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第27話「魔導の弓と鎧」

「こっちには展示していないので、案内しますね」


 俺はそういって、クリスに一声かけてから工房のカウンター横の扉をあけて、ガラベラと壁役の男を通した。

 通して直ぐ、廊下の何もない壁を押す。すると、かこかこ、壁が崩れるように開き、隠し部屋が現れた。

 こっちは上客を通すワンランク上の売場となっており、物はすべて、ガラス代わりに張られた結界のショーケースの中に展示されている。

 しかし、一見すると、表のものと何ら代わりのないような、皮の盾や、鎧、剣や槍などの武具が所狭しと並んでいる。最近ガストンさんが熱をあげている刀も、ここで展示していた。

 

「こ、ここは……?」

「高ランク冒険者の方にだけ公開している売場です。さっきのとこに合ったのとは、一線を画す物を並べていると、自負してますよ」


 営業スマイルでガラベラにそう言うと、ガラベラの頬がひきつった。

さっき見たのでまだ小手調べ。そう言われれば仕方無いのかもしれないが。ここは品数こそ少ないが、さっきのより驚くものを並べていると俺は自信をもって言える。

 数が揃えられないものばかりなので、フェリックスさんには卸していないが、量産可能なら、正直これまでの軍隊の質を一変させてしまうだろう。新規開発を頼まれてる武具も、正直ここのを出すだけで良いかもしれないが、量産、という観点を入れた時に難があるので話もしていない。

 え、魔導甲冑? ロマンは時に現実を駆逐するんですよ。


 俺は驚き固まる二人を前に、品物を選んで二つ、会計机の上に載せた。


「こっちが、さっき言った鎧ですね」

「これかい?」


 少し、疑念があるような声。それはそうかもしれない。これは見た目は、ただの皮鎧だ。しかし当然、これはただの皮鎧ではない。

 硬質な黒色をしたそれは、ぱっと見では金属のようにも見える。しかし触ればそうでないと解るし、何より軽い。

 

「オーガの皮を加工した鎧です」

「オーガねぇ……見た目は、普通の皮鎧に見えるけどね。これも、さっきみたいに何か仕込んでるのかい?」

「もちろん」


 俺はそう言って、オーガ皮の鎧に魔力を流し込む。

 うっすらと魔力が鎧全体を覆う。


「どうぞ。叩いてみてください」


 店の商品を叩け、と言われたせいか、二人は困惑した様子だったが、ガラベラが一つ頷くと、壁役の男が腕を振り上げ、その拳を鎧に叩きつけた。

 どむん。という弾力を感じさせる音が響き、男の拳を弾いた鎧は、無傷だった。傷はおろか、凹みや歪みもない。

 全力で叩いていなかった、という言い訳でないだろう。それは、叩いた男の顔が驚愕に染まっていることからもわかる。


「鎧って、堅いだけだと、衝撃が殺せなかったりするんですよね。この鎧は、弾力性を持たせた結界と皮の厚さで衝撃を殺して、使用者を守るようにしてます」


 これは、魔導甲冑の試作を作っていて、大きさと重さに悩んだ結果だった。俺は、ナイフを一本取り出して、鎧に当てる。


「それと、結界自体は弾力以外にも表面がよく滑る特殊な加工をしてあるので、刃が刺さらず、流れるように作ってあります。皮そのものの強度もあるので、耐久性で金属鎧に負けたりしません」


 鎧にあてたナイフは、刃筋をたてようとしても滑ってしまい、鎧に傷つける事がなかった。


「……試着してみても?」


 男の代わりに、ガラベラが答える。俺は笑顔で頷いた。反応が薄いようにも見えるが、真剣な様子で鎧に見入ってる事から、強い手応えを感じていた。

 男が試着室に入るのを見送って、残ったガラベラと、机にぽつんと残された物をみる。

 こっちはガラベラに勧めるいわば本命のアイテムだ。

 ガラベラは武器を失っていないし、後衛だから防具は要らないだろう。しかし、彼女は前回の戦闘で感じてはずだ、自分の火力不足を。

 それを補えるものが、机に置かれている。


「で、こっちのは?」


 向こうも予想していたのだろう。これが、防具ではなく、ガラベラに勧めるための武器だっていうことを。俺は、それを両手で持ち上げてガラベラに持ってみるように促した。


 どんな物でも驚きはしない──そんな決意が見え隠れするような表情で、ガラベラは神妙にそれを受け取る。

 

