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第28話「アリシア」

 頭金としてお代を貰った後、領収書と、ローンについて書かれた羊皮紙を渡したとき、肝心な事を思い出した。


「あっと肝心な事を忘れてました」

「ま、まだ何かあるのかい……!?」


 羊皮紙に追加された項目に、涙目になっていたガラベラ達《鷹の目》のメンバー達は、素早く身構えて俺をみた。


「いや、所有者登録を忘れてまして」


 表で販売してるものはともかく、これらの試作品は、危険な物も多い。そのため、盗難された後の悪用防止のためにある措置を施している。


「所有者登録??」

「ええ。そうです。登録しておくと仮に盗まれても、それを使われないようにできるんです」


 このシステムを作った時にも思ったが、魔力を使い使用する魔導具というものが存在しないらしく、盗まれた後もそうだが、盗まれる前についての考えも緩い。

 そのため、使用者を認証するシステムを仕込んでおり、それを機能させれば、悪用防止、ある程度の防犯も期待できる。


「簡単にできるので、是非」

「……いくらかかるんだい?」

「いえ、こちらは無料で行ってますよ。……というより、こちらからお願いしたいですね。悪用防止も兼ねているので」


 そこまで言うと、やっと《鷹の目》のメンバー達は肩から力を抜いて安堵の息を吐いた。……って酷くない? 俺、そんなにがめつく請求してないよ? むしろ良心的だよ。値引きに、ローンにも応じてるんだけどなぁ。

 相場の10倍……は届いてないよ! 高いのは技術料、人件費みたいなもので、現在製作者が俺一人のため、変な輩から作れと言われるのを防止するために設定している。

 


「そういう事なら登録させてもらうよ」


 ちょっと納得いかないものがあったが、俺は笑顔を崩さず、それぞれの武具に各人の魔力パターンを登録していく。魔力パターンは個人差があるので、同じ人間以外使う事はできない。可能性としては、親類縁者の中には魔力パターンがぴったり合う人間がいるかもしれないが、極希だろう。

 そんな内容を全員に説明し、武具を渡す。


「ちなみに、登録者以外が使おうとするとどうなるんだい?」

「あー説明してませんでしたね。説明するより、体験して見て貰った方が早いですね。自分の以外のものに魔力を流してみてください」


 そういうと、各人武具を交換しあい、魔力を流そうとした所で、


「あ。魔力は控えめに流した方がいいですよ」


 結構多い魔力を感じたので、そう警告したのだが、少々遅かった。


『いづっ!?』


 全員が同じように一瞬痙攣し、痛みに呻く。


「非登録者に使われないように、魔力が逆流する術式があるので……」

『先に言え!』


 警告しようとしたじゃないか……と思ったが、事前に説明しておけば良かったので甘んじて受ける。


「まぁ、だけど体験してみて解ったよ。奪われて襲われるって状況だけはなさそうだ」

「絶対、とは言いませんよ? 手順通りに解除すれば、一応、登録を取り消せますし」

「……ちなみに、『手順』以外で解除しようとするとどうなるんだい?」

「機構を暴こうとして無理に開こうとしたり、手順以外で開くと壊れます」

「先に言え!」


 あれぇ。言ってませんでしたっけ? 


「って事は、自分で整備はできないのかい?」

「というより、させない措置ですかね。中身はあんまり公開したくないので」


 まぁ、分解したりせずにそのままコピーしたりした場合でも、対策は入れているけど。それは表で売っているものもそうだ。基本的に、俺が製作に関わった魔導具とも言える武具については全てそういった仕込みがされている。

 これを使って襲われたりするのは勘弁して欲しいからな。


「しかし、買ってから言うのも何だけど、すぐ壊れたりしたらどうするんだい?」

「一応、一年以内の故障なら修理は一回無料ですね。整備はお代をいただきますけど」


 羊皮紙にも記載してますよー。と項目を確認して貰う。ガラベラはなるほど、と納得した様子だった。正直、これらの修理システムは初導入なので、問題があれば都度修正、と考えている。


「それで、今日はこれから迷宮探索ですか?」


 俺がそう聞くと、カウンターにいるクリスがぴくりと反応した。まだ気にしているようで、少ししゅんとしている。


「そうしたい所だけどねぇ。新しい武具に慣れたいから、2、3日は置くつもりさ」


 ノルマの魔物の血も多いしねぇ……とガラベラは肩を落とした。

 少々哀れむような気持ちも生まれたが、それを条件に色々優遇しているので、がんばっていただきたい。 

 その後、新しい装備について話あう《鷹の目》のメンバーを見送った。

 

