい。あなたは強いわ。普通の冒険者よりも。でもね、無理して戦う事はないの。あなた達は未来ある子供で、私たちは、あなたたちを守る義務がある」
後方でのんびり、なんて二人は言っているが、戦場に居る以上、そうは言っていられない、そう母さんたちは考えているんだろう。
あまりに真剣な表情に、俺も戦う、とは言い切れなかった。俺は頷きだけ返しすと、母さんはわしわしと俺の頭を撫でてきた。
「言っても聞かないって顔してるわね。嫌いではないけど、死んではだめよ? それだけは守りなさい」
「……わかった」
すっかり見通されていることに、敗北感を覚えながら、今度はしっかり返事をする。母さんは「よろしい」というと俺から離れた。
「じゃ、父さんと母さんはフィリックス伯と話を詰めてくるから」
最後にそういって、母さんと父さんはフェリックスさんがいる隊の前の方へと向かった。
俺もそれを見送ってから後方に戻った。
いつの間にか、恐怖は薄れ、身体の震えは収まっていた。
◇◆◇◆◇◆
討伐隊は、森へと入り、舗装もなされていない、獣道を二列縦隊で進んで行く。木々に狭められ、うねるこの道を進むと、奥には迷宮がある。
竜車を率いているため、最後尾を行く俺たちは、その長い列を見ながら進む。俺の後ろには、オリヴィア、クリスと続いていた。
先を行く冒険者たちは、無言だった。ぴりぴりしている空気を纏い、辺りを警戒している。かく言う俺も、《探査》の魔術を使って辺りの情報を収集しているが、自分を中心に半径100メートル程は動的なものがいっさい検知されない。これは異常だった。
前回、双頭黒狼に襲われた時も、同じような状況だった事を思い出す。魔物はおろか、動物の気配さえなくなったこの状況は、恐らく今回の討伐目標によってもたらされたものだろう。すでに喰い尽くされたか、居きるためにこの森から逃げ出したか。
その不自然な静けさが、このぴりぴりした空気に拍車をかけていた。
「もうすぐ、迷宮か……」
ここまで何もなかった事と、常時展開している《探査》魔術に何もひっかからない事から、俺は集中力を欠き始めていた。
少し思考を切り替えよう、そう思い、惰性で使用していた《探査》魔術の探索範囲を広げてみる。
本当に、ただの気まぐれだった。しかし、その気まぐれが生死を分けた。
「──敵が、来るぞ!!」
ほとんど反射的にそう叫び、同時に魔術の起動準備を終える。
「《12の盾》!」
とっさに発動させたのは、自分が使用できる中で最大の防御力を誇る魔術。それを、俺自身ではなく、オリヴィアに向かって発動する。
12枚の魔力の盾が連なり、オリヴィアの側面に展開されきるか否か、突如として現れた、巨大な黒い物体にオリヴィアは竜車ごと弾かれる。
「オリヴィア!」
盾が間に挟まれて居たとはいえ、その衝撃はすさまじく一度に6枚の盾が破壊され、2枚にヒビが入る。衝撃を受けたオリヴィアは宙を舞い、地面に叩きつけれられる瞬間に、駆け寄った俺が、滑り込んで受け止める。
「大丈夫か!?」
「は、はい……」
オリヴィアは突然の事に震えていた。何とか立たせると、俺は襲ってきた相手をようやく視界に収めた。
闇夜を映すような漆黒の、艶のある体毛に覆われた巨躯。その大きさは、見上げなければならない程で、見上げた先には、だらだらと涎を垂らす三つの狼の頭が存在していた。頭一つに、古傷のようなものが見えた気がしたが、気にする余裕がなかった。三頭飢狼が内包した魔力が、肌を刺すように刺激してきており、自分の理性を保つのに精一杯だったからだ
《三頭飢狼》
前世なら、おとぎ話にしか出ないような危険な魔物が、圧倒的な存在感と、恐怖をまき散らしながら存在していた。
事態に気づいた冒険者たちも、動揺しながらも、素早く自分が動きやすい位置を求め、獣道をはずれ、森に入る。
「クリィス! 竜車はコンテナごと破棄! すぐに逃げるぞ!」
俺は、恐怖に耐えかねたように叫んだ。これは、だめだ。まともにぶつかってでは勝てない。
そんな俺を無視し、三頭飢狼はオリヴィアが率いていた竜に近づき、頭の一つが、牙を突き立て食事を始める。その眼中の無さに、怒りを覚える暇もなく、俺は魔術を紡いだ。
「《剣技解放》!」
即座に練れる最大魔力、最大攻撃。魔力が無数の斬撃と化し、三頭飢狼に襲いかかる。
「グルォッ!」
三頭飢狼はそれを、二つの頭と牙で迎撃しつくした。
「くそっ……オリヴィア、クリスを連れて逃げろ! 俺はこいつの気を逸らしながら、逃げる隙を伺う!」
オリヴィアが何かを言う前に俺は走りだし、魔力剣を作り出して周囲に展開する。三頭飢狼に数本飛ばしてやると、突き刺さりはしたが、大した傷を与えた様子はない。その機に乗じて、何人かの冒険者も武器を使って襲いかかるが、傷を付ける事はなかった。
しかし、鬱陶しかったのか、食事を止め、頭が一つ、俺の動きを伺う。他の二つの頭も、周囲を伺うようにぐるりと巡られる。側にいた冒険者たちは、長い尾を一振りされただけで、埃を払うように薙払われた。
そして、頭の一つが、クリスの姿を捉えた所で三頭飢狼に変化があった。三つの頭がクリスを捉える。
「グォォォォォオ!」
