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第20話「試験開始」

 突然だけど、魔物の強さについて、少しまとめておきたいと思う。

 なんでそんな事するのかって? 言っておくが、俺はテスト前日には勉強次の日のテストの範囲をおさらいするタイプの人間だ。明日の最終試験に備えて、魔物について、まとめておこうと思っている。

 俺はベッドに身体を投げ出し、天井を見ながら魔力演算領域でモニターを作成し、そこに魔物の項目をつくって書き込んでいく。

 まぁ、最近はこれのおかげで、日曜学校の授業なんかはコピーしておしまい、あとはテスト時に検索するだけの簡単な仕事なんだけど。

 まずは、強さの分類からまとめよう。

 魔物は、その強さの順に、S、A、B、C、D、E、Fクラスの七段階に分けられている。  

 この段階は、大まかにだが魔物を強さの指標になっており、Fクラスがゴブリン一匹程度、大人が一人で対応できるレベルで、Sランクが古竜など、国規模で対応が必要になるレベル、もはや災害と呼べる相手らしい。

 魔物の氾濫も分類的には災害規模だが、その驚異の程は構成される魔物の数で変わるため、ピンキリだ。参考までに、前回俺が経験した氾濫では、ゴブリンの数が多かった事、支配階級の魔物で、ランク的にはCランクに数えられるオーガが存在した事から、Bランク相当の危機だったらしい。

 ランクでいうといまいち解りづらいが、Cランクというのは、冒険者と呼ばれる人間で、一般的に一流と判断されるレベルである。

 大体の冒険者が、Dランクで一生を過ごす、という事もある事から、そのレベルの高さはおして知るべきだ。

 身体強度的に劣る人間が、オーガとやっと対等レベルで、Cランクなのである。この世界では、魔力も存在するため、体術が優れている、というと前世では格闘技の世界を狙える、というようなレベルがごろごろでてくるので、Cというのが低いランクだ、と思うのは早計だ。むしろ、Bという驚異が、そうそうお目にかからない驚異なのである。Bランク単体の魔物で、街が滅ぶ、ということもあり得るらしい。

 魔物が災害であるなら逆に、人間でBランク以上、というのは化け物だとか、英雄だとか言われる種類の人間で、Sなどと言えば、歴史的に見ても十数人程度で、現在では3人存在するのだとか。

 

 少し脱線したな。今回、最終戦で討伐を予定しているのは、オーガだ。 Cランクの魔物であるオーガ、武器は粗末な棍棒のようなものか、素手が多い大鬼と大別される魔物である。人型の魔物でありながら、その膂力は人間の比ではなく、人間相手なら、子供と大人程の力の差が存在する相手。並みの武器も、その分厚い皮と脂肪の前には通用せず、もっとも冒険者の死亡率が高い魔物とも言われている。

 そして、7年前に自力で倒し損ねた、因縁の相手でもある。


「絶対、倒して見せる。それで、目標に一歩近づくんだ」


 今の目標は、迷宮核の入手。

 迷宮に入る条件として、母さんから出されたのは、オーガの討伐。


「迷宮攻略を目指すというなら、それくらい楽にこなしてみせなさい」


 母さんにはそう言われた。

 子供相手に、なんて条件を出すんだ、と思ったが、迷宮攻略とは、それほど危険があるものらしい。

 迷宮最深部に存在するそれを手にすれば、その先の目標である、魔導甲冑を作る事ができる。


「絶対、つくってみせる……ふぁ」


 モニターを見ながら、そんな事を考えていたら、睡魔に襲われ、ゆっくりと瞼が落ちていく。



 次の日、俺は最終試験に臨むため、街のとある場所に向かっていた。

 この7年で、街は大きな変化を遂げていた。

 それは、街の名前で解る今、この街──いや、都市は「迷宮都市キャニオン」と呼ばれている。


 7年前、オリヴィアの父であり、この街に住まう貴族であるフェリックスさんは、ダンジョンで利益を出す事──ダンジョンの運営に手を出し始めた。その事業は、おおよそ成功しており、現在、街では冒険者の姿が増え、街には冒険者ギルドの支部もできた。