 さて、俺もそろそろ残りの仕事を仕上げますかね。


◇◆◇◆◇◆


 目の前に積まれた羊皮紙に、目眩いがする。

 ボク(ティア)は次の羊皮紙に目を通して、種類分けをしていた。新しい依頼、依頼の完了報告。依頼の内容も討伐、採取、護衛、人捜しなど多岐に渡るそれらを、目を通しては分けて置いてある篭の中に入れていく。

 時々、ちらりと入り口を確認して人が居ない事を確認する。今は人が居ない時間帯とはいえ、人の出入りが無いわけでないから、注意が必要だった。

 声をかけられた時に、集中していて気づきませんでした、というのはあんまり受付嬢としてはよろしくない。常に笑顔。常に優雅。なんて、先輩受付嬢に言われたが、正直、かたっくるしいし面倒くさい。仕事だから黙ってやるけど。

 集中が途切れてしまうと、また集中するまでに時間がかかる。ボクは頬杖をついて入り口を眺めながら、人がこないかな、なんて考えていた。一番最初に候補にあがったのは、年下の少年冒険者だ。彼が来れば、少しは雑談に興じたりして、合法的にサボっていられるのに──


「お目当ての冒険者は来たか? ティアよ」

「な──おじいちゃん! びっくりさせないでよ!」

「仕事中はマスターと呼びなさい」


 突然声をかけられ、思わず大声をあげてしまう。他の受付嬢たちをちらりと見れば、またか、という態度ですぐに自分の仕事に戻ってしまった。

 ボクは恥ずかしい気持ちを隠すように居住まいを正し、おじい──ギルドマスターに向き直る。


「で、何の用ですかマスター」

「うむ。ここ最近の情報が欲しくてな。依頼書の方はまとまっているか?」

「はい。こちらに」


 ボクは今まとめていた分の他に、整理してあった依頼書も全て渡す。


「執務室へ運んでくれ」

「……全部ですか?」

「そうだ」

「……解りました」


 自分の細腕ではなかなかの重労働な篭を、複数回に分けて移動し、最後の一つを運び終えた所で、ギルドマスターに声をかけた。


「全て運び終わりました」

「ご苦労」


 机の上に広げられた大量の羊皮紙。量が多いそれを、ギルドマスターはざっと目を通し、呟いた。


「……最近、討伐依頼の失敗報告が多いようだが?」


 いつ戻ろうかと隙をうかがっていたボクは、そのタイミングを逸して片を落とす。しかし、それはおくびにも出さずに答えた。だらしなくしていたら怒られるに決まっている。


「何でも、討伐対象を見つける事ができずに、期限が切れてしまうという次第でして。ギルドの調査能力を疑う冒険者も、少し出て来ているみたいです」

「うむ。報告は聞いている」

「しかし、それは、双頭黒狼の出現によって、それら討伐対象が縄張り争いに負け、付近から消え失せた、という結論になったのでは?」


 今朝の会議でそう結論づけたはずだった。それをこれから冒険者たちへ公表し、現在の討伐依頼をいったん調査依頼に変更し、討伐対象が今現在存在するかどうか調査する事になったのだ。すでに討伐対象は、双頭黒狼に食われ存在しないか、双頭黒狼を恐れ、この地を去ったと考えられるからだ。

 双頭黒狼は、それだけ危険な相手な魔物だ。資料でしか知らないし、魔物を正面から見たことの無いボクにだってそれくらいは察する事ができる。そして、その双頭黒狼の、人間の被害者第一号が、もしかしたら知り合いの年下冒険者たちだったかも知れないと思い至ると、背筋が寒くなった。

 本当に、早期に発見、しかも討伐までできたのは行幸といえた。


「うむ。儂も最初はそう思った……が、それにしては少し妙だと思ってな」

「妙、ですか?」

「縄張りが広いタイプの魔物とはいえ、同時期に、随分広い範囲で失敗の報告があがっている。その報告の中には、当時確定ではなかったものの、双頭黒狼と思われる目撃情報もいくつかある」

「それって……」

「そうだ。儂は双頭黒狼が二匹、あるいはそれに近い魔物がもう一匹かそれ以上、付近に潜伏していると考えている」


 そんな、そんな事。ボクは否定しようとして、口を開きかけたが、すぐに閉ざした。自分よりも経験豊富で、幾戦もの死闘をくぐり抜けた猛者がの勘が、そう言わせているのだ。だとすれば、先にやるべき事がある。