 そして、不思議そうにそれを眺めた。細長い筒状の物体。この世界では、馴染みがないであろう代物。

 前世の人間なら、銃とか、ライフルとか言うに違いない、それ。


「簡単に言えば、投石器──スリングショットですよ」

「投石器? こいつが?」

「ええ。投げる機構を機械的にした武器ですよ。ちょっと変わった弓みたいなもんです」

「へぇ……」


 手に持つガラベラは、興味深そうにしているが、反応はイマイチ。というより、よく解ってない様子だった。

 この世界で投石器、といえば紐で石を飛ばすスリングや、あってもカタパルトらしいし、おまけに魔物を倒すだけの威力をだしづらいために、廃れているらしいので、ガラベラの反応は、変わった武器があるな、という感じである。

 当然、変わってる、なんて物ではないが。この魔導投石器マジックスリングショットは。


「どうでしょう? 試し撃ちしてみては」

「ふーん。まぁ、あんたのおすすめだしね。そうさせて貰おうかね」


 そう。試し撃ちだ。この世界ではまだ、「撃つ」なんて表現をする武器はないだろうから。


 着替え終わった壁役の男は、何度か鎧の調子を確かめていたが、実際に動いて使ってみたい、という事で(本人はしゃべってくれないので、ガラベラが翻訳してくれた)模擬戦が可能な一画を、前衛二人にも合わせて貸し出す。

 俺はガラベラをつれて、別の一画に進む。弓などの試し打ちができる、細長い一画で、現在はガストンさんの弟子が新しい弓を試し打ちしていた。

 彼らに断って、別の的を用意し、魔導投石器──言いにくいな。ライフルにしておこう──の試し撃ちを行う。

 30メートルほど先にある的(例によって木製の人型)を指さしながら、ライフルをガラベラに手渡した。


「あれを狙って撃ってみましょうか」

「解った」

「じゃ、こんな感じで構えて、引き金を引いてください。あ、引き金を引くときは、ちゃんと魔力を流してくださいね」


 ライフルを受け取ったガラベラに、身振り手振りで説明し、銃のように見えるそれの使い方を伝える。ガラベラは恐る恐る触っていたが、すぐに慣れ、銃口を的へ向ける。


「まず、そこのコッキングレバーを引いてください。そうすればマガジンに入ってる弾が装填できますので。筒の先端に凹型の突起があるので、手前型の凸型突起と合うようにしてください。それで狙いがつけられます」

「ればー? まがじん?」


 つい当たり前に説明してしまったが、そんなものはこの世界にない。俺は反省しながら、一か所ずつ指摘して、丁寧に説明を加える。


「なるほど。このマガジンの中に飛ばす石を入れているのかい。便利だねぇ。だけど、金属みたいだけど、ずいぶんと小さくはないかい?」

「それは撃ってみてのお楽しみです」

「それもそうだね」

 

 あっさりと納得したガラベラは、弓を構えるように、ぴしりと背筋を立て、水平に保ったライフルを的へ向ける。普段の彼女なら、この距離でも外す事はないだろう。が、初めて使う武器のためか、その集中力は高く、緊張感がこちらまで伝わってきた。


「すぅ……」


 小さく吸った息が止められ、魔力を通されたライフルの引き金が絞られる。

 だんっ!