 フェリックスさんは、この街を統括していた前任の貴族、オグジン辺境伯の失敗の尻拭いをしてこの街を迷宮都市にまで発展させたが、この都市を危機に陥れた張本人、オグジン元辺境伯は、未だに捕まっていないらしい。噂では、責任逃れのために、隣国に逃げたとか……正直、胸くそ悪い話だが、あった事もない相手なので、復讐してやろう、という気も起きない。

 その代わり都市を大きくして、悔しい思いでもさせてやろう、とガストン工房と連携し、幾つか発明を行っている。


 まずは、盾と鎧。ガストン工房謹製の盾と鎧は、俺が作った魔術理論を応用し、魔導具ともいえる性能を持っている。魔力がなければ扱えないが、この世界には、魔力を持っているが、魔法を使えない、という人間は意外に多く、新機軸の魔導具として、この都市の特産品として売れている。正直、魔導甲冑なしで戦力増加、

 おまけに、木製から金属と、客層に合わせて販売しており、冒険者の間では、ガストン工房は初心者~上級者までが利用できるかなり有名になっているらしい。

 今、ガストンさんは弟子を何人かとり、店も大きく改装するなど、かなり儲かっている。


 都市に利益も生まれ、都市も大きくなってきているが、全てが順風満帆とはいっていなかった。

 まず、都市の治安。急激な成長を遂げたため、都市の治安がさがり、スラムとでも呼ぶべき一角ができてしまっていた。フェリックスさんは治安維持のため、都市を見回る衛兵を増やしているが、冒険者などの荒くれものが、かなり頻繁に問題をおこし、フェリックスさんの頭を悩ませているらしい。

 なんでも、都市の魔物の驚異から守っているのは、俺たち冒険者だと、大きな顔をする物が多く、元々都市に住んでいた住人などと問題を起こすらしい。

 そして、魔導甲冑。これが、一番問題だった。

 基礎的な設計は終わり、外側は大体完成を見ているが、魔導甲冑は実用にはほど遠い状態といえた。当初、冒険者ではなく、魔導甲冑によって迷宮の運営を考えていたフェリックスさんは、魔導甲冑の開発に、そろそろ目処をつけたいと言ってきている。つまり、開発中止。

 これまで、盾と鎧によって利益をだしてきたが、目が出ない魔導甲冑を打ち切り、別の開発をしたらどうかと俺に勧めてきている。

 別の開発は、正直してみたい気持ちもあったが……これは、俺の前世の夢であり、アリシアが見てみたいと言っていたもの。どうしても開発を成功させたかった。

 それに、もう一歩、もう一歩の所まできているのだ。

 魔労甲冑は、形はもうできている。

 鍛え上げた鋼で出来た装甲と骨格に、各部を動かす人工筋肉代わりにつくった、編んだローパーの触手。第二装甲、補助骨格として、圧密木材を使用した甲冑は、全長4メートルはある、まさしくロボットという外観をしている。騎士甲冑を思わせるその鎧は、動作テストで、オーガ並みの力がある事は解っている。

 が、長時間動かす事ができない。欠陥品だった。

 巨大な全身を支えるため、常に血流のように巡る魔力で、強化してやる必要があり、その魔力を補充する人間が、全力で魔力を流し続けたとしても、もって数分の稼働時間しかないのである。

 開発者の俺など、二分動かしただけで限界で、開発に関わった人間のなかで、もっとも魔力量が多かった、クリスでさえ三分しか動かせない。

 そんな状態のため、フェリックスさんはこの魔導甲冑を戦力として数えるのは止めて、盾と鎧を衛兵に行き渡せる事で、戦力の質の向上を図った。結果は成功だったのだが、逆にそれが、開発の打ち切りを踏み切らせることになってしまった。