そして、大きな咆哮をあげ、クリスに向かって駆けだした。道中にいた冒険者など目にくれず、邪魔する木々は弾き飛ばし、クリスに向かう。
「クリス!」
何故──そんな疑問を口にする余裕はない。クリスも駆けだし、三頭飢狼を躱すと、俺に向かって叫んだ。
「アルド! こいつは……こいつは、私が引きつける!」
「何言ってるんだ!? 早く逃げろ!」
しかし、クリスは俺の言うことを聞かず、森の奥へと駆けだしてしまう。三頭飢狼も、狂ったようにクリスを追いかけ、森の奥へと消えた。
「くそっ!」
俺は、混乱する頭を振って、打開策を考え始める。
◇◆◇◆◇◆
三頭飢狼と目があった時、私は、すぐにこいつがあの時、私に怪我を負わせた双頭黒狼だと気が付いた。
大きさも違ったし、姿形も違った。でも、理屈じゃなかった。ただ何となくそんな気がして、頭の一つに、古傷のように存在する、傷跡を見つけた時にそれは確信に変わった。
そして、それを証明するように三頭飢狼は他に目をくれず、私だけを追っきている。怒りと憎悪を向けながら。
その視線を感じた時、私が、みんなの逃げる時間を稼ぐのが適任だと、そう思った。それに時間があれば、きっと、アルドが打開策を見つけてくれる。そう信じて。
「は、はっ、はっ、くぅ……」
魔力で強化した脚で地を蹴ると、衝撃が左腕に響き、痛みを発する。私は、左腕に魔力を流し込んで補強し、痛みに歯をくいしばりながら走り続けた。背後からは、三頭飢狼が追ってきており、時折、鋭い爪を振り下ろし、私を叩き潰そうとしてくる。しかし、簡単に殺す気がないのか、狙いは甘く、私は何度も危うい目にあいながら、闇雲に森を走った。
時に木を蹴って飛び方向転換し、三頭飢狼の攻撃を危うい所ですり抜け、逃げ切る隙を伺う。
ただ逃げきれるとは、私自身思っていなかった。アルドやオリヴィアのように、魔法や魔術で離れた所から攻撃できるなら、攻撃を行いながら逃げられたかもしれないが、アルドの攻撃で無傷だったのを見て、私は諦めた。
だから、一撃に賭ける。自分の持てる最高の一撃で相手を怯ませ、ここから逃げ出す。そのために、走りながらも魔力を練り続け、鞘に収まった刀に溜め続けていた。
「あ、あと、少し……!」
息が切れ始め、もう逃げるのも限界が来ていた、次に追いつかれた時が勝負。そう、決めた。
「グルル……」
三頭飢狼は追いかけっこに飽きたのか、正面に回り込む。方向を変え、避けようとすれば、狼は尾を振って木を倒し、私の逃げ道を塞いだ。
もう、ここしかない。私は、覚悟を決めた。
「グオオオオオ!」
狼の咆哮に合わせ、私は地を蹴って跳躍、その勢いのままに刀を振るう。
「《轟一閃》──!」
練りに練った魔力が鞘にヒビを入れながら、刀を押し出す。刀が鞘を離れたとたん、鞘は砕け散り、散った鞘が尾を引きながら、銀弧を描いた。
これまでで間違いなく最速の一撃。しかし、三頭飢狼はそれを、難なく口の一つでくわえ込んだ。
「な、……きゃあ!」
鍔近くまでくわえられた刀ごと、三頭飢狼は頭を振り回す、その衝撃で手を離した私は、勢いよく地面に叩きつけられ、地面を転がり、さっき倒された木にぶつかってようやく止まる。
「あ、くあ……」
痛みに、声一つだせず、涙で霞む視界で三頭飢狼を見上げる。おれていた左手はほとんど感覚が無く、叩きつけられた身体が痛みを発し、呼吸一つまともにできない。
「グルル……」
ずしん、ずしん、と音を立て、三頭飢狼は身動きできずにいる私に近づいてくる。その一歩一歩に、私は恐怖を感じた。視界があふれる涙で歪んでいく。
「ごめんなさい……アルド」
我儘で付いてきて、勝手な事をして、目の前で謝る事もできなくて。悔しくて、無力で、最後に彼の顔を見たくて、どうしようもなく涙がでてくる。
「グオォォオオオ!」
三頭飢狼は咆哮すると、三つの頭全てで、私に襲いかかってきた。
私は、恐怖に負け、目を閉じる。
『させるかぁっ!』
自分の身体が引き裂かれるのを覚悟したその時、聞き慣れた声が聞こえてきた。何度も自分を助けてくれた声。聞けば、安心できる声。
「アルド……」
目をあけ、滲む視界を何とか動く右手で拭うと、はっきりとそれが見えてきた。
『好き勝手するのは、そこまでにして貰おうか』
いつもと聞こえかたが違う、しかしそれでも聞き間違えようのないその声は、三頭飢狼にも負けない大きさをした、騎士鎧のような姿の、巨人から聞こえて来ていた。
巨人は、左手に持つ盾と、右手に持つ長い物体で三つの頭を押さえ込んでいる。
『ここからが本当の戦いだ、《三頭飢狼》!』
アルドが作っていた、魔導甲冑──マギア・ギアが、私の前に立ち、三頭飢狼の前に立ち塞がる。
お待たせいたしました!
ロボ厨第30話のお届けです。
たくさんの感想ありがとうございます!!
目を通させていただいているのですが、まとまった時間がないと中々返信できないため、お返事できていない方々には申し訳ないです。
そして、月間ランキングの方も、ついに11位まで来ておりました、皆さまご声援ありがとうございます!!頑張って続き書きます!
これからもロボ厨をよろしくお願いいたします!
◆⒓/15追記
クリスのセリフと描写の一部を修正しました