 というスリングショットには大きな動作音と共に、小さな金属球が射出される。

 射出と着弾は、ほとんど同時のように見えた。弾速が速すぎるため、余程強化した視力でないと視認できそうにない。

 着弾された的と言えば、心臓辺りを撃ち抜かれ、木製の人型は、左胸から左肩にかけ、巨大な魔物に喰いちぎられたかのように消失している。弾速と衝撃に弾体が耐えられず、着弾と同時に弾けた結果らしい。


「な、な、な……!?」


 ライフルを取り落しそうになりながら、ガラベラは驚きに口を開き、閉じられない様子だった。ちなみに俺は威力自体は製作者だし、動作試験を行っているので当然知っていたから驚きはない。ガラベラがたった一度で正確に標的に当て、すごいなーと思った程度だった。弓と狙い方が違うはずだし。


「どうなってんだい!? こいつは!?」

「機構は秘密ですよ。ただ、こいつは矢よりも早く、強力な遠距離攻撃が可能な武器だって事です。最高飛距離も弓の2~3倍ですかね。ただ、風の影響を強く受けるので、弓と同じくらいの有効射程かと思いますけど」


 ちなみに、この世界にゴムなどないので、弾体を飛ばす伸縮帯は、もちろん(?)ローパーの触手だ。ローパーの触手を引っ張り、圧力をかけながらコイル状になるまで捻じり、魔術で固定、それを魔力を感知すると伸縮するように仕込んであり、伸縮力に関してはさっきの通り。魔導甲冑の人工筋肉にも使用しており、この世界のローパーさんはマジでいい仕事をしてくれる。


「なんで解ったんだい。あたしが決定力不足で悩んでるってこと」

「そりゃ一度、一緒に戦ってますから。それに、武器を作ってる方から言っても、弓に魔力を通すくらいなら、普通は魔法を放つ方が簡単でいいですから。そこから察するに、≪魔法は制御できないが、弓のように遠距離攻撃が可能で、かつ決定力もある武器≫を欲しているんじゃないかって思いましてね」

「ふん。冒険者のくせに、商人みたいで嫌な考えだよ。でも、その通りさ。この前の魔物も、あたしは何にも出来なかった」


 無力感に満ちた言葉だった。しかし、同時に期待を持っている。その手に持つ、ライフルに。


「こいつなら、それが覆せるかい?」

「それは、使い方によると思いますよ。威力が足りないっていうなら、こっちで何か考えますけど」


 ガラベラは獰猛な笑みを浮かべた。小さく、そうかい。と言った言葉には、喜色が浮かんでいた。


「……なんでここまでしてくれるんだい?」

「別に、まだしてません。対価はもらいますし、対価が払えないようならお売りしませんよ?」


 もちろん、払えないと言われたらローンは考えてますけど。

 ガラベラの質問の、一番の理由は、≪鷹の目≫のメンバーが最も「適当な」相手だったからだ。この近隣では少ない高ランク冒険者。そして自分で実力と、人間性をある程度把握している人間。甘い査定と言われそうではあるが、正直自分の見る目がどの程度かも解らないし、大した差がないなら自分で見て、納得できる方が良いと思った結果。他に高ランク冒険者とのコネもないし。


「はは! 違いない! 高そうだが、全部買うよ! あいつらも文句ないだろうしね!」



「全部でこれだけになります」

 

 そして、会計である。

 会計カウンターには満面の笑みを浮べた俺と、可愛そうに……とでも言うような目をしたクリスがおり、

その目の前に、装備諸々の金額が書かれた羊皮紙がおいてある。

 羊皮紙にかかれた金額に、ガラベラ達は顔を青くし、頬をひきつらせた。


「値引きは……できないかい?」

「で、あれば依頼に条件を幾つか課させてもらえれば」


 俺は笑顔を一ミリも崩さず即答。

 その用意された答えに、ガラベラは嵌められた!という顔をしたが、WIN-WINな関係なんだから別に嵌めてはいないだろう。

 こうして、俺は手足となって働いてくれる有用な仲間を手に入れた。


11月23日に、ついに、ついに日間ランキング一位を達成してしまいました……感無量です!


テンション爆あげを超え、有頂天に至り、今正直ビビっておりますw


感想も増えており、全て目を通させていただいております!!!ご声援、ご指摘本当にありがとうございます!!


誤字の指摘もいただいておりまして、そこは時間を見て順時直していきたいと思います。


これからもロボ厨、よろしくお願いいたします!!

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