 また、本末転倒な事であるが、対迷宮の戦力として求めた魔導甲冑が、迷宮核を必要としている、という事が、フェリックスさんの中で、開発をやめたい理由の一つとなっている。

 迷宮核は、膨大な魔力を溜める貯蔵庫だ。それを使えば、魔導甲冑を使う事ができる──はずだ。

 しかし、迷宮核は、文字通り迷宮をつくる核である。それを使うという事は、迷宮を潰すという事だ。

 効果があるかどうかも解らない事に、迷宮核を使う事は出来ない──それが、フェリックスさんの判断で、当たり前の事過ぎて反論の余地がない。

 利で説こうにも、欲していた戦力はある程度整っている。変にそろえれば、国に緊張を強いる事にもなる、そう言われた。


「でも、諦めるつもりはないんだよね……!」


 俺は、そう呟いて、目的の場所、冒険者ギルドへと辿りついた。

 まだ、チャンスはあるのだ。最近見つかった、新しい迷宮。その先陣攻略に参加する。その資格を得るために、今日の最終試験を突破する。

 それが、俺と、母さんと、フェリックスさんで交わされた約束だ。

 新迷宮の先陣攻略参加の許可。そして、そこでたとえ迷宮が最奥部まで攻略しつくされても関与しない。

 母さんからは、迷宮最低でも、単体、少なくともパーティでオーガを倒せるレベルではなければ許さないとの条件を提示された。

 そして、迷宮核はいくら俺が都市に貢献しているとはいえ、さすがに、俺1人にチャンスを与える、という事は出来ず、ギルドを介して、正式に先陣選抜のための試験を用意し、それをクリアしたものに先陣として迷宮攻略に参加させる、と触れを出した。

 その中で一番先に攻略し、迷宮核を得る。そのためには、試験なんかに躓いている時間はない。


 俺は決意を新たにしながら、ギルドの大きな扉を開く。

 そこには、沢山の冒険者がいた。

 冒険者は、俺の格好を見て、同じ目的と察したのか、値踏みするような視線が俺に集中した。俺はそれを軒並み無視して、カウンターに向かう。威圧してくるような奴もいたが、結局試験を超えられなければ意味がないのは理解しているのかな? 相手をする必要も感じなかったので無視して通る。


「≪依頼クエスト≫の受注したいんですけどー」


 俺はカウンターで忙しそうに羊皮紙の束を整理していた知り合いの受付嬢にそう声をかけた。

 満面の営業スマイルを浮べかけた彼女は、書類から目を上げ、俺の顔を見ると途端に表情が抜け落ち、どうでも良さそうな顔をした。


「なんだ。君か。ボクは今忙しいんだ。余計な手間を増やさないでくれ」

「おーい。地が出てますよ、地が。ちゃんと仕事してください」

「ああうん。仕事する振りしてさぼりたいから、上手い事そこに立っていてよ、君」


 受付嬢はそう言って、羊皮紙を差し出してくる。内容は、先陣攻略選抜試験だった。


「どうせそれでしょ? まったく、忙しいったらない……あ、ゆっくり書類書いてね。その間くらい休みたいから」

 

 いつもなら、さっさと書いて失せろ、とでも言わんばかりの態度だが、今日は違うらしい。

 俺は書類を受け取って、名前を書いて返す。

 依頼内容は事前に知っているし、変更がないか確認するだけだ。時間内のオーガ一体の討伐、という内容が書かれているだけなので、こちらも大して時間がかからない。

 受付嬢の要望に応えてあげてもよかったのだが、いかんせん記入するのは名前だけだ。時間稼ぎにもならない。


「はやすぎ……」


 苛立ち交じりの受付嬢にそんな言葉を投げかけられる。別の場所で聞いたら、彼女の容姿も相まって非常にダメージを受けそうな言葉だったが、俺はスルーして羊皮紙を渡す。


「鬼……」

「何とでも言ってください……と、これ返すだけでいいんですか?」

「ダメ、これ付けて」


 受付嬢から、腕章のようなギルドの紋章が入った皮のベルトを受け取り、腕に着ける。


「これで終わり。それは試験終わりの時にカウンターに返して。じゃ、武運を祈ってる」

「解りました。ありがとうございます」


 短いやり取りを終えて、適当な場所に待機する。

 普通の依頼なら、このまま都市の外へでて依頼をこなして帰るだけなのだが、今回は不正防止という事もあり、開始時刻を開示せず、この日この時間までに試験用の≪依頼≫を受け取っておくように、としか言われていない。