 しかし、そんな思考はどたばたと聞こえた足音によって遮られた。

 慌てた様子の同僚が一人、ノックもせずに扉を開け、悲痛に叫んだ。


「た、大変です! 先陣攻略に向かった冒険者たちが、新種の魔物により壊滅的な被害を受けました! 魔物は、三つ首の狼型であったそうです!」


 事態はこちらが手を打つよりも先に、最悪の形で進行していた。


◇◆◇◆◇◆


 ギルドに、三首の狼型魔物の発見報告があがるよりも、少し前。


 夜の闇に紛れるように、フードを目深に被った男が、森へ足を踏み入れていた。そこは迷宮が近く、魔力が濃いために、魔物が凶暴で一般人の立ち入りが禁止されている区画であった。しかし、男はいっさい気にした様子を見せず、飄々とした足取りで進んでいく。


「あぁ~面倒くさいよねぇ。この前、迷宮を作るっていう大仕事をこなしたばっかりなのにさぁ」

 

 若い男の声だった。あの方は人使いが荒いんだよ、と悪態を吐きながら、森の奥へ、奥へと進んでいく。血と獣の匂いが鼻に付くようになったころ、男は口の端をゆがめた。


「あぁ~やっと見つけたよ。まったく、獣風情が手をかけてくれるね?」


 そう言った男の前に現れた魔物は、手負いの双頭黒狼だった。

 片頭に深い傷を負ったその獣は、空腹の為か、二つある口から涎をだらだらと流しながら、男の様子を伺う。


「おやぁ。奇襲をしかけられないくらい弱ってるくせに、僕とやろうってのかな? すごく面白そうなんだけど、今日は君に、別の用事があるんだよ」


 危険な魔物を前に、男は余裕の態度を崩さない。双頭黒狼は、そんな男を腹に納めるため、地を蹴った。


「おっと。怖い怖い」


 飛びかかった双頭黒狼をからかうように、ひらりと身を躱す。


「《縛鎖》起動」


 男がぱちんと指を鳴らす。すると、地面に魔術式が現れ、そこから魔力の鎖が現れ、双頭黒狼を縛りあげる。

 《魔術》を行使した男は、双頭黒狼が抵抗できないことを確認すると、双頭黒狼に近づく。


「へぇ~どんな魔法かな? 随分深手を負わされたんだねぇ。でもまぁ、仕事が楽に済みそうで助かるよ」


 男が言うように、頭の半分を貫かれたような深手を負っており、傷口は膿、未だじくじくと出血している。男はその傷を、強力な魔法によって付けられたと看破していた。しかし、男の知識ではこういった強力な魔法は何かしら属性が付与されているはずだが、それを感じない。男はそれに興味を持った。

 男は、今はそんな時間はないとばかりに、浮かんだ興味をすぐに消す。


「ふーん? このままだと死んじゃうかもねぇ、君。でも良かったね。これですっかり治るよ」


 男は懐から、真っ赤な石を取り出し、躊躇いもせずに双頭黒狼の傷に、腕ごと突き込む。

 抵抗できない双頭黒狼が悲鳴をあげ、痙攣する。


「これでよしっと」


 ずるりと腕を引き抜くと、赤黒い血液がしたたり、地面を染める。


「さぁ。古き姿を捨て、新しい生を生きよう。そして破壊と混沌をこの世に。あの方と、僕の望みだからね」 


 謡うように、男がフードから覗く口の端を、狂喜に歪ませた。

 魔力の鎖が消え、双頭黒狼がどうっと倒れ込む。束縛から解放された双頭黒狼は、しかし動かなかった。

 ぼこっ、ぼこん。不快な、肉と骨が潰れるような音が響く。

 痙攣し、姿を歪に変えていく魔物を前に、男は嗤う。


「楽しみだねぇ。さって帰りますか。……ノルマは果たしましたからね? アリシアさん」


 男はそう呟きと、闇の中へと消えていく。

お待たせしました!

第28話です。


ご感想でもいただいていた、アリシアさんについては、これから色々と明らかになっていく予定です。


い、いつの間にか

週間ランキング3位

月間ランキング21位

にも入っておりました(11月26日時点)……感無量です!


最近は感想も増えておりまして、とても嬉しいです! 全て目を通させていただいてます!

お返事、遅くなって申し訳ないのですが、まとまった時間などにすこしづつ返させていただきたいと思います。


11/27追記


ソーシャルゲームで絵を描いてる知り合いがイラストを作成してくれるそうで、完成したらサイトにアップさせてくれるそうです!楽しみ!


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