 まだ時間かかるのかな、と壁際でぼーっとしていると、受付を済ませ、腕章をもらったらしいクリスとオリヴィアが俺に気付いてやってきた。


「おはよう。もう登録は済ませたんだね」

「おはよ。登録は済ませたわ。後は開始を待つだけね」

「おはようございます。今日はお互い頑張りましょう」


 昨日は訓練用の武器だったが、今日は2人とも実践用の武器に変えている。クリスは、最近ガストン工房で売り始めた刀と、魔力によって防御力を強化する事ができる鋼鉄の胸当て。胸当ては盾と同じ理論を応用したものだが、刀は俺が、半端な前世の知識を元に構想だけ伝え、ガストンさんが施行錯誤の再現した、恐らく世界最初の刀だ。

 この世界は、魔物がいるために、人間の足りない膂力を重量で補おうとする傾向が強いため、重く大きな剣が主流だったりする。今もそういう剣を持った人間が多い中で、クリスの装備は軽装だろう。

 オリヴィアも軽装という意味では負けていない。昨日も装備していたローブと杖は変わらないが、ローブの上に寄木細工の胸当てを装備している。冒険者の中には、魔法使いという人間は非常に少ない。そのため、オリヴィアはこの中では異色な存在だった。大抵、冒険者で魔法を使う、と言えば、ちょっとした生活に役立つ魔法を使える、という事か、他に武器を持って目くらまし程度の魔法を使える、という感じなので、本職の魔法使いがいる事はほぼない。本職の魔法使いは、国に雇われるか、貴族に雇われるかして、軍にいる事がふつうだからだ。

 まぁ、オリヴィアが異色なら、俺は異質な存在だろうか……装備はほとんどクリスと一緒で、刀と胸当てを装備している。それと、両腕にした腕輪。こちらはいくつか魔力を流すだけで動作する魔術を仕込んでいる。剣士然とした見た目だが、一応魔術師なので、見た目でそれを判断できる人間はいないだろう。

 

 時間がまだかかりそうなので、3人で試験について雑談して過ごした。

 試験はパーティでの参加も認められているのだが、今回はパーティでの参加をしていない。これは、三人で話あった結果で、1人で条件を満たせるようにしたい、という2人の要望を聞いてそうなった。


「私一人でもできるわ」

「わたくしも、自惚れる訳ではありませんが、アルドさんと対等でいたいので」


 クリスは本音を語ってくれなかったが、たぶん、オリヴィアと同じ思いなのだろう。

 俺は2人を対等だと思って接しているつもりだが、一応師匠という事で、2人を対等に扱っていないのかもしれない。そんな風に思ったので、強くも言えず、結局2人の意見に押し切られる形でそうなった。

 だが、余り心配はしていない。剣の腕は、母さんのお墨付きのクリスだし、そのクリスと対等に戦えるオリヴィア。オーガが相手だったとしても、問題ないだろう。……保険はかけておくけど。


 そんな風に思いながら、2人の話に相槌をしていると、がっしりとした体つきの、初老の男性がカウンター近くにやってきた。その人物は、ギルドマスター。この冒険者ギルド・キャニオン支部を取り仕切る人物だ──が大声をあげた。


「これから、先陣試験を始める! 受付を済ませてないうつけもんは、その場で試験失格とする!」

 

 何人かが、慌てて受付に行くのを見送りながら、俺はようやく始まる試験に向けて、意識を切り替える。

 

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